● 私にとってのミステリ
パワーポップの項同様、ここは言ってみればどうでもいいことなので途中で興味ないとわかれば
読まないで戻るか、適当に読み飛ばしてください。
私がはじめてミステリをミステリと認識して読んだのはアガサ・クリスティのあまりにも
有名な「そして誰もいなくなった」であった。中学生ぐらいか?母が地域の図書館から借りてきたか何かしたもの
だったように思う。非常におもしろかった旨を母に伝えた記憶がある。しかし、その頃はとてもファンタジー好き
少年だった故、読む本は剣と魔法系ばかりだった。(あの頃のファンタジーはよかったなあ。何か今の特に日本の
ファンタジーはアニメと融合したような感じになって例えば意味もなく露出度の高い女戦士とか、何か文化の
爛熟というか退廃みたいなものを感じる。・・・いかん話が外れた。)ミステリに衝撃的に出会うのはまた後のこと
になる。
高校生の頃、少しは文学とか読まないといけないかな?等と殊勝なことを考え、チェーホフだの
トーマス・マンだのブロンテだのコールドウェルだの読んだ。「ヴェニスに死す」は読むのがとても辛かった。
うちには例えば両親に全くそういった教育背景がなかったため、何がどれだかわからず、本を選び読む
のにも非常に苦労した。そこでちょっとした間違いが起こる。新潮文庫の並びにエラリー・クイーンなる
人物の「Yの悲劇」「Zの悲劇」なる小説が並んでいた。(「X」は品切れだったようだ)私はそれを純文学
であるとばかり思って「Yの悲劇」を買う。読み進めると何やら殺人が起こり、難事件にドルリー・レーンなる
イカした老人が落ち着き払った探偵をこなす。文章も翻訳ものではあったが、雰囲気があってとてもよい。
結末はあっと驚く「あ、あれはそういうことだったのかぁ!!?」「これはこの伏線かー!!」「すごいすごい!」
頭の中の入り組んで積まれた積木が一気に崩れるあの感じ、頭の中が一気に真っ白になっていくあの感じ、
頭の中をジェット機が一瞬のうちに通り過ぎたようなあの感じ・・・を衝撃的に味わわせてくれた。これはおもしろい、
と感じた私は「X」「Y」「Z」「レーン氏最後の事件」の4部作を順次読んでいった・・・
「レーン氏最後の・・・」を読んでいる途中だっただろうか?1991年8月7日、夏休みの
暑い日、本屋で小中学での同級生Y氏に会う。立ち話の後、何故かエラリー・クイーンを読んでいる、というような
話をして「推理小説好きなの?それで理系選択?それならおもしろい本があるよ・・・」彼は私を講談社文庫
の前に連れて行き、黄色い(当時の私にとっては)厚い本を取り出す。そこに書かれていたタイトルは
「占星術殺人事件」著者は島田荘司。・・・それからもう思えば8年間、島田荘司ファンをやっている。今年(1999)
はついに実物を至近距離で見ることができ、かなり心がときめいた。
さておき、この「占星術殺人事件」、日本ミステリ史上に残る大傑作、島田荘司、
そして名探偵 御手洗潔(みたらいきよし)のこの世へのデビュー作である。これは半端なくおもしろい。
私のその後の読書人生を一転させるまさに大事件であった。
説明をするまでもないが、御手洗の奇抜なキャラクター、それに対するワトスン役 石岡の対比、
抜群の文章力、壮大なトリック、バラバラ殺人という猟奇犯罪・それに重なる占星術、アゾートというような
魅惑的な道具立て、とどめに2度にわたる読者への挑戦という古き良きミステリ趣味・・・・・・何をとっても
すばらしい。何度読み返しても飽きない。乱歩賞候補になったとのことだが、なぜこれがとれなかったの
だろう?審査員を呼んでこい!!まあそれにはいろいろ背景が・・・・・・・・・いかん、どうも脱線しがちである。
つまりとてもすばらしいのだ。何も無かったような私の高校時代とは言え、やはり多感な
時期であったのだろうか?この頃出会った、Beatles と 島田荘司 を嫌いになることは生涯通じてないであろう。
その後、高校〜大学にかけて島田荘司を読みあさっていく。とりあえず講談社系を集め、
やがて「吉敷竹史」シリーズ中心の光文社にも手を出し・・・・・・・・・これもおもしろい。ときとして「御手洗潔」
シリーズよりも好きな場合がある。
私の「吉敷竹史」シリーズの Favarite は「奇想天を動かす」である。この作品、氏の出した
「本格ミステリ宣言」の実践版とでもいうべき作品で、トリックの入り組み方と壮大さでは氏の作中1、2を
争うと思われる。本当にすごい作品だと思う。ただ単にトリックだけでなく、人間ドラマもとても深く、
読むたびある種の感慨にふけてしまう。
この辺りで私の島田氏一辺倒から変化が生じ始める。この「本格ミステリ宣言」である。
これを読んで、この中で紹介されている4人の若いミステリ作家、綾辻行人、我孫子武丸、法月綸太郎、
歌野晶午の作品を読むことになる。俗にいうところの“平成新本格ムーブメント”の旗手達である。
