● 神奈川酒蔵巡り記
1999(平成11年)
8/7Sat ● 調査・計画
調査・計画詰めをした。しかし、小田急の具合やJR御殿場線・相模線の具合、
はてまた箱根登山鉄道の具合などわからんことばかりだ。とりあえず、住所から
地図検索で場所を把握し、行動しながら具体的に詰め・修正していこう。
会社は18社。操業しているのはもっと少ないと思われる。1994時点で3社が
休業している、とのこと(「神奈川の酒」相原精次(彩流社)より)。その
あたりの確認も必要か。
それにしてもインターネットは便利だ。
8/8Sun ● 調査・計画
昨日の続き。詳しい位置の確認など。明日スタートしよう。明日はもちろん
川崎市唯一の蔵元、川崎酒造だ。
8/9Mon ● 川崎酒造 ( − )
父に鶴間で降ろしてもらい、スタート。小田急線で向ヶ丘遊園に戻り、
モノレールに。周りには家族連れかカップルしかいない。遊園地前に
着いて遊園地に入っていかないのも私だけである。少しモノレール沿いに
戻る格好になる。目的地は川崎市多摩区長尾2-5-10、川崎酒造株式会社。
住宅地・路地に入る。左手やや上方には遊園地のプールがあるようだ。
子供の甲高い声が響く・・・なかなか見つからない2-6?行き過ぎた?少し
方向的に戻る。それにしても煙突とか酒蔵らしい目立つものがない。
広い庭の家の塀に沿って進む。庭には芝生が敷き詰められ、ゴルフのピン
が見える。奥には倉庫の類が・・・・・・待てよ・・・まさか・・・いやな予感が
脳裏をよぎる。急いで表にまわり表札を見る。「長尾2-5-10」!!!
・・・この時の放心感はなかなか説明できるものではない。しばらくそこに
座り込んだ。周りをうろうろしてみたり。通行人に怪しい目でみられたり。
意を決して中に踏み入る。とそのとき一人のお年寄りが戸を開けて
出てきた。元蔵主その人であった。突然の訪問を詫び、よければ
お話をいただけないかと二、三話をいただいた。
私(以下A):「ここは蔵元だったんですよね?」
元蔵主(以下S):「そう」
A:「えっと・・・」
S:「でももうやめちゃったの。」
A:「そうですか・・・いつおやめになったのですか」
S:「確かもう・・・平成7年には閉めちゃった。」
A:「この芝生のところに蔵があったんですよね?」
S:「そうそう。でももう潰しちゃった」
A:「あの倉庫みたいなのはその頃の名残ですか?」
S:「そうそう。」
A:「何故おやめになってしまったのですか?」
S:「そりゃ後継者がいないからだよ。それに日本酒なんか
造っても儲からないしさ。いい高い日本酒なんか造っても
みんな買ってくれないし。焼酎とか安い酒飲んじゃうもの。」
A:「ええ、ええ。採算があわないと・・・」
S:「日本酒だけ造ってやっていけるようなところ日本でも
どんどん少なくなってると思うよ。現に蔵の数がいまや
1500そこらだもの。神奈川県内だってまともに造ってる
ところはもうあまりないんじゃないの?10切ってるん
じゃないかな?とにかく合わないんだよ。」
A:「原因は後継者がいないことと採算が合わないからですね。」
S:「そうそう。それに採算とるには量を造ることになるけど、
そうすると通年で造ることになる。もともとここらは
山岳地帯じゃないし、気温が高くてあまり酒造りがやり
やすいわけじゃない。夏つくるとなると冷蔵設備とか
人員とか設備投資・経費もさらにかさむし。」
A:「なるほど。それも採算の合わない原因という感じですか」
S:「そうそう。私の後継者もいないし、続けてらんないから
閉めちゃったわけ。」
A:「別に物理的に造れなくなったとかじゃないんですね?例えば
水質が著しく悪くなったとか・・・」
S:「全然、全然。水なんか今も汲み上げた地下水タンクに入れて
使ってるよ。」(と、湧き出る水とタンクを順に指差す。とても
きれいな水が流れ続けている。)
A:「現在はどうなさってるんですか」
S:「わし?わしは・・・何もしとらんよ」
A:「隠居という感じですか」
S:「そうそう」
A:「そうですか・・・(沈黙)あの、庭写真撮って構いませんか?」
S:「庭??別にいいよ」
A:(シャッター)「どうも突然すいませんでした。ありがとう
ございました。」
S:「はいはい。」
こうして1蔵目は何ともいえない幕切れとなった。帰りは大した
距離でもなかったので、モノレールではなく徒歩で向ヶ丘遊園に
向かった。コンビニで買った2L入りの水を飲みながら。「多満正宗
はもう飲めないんだなあ・・・」いろんなことを考えた。頭の中で
Matthew Sweetの“Nothing Lasts”が鳴った。
● 泉橋酒造 (いずみ橋 純米吟醸)
意気消沈の向ヶ丘遊園にて、「帰ろうかなあ。やっぱり電話で操業
(もしくは存在)しているかどうかは確認すべきか?」と考えた。
しかし、あまりに身が無さ過ぎる。開き直って最も近い海老名の泉橋
酒造をめざす。向ヶ丘遊園でフリーパス系のパンフもGet。気を取り直し、
電車に乗る。途中相武台前の見覚えのある線路際マンションをみて、
「(昔のバイト先の)店長、お子さんいくつになったんだっけ?」
などと考えるうちに海老名に電車は滑り込む。
西口へ。階段を降りると左右のグランドで野球の練習をしている。
太陽がギラギラと照りつける。バス停にいる人はそろって暑そうな
表情をしている。お?これは愛川町行きのバスではないか。思わぬ
形で愛川町へのアクセス法を知る。バスに乗り、下今泉陸橋に行くか
どうか尋ねると、「バス停でいうと今泉だね」との返答。イスに座り、
小銭を確認する。バス停3つ目であった。記憶の通り進むと、果たして
今度は紛れもなく蔵が出現した。
「うわー・・・田んぼだ・・・」つぶやいて思わず写真を撮ってしまった。
蔵のまわりが一面田んぼ田んぼなのだ。別段田んぼが珍しいわけでは
ない。そもそもバスも田んぼの横を通ってきた。ただ、緑の波に浮かび
あがる蔵の図がすごくきれいだったのだ。わくわくしながら
近づいていく。
門のところでまた写真を・・・とそこに灌漑水路が。流れが速い。
門をくぐると、事務所らしきものが・・・近づいていくと怪訝そうに
女性が見ている。と右をみると、「酒友館」の文字。中に3人ばかり
人が談笑している。近づいていくと、中に「酒友館」の由来が・・・
窓越しに読んでいると、中の人が気づき招き入れてくださった。後に
そば耳たてた感じでは専務とのことだ。30代前半ぐらいか?
そこは休憩所・試飲所・販売所を兼ねたところらしい。古くは米の
倉庫であった云々の説明など見た後、酒に目線を移す。会話が聞こえて
くる。どうも同業者の来客のよう。「試飲したかったらそうぞ」
声がかかる。
とりあえず酒をじっと見まわす。仲の良い人らしく、話が弾んでいる。
「試飲したかったら、そこの冷蔵庫の上の段のやつビン開いてますから
ご自由にやって下さい」おいおい、いいのか?
