● 東京酒蔵巡り記

1999(平成11年)

11/26Sat    ● 調査・計画
      
            それはあるお誘いから始まった。11/22、「酒蔵でも行きません?単に私紅葉見
          たいだけなんですが。」賛成した私は勝手ながら行き先を青梅にさせていただいた。
          青梅市御岳山の麓に名酒「沢乃井」の小澤酒造株式会社があるためである。また、
          私の好物のそばもうまそうである。あわよくば松の湯温泉(なんて名前だ・・・)か。
            とにかく御岳山に行こうと計画する。東京都酒蔵巡りのスタートである。


11/28Sun    ● 立川駅

            待ち合わせ立川駅。何だかそわそわ早く起きてしまい、30分も早く来てしまった。
          いつも人と待ち合わせるとものすごい早く来るか遅れるかのどちらかだ。要領が悪
          いのか?いつも人には遅刻ばかりしているように思われている・・・。まあいいか。
            壁にJapan Cupのポスター。今日はあのエルコンドルパサーを凱旋門賞で破った馬、
          モンジューが日本で走る。興味はあったが、強烈に応援する馬も出ていないし、
          酒蔵巡りスタートと沢乃井と山と紅葉と青い空とそばとかの人を比べれば当然こち
          らを選ぶのであった。記念にJapan Cupのポスターでも写真に撮るか・・・

            朝食、妹が何やら作っていたものをちょっと食べてきたがやや小腹がすいた・・・待
          ち合わせ時刻まであと5分程度、目の前に小竹林。これからうまいそばが食べられる
          かもしれないというその時に「さあ、ここの小竹林は府中本町店に比べてどうだろう
          ・・・?」と無性に思い、入ろうとしたそのとき氏は登場した・・・。これは後に考えてみ
          るとすばらしいことで、氏に感謝をせずにいられない。本当にこのとき何も食べなく
          て本当によかった。

            「18分まで電車がなさそうなんだけど・・・あれ?でもこの11分の電車は??」
          それは“ホリデー快速”なる臨時電車。臨時に出してる割には妙に空いているその電
          車に乗り、一路「御嶽駅」へ。

            とてもいい天気だ。

            ● 御岳山 登り

            青梅までは全く山を感じさせなかった風景も、そこを過ぎるとだんだん山の気配を
          漂わせ始める。 

            「なんか紅葉が“赤い”とか“黄色い”というより“茶色い”んだよね・・・?」・・・
          そんな話をしているうちに目的地に近づく。

            「御嶽駅」で降りる。ほとんどの登山客風の人々はここかで降りる。ケーブルカー
          の「滝本駅」まで歩けるかと思いきや意外と遠そうであるのを確認、バスに乗る。
          大した標高でもないはずだが足元が妙に寒い。やはり山は違う。寒がりの私にはな
          かなかの試練である。
            ほどなくバスは到着。兄弟喧嘩?でわめいていた子供も親に連れられ降りていく。
                       
            大山に続き2度目のケーブルカーだが・・・大山とはかなり違う!傾斜がけたたまし
          い。下から見上げるとすごい眺めである。ケーブルカー途中、案内が・・・。
     「(略)・・・紅葉も少しは残っているようです・・・」「!!!?・・・」紅葉していないので
          はなく、もう終わりであったか・・・。
            ほどなく到着する。

            頂上の神社をめざし、歩く。参道はあまり“山道”という感じではない。ちょっと
          拍子抜けではあったが、天気がよかったのもあり、途中の宿・店の類いも楽しく見える。
          綺麗な茅葺きの家なども結構残っていてとても Cool。紅葉もまあちらほら。
          寒いが気分は上々。とにかく天気がいい。あおぞら。白い雲。

            寄り道寄り道、頂上に行くに従い、ものすごい数並ぶ記念碑のようなものに“講”なる
          字が目立つ。何だかわからないが、私の住む地区の名前も見当たる。
            家で意味を調べてみると、

           【講】1、仏教の信者が集まり仏の徳を賛美する法会(ほうえ)。また、経典の講義や
                     論議をする会。講会(こうえ)。
                   2、神社、仏閣への参詣や奉加、寄進などをする目的でつくられた信者の団体。
                     伊勢講、稲荷講、大師講などの類。講中。講社。
                   3、(2から転じて)ある娯楽をしたり親睦のために同好者が集まった寄り合い。
                     同好会。クラブ。
                                               < 1988.国語大辞典(新装版)小学館 1988.>

             だそうである。この御岳山は鎌倉時代あたりから武将の山岳信仰の一大中心だったの
           だそうだ。(頂上の神社の宝物殿にも新田某の鎧などがあった。)

             ・・・そんな碑の中を通り抜け、頂上に向かう。とそこにそば会席の店をやっている宿が
           ある。茅葺きの綺麗な建物である。ちょうどおなかも空いたところで、登った後に
           寄ってみようかと相談。

             ほどなく頂上武蔵御嶽神社に着く。まあそれ風の社があり、お参りをする。遠くの
           景色はあいにく霞んでいて見えなかった。高尾の辺りがぼんやり見えた。おまもりに
           火打ち石を売っていた。火点けられるのだろうか?

