● 長野酒蔵巡り記
2000(平成12年)
8/9Wed ● 手打ちそば 更科
どこにいるかというと、長野県は諏訪市である。昨年の夏休みは神奈川県巡りを一気に
やったが、今年は夏休みに諏訪にやってきた。海抜が700m以上で日差しはきついが蒸して
おらず非常に過ごしやすい。
まず宿泊予定の下諏訪の一歩手前、上諏訪に降り立つ。なぜならすぐそばに蔵が5つも
あるのである。しかも非常に近距離(隣同士ぐらいの近く)にある。上諏訪駅から国道20
号(甲州街道)を南下、手前から舞姫酒造、麗人酒造、酒ぬのや本金酒造、伊東酒造、
宮坂醸造の順。
見学などをさせてもらおうかとも思ったが、連れの都合などで予定が変わったため、
あまり時間がとれないため、矢継ぎ早に廻るだけとなった。まあじっくり見るのはまたの
機会にしよう。
何はともあれ腹ごしらえだ。そば屋を探すが、5軒程度のうち目星をつけたものは水曜
定休ばかりである・・・しかしこの「更科」だけが“8月お盆までは無休”となっていた。
救う神あり!!向かうと商店街風の中にそれはあった。
手打ちそば 更科 諏訪市末広1-7 0266-52-1080
入ると狭い店舗で中の人がいっせいにこちらを見たので少々ビビッてしまった。そそくさ
と座敷の席に上がる。
三色(さらしな、せいろ、田舎)のそばがあり、天せいろや種ものなどもあるが、そば
以外はない。日本酒(焼き味噌付き)はあるが、それ以外のつまみの類がないのだ。潔い!
珍しく三色そばを頼み、最も気に入った“せいろ”をもう一枚頼んだ。連れは天せいろ
ならぬ、天田舎(でいいのだろうか??)を頼んでいた。天ぷらを横取りさせていただくと
なかなかクリスプでジューシーでよい。
いつも通り一気にそばを流し込み、店を出る。いやいや、なんてことないけどおいしい。
こんな店がそばにあっていいなあ。
● 舞姫酒造株式会社( −通過− )
甲州街道、国道20号線を南下する。この道が新宿南口や高井戸や府中や八王子を通って
いる道と同じだと思うと何とも言えない感慨がある、、、などと話しながら歩いていると
気付いた、レンズ付きフィルムの残りが少ないことに。
舞姫酒造の正面に着き写真を撮るが、残り2枚・・・道を先に進んでコンビニか何かを
探してレンズ付きフィルムを買って一番奥の宮坂醸造からまわることにした。
というわけで酒蔵をいったん通過していく。
● 国道20号線
舞姫酒造のすぐ隣に麗人酒造、そして二軒隣は酒ぬのや本金酒造、向かいが伊東酒造、
また、味噌・醤油の醸造元の亀源醸造というのがその隣にあったが、今年の3月をもって
閉店の旨、張り紙があった。何とも残念なことだ。
建物がみな古い佇まいで、一本路地を入るとさらに雰囲気の良さそうな感じであった。
ん〜、古くてかっこいい。
まもなく右手にアップルランドなるスーパーが見えてくる。どうやらレンズ付きフィルム
が入手できそうだ。
● 宮坂醸造株式会社(真澄 純米吟醸)
もう数十メーター進むと宮坂醸造が見えてきた。道路左にビル、駐車場、反対側に綺麗な
塀が続く建物。真澄、協会7合酵母、信州一味噌(笑)で有名な宮坂醸造だ。さすがに
全国区な蔵だけあって、今まで通過した蔵より規模が大きい。
入り口の綺麗な建物は販売所の棟のようだ。奥には蔵であろう、古い家屋も見えた。
“真澄”の暖簾のようなものは蔵への入り口のようである。蔵の人が「販売所はそちら
ですよ。」というようなことを言い、右の方を差す。入ると少し薄暗くしてあるところに
入って左が酒に関するコーナー、中央にレジ、右奥に味噌や食器その他いろいろ、という
配置になっている。かつて見てきた中でも、こういった蔵に敷設している販売所では大きい
方である。「Cella MASUMI」というらしい。
入り口付近にある記帳簿に記名をし、店の中をぐるっとまわる。味噌などのコーナーは