話具合が非常に若い。必要以上に入れ込んでいなくて、日本酒が普通の
日常会話になっている、というか。堅苦しさがまるでない。ここで
日本酒に接すればきっとみんな日本酒好きになるのでは?とぐらい思った。
いずみ橋 純米を飲んでいると、「それはもうつくるの止めちゃって
残ってるのしかないんですよ」「えーそんな言われたらこまるでしょぉ」
どうもこの来客女性は関西系の人らしい。
同業者同士でも酒の話が盛り上がってきたようで、
「じゃぁ飲んでみます?」といった具合にカウンター、私の横に来て
いろいろ飲み始めた。「お客さんも飲みます?」といった具合にご相伴
し、「この酒は味が出てきた」だの「これは失敗」だのいろいろな話を
伺った。とても楽しかったが、あまりに爆発的にしゃべっているので、
うまく愛想よく入り込む事はできなかった。さすがプロな感じで、
飲んではポンポンと感想・批評を口にする。終いには米の入手先が
どうだのあそこの農家は肥料を使いすぎるから仕入れを減らしただの、
農家の人は全然儲からんから大変だだの、仕事関連多岐に渡る興味深い
話もたくさん聞け、とても良かった。今日ここに来て本当に幸せでした、
とぐらい言おうかとも思ったが、おかしな人だと思われてもいやなので、
(既に思っていたかもしれないが・・・)まあやめておいた。
来客は三重から来たとのこと。仕事で来て寄ったらしい。今夜は何か
集まりらしく、「今夜は肝臓の酷使ですわ」などと言って去っていった。
専務と少し話したが、客も来て、忙しそうであったので、酒と本
(「吟醸酒への招待」篠田次郎 (中公新書))を購入し、去った。
帰りは歩いた。2キロ弱ぐらいか。田んぼを突っ切り海老名駅へ。
先ほどの向ヶ丘遊園のことを加味しても、とても心地のいい気分で
あった。日本酒の捕らえかたがとても柔らかい。この酒蔵は神奈川が
誇れると思う。(そんな意気込みもなさそうだが)
8/10Tue ● 電話問い合せ
まだ自家で醸造を行っているか否か、蔵へのアクセス法、休みなどに
ついて既に訪ねたところやHomePageなどで情報の得られているところ
を除いて計14蔵(/18蔵)に電話問い合せをした。
−−−−−−−
・・・こんな風に言ってしまえると思う。
『商売うまくいってないと対応悪い』
(ひょっとするとその逆か??)なんか昨日に続き Ugly Truth を見た気が
する。(またMatthew Sweetだ。ははは)
もう醸造止めたところは決まって対応悪い。実名は控えます。(唯一の
例外は昨日の川崎酒造。はっきりしていてよかった。)
醸造しているところは 14/18 だった。完全廃業が2つだから厳密には
14/16 か。結構多いじゃないか。
● 鷺沼駅周辺酒販店状況
若松屋 (神奈川の酒なし。)
増屋 ・多摩ほまれ 上選 (本醸造) 川崎酒販共同組合(委託:吉川醸造株式会社)
※ 以前 純米を購入したこともある。
太田屋 ・多摩ほまれ 佳選 (普通) 川崎酒販共同組合(委託:吉川醸造株式会社)
宮野屋 (神奈川の酒なし。)
宮本酒店 (神奈川の酒なし。)
大沢酒店 (神奈川の酒なし。)
※ ただ、変わった品揃えでなかなかよい。
8/11Wed ● 熊澤酒造株式会社 (曙光 純米)
本日は大和駅からスタート。小田急で藤沢に向かう。あからさまに
湘南な雰囲気が漂う。サーフボード、サーファー姉ちゃん・兄ちゃん、
水着を持つ小学生・・・etc.
藤沢で降り、東海道線で茅ヶ崎へ。サザン(もちろん1stシングル)
など口ずさみながら。今日の最初の目的地は湘南唯一の蔵、熊澤酒造。
南端湘南からはじめて、北端津久井へ、相模線縦断の予定。
茅ヶ崎から二つ目の香川駅に熊沢酒造はある。何とも海のそばの
ローカル線な、いい雰囲気(江の電の駅を思い出した)の駅を降りると
灼熱の太陽がアスファルトに降り注いでいる。と、駅の目の前に酒屋が。
「熊沢屋」とある。(酒屋には「〜屋」が多いのはなぜだろう?)
関係があるのかどうかわからないが、入って曙光の有無を確認。
うおー、この暑いのに棚ざらしだー。純米大吟醸がぁー!生酒もー?
とそんなに驚いた表情や声は出さないものの、ちょっとショック
であった。海のそば故のおおざっぱさなのか?行く途中にここを含めて
3軒の酒屋があったが、2軒目でかろうじて生酒を冷蔵庫に入れていた
ぐらいで、あとは大吟醸他、棚ざらしであった。
気を取り直し、蔵へ。しかし、あっさり見つかったそこで
目立つものは“湘南麦酒蔵”の看板。ここは夏はビールを醸造している
ので有名で、蔵を改造したビールと日本酒を飲むレストランを
経営している。それが“湘南麦酒蔵”である。店内は非常に
素敵であるが、いかにもビールが似合う風。それがいい、悪いとは
考えなかったが、(むしろ灼熱でビールが飲みたい欲求にもかられた)
先ほどの酒屋の件もあり、何か心に引っかかった。まあこんなもの
なのかもしれないとは思った。
店内で持ち帰りビールと日本酒を売っていたが、日本酒は看板銘柄
“曙光”が並んでおらず、高い酒(古酒かな?)と量が少なくオシャレな
瓶の安いもの、という感じで、「他にはないんですか?」と聞いて
とってきてもらわねばならないような感じであった。圧倒的に
ビールの方が目を引いた。
日本酒の蔵である事よりそういった経営的な感じが色濃かった。
日本酒のラインも少し見えたが、完全オートメーションで、瓶が
流れていた。(瓶詰め工程か?)