             少し降りて、分岐した先の“長尾平展望台”なるところをめざす。やっと山道らしい
           感じで、土を踏みしめ、木々の中を歩く。途中にテーブル・イスなどが用意されており、
           大声でお弁当する年配の女性方(笑)や元気な女子大生らしき一団。
             歩きついた先はいきなりひらけた空間。ここにもお弁当な方々はいたが、とにかく
           広い広い空が目の前に。あおい空、あおい空、しろい雲。とても気持ちがいい。
           お弁当な感じでちょっと残念だったが、そのとき食べたチョコレートはとても
           おいしく感じた。この瞬間ここにいられてとても幸せだった。ありがとう。

             ずーとそこにいたい気もしたが、ゆっくりとその場を去る。そしてまた木々を眺め
           ながらゆっくり歩いて道を戻る。本当に気持ちがいい。

             ● そば  〜「能保利」にて

             さてそばである。目当ての店に着く前に、電動臼でそばを挽きつつ、そば打ちデモ
           をしている店があった。その効果か、店は大層な繁盛ぶり。かなり魅かれたが、それに
           つられるというのもなあ・・・と長いものには巻かれない初志貫徹で登るときに決めた
           店、「宿坊民宿  能保利」(0428-78-8443)に向かう。これは大大大正解であった。

             ・・・申し上げるまでもなく、ここのそばはすばらしかった。店の様子も非常によく、
           出るのがいやになるくらい。そばはとにかく舌触りと喉越しが強烈によい。そして
           使っている水がすばらしい。松江の「一色庵」以来の感激である。これはすごい。
           ついてきた野菜の料理も滋味あふれるものばかりで、ああ生きててよかったと展望台の
           あおぞらに引き続き感謝。発起人の氏にも感謝。ああおいしかった。これだから
           そば好きはやめられませんね。

             帰りに落ち葉を貼ってある手作りの箸袋をもらってかえった。

             ● 御岳山 下山

              店でのんびりした後、ケーブルカーめざし戻る。そこで今日No.1と思わしき
         “残っていた”綺麗な紅葉が。しばし見とれてしまった。(以前誰かに「別に紅葉
           なんて見ても見なくても・・・」とか無礼なことを言ったが、全言撤回する。私が
           バカでした。)
             すばらしい。何枚も写真撮った。赤や黄色のバックグラウンドカラーのあおぞら
           もさらに綺麗に見えた。がんばって生きましょう、もっともっとこういうものを
           見なくちゃ。

             ケーブルカーを待つ。土産物になぜか竹炭を買う。あいかわらず急勾配のケーブルカー
           にて妙なGを味わいつつ、滝本まで下る。日もかげりはじめ、寒くなってきた・・・
           からというのもあるが、駅で売っていた酒まんじゅうの誘惑に勝てず、共に食べながら
           バスに向かう。JR御岳駅までだいぶあるが、元気に徒歩でゆく人もいる。
             下山客をある程度吸い込み、バスは出発。チケット売りの女性は仕事あがりらしく、
           「お疲れ様でした」と去っていった。
             やはり下りの方が速いのであろうか?まもなくバスは御嶽駅へ着いた。

             ● 御岳渓谷

             次なる目的地、隣駅「沢井」までは歩いて向かった。最初青梅街道を進んでいたが、
           よく考えるととなりに多摩川が流れているのである。渓谷に降り立ち、川を眺める。
           とても綺麗な青色である。日本名水百選にもなっているこの渓流の水は本当に綺麗
           である。海の青とはまた違った綺麗な色。川原の木々の(終わりかけた)紅葉の中、
           そんな水を横目に「沢井」駅へ歩いていった。野菜の無人販売などもあり、こんな
           ところもこの辺りのひとにとっては生活圏内なのだな、などと思いながら歩く。
           暗くなってきて肌寒いがとても気分はよかった。
             うーん、水が青い。綺麗。

             ● 小澤酒造株式会社  ( 蔵守 熟成純米 、東京田舎酒 純米)

