● 茨城酒蔵巡り記

1998(平成10年)

08/某日      ● 府中酒造株式会社  (府中誉“悠久” 純米、府中誉 純米吟醸)

            それはきまぐれからの来訪であった。盆休みに茨城・土浦の祖父の家にいて、
          酒を飲んでいた勢いで免許取りたての従妹に運転をさせて石岡市まで運転を
          させてこの蔵を訪れた。(酔っ払いが初心者に向かって勝手なナビをしたので
          本当に恐くて疲れた、とは後の従妹談。)

            石岡市内にはいくつか蔵があるが、皆郊外にあり、常磐線石岡駅に近いのは
          この府中酒造のみであった。となりに小さなお社があり、蔵の建物も非常に
          古い風格のある佇まいである。
            ちなみに“府中”というのは昔ここに国府があったことから“府中”と
          呼ばれていたとのことである。

            夏ではあるが、少しひんやりとした土蔵に入る。すると奥より初老の男性が
          入って来た。一つ一つの酒に関してその丁寧な造りの説明。大吟醸にいたっては
          精米歩合35%。「削ればいいというものではない」とおっしゃってはいたが、
          そこにはかなりの自信が感じられた。純米大吟醸4合瓶で\5,000超であった。

            しかもまだ知識の乏しかった私は、それがこの蔵が復活させた幻の酒造好適米
          である「渡船(わたりぶね)」でつくったものであったことを後追いで知った
          のであった。道理で造ったものに誇りと自信のある態度であったわけである。

            自分のところのお酒に関する親切な説明だけでなく、日本酒に対してその熱い
          思いを語ってくださったり、非常に楽しい時間であった。

            さすがに4合\5,000は買えない。山田錦の純米、純米吟醸を買い、ちょうど
          次の客が来たのもあり、記帳をして帰った。

2000(平成12年)

04/17Mon    ● 府中酒造株式会社  (純吟ふなしぼり“渡船” 純米吟醸 生詰)
      
            府中酒造の再訪である。土浦の祖父のところからの帰路、石岡に向かう。
          目的はもちろん、“渡船”を使った酒を入手するためである。

            何ともいい天気で土浦から北上する常磐線の気持ちいいこと。平日のも
          あいまってとてもゆったりした気分で少し暑くさえ感じる石岡駅に降り立つ。

            国府のあったところも今は昔。すっかり“いけてない”さびれた何もない
          ところである。中途半端に高度経済成長期の後が見えるというか・・・・・・まあ、
          あまりに賑やかなところでも困るが、食事を摂るいいところがなさそうで
          ある。
            まあ、さておき、約二年前の記憶の方向に歩き出す。駅前のさびれた
          スナックなどを抜けると町並みは古い塀などの並ぶなかなかいい感じの民家
          が続く。まさに記憶通りの雰囲気である。

            しばらく行くと当たり前ながら二年前と変わらぬ蔵がそこにあった。写真を
          何枚か撮った後、中に入る。中年の女性が奥から出てきた。こちらから訪ねる
          までもなく、「ここまでが本醸造、この辺が純米・・・・・・」と解説してくださる。
          いくつかやり取りをしたのち、“渡船”を使ったもので純米はやはり2年前と
          なんら変わらぬ高価な純米大吟醸以外では生詰の純米吟醸になるとの結論に
          達し、それを購入する旨伝える。

            女性が奥に酒・化粧箱などを取りに行っている間に戸口より人が入ってきた。
          それは2年前と全く印象が一緒の山内氏(新聞の切り抜きにてその名を確認)
          その人であった。「いらっしゃい」間違いなく聞き覚えのある声である。

          「何かお求めですか」
          「あ、今持ってきていただくところです。“渡船”使っていて火入れしてるので
           安いのはこれだけなんですよね」
           「いや、そっちの・・・・・・
           ・・・・・・・・・・

           帰るつもりが新しい銘柄「太平山」の試飲やら、今昔日本酒話、級別制度や
         統制をはじめとした国の愚策が日本酒全体に残した傷跡について、しっかり
         した造りをしている蔵について、渡船について、米を削ることについて・・・。
         様子を見た先ほどの女性がお茶も持ってきてくださり、しばし日本酒談義と
         なった。

          「大手が融米とか酷いものを争って造り、さらに紙パックの量を増やし・・・
          互いに日本酒全体のためにならないとわかっていても避けられない現実がある。
          本来は最も有名なメーカーが最もいいものを造ってしかるべきなのに。
            せめて愚策がもう5年早く終わっていたら今ほど酷くはなかったかもしれない。
          (中略)
            今まともなものを造れているのは愚策に惑わされず、小さくともまじめに
          やってきた蔵のみです。でもそんな蔵のいくつかも大手の酷い質のものに駆逐
          されているんです。
            でも最近はどんどん若い人が興味を持ってくださってきている。そういう
          ところでまじめにじっくり造られたものは供給が追いつかないほどで、、、
          (後略)」