確か泉橋酒造と競い合っているような文面をどこかで読んだが、どちらも
堅苦しくなく、新しい時代を感じさせはした。
曙光の純米を買って去った。あいかわらず太陽は降り注ぐ。
● 清水酒造 (巌乃泉 三姫物語 純米吟醸)
香川駅、間一髪で乗り込んだ相模線でさらに北上。(一本乗り過ごすと
たいへんだからねえ)目的駅は終点橋本駅。何の事はない、いつもの
生活圏内(通勤路)に接触したのだった。田んぼを見て考え事をしていたが、
少々寝不足だったので、海老名手前付近で少々居眠り。海老名で人が
大勢降りて目が覚める。泉橋酒造の方を見つつ、一昨日を思い出す。
「んー。田んぼはいいねえ。」
南橋本から橋本へ滑り込む。どこかで見た景色。しかし今日はここで
降り、迷わずバス乗り場へ。ちょうど三ヶ木行きのバスが止まっている。
人はまばらである。乗り込むとほどなくバスは出発。16号をくぐり、20号を
くぐり、津久井へ向かう。
路線図を見ると、若葉台の文字。後で時間があれば寄るか、などと
考えていると、津久井湖が見えてきた。県立城山高校前を通り、
「こんなところに高校があるなんていいなあ」、と思ったそのとき、
ダムが見えた。
湖から少し離れて(つまり湖は見えない)バスは413号線を進む。津久井
赤十字病院のところから県道65号線に入ってすぐ、目的のバス停奈良井に
着いた・・・あ、料金が350円から390円に・・・降りると、先ほど一歩手前で
降りた若い女性がこちらに歩いてきた・・・。(なるほど、妙に人が降りるなあ
とは思ったんだ)
捜すまでもなく、バス停の目の前、道路に面して清水酒造はあった。
なかなか古くてよい建物である。入ってすぐに酒が並んでいるが、
(おもしろい事に、その辺りの酒屋も兼ねているようで、ウイスキーやら
ワインやらも一緒に置いてある。棚晒しが気になったが・・・)その
すぐ奥に仕込み樽などが見える。本当に小さい蔵である。
とても素敵である。
電話ではたいしたことないみたいなことを言っていたが、品評会金賞や
モンドセレクションでの賞など、ずらりと並ぶ盾や賞状。かなりのもの
である。
(おそらく昨日の電話に出た)女性は落ち着いていて、陳列してある酒
を凝視する私に声ひとつ掛けない。私から声を掛けた。
A:「この純米には4合瓶はないのん?」
女性(以下J):「ないんですよぉー。」
A:「うーむ、この“滋系酒56号”っていうのは米の名前?」
J:「そうですよ。(写真を示して)滋賀のこの農家さんに有機栽培
してもらってるんです。」
A:「ほう。滋賀と神奈川は何か関係あるんですか?泉橋の人も
滋賀から山田錦買ってたような・・・」
J:「そうなんですか?うちは山田錦は兵庫から買ってます。」
純米の4号瓶、最も安いものは三姫物語(純米吟醸)だった。
これは津久井郡限定の銘柄で、次の久保田酒造でも同銘柄を造っている。
この地方に伝わる物語が名前の由来らしい。
モンドで賞を取った純米吟醸は\2400近く、予算オーバーだった。
三姫物語を買い、進物用に同じ酒をこの酒造銘柄でラベリングしている
ものを買った。中の写真を撮らせてもらった。
体を焼く意味も含め、若葉台までの道のりを歩いて湖の写真を
撮りながら帰る。2L入りの水を飲みながら。
うだるような暑さだ。
● 某氏宅
都井沢のバス停前のセブン・イレブンより訪問の旨伝える。何せ
ホントに目と鼻の先なのだ。少しでも縁のある人ならここであいさつ
ぐらいせねば無粋というものであろう。
玄関先で日本酒を置いて失礼するつもりであったが、まあこういう
場合の常で、「お茶ぐらい・・・」頂くことになってビールまで飲んだ
私は図々しいであろうか?(この時のビールはうまいなんて言葉では
表現できなかった。本当にありがとうございました。)
今自分が何をしているところだとか、まあそんな話から始めた。
すると、日本酒の話から東北の話になり、昨日まで東北に行っていた
との話になった。とても興味深い話もあった。氏が星が好きだとか、
せっかく星を見ようとしたが、昼の暑さでバテてできなくて悔しかった
など旅の話から、奥さんの先祖が義経の家来の佐藤某で、それを祭った
福島の寺に行っただの、そういう寺・神社系の好きな私には興味深かった。
私はその他度々の島根出張は日本酒とそば好きの私はうれしくて
しょうがなかった、などという話をしたら笑って「トラブルとかじゃ
ない方がもっといいんだけどな」というようなことをおっしゃって
いた。
また、この辺りは小麦の産地なんですねぇ、と歩いているとき
仕入れた情報を振ると、氏は全く知らず、奥さんの方はご存知だった。
まあ当然といえば当然というか、若葉台は高台の完全な住宅地で、住んでる
だけでは全く湖周辺のカルチャーとは隔絶しているのである。なかなか
興味深い事実だった。氏は「これで今度名物を聞かれたら答えられる」
などとおっしゃっていた。
その他、氏はうなぎが好きだと聞いたが?とか、奥さんは昔どぶろくを
造ったことがあるなど、細かい話はつきないが、結構長居をしてしまい、
もう一蔵は最低まわる予定でいたので、失礼する事になった。
休日に突然押しかけ、ビールや団子をごちそうになった挙げ句に、
近いとは言え、次の久保田酒造前まで車で送ってもらった私は
やはり図々しいであろうか。
果たして無料庵バス停前で別れの時となった。
ありがとうございました。
● 久保田酒造 (相模灘 純吟)
すばらしい。その光景を見た瞬間、そう声を出さずにいられなかった。
自然と写真も多くなってしまう。山の中、川のそばにその150年の歴史は
存在した。本にあった通り、その開発を拒否しつづける古いすばらしい
建物・自然は見るものを圧倒する。神々しくさえある。すばらしい!
またご主人がとても良い人で、蔵の中を案内してくださったり、まだ
貼ってない状態のラベルをくださったり、とにかくよかった。親切この
上なし。奥さんも昨日の電話の人?と気づいたようであった。電話の
雰囲気のままのとても感じの良い人だった。
ご主人、最近までただのサラリーマンだったそうで、
先代社長の急死でご主人に白羽の矢が立ったそう。「私は素人ですよ」
の言葉が印象的だった。あの丁寧な口調は前の職業と関係があるのか
もしれない。
しかし、力強い口調で言ったこのような言葉が忘れられない。
「この住むには厳しい環境ですが、いいものつくるには、これらを・・・
森林・自然を維持し、いい水を維持して造っていく他ないんです。
だから開発からは環境を守らないといけない。」
明日から盆休みというのは聞いていたが、従業員が足早に
ねぎらいの言葉を掛け合いながら去って行く。もう盆前の業務は
終了である。ご夫婦二人になった後もしばらく話をした。
とても楽しかった。
記帳をして去った。
外ではヒグラシが鳴いて、否泣いていた。
とにかくすばらしい。いつまでもいつまでもここに
そのままあってほしい。何度も振り返り、そう思った。
夜も短くなってきたな・・・
時刻は18:00数分前。バスは18:08となっている。ヤクルト、今日は
勝つだろうか・・・携帯用ラジオのイヤホンを耳にあてた。
8/12Thu ● 本厚木駅にて
9日同様、鶴間より旅はスタート。車の中で聴いた“渚のカンパリ・ソーダ”
(寺尾あきら ?年)を思い出し、吹き出し笑いながら駅の階段を昇る。
自動切符販売機ではなく、窓口にて「丹沢・大山フリーパスって言うの
ください!」
今日は大山・丹沢近辺巡りである。まず本厚木駅へ。バスにて半原行きを
捜す。本厚木いろんなところへいくバス集め過ぎ。めちゃくちゃわかりづらい。
ようやく半原行き見つけると、運転手とはっきり目があった。私が目を細めて
近づいていくと私の姿をはっきりと確認したはずの運転手はドアを閉めた。
初めての人に確認もせず飛び乗れというのか?そうでなきゃ後30分以上待てと
言うのか??たいした量走らせてないくせに何をそんなに急ぐのか?遅れるときは
好きなだけ遅れるくせに。(ぜえぜえ・・・)
最初に大矢孝酒造に行くのはあきらめよう。30分以上も待てぬ。
● 黄金井酒造 (盛升 純米)
七沢温泉行きのバスに気を取り直して乗る。目的地はよくわかっていないが、
HPの地図によると何とかリハビリセンター入口というところで降りればそばに
黄金井酒造はあるようだ。「馬場リハビリセンター入口」がそれだった。
果たして捜すまでもなくそれは堂々と存在した。HPにあった自家醸造地ビール
“相模ビール”を飲ませるレストラン(というかビアガーデンか?)もある。
看板に向かって歩き始める。空からは相変わらずの灼熱の太陽。
あれれ?門が閉まっているのか?何か札が掛かっている。近づくまでもなく
そこに何が書いてあるのか想像できた。
「本日休業」
盆休みか・・・写真を撮る。あれ?高い煙突がない??