・・・・・・とはいえ私が「本格ミステリー宣言」を読んだ頃はもうこの“平成新本格ムーブメント”という
言葉自体、死語になりつつあるような頃で、もっとリアルタイムな本の求め方をしていればこの
熱い頃にリアルタイムで彼らの作品に飛びつけたものを・・・・・・などと思ったりもする。全く私という人間は
いつもそうだ。いつも一歩乗り遅れる・・・(初めて好きになったMusician が来日した直後だったなんて
ザラにある。そういう星なのかもしれない)この“平成新本格ムーブメント”、本人達は当時も現在も
あまりこの言葉を好いてはいないだろうが、それはさておいてもこの頃の作品群はすばらしい。また
その後も。この言ってみればミステリ界のPunk以後、今現在もどんどんすばらしいものが生れている。
そして島田氏も言及しているが、ミステリらしいミステリが盛んであるのは間違いなく日本のみで、
(ミステリの故郷、アメリカは映画にできないような本は書かれない・出版されない・売れないらしい
・・・・・・Detective storiesというと異型のもの、例えばハード・ボイルドとかそんな感じのものばかり
残っているとのこと)私は現在の日本のミステリ・シーンにいることが出来て本当に幸せであると感じる。
私は少読・遅読ではあるが、本当に楽しませていただいている。とにかく今少しでも話題になるような
ミステリは(すべての水準が高いため、)間違いなくおもしろい。私は音楽好きであるが、下手な音楽
より「外れ」と感じるものが少ない。これはすごいことだと思う。
当初このホーム・ページ作成は日本酒についてのみにしようと思っていたが、それでは
行き詰まりそうだと消極的に感じてテーマを3つにした。その3つの中に積極的にミステリを選んだ
のはどうしても紹介したい作家がいたためである。無論 島田荘司氏もそうだが、彼は別に私がただ好きな
だけでも構わないと思ってはいる。ここで紹介したいのは最近出会った 北村薫氏、その人である。
詳しくは「お薦めミステリ」に譲ろう。この北村薫氏にはエラリー・クイーン氏や島田荘司氏
などをはじめて読んだときのような、ガツーン!という衝撃とかを受けたわけではない。でもよいのだ。
何がいいのか?・・・うーむ。ここは言葉にやや詰まる・・・。すばらしい文章力と、魅力的な人間像。非常に
日常的な不思議を(実は非常にゴリゴリの本格スタイルで)サラリと解きほぐす。氏の話にはほとんど殺人
が登場しない。読んでいる本人には本格ミステリであることすら既に感じさせない。でも本人が本格原理主義
を表明している通り、氏が書くミステリはどれもゴリゴリの本格である。すごい。こんな小説がこの世に
生れることなどまるで想像できなかった。どの作品も読後感が非常にいいのも大きな特徴だ。本当に私は
氏の小説が好きである。
・・・勘違いなさらないで欲しいが、(特にあまりミステリ好きではない人)“ゴリゴリ”
などという表現を使ってはいるが、氏の小説にミステリ的とっつきづらさは皆無である。(落語や文学など登場するが、
私はほとんど興味の無いそれらすらちょっとかじってみようか、という気になったものだ)是非是非、
ミステリ好きも、そうでない人も北村薫には手を出してみてほしい。できればデビュー作
「空飛ぶ馬」(創元推理文庫 )から。・・・・・・なんというか、とにかく氏の作品は読むと幸せを感じる。
他いくら紹介してもしきれないが、一生つきあえるすばらしい作品にたくさん出会えた。
ミステリは音楽のように私の内面に食い込んでくるような接し方をしてはこないが、私を単純にその世界に
没頭させてくれる、なんともたのもしい存在である。私はただ楽しむだけというか。いや無論いろんなことを考えさせて
はくれるが、まず「おもしろい」がきて、その後に思考がくる。そこが私にとっての音楽と違う(音楽は
必ずしも「おもしろい」わけではないから)。私はこんな具合にミステリに出会えて本当によかったと思う。
もしあそこでとんだ間違いを起こさず、「Yの悲劇」に巡り会えなかったら・・・我が家が
ハイソな家で間違いなど起こすはずもなかったら・・・考えるとぞっとする。別にそれはそれで生きては
いくんだろうが、後の人生も違ったものになっていただろう。私は今の環境に育って幸せである。本当に
幸せものである。
ミステリを脈々と発展させてきてくれた人々に心から感謝。思春期に間違いなく影響を
与えてくれたし、今後の人生もどんなものが読めるのか?と、とても楽しみである。
果たして果たして?ここまで読んでくれた人がどれだけいるのかわからないが、私にとってのミステリ
を語ってみました。何か思ったらメールでもくださると
とてもうれしいです。
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