別段ここの土地のものに限らずいろいろなものが置いてあり、ありゃりゃ、という感じ
であった。酒のところは\300できき酒のコーナーがあり、その奥には茶室が・・・?販売酒が
のコーナーはランナップが整然と並んでおりそのライトアップとあいまって不思議な空間
をつくっている。その向かいに酒に関する本や蔵人の自主制作CD(笑)がある。
純米吟醸を手にとり、篠田次郎氏の「吟醸酒が来た道」の文庫版を手にとり、レジへ
向かう。
レジにて連れとレジ脇にあるハガキについてなど尋ねる。ここからハガキを出しませんか
というような内容であった。その他パンフなどをいただき、その場を後にした。
● 伊東酒造株式会社(横笛 純米吟醸)
国道20号線を上諏訪駅に向かい戻る格好になる。伊東酒造に到着する。事務所のような
ものがすぐに見えるが、中に誰もいない・・・蔵の敷地の方を覗き込むとほぼ同時に蔵の人が
建物からひょっこり出てきて、声をかけてきてくださる。どなたかを呼ぶ様子で、すぐに
奥から女性が出てきて事務所を開けてくださった。
非常にハキハキした丁寧な接客で対応してくださり、非常に気持ちがいい。 事務所入った
正面ガラスケースの中に商品ラインナップがある。
「どうぞお上がりください」の言葉に素直に従い、靴を脱いでケースのそばまで寄る。
「えーと、何かこう・・・パンフレットみたいなもの・・・とかありますか?」「あー、はいはい」
バタバタと取り出したのは“商品のしおり”なる毛筆をコピーしたもの。元は手書きの
毛筆で、パンフというと大抵小奇麗な写真などの入った印刷である(無論それが悪い訳では
ない)が、何とも温かい感じと毛筆の Cool さが対応の快さと共に感激させる。
やはり“商品のしおり”にその名の由来が記されている看板銘柄「横笛」を買おうと思い、
値段との兼ね合いや丁寧な説明を聞き、純米吟醸をお願いした。
机の上に「信州の地酒」なるパンフレットがあった。97の銘柄のラベルが載っている。
それと商品のしおり、酒を手にとり、お礼を言って事務所を後にした。
連れと対応がとても快活だったことを誉めながら次の蔵に向かう。とはいえ国道挟んで
反対側だが。
●酒ぬのや本金酒造株式会社(本金 “太一 からくち” 本醸造)
入ると薄暗く誰もいない。すぐに居住空間になっているような感じの土間である。
ラインナップを見回し、純米が見当たらない・・・奥の棚を見ると一種類発見したが、
一升瓶しかない。さて、、、誰も現れる気配がない。
・・・しばらくキョロキョロした後、意を決し(というほどでもないが)少し声を
張り上げる。「すいませーん」すると「はーい」と奥で声がしてゆっくりとお歳を
めした女性が出てきた。「いらっしゃいませ」
「えーとですね、あの奥にある純米のですね、4合瓶はないんですか?」
「あー、、ないと思います。」
「 ・・・そうですか。うーん・・・」
そのことを含め店の中の暗さとあいまってやや覇気がないなあ、と感じつつ、
日本酒にとってはこの薄暗いのはいいことだな、などとも思う。まあ今まで
まわったところでこの程度のところはあったし、、、前の伊東酒造の明るさ故に
比較でそのおとなしさが強調されたのだろう。
さて、一升瓶を買うわけにもいかない。断腸の思いで本醸造の 300ml を購入した。
(これを読んでいる蔵元の人、いらっしゃれば是非、割が高くなっても構いません
から是非フルラインナップに4合瓶を用意してください。お願いします。)
奥に女性が酒を取りに行っている間にご主人と思わしき人が帰ってきた。あわてて
「いらっしゃいませ。すいません、誰もいませんでしたか??」
「いや、今お酒を取りにに行ってもらってるところです。」
「ああ、そうですか、どちらからいらしたんですか?・・・・・・」
・・・・・・
とても腰が低い対応に少々たじろぎつつ、その「ありがとうございます」を何回も