となりに“黄金井”の表札。「名字だったのか・・・豪快な名字だ・・・」
などと思い、豪邸を写真に収めたりして・・・
蔵も家も今までと比べるととても立派だ。
ビールに手を出すやら日本酒の生産高やらいろいろ精力的なよう。
となりの酒屋で盛升 純米を購入。バスを見ると伊勢原行きは30分以上ない。
いったん本厚木まで戻った方が賢明だな・・・どうもバス関連のツキがないな・・・
バス停の脇で待っていると猫がいる。鳴きまねをすると、寄ってきた。お腹を
すかせているよう。ごはん買おうかとも思ったが、一時的な同情をしては猫に
失礼だ、と自分を律する。と、そこへバスが。ごはんをあげようとしてもその
間もなかったな・・・
● 金井酒造 (白笹鼓 特別純米)
本厚木から秦野へ。フリーパスって快適だなあ・・・
バスは水無川沿いに進む。一回左折するとあららあっという間に
目的の“文化会館前”だ。降りようとすると、「ここはエリア外です」
ガーーーン。な、なんでやねん。(えせ関西弁)170円を払い、降りると
これまた捜す必要なく、金井酒造が見えた。で、でかい。敷地面積は今までの
中で最高ではないだろうか。でかいなあ・・・
蔵、ではなくはっきり言って工場(ご主人も言っていたし、看板にもそう
書いてあった。)におそるおそる入ると、事務所がある。「こんにちわぁ」
入るとまあ別に事務所は事務所だった・・・。酒を選ぶと、何となく「蔵を
見ますか?」みたいな話になり久保田酒造に続き見学となった。久保田と
違って樽が多い。ずらりと並ぶ樽。20万Lぐらいとのこと。それでも主人は
「小さい」と・・・「で、でも県内ではかなり大きいですよね??」「そうね、
黄金井さんと熊澤さんと同じぐらい。でも規模は小さいですよ。」
何か不思議な思いがするのだった。食べ物造るのはこれぐらいで
限界ではないか?大手の酒造会社を想像して(多分その想像すら絶するの
であろうが・・・)ぞっとした。
有名なモーツアルトを聴かせる麹室とか、興味深いものをたくさん見た。
詳しく情熱的に話してくれて、最初のでかいことからくる不安はなくなった。
神奈川で唯一 今年の鑑評会で優等賞を死守したらしい。そのことも
しっかりした気持ちで造っているという事であろう。
杜氏は越後だそう。この蔵で10年ぐらいらしく、ノッてるらしい
(神奈川は越後ばっかりだな)
移転前の敷地はもっと広かったらしい。3000坪、今の倍だそう。皆平屋だった
ので今に比べて石高がとても多かったとかいうことはないらしいが。
生産はほとんどはけるらしく、古酒とかはやってないとのこと。「何でも
古くなれば美味くなるわけではないですからね。」中途半端な量を造る中規模な
蔵で酒が余って何年か経つみたいな例もあるらしい。まあそんなものかもしれない。
その他御殿場の方の地ビールが好評らしい、とか先述の湘南ビール、相模ビール
の話とか、いろいろ話をした。適当にこちらからも話題を振ったりしてなかなか
の県内外日本酒、その他酒談義になって(こっちは素人だからそんなに偉そうな
もんでもないが)言われる、「若いのに日本酒好きなんて珍しいねえ。」(こんな人が
同年代にいないかなあとか後で考えた。(暗い?)
後もあったのでお暇した。特別純米を2本買った。(一つはおみやげ)
最後の一言、「今度冬に造ってるとき来なさい」
そうですね。
● 吉川醸造 (相模大山 純米)
渋沢駅から鶴巻温泉駅へ。そこから徒歩で246号線の方へ登っていく。
(タフだなあ・・・私も)246にぶつかったところに吉川酒店という酒屋が。
関係あるのかどうかわからないが、中に入ってみると奥から「いらっしゃいませ
の声とともに女性が。
「菊勇を造っている“よしかわじょうぞう”というのはどっちですか?」
「ああ、ああ、これは“きっかわじょうぞう”と読むんですよ。246を右へ
まっすぐ行って交番のある角を左に行けば煙突がみえますよ。」
・・・何とも道案内のような(もちろん道案内に違いないのだが)説明通りに灼熱の
246を渋谷方面へ。すぐ横に東名高速が走っている。・・・熱い・・・。ふとそこに
“三宅坂まで58km”の看板。家の前にあるのは20kmの看板だから、家から38kmの
地点か・・・などと考えているうちに交番の赤ランプが見えてきた。その脇の道に
入っていく。
細い道だ。その次の目的地比々多神社の参道らしい。何とも大雑把な地図で
たてたコースの計画のわりにはハマッている。
煙突が次第に大きくなる。そこにまあ何とも古めかしい建物群。(綺麗な
イメージがない。雑然としている感じ。)吉川醸造である。高速道路のすぐ
脇、神戸(ごうど)の地である。この地名は比々多神社への参道途中だから
だろう。
事務所は昔ながらの番台という感じでとても素敵だった。開放で冷房すら
ないのだ。すごく素敵。今は蔵のなくなった川崎市の川崎酒販組合に委託
されている「多摩ほまれ」の箱が見える。(純米を飲んだ事がある。どっしり
濃くて少し甘い最近の“味なし”流行の中では特徴があった。かなり気に
入ったのを憶えている。)
女性が一人机に向かって番をしている。静かな感じの
方だった。こちらから話しかけなければ反応がない。
「あのぉ・・・(ジェスチャーで四角をつくる)」
「パンフレットですか?」
「そうそうその類ください」
・・・
看板ブランド菊勇は純米だと純米吟醸になり、税抜きで4合\1500を超えてしまい、
予算枠から外れてしまう。この線は外せないので、もう一つのブランド相模大山
の純米を買った。
この辺りで
「うーん、どうしようかな・・・」
「・・・」
「1500オーバーか・・・」
「・・・」
「菊勇、純米のもうひとクラス下はないんですよね?」
「・・・えぇ」
というような活発なやりとりがあったことは言うまでもない。
「 比々多神社にはどう行けば?」
「 そこの道をまっすぐ、高速道路をくぐって道なりにまっすぐ
です。すぐそこですよ。」
「ありがとう」
私はその場を去った。
● 三之宮比々多神社
高速道路をくぐると神社はすぐに見えた。背後に大山を
従え、なかなか綺麗な眺めである。(写真を撮る)
古くて由緒のある社である。建物も古くて綺麗。小さな
子供が御払いをしてもらっていた。(一時もじっとしている
気配がなかったが・・・)それを眺めながら、リュックの中の
お酒を並べ、二礼二拍一礼した。
スパンッと社を後にした。
● 大山、阿夫利神社下社 (大山の名水)
比々多を後にして、漠然とした計画通りに東の方へ進んでいき、
伊勢原−大山間バスの路線に着く・・・予定だった。しかしここが
山道のこわいところ。道は直線ではないのだ。
1kmちょっとと思っていた目的の路線は、歩けど歩けど姿を
見せない。サンサンと降り注ぐ陽射し。曲がりくねる坂道。
何も考えず歩き続けた。2L入りの水を飲みながら。
バスの支線路線を逆行する形になる。少し広い道に出た。
バス停が見える。「よっしゃー」走り寄る。“伊勢原車庫行き”??
