● 私にとってのパワーポップ

   言ってみればどうでもいいことなので読まないで戻るか、適当に読み飛ばしてください。

   私は高校2年生のときにバイトのお金でCDプレイヤーを購入した。最初に買ったCDはサザン オールスターズの「稲村ジェーン」だった。好きだったサザンオールスターズと渡辺美里をCDに買い換え終わり、 はてこれから何を買おう?といったところで私の母が John Lennon の妙なベスト版(よく\1000そこらで 売っているような代物)を買ってきた。彼女曰く、「“Stand by Me”が入っていたから・・・」。これが結局の ところ私のその後の人生を大きく変えた特異点と言えるのであろうか。これがなかったらギターを手に することもなければ、付き合う人々も変わったろうし、留年することもなかったかもしれないし、今ここに もいなかったろうし、こんなことを考えもしなかったろう。とはいえ、これそのものに強く惹かれたわけでは ない。しかし、John Lennon がBeatlesのメンバーであったことぐらいはおぼろげに知っていたし、加えて サザンオールスターズや渡辺美里の歌詞なりタイトルにもBeatlesが登場し、何より有名であったこともあり、Beatles のCDを聴いてみよう、ということになるのにそんなに時間はかからなかった。

   最初に買ったのは「Help!」であった。理由は簡単、“Yesterday”が入っていたからだ。 それぐらいしかタイトルを知っている曲がなかったのだ。その時は「ふーん、これが“Yesterday”か・・・」と ぐらいにしか思わなかったと思う。ほとんど意味がわからなかったが、少しでもどんな人たちなのか 理解しようとライナーノーツを何回も読んだ。ここで私の“ライナーノーツ読みから入ってしまう”は始まって いる。2枚目はじゃあ1st Albumを買おう、ということになり、「Please Please Me」を買った。これが 私の(特に音楽に関しての)人生のビッグ・バンであろう。これを聴き始めるとどうも肌触りが違う。 何だかよいのだ。そして7曲目“Please Please Me”がかかる・・・私は驚愕した。ポンキッキでかかっていた曲なのだ。 その時の感じは何とも表現のしようがないが、とにかくなんだかうれしくて泣き出してしまった。
   瞬く間に全部のCD(BOXセット)を買った。

   もうその後の高校生活は部活、進級できる程度の勉強(附属高だった)、島田荘司、そしてBeatlesだけ しか記憶にない。(というのはまあオーバーだが)行き帰りの電車では編集したテープ、休みの日は 朝から晩までCDを聴いて、ライナーノーツを読んでいた。
   このときギターを持とうとまでいかなかったのは部活が特殊だった(し、それに 責任と誇りも感じていた。何をしていたかは説明が面倒なので略しておく。)のととにかく聴いているだけで 満足だったというのもあろう。
   関連して買うCDもBeatlesのアイドル、つまり50年代の R&R とか、Beatlesの レコーディグに参加したEric Crapton(しかも買ったのはCreamじゃなくソロ。だってよく知らないから)とか、 Billy Joelとかとにかく基本はBeatlesだった。
   後にパワーポップといった関連音楽に惹かれたのはそれらがすべてBeatlesっぽさを持っていた というところもその理由の一つであろう。

   大学で私は某バンドサークルに入る。ギターを手にする。見学でのスタジオ (音楽練習室という名前だった)の雰囲気が気に入って入ることと決断した。(まあ特にやりたいことが なかったのもある。)そこはBeatlesのコピー専門のところで、それを不満がる(なら一緒に別なところでも 活動すりゃいいのに、というのはちょっと冷たいか)人もいたが、私は当然4年間そのこと自体には何の 不満もなかった。肉・魚が使えない精進料理と一緒で制約はものをよく考えることと工夫につながるとでも 前向きに捕らえりゃいいんだ。・・・まあサークルの細かい話はこことは関係ない。

   それでもってまあいろんな音楽趣味の人と一緒になるわけだ、サークルの性格上。「洋楽 (っていうか私の場合“音楽”と言い切ってもいいぐらいだ)はBeatlesしか知りません。でも Beatlesは結構知ってます。」なんて言う人はあまりいないだろうが、「Beatlesが一番好きです」もあまり いなかったのでちょっと驚いたのを憶えている。その頃はBeatlesのデビュー前の音源の類もかじって いたが、特に同期で当初その辺に興味のある人はあまりいなかったのでかなり拍子抜けだった。 ハード・ロック好きとか、当にthrough the '80s な感じの MTV系好きとかStone Rosesがどうとかまあ いろいろ。私も同世代だが、全く「through the '80s 現体験音楽 きゃーうれしー」 みたいのはなく、 こうなんか取り残されたような気持ちであった。いまだにこの感じは続いている。まあそんなこと 言っていてもしょうがないので、何か聴こうかといろんなものに手を伸ばし始める。