            いいはなし、嘆きたくなるはなし、たくさんあったが、こうして話していると
          まだまだ捨てたものではない、と心が休まる思いであった。

            氏が出かける用事があるとのことで、それに合わせ、私も蔵を後にした。
            以前来たことなど覚えていらっしゃらないであろうが、あのときとほとんど
          同じ印象、話口。非常に心休まる人物・蔵・雰囲気である。

            相変わらず日差し強く、この時期にしてはやや暑いほど。
            さあ、そばでも食べて帰路につくことにしよう。


08/15Tue    ●細野酒造店(水郷娘 本醸造)

            やはり祖父母の家からである。稲敷郡にある家からの最寄り駅はJR土浦駅
          である。土浦駅から車で10分程度、土浦市並木に細野酒店はあった。

            蔵に身内と来るのは1998年のやはり茨城府中酒造以来である。父の運転で
          そこに着く。私一人降り立ち、写真を撮り、敷地内に入る。が、蔵の中に
          タンクなどが見当たらず、がらんとしている。

            そこに後ろから声がかかる。「何かご用でしょうかぁ?」女性の声である。
          そそくさと店舗内に入り、水郷娘を探す。父が車から降りてきた。
          どうも純米は見当たらない。一応尋ねる。

           「あの『水郷娘』に純米はないんですか?」
           「なんですよ。」
           「4合瓶はないんですか?」
           「ないんですよ。」
           「ここのお酒ですよね??」
           「ええ、そうです。」
           「そこで造ってらっしゃるんでしょうか?」
           「あ〜、今は水戸の方で造ってます。」

            予想はしていたものの残念。自家醸造ではなかった。いつ頃まで造っていたのか?
          今まで存在も知らなかったのが残念である。造っていた頃に飲みたかったものだ。
          まあ、祖父母ですら知らないのだから無理もない。何か日本酒の現状を如実に
          示しているようで悲しいものがある。。。

            せっかく来たので、本醸造を祖父母のお土産に買った。
            車で並木の地を後にする。

              ●株式会社川島酒造店(稲敷 純米)

            土浦市の蔵が残念だったので、稲敷郡新利根町に唯一ある蔵、川島酒造に行くことに
          した。父と妹を土浦駅で降ろし、一人カーナビに従い新利根町に向かう。

            国道を通らず田んぼの脇を走ってゆく。田んぼ田んぼ、、、、混んでもいないし、
          快適ドライブだ。
            さて、近くまで来たが正確な場所がわからない。新利根町役場に止めて近くにあった
          地図で下太田なる土地の場所を確認し、再度発進。もう5分もかからないであろう。

            さあ、やや広い道には出たが、横は相変わらず田んぼだ。。。と、その田んぼがある
          道の右側、田んぼの中に「米だけの酒  純米酒 大運  川島酒造」の看板が見えた。
          その酒屋の前に車を入れる。            

            一見ただの酒屋だが、なるほど店の右側に大きな家屋がいくつかある。中に入ると
          右奥に冷蔵庫に入った「大運」が見える。左の棚にも「大運」「稲敷」がある。店内を
          見まわす。「大運」には純米が見当たらない・・・あれ?看板に偽り??まあアル添大吟醸
          などは冷蔵庫にしまってあるが。別ブランド「稲敷」には純米があった。しかし、どれも
          これもまた一升瓶しかない。この辺りはやはり飲兵衛が多いから4合瓶の需要がないの
          だろうか??そもそも自家醸造してるのか??
            レジが空いたところで女性におそるおそる尋ねる。

            「えーと、あの『大運』っていうやつに純米はないんですか?」
            「ええ、ないです。」
            「(おいおい外の看板は??)あ、そうなんですか。えーとあの『稲敷』に4合瓶は?」
            「ないんですよ。」
            「あぁ、そうですか・・・じゃあ、あれもらおうかな・・・」

            しょうがない、「稲敷」純米酒を取りにいき、レジでお金を払う。

            「これってそこで造ってるんですよね?」
            「ええ、そうです。」

            おお、最低目的は達成したようだ。。。価格はなかなかリーズナブルであり、稲敷の
          田んぼのラベルもなかなかいい。欲を言えば大吟醸や生酒だけでなく、これも冷蔵庫に
          入れてほしかった。自分のところで造ったならばなおさら。

            隣の蔵と思われる建物などを写真に収める。ちょうどフィルムが切れた。さあ、土浦
          駅に帰って父・妹を拾い、祖父母宅で「稲敷」と一杯と言わず二杯三杯やるとしよう。
          なにせ一升瓶だ。

            川島酒造を後にした。






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