ち、ちがう・・・まだ先なのか?
もくもくと歩く。さっきよりむしろ細い道に出た。バス停が
ある。“大山ケーブル行き”ふー。時刻表を見る。15:25。
ちょうど三分後だ。バス運も良くなってきたか?神様ありがとう。
ものすごい細い道をバスは豪快に登っていく。意外と客は
多い。さすがにバスの冷房が心地よい。(弱目だったこともある)
ほどなくバス停“大山ケーブル”に到着。あれ?ケーブルカーは?
・・・なにぃ〜550m階段登るぅ〜??大山ケーブルなんていうバス停名
やめてよ、それなら。
・・・もう何も考えずにもくもくと階段を登る。“昇る”ではない。
(ただし良さそうな料理屋がないかどうかはチラチラと目配せしながら)
「今日はほとんど苦行だな・・・」つぶやきながらようやくケーブルカー
に到着。
「どうしてこうケーブルカーの駅ってどの山も似てるんだ?ケーブル
カーと言えば・・・という独占企業でもあるのかしらん?」などとくだら
ないことを考えているとケーブルカーは終点下社に着く。
「どうせ苦行なら本社まで登ってやる」、と意気込み看板を見る。
・・・本社まで90分?行って帰ってくるとケーブルカーがなくなって
しまう・・・
下社にて二礼二拍一礼後、空になった2Lペットボトルに
大山の名水を詰め、「今度は絶対本社に登ろう」と心に誓い、
下社を後にした。
下社の階段のところに鹿が飼われている。「そういえば
さっき登ってくる途中、店のメニューに鹿刺しがあったな・・・」
などと考えた私は人非人であろうか?しかしそれが業という
もの。
しかしながら私が目星をつけていた店は“本日は終了しました”
の文字・・・。何か他の店の構えはそそらないなあ・・・。
「私は日本酒のために歩いてるのであって大山参りにきたのでは
ない。」と思い直し、ストイックにそのままバスに乗った。また
ピッタリのタイミングだった。
伊勢原駅に着く。付近に住むの会社同僚の家はどの辺なのかしらん?
などと考えつつ小田急に乗った。リュックサックの人が結構いたが、
中に登山セットではなく、日本酒が何本も入っているのは、まあ
私だけだろう。
● 再び本厚木
17:22・・・「40分ぐらいとして18:00か・・・行けるかな?」
半原行きの時刻表を見ると25分・・・!バス運が完全によく
なったのか?ウキウキ並ぶが待てどくらせどバスは来ない。
「もう行った後??」・・・駄目だこりゃ。今日は半原方面には
行くな、という神様の思し召しかな・・・。
本厚木を後にした。
● SunValley 青葉台店
こう相武台前を何度も通ると思い出さずにはいられない。
元Side By Side新宿ルミネ店店長代理、現SunValley 青葉台店店長
の氏は少し太って貫禄が出ていた。何も言わずともモルツ
の樽詰め生が登場。飲んだ後言葉が出ず、涙が出たことなど
わざわざ書くまでもない。
三杯瞬く間に開け、カンパリのロックを飲みながら残りの
ロメイン・レタスを頬張る。
気まぐれにメニューを眺める。「夏だことハーブのスパゲティ」
が別紙の挟み込みメニューでは「真だことハーブのスパゲティ」
になっている・・・。“A la Carte お肉と魚の料理”には何故か
肉料理以外ない・・・などさすがはダイナックな内容だった。
先日思い出した通りお子さんの歳が気になる。
「いくつになるんでしたっけ?お嬢さん?」
「2歳。」
うおー。平成9年か。うし年・・・つまり私と2まわり違いか。
それにしてももう2年経つか。時が経つのは早いなあ・・・
私は残りを飲み干し、店を後にした。
今度お嬢さん宛てにグラスでも贈るか、「立派な酒飲み
になってください」とでも書いて。奥さんに怒られるかな?
心地よい疲労感。帰り道、今日の夜もなかなか暑いな・・・
と思った。
8/14Sat ● 自宅にて
今日は朝5:00に茨城を出て帰って来た。ものすごい豪雨。
月曜に行く予定の山北町ではキャンプの人18人が流された
らしい。津久井でも2人中州取り残されとか、とにかく
大変なことになっている。山に行って土砂崩れでも起こったら
大変である、ということで今日の大矢孝酒造行きも中止である。
それにしてもよく降るなあ・・・。
● 電話問い合せ
神奈川県酒造組合 盆休み?誰も出ない。アンサーマシーン
ぐらいあってもいいのに。
8/15Sun ● 大矢孝酒造 (あいかわ 純米吟醸)
終戦記念日の今日、スタートは鷺沼駅。少々起きるのが遅く
なってしまったため、父の車に同乗できなかったわけである。
12:00のチャイムとともにチャーハンをつくり、腹ごしらえ後
家を出て鷺沼駅へ。田園都市線に乗り込む。
昨日の神奈川あちこちでの惨事が嘘のように晴れ上がっている。
中央林間で小田急に乗り換え、本厚木駅へ向かう。
本厚木バスセンター・・・あ、半原行きのバス・・・のドアが閉まった。
・・・どうもこのバスは相性が悪い。25分待ちか・・・コンビニで水でも
買ってこよう。
コンビニで買い物後、バス停に戻った瞬間滝のような雨が
降りだした。間一髪濡れなかったものの、やはり何かあるのか?
バスに乗る。雨はますます激しくなる。まるで昨日のごとく。
しかも大して暑くもないのにバス内凍えるほどの冷房・・・半袖の中に
腕を引っ込め、縮み上がる。ああ、神様私が愛甲郡に行く事は
そんなにいけないことなのでしょうか?