   '70s ハードロックだのから入ったかな?もうよく憶えていないが、この“入った” という感じが何とも私のレコード(CDか?)の買い方の基本となってしまった。つまり、「これこれ こうはこうだから聴いてみようか」みたいな。コレクター指向というか・・・まずリアルタイムで 飛びつくものあり、それから派生して聴いていくというような経過をたどった音楽はほとんどないのだ。 「あなたの音楽の聞き方は少し妙だ」というような指摘を受けたことがあるが、自分でもその意味はわかる。 だから今でもときどき考える「ホントにこれ聴きたいの?で、結局何が一番好きなの?」と。同じような ことを人に執拗に聞かれたこともある。あのときは困ったし悲しかった。
   最近は意図的にかどうか、そういうことを考えるのをうっちゃってしまうようにしている。 でもときどき考えてしまうけれど。

   いろいろなものを聴いていって“私の好きなもの”と言えるようなものにも出会っている。 全然聞いた順とかに並べられないが、・・・Beatlesの次ぐらいの衝撃 Velvet Underground〜Lou Reed、 生れて初めてLiveというものを見た P.J.Harvey、私の中でRock of Rock な Television、 「Pet Sounds」があまりにも衝撃 Beach Boys、轟音の気持ち良さ Smashing Punpkins、 とにかく素敵な Flipper's Guitar、世界で最も有名な日本バンドかな? SHONEN KNIFE、 歌詞のなよなよぶりや雰囲気がたまらない PULP、聴くたびに心をかき乱す GALAXIE 500、 どうしたらこんなによい曲が?雰囲気が? RADIOHEAD、 奇跡のような天才 Beck、 ・・・はてさて・・・

   そんな中で私にとってリアルタイムで遭遇したキーとなるアーティストがいる。 確か大学2年生のときに当時バイトしていた新宿ルミネの上にあったTower Recordでのことだった はずだ。私はあまり試聴とかをたくさんする方ではないのだが、ふと新譜コーナーに目を引く ジャケットが。日本のクロネコヤマトのマークに触発されたという恐竜の親子をモチーフにした カラフルなジャケット。聴いてみると一曲目はなかなかダイナミックな音で直線勝負してくる。 一旦その場を離れると違う場所にそのアーティストの特集コーナーが・・・ブラウン管に “うる星やつら”のラムちゃんが上から下に流れる。それに重なるように外人が歌っている・・・ ???・・・!!!?“I've Been Waiting”のビデオクリップに映っていたその人はMatthew Sweet、 私をパワーポップの世界に引き込むきっかけとなった人である。

   もう気になって気になってアルバム「ALTERED BEAST」(初回限定のジャケの 色が変えられる代物。帯の紹介がすごい、「ピュアな探求心を人は"オタク"と呼ぶ。それでもマシュー はロックする。」・・・ははは。)を購入、同時に同じように出会った前出 P.J.Harvey の「Rid Of Me」とともに この頃どれだけ聴いたことか。(最も後者は気になっていたら、当時の彼女がプレゼントしてくれた のだが。)P.J.Harvey はあまりに個性的なのであまりそこから広がっていかなかったものの、 (とはいえ BOB DYLAN や 古いブルースに興味を持ったり、自前でギターを買う決断をさせて くれたのは彼女ではある。)Matthew Sweetの方は私の枝葉を奇妙に広げていくことになる。