繰り返す姿勢には一生懸命さも感じられて、少しほっとした。お酒を袋に入れて勘定
する際に、「これ手作りのパンフみたいなものなんですが・・・」とワープロかパソコン
かで作った紙をあわてて折って渡してくださった。人それぞれ一生懸命やれる範囲で
がんばるのだ、、、その一生懸命さに恐縮した。
礼を言い、蔵を後にする。連れと印象について話したが、まあ伊東酒造との対比も
あり、余り芳しいものではない。が、私はこういう蔵こそがんばってほしいと願う。
業界全体のためにも。
やや口幅ったいか・・・自省。次へ行こう。
●麗人酒造株式会社(麗人 “純米三年熟成” 純米古酒)
宮坂醸造とともに楽しみにしていた麗人である。蔵の構えもかっこいい。中に
入ると蔵人が忙しなく働いていらっしゃる。事務所入り口のようなところで女性が
書類仕事をしている。前にじーっと立っても気付かない様子なので、声をかける。
「こんにちはー」
ややびっくりした様子で、「、こんにちは」と返してくる。「構いませんか?」
と聞き、中のお酒が並んでいるところに入る。
ラインナップを見ていると、連れの方に声がかかる「そこのお酒適当に飲んで
ください」
連れ:「飲んでいいんだってよ」
私:「うひょー、マジで?」(アホ?)
実はハナから買うであろうものは値段・好みでおおよそ決まっていたが、せっかく
なので試飲する。シェリー酵母を介在させて熟成した「酒古里」(“じゃぶり”と
読む。)の 7年、12年と飲んだ。酸味が良く、白ワインのような引き締まった味。
12年はより香味が増しており、好みが別れるところであろうが。(連れもまあ
そのような反応をしていた)その他、生酒なども飲んだが、やはり熟成酒がよい。
私の好みもはっきりしているなあ。
何にしろ飲めて幸せ。
ちょうど試飲のコーナーにはなかったお目当ての“純米三年熟成”を購入する。
お酒を持ってきていただく間にパンフの類を見ると、先ほどそば屋でも見た
「諏訪浪漫」なるビールのパンフが。どうやらここで造っているらしく、すぐ横に
工場があるようだ。「見学というほどのもんでもありませんが、覗けますよ」との
こと。日本吟醸酒協会 20周年記念蔵元めぐりスタンプラリーのスタンプを忘れず
押して、礼を言い、お隣ビール工場へ。
●麗人酒造株式会社 諏訪浪漫ビール製造工場(諏訪浪漫 しらかば & りんどう)
ステンレスタンクが並ぶさほど広くはない工場内、瓶詰め・王冠閉めをやっている人
と「いらっしゃいませ」と声をかけてじっとしていらっしゃる方の二人が場内にいる。
少々蒸し暑い。
ミニグラス \200 で飲めるようなので、ケルシュとアルト(しらかば、りんどう
という名前が付いていた)を一つずつ交互に飲む。黒い方が好みであろうか?どちらも
しっかりした造りで、暑さ&歩き回ったところに心地よい。
飲みながら信州地ビール祭りなるチラシを見る。このビールは諏訪の温泉を使って
仕込んでいるようだ(つまり硬度が高いのだな)。ここを含め、信州には9つの
地ビールがあるようだ。日本酒の蔵でビールも造るのはここが最初で、この
「諏訪浪漫」も比較的新しいもの、とはビールを注いでくれた係の若者談。
そんな話をしながらビールを飲み干し、そこを後にする。
●舞姫酒造株式会社(舞姫 “中取り 袋しずく 生酒” 純米吟醸 生)
蔵の建物の構えはここが一番かっこいいかもしれない。いかにも土蔵といったその
建物は果たしていつからのものかわからないが、大正か昭和初期か?もっと新しい
かもしれないが、とても Cool だ。
その隣に新しい建物、販売所であろう、がある。しばらく概観を眺めた後、中に
入る。中は非常に綺麗な空間、新しく見えたが、内外装を綺麗にしただけで、元々
蔵か何かであろうか?そういった造りに見える。