・・・と雨が止み、日が射してきた。あわてて日の当たる席へ。
通り雨だったようだ。日に当たって暖かくもなってきた。
バス停、田代に着く。そこに目立つ“しぼりたて地酒あります”
の文字。大矢多門酒店という店がある。入ると目当ての“蓬莱”が
あった。
「この酒を造っているところは?」
「この裏の小学校の隣になるんですよ。農協のそばです。」
向かう。大木が立ち、緑茂る中に煙突が見える。事務所には誰も
いない。盆休みらしい。奥の母屋から笑い声が聞こえる。
古く、わりと綺麗な建物である。裏に「大矢孝」の表札。「孝」
はそのまま「たかし」と読むらしい。(生きてるのか知らんが)神奈川
日本酒界の長老の名である。そのまま蔵の名前というのがすごい
と思うが・・・この辺りは(後の「大矢酒造」からも分かる通り)大矢
という表札が多く、まあそうした理由からなのか?
酒店に戻って、あれこれ話して“中身は同じです”とのことから
地域限定銘柄“あいかわ”を買う。ご主人(大矢多門さんというの
だろうか?)はいろいろと蔵についてや、神奈川の他の蔵について
などたくさん話をしてくださった。
「最近6月に醸造止めたと聞いた大矢酒造というのはどこにある
んでしょう?」
「最近って言うか、もう5、6年醸造はやってないんですよ、あの
蔵。免許を返したのがこの6月っていうことなんです。場所はこの
道まっすぐ行けばすぐですよ。でも中の樽とか全部売っちゃって
外の建物残ってるだけですよ。」
「ああ、構いません。いろいろありがとうございます。」
その場を去った。
● 大矢酒造 ( − )
もう醸造をしていない言ってみれば“蔵の跡”は歩いて2分も
せずに現れた。煙突もあるし、なかなか立派なものだ。(大矢孝
のように古くないが)しかし柵から覗き込むとそこはまさに“跡”
であった。潰れたところ・・・という感じ。やはり何か虚しさを感じ
てしまう。
川崎酒造のように何にも残っていないのとは違ってまた
何かやるせないものを感じた。日本酒はこれからどうなっていく
のだろう。
愛甲郡愛川町を後にする。中津川が昨日の雨や惨事を思い
出させるような増水・濁流ぶりをみせている。
● 瀬戸酒造
帰ろうかとも思ったが、明日の負担を軽くするためにも少し
押していこうと考え、今回もっとも行きづらいと思われる瀬戸
酒造をめざし、本厚木から開成へ。新松田からでも同じような
距離だったが、どうせなら今回でなければ降りそうもない開成
駅にした。
・・・何もない。タクシー乗り場すらない。家は結構あるのに。
基本的に田んぼなんだけど、住宅も多い、という感じ。私が歩
いていく予定の県道471号(だったか?)には実はバスがとなりの
栢山駅から通っているが、一日2本!・・・距離は3キロぐらいだが、
今酒蔵巡り中最も行きづらい場所である。
というわけでもくもくと歩く。日は出たり出なかったり。
なかなか不安定な天気である。一面田んぼで周りには山。
山が霞んでいるが、晴れていればかなりすばらしい景色だろう。
新松田の方からくる県道とクロスし、道は山北方面へ伸びて
行く。(日に2本のバスの行き先は山北駅である)
遠くに煙突が見えてきた。あれに違いない。少し速度が上がる。
酒屋兼直売所のような店を手前に、予想通り田んぼの中に蔵は
あった。周りを歩きまわり写真を撮った後店に入る。「いらっ
しゃいませ」奥から主人が出てくる。
まず冷蔵庫に向かった。「?」何もない。棚を見るとウイスキー
などと一緒に“酒田錦”は棚ざらしになっている。(自社製品なの
になあ・・・)ラインナップを見回す。「??」純米が見当たらない。
「えっと・・・商品はこれだけですか?」
「ええ。これで全部です。」
「他にしまってあるのとかは・・・」
「あと吟醸がありますがちょっと今切らしてまして。
それと吟醸の古酒がありますが、あれは予約販売です。」
「純米なものはありますか?」
「いいえ。うちは純米造ってません。」
「・・・・・・!!!???・・・・・・」(見つめ合うふたり。文句ある?
とでもいいたげな主人の顔)
「・・・そ、そうなんですか・・・えっとこの原酒は?・・・」
・・・
その他一応値段とかいろいろ聞いたが、衝撃が大きくて
あまり憶えていない。かなり引っ張ったので、何も買わない
のも失礼かと本醸造の300ml入りを購入した。無論飲む気は
ない。これは私のポリシーだからしょうがない。ごめんなさい。
経営的に純米などやってられないのか?それとも何かポリシー
があっての本醸造、普通酒なのか?はたして理由は不明だが。
慶應元年創業の県内でも古い部類の酒蔵だったと思う。戦前は
アルコール添加は絶対無かったはずだが・・・それをとやかくいう
権利は私にはないが。
生きるっていろいろ考えてしまいたいへんだなあ・・・
JR松田駅(小田急新松田駅)へ向かう。駅のそばに中澤酒造
がある。
日が暮れてきた。
● 中澤酒造
理由後述。もう一度明日行こう。
JR松田駅裏とあったので、踏み切りを越えて北口へ行ったら
どうもみあたらない。近くの酒屋に入ると「反対側だよ。でも
今日は盆休みでやってないよ」とのこと。
駅の反対側を見ると・・・おお、あるじゃないか。あまり近くて
気づかなかった。駅から写真をとった後、踏み切りを戻る。
中沢酒造の前に立つ。事務所に明かりは点いてるものの、人は
いない。奥で笑い声話声はするが、休みであるので声をかける
わけにもいくまい。
なかなか古くて綺麗な建物である。塀などの風情もすばらしい。
ローカルな駅にすぐ隣接しているのもすごく映えている。
写真を撮った後、先ほどの酒屋に“松美酉”を買いにいく。
● 酒の戸倉
とても古い酒屋らしく、店構えがなかなか格好いい。酒を買いに
行くといろいろと話しをしてくださった。大関とものすごい古くから
取引しているらしい(戦前とかそういうレベル)。昔は近所のお得
いさんはとっくり持って酒を買いにきたんだ、と古いとっくり
(60年以上らしい)をみせてくれたり、となり町山北の川西屋酒造店
の評判とかについても話してくれた。昨日の川での惨事について、
昔からあそこは危ない場所だった、私の子供の頃は氾濫は
しょっちゅうだった。家とかも流れていた、うんぬん。
たくさん話をしたのはまあおいておいて、松美酉である。しかし、
違う近く酒屋でもそうだったが、松美酉をまともなラインナップで揃えて
いるところが全然ない。「大関」の看板が目に付く。この辺一体に
古くから力を持っていたのだろうか。
・・・なんだかなあ。地元にも愛されていないのかしら?
先ほどの瀬戸酒造と合わせて。それにしてももっとラインナップは
豊富なはず。しょうがないので、東京・神奈川など共同銘柄“ぎんから”の
中澤酒造醸造品を買った。
新松田駅から家路へ。もう7:30近い。頑張りすぎたかな?