   とはいえ、まずこの「ALTERED BEAST」は非常にいいアルバムである。ちょっと 頑張り過ぎでオーバープロデュース、そして全体が長い感はあるが、よい曲ばかりである。 1.DINORSAUR ACT でアルバム世界に引き込み、2.DEVIL WITH THE GREEN EYES への流れでつかみは OK。(っていうかこの人のアルバムはそんな展開が多いが・・・先行逃げ切りというか・・・) 3.THE UGLY TRUTH でロックし、4.TIME CAPSULE でなよなよマシュー世界全開。4.からそのままの 勢いで5.に入り、6.でまたヘヴィにロック。超名曲 7.LIFE WITHOUT YOU でこれでもかと泣きを見せ、 (ちょっとやりすぎ?)映画の一場面挟みB面(CDだけど・・・)へ。まず 9. UGLY TRUTH ROCK、3. の ハード・ヴァージョン with Richard Lloydのぶちきれギター、で幕をあけ、B面(?)はミドル〜スロー テンポの曲が多いが、いずれも名曲が続く。本当に一曲一曲、好きな曲ばかりだ。特に12.REACHING OUT 〜最後15.EVERGREENまで、珠玉だ。おまけに不快ノイズ系などのボーナストラック2曲!
   それに参加メンバーもすごい。どんな人脈なのかよくわからないが、 Mick Fleetwood!(Fleetwood Mac、Dr)、Nicky Hopkins!!(Key)、Pete Thomas!!?(Elvis Costello & The Attractions、Dr)、 Richard Lloyd!!(Television、G)、Robert Quine!!(Lou Reed Band、G)、Ivan Julian!? (Richard Hell & The Voides、G)、Ric Menck(Velvet Crush、Dr)、Fred Maher!(Lou Reed Band、Dr) などなど。一人でももう眩暈がしそうなほどの人々が参加している。とはいえ当時はほとんど 知らなかったが・・・
   こうして並べてみると当時のことを思い出す。何か私にとってとても大切なもの に出会ったという実感があったものだ。
   しかしながらこれが直接パワーポップにつながっていくわけではない。 この後しばらく潜伏期間を有する。

   第二の出会いは音楽雑誌「米国音楽」である。Vol.1は 無名なころの PULP が特集されていて、それが気に入って買ったのだが、この中に “〜燃えよパワーポップ特集〜”なる特集や“THE LEGEND OF ALEX CHILTON”という記事 があり、今の私の音楽嗜好の核となる要素がたくさん詰まっているが、しかしこれまたこの 本がパワーポップへの引き金になるわけでもない。
   なんだかまわりくどいが、パワーポップの直接の引き金は「米国音楽」Vol.2によって なされる。ここに Velvet Crush の特集記事があった。以前からCDショップでその名前だけは 気になっていたが、彼らの歴史みたいなものを読んでかなり興味を持った。そこで彼らの 1st Album(といっても当時 1st しかなかったが・・・)を買うと思いきや、新宿のVirgin Mega Store にて私の目に Velvet Crush の前身バンド、Choo Choo Train のSubwayレーベルからのシングル “BRIAR ROSE”と“High”をまとめたコンピレーション「 Briar High」が偶然目にとまり、なぜか これを衝動買いしてしまった。この瞬間私の“パワーポップへの道”は大きく開かれたと言えるだろう。

   この Choo Choo Train 、すごくいいのだ。胸ときめくPOP性という意味では Velvet Crush 名義 のレコードをも上回っていると思う。不必要に上昇指向を出さず、ただ音楽が好きだからやっているというか、 とてもそういう感じがすばらしい。これも夢中になって幾度も幾度も聴いた。今でも私の中ではBeatlesと並び、 「いつ聴いても不快にならない音楽」として私の宝物である。どの曲がいいとかそういうことを考えること すらできない。11曲すべてすばらしい。2曲 前出のMatthew Sweetのカバー(というか楽曲提供か?)がある。

   もちろん Velvet Crush の 1st Album(ちなみにProduceは Matthew Sweet)も買った。 その直後出た 2nd も買った。来日 Live (in 新宿リキッドルーム まだできたばっかりだったっけ・・・) も行った。すばらしかった。あまりに感激してよく寝れず、次の日のサークルの合宿のバスに遅刻した 程だ。(長野だかどっかに電車で行った記憶がある)
   そして「米国音楽」のVol.1には実は Velvet Crush やらMatthew SweetやらREMやらの ルーツとなるような音楽、パワーポップ なるものの特集をしているというのに気づき、次第に関心を 高める。Matthew Sweet の Album も集め終え、(ここまで名作「GIRLFRIEND」を聴いていなかったの だから私という人間も不思議だ)更に The Plimsouls、The Beat(Paul Collin's Beat)、The Real Kids、 The Romantics、The Knack、様々なコンピレーション・・・・とパワーポップなるものを“集めて”いった。 ここでリアルタイムなパワーポップを探さないところが結局前述したような屈折した私の音楽ソースの 買い方だったのであろうか?