女性のグループ客が酒をきいたり酒器を選んだりしている。きき酒コーナーにて
様々な酒をきかせてもらう。さっきから飲んでばかりでだんだん舌が鈍くなっている
せいか、フレッシュな酒が旨く感じられてきた。山廃など、かなり個性的な味もよい
が、ここは吟醸系の綺麗な酒の出来がよい。
ご主人?レジのところにいた男性に各酒の素性を聞き、吟味して雄町を使ったやや
癖のある(ここが私らしいところ)、それでいて綺麗な出来の純米吟醸 生を購入。
ことわりを入れて店内の写真を撮り、記帳をしてその場を去った。
ぱっぱとまわったつもりだが、下諏訪の宿に行くといった時間が間近である。
上諏訪駅への道を急ぐ。
●桔梗屋旅館
下諏訪は中山道の宿場町である。ひなびたいいところ、と思いきやひとつ問題が。
国道が通ってしまっていて、昼夜問わず大型車両がひっきりなしに行き交うのだ。
宿自体は情緒があるものの、少々うるさい。こういう何にも考えてない道路行政は
頭に来る。
宿の方もとても気持ち良い接客。返す返すこの環境がうらめしいところ。でも
バイパスが通るとかいう話で、(確かにこんなに狭い道を大型車が行き交うのは
無理がある)少しは良くなるかもしれないとのことだ。
まあ何はともあれ温泉だ。気持ちいいねえ。
夕食も時間をかけて食べた。蜂の子から馬刺しに到るまで山のものだ。ここで
マグロや海老天が出てきたらがっかりするところだ。時間をたらたらかける夕食は
格別。酒はもちろん下諏訪の「御湖鶴」。いやあたくさん食べた食べた。
それで温泉。いやはや。(←幸せらしい)
最大6組までの宿なのでお風呂も一人独占に近い。いやはや。
本当に周辺道路環境だけがうらめしいことであった。
8/10Thr ●下諏訪観光
宿に荷物を預かっていただき、観光。まあ本筋と外れるので詳細割愛するが、
国道さえ外れれば非常に静かで趣深いところも多い。岡本太郎が感激したという
石仏・・・etc.少し小高いところに行けば諏訪湖も綺麗に見える。天気も最高。本当に
ただただ、道路&大型車両がうらめしい。御柱で有名な諏訪大社も排気ガス
モウモウの前では・・・
全般に楽しくはあった。しかしこれが改善されないとここに泊まろうという人は
減っていってしまうと思う。歴史ある町なのだから大事にしてほしいものだ。
●菱友醸造株式会社(御湖鶴 純米吟醸)
宿を下ってすぐのところに菱友醸造はあった。下諏訪地区に残る唯一の蔵で
ある。
酒を選んでいると女性の客が来て、御湖鶴の酒粕を買い求めに来た。店番の
女性はすまなさそうに答える。
「すいません、もうなくなっちゃたんですよ〜」
主婦であろうか?その女性客は残念そうにしていた。
そういえば先ほど寄った酒屋でも御湖鶴の酒粕を買い求めに来た人がいた。
その他お隣岡谷市の「神渡」の粕などは置いてあるにも関わらず、それは手
にもとろうとしなかった。宿でも「御湖鶴」以外なかったし、この酒が地域に
愛されていることを実感した。
少なくとも行き当たった酒屋や飲食店で諏訪周辺の蔵以外の酒を看板に
しているところは見当たらなかった。(例の「○関」とか「月○冠」とかよく
あるやつはなかったのだ。)他の地域ではすぐ目の前に蔵がある酒屋で全然
関係ない酒が看板に付いていたりするのを見てがっかりすることもあったが、
さすが全国に名高い諏訪杜氏の地元というか、すばらしいことだ。
さて、値段と相談して純米吟醸を購入した。さして立派な蔵ではないが、
こういった蔵に私は愛着を感じる。それはまわった他の蔵にも言える。
さあ、そろそろ時間である。帰路に就くべく、宿に荷物をとりに向かう。
喫茶店で休んでから行こうか、と相談をしつつ。
上諏訪で湖畔に行く余裕ぐらいはあるだろう。
楽しくてあっという間の二日間であった。
[純米酒しか飲まない会 ホームへ]
[長野県酒蔵巡りTOP]
AZUMA.Yoshikazu(C)2000