スタートが遅かっただけか。
(以下家に着いて気づく)
がしかーし!!!ちっとも気づかなかった。こりゃアル添じゃないか!
アル添吟醸だ。とほほ。今日は何かアル添に付かれてるなあ。
明日直接蔵に純米買いに行かねばなるまい。物事あんまりあわてちゃ
いかんね。
どうしようこれ?私のポリシー的に自分でアル添買って飲む事は
できんし・・・私のいらんものを他人にやるのも失礼だし・・・はてさて。
酒屋の主人も奥さんもとてもいい人ではあった。川西屋の酒が
あるということは評価も高いのだろう。
大関印入りの升にサインしてもらってきた。よい思い出である。
8/16Mon ● 中澤酒造 (松美酉 純米)
中澤酒造ふたたび、である。御殿場線が来るまでにまだ
だいぶある。中沢酒造に踏み入る。「ごめんください・・・」
奥から男性が出てくる。「お酒売って下さいますか?」
「は、はい。あちらに商品並んでますが・・・」(庭の方を
示す)「この純米下さい。」「はい、少々お待ち下さい・・・」
値段を確認に言った模様。昨日写真などは結構撮ったので、
足早に去った。
● 川西屋酒造店 (丹沢山 純米)
松田駅にて待つ。中沢酒造が目の前に見える。御殿場線が
やってきた。「東海道線のお古だ・・・」と心の中で思いつつ、
旅客座席に心がはずむ。といっても2つ先だが・・・
山北駅までの道は南に酒匂川、北に丹沢の山(と東名高速)
でなかなかの景観。
山北駅に着く。丹沢観光案内などがある。昨日の惨事をあざ
笑うかのように。この大惨事時に酒など買いにきている私は
人非人だろうか・・・?私は駅の前の道を来た方向へ戻るように進む。
はて?この道は?・・・・・・!!!! 246号線??ここは246であった。
三宅坂から何キロの地点だろう?どうもここは246の旧道のようだ。
線路向こうの南側に高架の道路が見える。
ギラギラと照り付ける太陽の中、「本当にこの方向でいいのん?」
と感じながら歩いていくと、遠くに「川西屋精米店」の文字。
これは間違いない、と歩速を上げると、その精米店の道路向かって
反対側に目的地はあった。バス停“水上”の前。山北より5個目
のバス停である。
評判のいいところの割には(だからこそ、か?)あまり大きく
はない。中に入ると扉の向こう、事務所から控えめに女性が出て
きた。
「お酒を買いにきました。」
「そうですか。どのようなものを?」
「これは火入れした純米ですか?」
「いいえ、それは生です。今在庫があるかどうか・・・
火入れしたのはそっちです」
「ああ、これか。これはあるんですか?」
「ええ、こちらはレギュラーなものですから。」
「これください。」
「はい。ありがとうございます。」
酒を買い、足早に去った。なかなか当たりのいい
対応であった。ジャストタイミングで新松田行きのバスが
来た。とそのとき国府津行きの御殿場線が通り過ぎる。
新松田へバスで帰ろう。
● 石井醸造 (曽我乃誉 純米)
14:47。新松田にて御殿場線の時刻表を見る・・・15:14?
30分?国府津行きバスを見る・・・14:57。バスに乗る。
上大井駅入口にて下車。バスは高いなあ・・・(そうでないと
本数少ない御殿場線の意味がなくなる?のか?)石井醸造と
井上酒造を探す。駅のそばということなので、すぐ見つかると
思い、線路南側を探すが、全然見つからない・・・しょうがなく地元
の人に聞くと、そばを通りつつ気づいていないことを知らされる。
これでは15:56国府津行きには間に合わないな・・・。
教わった通り、線路北側に行くと石井醸造はすぐに見つかった。
早く聞けばよかった。なんのことはない、さっき降りたバス停が見える
ではないか。
周りを堅固なブロック塀に囲まれている。中の建物はなかなか古くて
いい感じ。女性が洗濯物を干している。まわりの写真を撮った後、中に
入る。
「お酒売ってくれますか?」
「あらあら、今休み中で全然人がいないいんですよ・・・どんな物を?」
「純米がほしいんですが・・・休み中すいません。」
「いいんですよ、ちょっと待って下さい・・・」
・・・・・・
「レッテルを貼ってないんですよ、ちょっと待って下さい・・・」
お休みというのにとても親切だった。ラベルが変わったデザインだ。女性に
受けそう。
何度も頭を下げてその場を足早に去った。
● 井上酒造 ( − )
教えられた道を行くと、住宅街の真ん中に井上酒造はあった。こりゃ
近く歩いてもわからんわけだ。
静まりかえっている。写真を撮った後、呼び鈴を鳴らすが誰もいない。
声を出してもだれもいない。ドアとか全開放で皆出かけてしまったのか?
さすが田舎だ・・・
もう次の16:20御殿場線が来てしまう。これ以上逃すと小田原を闇の中
歩く事になる。周りに酒屋も全くない。
断腸の思い(というほどでもないが・・・)で“箱根山”の本日購入を
あきらめた。
上大井の駅で切符を・・・あれ?切符売り場がない。
「そのまま乗っていいんですか?」
「はい、乗って下さい。中で切符売りますから」
「はあ・・・」
御殿場線〜東海道線でいよいよオーラス、小田原へ。
● 相田酒造 (智恵袋 純米吟醸)
御殿場線が国府津に近づく。「海だ・・・」思わずつぶやく。
茅ヶ崎では海を確認する事はできなかったが、すぐ近くに海が
見える。
東海道線に乗り込み、2つ目、小田原に電車は滑り込む。大きい駅だ。
こんなに賑やかな駅なのか・・・遠くに小田原城天守閣が見える。
相田酒造への地図を持ち、歩き出す。
基本的にずーと市街地・住宅地で、何となく道の仕切り方が城下町を
思わせる。低い建物が多い。ほどなく歩くと地酒販売の看板。反対側には
スーパーマーケット。近づくとその看板はまさに相田酒造だった。全くの
市街地に存在する。町の地図をみると、近くをあり、相模湾に流れ込む
のは山王川。ここで古くから酒を造っているのか・・・昔はこんなに建物が
なかったのかも・・・と思った。
店は・・・どうもやっている気配がない。隣が家のようで、呼び鈴のところに
“呼び鈴”と書いてある。そのままじゃねえか、とか思うが速いか、それを
押す。当然家のドアがあくものと思って待っていると、後ろからいきなり
声が・・・。びっくりして振りかえると、店の方から主人が首を出している。
「え、え、えーと、今日は盆休みでしょうか?」
「ああ、別に構いませんよ。」
中に入りいろいろ薦めてもらった後、純米吟醸を買う。“横浜の星”という
忌々しい酒もあった。(結構有名なベイスターズ応援酒。昨年優勝のときのかがみ
びらきもこれだったような気がする)
二、三お酒について語った後、「海に行くには?」と浜への道を聞き、店を
後にした。
17:15。蔵周りの全行程終了。もう海で焼けるような時間じゃなくなったな・・・
● 御幸ノ浜にて
黙黙と歩き、国道1号線を渡り、海岸の高速道路をくぐるとそこは海だった。
(実は遊泳禁止だったのね・・・海パンをはいてきた意味はなかった。どのみち
もう日も暮れるが。)釣りをする人がたくさんいる。磯の香りのする暖かい
風を受けながら海を見つめる。そこに何故かパラシュート花火を連続して
やる(おそらく)老人と孫。写真を撮ってくれるよう頼み、海をバックに唯一
今回の中で私がフィルムに焼かれる。
しばらく海を眺めた後、海を後にした。もう旅も終わりに近い。
● 小田原城
国道1号を城の方へ向かう。駅にそのまま行こうと思ったが、門はまだ
開いているようなので、天守閣へ向かう。「また階段か・・・」と考えながら
これまた黙々と歩く。
天守閣の下に着く。ベンチに座ると、周りはカップルか少数の浮浪者だ。
18:30のアナウンス。しばらくボーっとしていると眠気が襲う。緩やかな風が
心地よい。少し今回の旅のことを考えた。
近くのカップルの女性が泣き出した。生きるってたいへんだなあ・・・
20分ぐらいいただろうか・・・私はゆっくり席を発った。
梅干しをおみやげに買ってかえろう。まがいものの蒲鉾は絶対買うまい。
帰りは生れて初めてのロマンスカーに乗ろう、と決めた。
● SunValley 青葉台店
再び青葉台SunValleyである。ビールに涙した後、今回使った地図を見ながら
各蔵でであった人々を思い出す。会えてうれしかった人、悲しかった人、何とも
思わなかった人・・・こんな小さな範囲の旅だがいろいろな事があった。興味深い
ことなど日常のあらゆるところに転がっている。何も外国などへ無理して
いくこともない。(別にそれを否定しているわけではない)ものごとはすべて
取り組み方しだいだな、と強く感じた。
国際化とか何とかいわれる今日だが、自分の立脚している文化など足元も
かたまらずにただ英語をしゃべったりすることが果たして国際化なのか?