   日々この辺りの音楽に接していると必ずキーとなるアーティストが (ライナーノーツなどに)挙がっているのに気づく。そのバンド名は Big Star。なんだかとても気に なる名前だ・・・と思っていたところ、ある日CDを見かける。どれを買うか迷ったが、ジャケットが あまりにも素敵な「Third〜Sister Lovers」を購入、パワーポップなイメージで聴いた。・・・がしかし 期待は裏切られた。いい意味で。よくBig Star はパワーポップ・クラシックなどと言われるが、私には あまりそうは思えない。2nd の“September Gurl”などはまあ確かにそれっぽいとか思うが、パワーポップ 的なものは数えるほどだと思う。・・・まあそれはさておき、Big Star はとにかくすばらしい。1st 、2ndと 購入し、私の生涯の宝物である。別枠 Beatles を除けば私の Favarite Artist である。バッドフィンガーや キンクス臭いところもあり、まあ確かにパワーポップ的ではあるが、私の中ではあまりパワーポップの 枠に入れるにはどうかな??という感じである。

   少々話がそれたか?以降もパワーポップを日々探す。しかし、マイナージャンルなので はっきり言ってほとんど見つからない。CD化されてないものもほとんどであろうし、いつも注意して 見ていてもないのだ。しかし近今のパワーポップブームなどというもののせいか、少しずつ集まり始める。 The dB's、20/20、The Rubinoos、Flaming Groovies、MUMPS、The Replacements、毛色の変わったところで Cheap Trick・・・はっきりいってほとんどのものが期待を裏切らない。どれも歌詞で何かを主張したり 表現したりといった高尚な音楽というわけではないけれど、すばらしい。本当にすばらしい。 何かこう「今までの間違っていた(?)人生を浄化してくれるような気がする」((C)小林弘幸氏)、 というの言葉には納得がいく。

   パワーポップなものを求める日々はやがて '70s後半〜'80s前半 から現代へシフトして くる。私的には GREEN DAY とか音だけ取り出せばパワーポップだと思ったし、(パンクファンは怒る だろうか?)'80s半ば辺りからのいわゆるアノラック系も曲によってはパワーポップだなあと思ったし・・・ (The Knack の “Good Girls Don't”なんかはその辺りのはしりだと思うがどうだろう?) まあそんな中最近衝撃的な出会いをする。UMAJETS との遭遇であった。確か八王子 東急スクエア内新星堂 でのことだ。「胸にキュンとくるパワーポップです!」なる紹介シール、そしてジャケが私のこよなく愛する ピンク一色となればもう衝動買いしないはずがない。これがとてつもなく良い。頭が真っ白になって全身の 血がきれいになるような感じというか・・・(ちょっとオーバーか?)涙が出そうになった。この UMAJETS は 元 Jelly Fish の 2人目のベーシスト Tim Smith と 元 Hollyfaith の ヴォーカル Rob Aldridge の結成したユニット で、Jelly Fish のメンバーがレコーディングに参加しているのもあって Jelly Fish っぽい音になっている。 ・・・とはいえ私はまじめに Jelly Fish を聴いたことがなかったので(大学時代ブレークした頃2ndを耳にして、 「なんか QUEEN みたいなバンドだなあ・・・」と思った程度。)ライナーに書かれたその意味はよく わからなかった。こりゃ、Jelly Fish はすごくいいに違いない、ということで Jelly Fish を買う。すばらしい。 私から言うと、これぞパワーポップなものの理想形の一つだ。もっとリアルタイムでよく聴けばよかったと さんざん後悔したものだ。

   今もこれに限らず、昔のパワーポップや Matthew Sweet や Velvet Crush、それに Jelly Fish といったなんというかこうエヴァー・グリーンなものを探し続けてはいる。しかし前述した 通り、これらパワーポップなもの集めは結局私の歪んだ性格から派生している。
   いきなり周りが音楽に詳しい人達という環境に置かれて、いわゆる誰でも 知っている音楽を聴いてみよう、というよりも(それでは到底追いつかないからだ。いや今思えば そんなもの追いついたって追いつかなくたってどうでもいいのだが、当時の私は、否今の私にもものすごい コンプレックスとして植え込まれている。私は負けず嫌いなのだ、こう見えても。)何か自分でコンセプトを もってコレクター的な方面に興味を持って行こうとした。言ってみれば逃げたのだ。しかしそのきっかけと なったMatthew SweetなりVelvet Crush は全く無垢な心でリアルタイムで接したし、これらの収集ソースは 他の私の所有している大半のCDなりレコードに比べると自分の現体験から発生しているという点で非常に 愛着がある。

   つまり私にとってパワーポップとはBeatlesを聴いて以降の自分の無垢な心と 人生で歪んだ心のふたつをもってして巡り会うに至った何とも言えない感情のこもる作品群なのだ。 「本当に好きなの?」と聴かれると一部を除いては別に・・・という感じもするが、自分のアイデンティティ が詰まっているような気もして切り捨てることはできないなあ・・・という感じである。

   ここまで読んでくれた人がどれだけいるのかわからないが、私にとってパワーポップ とはそういったもの。何か思ったらメールでもくださると とてもうれしいです。



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