明治維新以降、そして戦争によって何か日本人の軌道は大きく歪んだ。何も
古いものが、日本的なものがすばらしい、とか言う気はないが、それにしても
日本は現在何の上に立脚しているのか全くわからない。
最近おかしな法律がつぎつぎと国会を通過し、なんだか緩やかなファシズムを
感じる。皆あまり物事を深刻にとらえないのは日本人の最大の長所なのかも
しれないが、はて。
ちょっと話がそれた。つまり何というか今回の酒蔵巡りは私の主張である。
自分は何がしたいか。何のためにそれをするのか。何故それをするのか。
自分の地に足が着いたところから思ったことをする。しっかり自分で飲み込み
納得できるように。考えながら。慣習や習慣や押し付けや何となくといった怠惰
や・・・ときにはそういったことに流されのであろうが、自分がどんな場所に
立脚しているのかどうして今自分はここにいるのか。そういうことを少なくとも
自分自身は考えて、自信を持って生きていきたい。国が世界がどうなろうと。
そうでないと他人との関わりもしっかりしたものにはなり得ない。
今回はそういう意味ではたくさんのことをボーっとではなく形体づけて
たくさん考えた。今までの人生についても考えた。確実に今後生きる力となった
と思う。とりあえず今地球の終わりが来ても未練はない。
・・・とそこまでパスタ食べながら考えていたわけではないが・・・。氏と
昔の事やお酒の事やその他よしなし事を話し、閉店後、終電まで飲み明かした。
ビール2杯、カンパリソーダ1杯、アマレットロック1杯、ワインたくさん・・・
こうして酒蔵巡り楽日は終了した。なかなかの充実感だ。
8/17Tue ● 岩崎屋酒店 (箱根山 純米吟醸)
ここは元町である。とはいっても商店街ではない。故に北村のかばんも
売っていない。なぜならここは本牧元町、ただの住宅街だからだ。
何故そんなところにいるかって?井上酒造の“箱根山”を買い損ねた後、
井上酒造に電話をし、「箱根山の純米を扱っているところは?」と尋ねた
ところ、岩崎屋の名が出てきたのである。
岩崎屋酒店 横浜市中区 045-621-3308
昨日のやや(?)深酒が利いたせいか、起きたのは12:00近くであった。
ホットサンドを作りながら電話をする。女性がやや困惑した感じでアクセス
方法を教えてくれる。
家を16:30過ぎに出る。今日はおとなしくしてようかと思ったが、まあここ
までくればやれることはすべてやろう・・・。今日も暑い。
横浜の東口から本牧車庫行きの105系バスに乗る。バスで本牧の町を通り
ながら、「へえ、本牧って楽しそうじゃん」と思う。今まで名前は知れど、
どんなところかは知らなかった。
・・・で冒頭に戻る。ここはバス停“本牧元町”を降りたところである。本当に
住宅街で、右も左もわからない。・・・とそこに犬の散歩をするきれいに焼けた
細身の女性が。(好みらしい)渋谷の女子高生のような汚い黒ではなく、とても
きれいな肌の感じ。・・・そんなことはどうでもよかった。
「あの、岩崎屋っていう酒屋があると思うんですけど?」
「あ、はいはい。すぐそこです。そこの道まっすぐ行って突き当たりを
右です。」
「ありがとうございます。」
すぐに見つかった。立派な木の看板がある、古そうな店である。
中に難しそうな顔した主人がいる。
「井上さんの酒・・・」
「は?」
「井上酒造の酒を買いにきたんですけど・・・」
「ああ、ああ。これとこれとこれがそうだよ。」(と一升瓶を差す)
「4合瓶はないんですか?」
「そっちにあるよ。」
「・・・(一升持ってかえるところだった・・・)じゃあこの純米吟醸を。」
「これはうまいよ。よぉく冷やしてね。これ買いにきたの?」
「ええ。ここで売ってるとうかがったんで・・・」
・・・
「ええっ?川崎からわざわざきたの?そりゃ悪かったねえ。・・・え?
上大井にもいったの?へえ。いやね、この酒は結構問い合わせとかも
多くてねえ。もともと、税務署の知り合いじきじきに“この酒はうまい
から置いて”みたいなこといわれてねえ。いや、いや・・・」
話は続くが、まあとてもいい感じの酒屋だった。他の客も来たので、
その場を去った。
バス停への帰り、また先ほどの女性と遭遇した。目が合うとにこりとし、
「見つかりましたか?」「ええ。ありがとうございました。」私には
めずらしく、恐らく微笑み(それもとびきりの笑顔)かえして答えた、
と想像する。(自分の顔は見えないから何とも言えんが)かなり女性が
好みだからか、それとも完全制覇、完全収集完了の満足感か、店の主人の
様子からまだまだ日本酒も見捨てられたものではない、と感じたからか、
果たして真意は定かでないが、そうこうするうちにバスが来た。
横浜駅で明日からの出勤のために定期を買い、休みも終わりを認識。
心なしか、夜風が涼しく感じられた。
「もう夏も終わりだな・・・」
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8/18Wed 0:58 東 義一
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