             渓谷を歩いていくといきなりひらけた場所に出て、人がたくさんいる。ちょっと
           イメージと違い、面食らってしまった。そこは「沢乃井園」なる庭園で、小澤酒造
           は探すまでもなく沢井駅の前に“広がって”いた。売店や、試飲するところ、
           「ままごと屋」なる豆腐・日本料理店(豆腐を購入していった。うまかったことなど
           言うまでもない。)など観光向けに整ったシステムができていた。
             日本酒の蔵であるし、山奥でもあるのでそんなに俗っぽさはないが、こんな
           ところを私は初めてみた。酒蔵の見学も30分ごとに行っており、日本酒のPRにある程度
           過不足ないシステムができている。最終の 16:00 をまわっていて見学には加われず
           残念ではあったが、今まで通りこの場に来ることが目的なのでまあよしである。しかも
           仕込み水をペットボトルに詰め込むことまでできた。他に何を望もう?
             青梅街道をくぐる地下通路を通り、も見に行く。蔵は閉まってすっかり日が暮れ、
           暗かったので写真もまともには撮れてなかったかもしれないが、今日は全般に非常に
           気持ちよかったので、もう充分満足である。

             売店で少々迷ったが、超看板銘柄「沢乃井」ではなく、「熟成純米  蔵守」(純米)を
           手に取った。「沢乃井」はまあどこかで飲めるし手にも入るであろうからである。と、その時
           本日同行の氏が「これおすすめだってよ」の一言。青梅産の米(しかも酒造好適米ではない!)
           で造った「東京田舎酒」(純米)なる酒、気分も手伝い、酒蔵巡りで初めて自分のために
           2銘柄買うこととなった。

             そばに使われていたのとほぼ同じであろうこの水を手に入れ、その水で造られた豆腐と
           お酒を入手。道中ずっと素敵で、しかも今日は同行者(しかも素敵な)までいてくださる。
           幸せと言わずに何と言えば?今日はそんなセリフばかりだが、まあしょうがない。

              すっかり暗くなり寒くはあったが、心は穏やか、隣々駅の温泉にでも行きたい気分だったが
            明日は仕事だ。沢井駅より青梅線上りに乗り込んだ。

              ● 中華街

              ・・・とはいっても横浜ではない。先日OPENした立川駅ビル“GRANDUO”内の「立川中華街」
            である。今日の楽しみはまだまだ続いたのである。GRANDUO自体も店舗の間が非常にゆったり
            した感じでよいし、中華街は店がただたくさんあるだけでなく、雑貨屋でお茶も売ってるし、
            食材店もあるし、、、存在は知っていたものの、勤め先の近くにこんなに充実スペースが
            あるとは・・・今度からもっと来よう、と思うのであった。

              さて、夕食は意図的にスタンダードなものを並べ、行きつく間もなく一気に食べた。
            デザートまで!ああしあわせ。今日は本当に盛りだくさんすぎていいのだろうか?という
            ぐらいであった。そんな唯一のこの瞬間に感謝。同行者に感謝。明日からも元気に生きよう。

              定期が使えるので、横浜線で帰途につく。そういえば Japan Cup 、モンジューは勝ったの
            だろうか?・・・
              朝早かったのもあり眠くはあったが、今日のことを思い出しながら(おそらく)微笑んで
            帰るいつもと少し違う横浜線上り to 長津田、であった。

              
12/5Sun     ● 小山酒造株式会社  (丸真正宗 “江戸の祭酒” 純米)

              今日は東京都23区最後の蔵、小山酒造である。今まででおそらく最も交通の便が
            いい蔵である。行き先は営団南北線の現在の北の終点、赤羽岩淵駅である。北区、
            荒川沿いの下町である。手前の志茂駅にはいとこが住んでいる。後で寄ろう。

              鷺沼より渋谷へ向かう。・・・どうも今までと勝手が違い、蔵に行く感じがしない。
            渋谷を通過し、乗り換える駅も永田町・・・乗って市ヶ谷・後楽園うーむ・・・。
              地下鉄好きの私ではあるが、今まで蔵といえば田んぼの中か山の中か、さもなければ
            古い街並みの中かであった。何とも不思議な感じである。

              ほどなく赤羽岩淵に到着、調べた通り国道122号を荒川に向かって歩く。荒川が見えて
            来るのと同時に電信柱に「丸真正宗 すぐそこ→」の文字。見上げればおお、煙突がある
            ではないか!そして小山酒店なる店がそばにあり、新酒の象徴、まだ緑の酒林が出ている。
            なんと素敵な光景。

              周りも下町っぽいいい雰囲気だが、蔵の建物はそれにも増してすばらしい。、とにかく
            古い様子で、古いもの好きの私にはたまらない。思わず周りをぐるっと(けっこう広かった)
            一周してしまった。うーん、かっこいい。川も近いしいいなあ・・・。

              酒店に入る。新酒が大々的に出ているが、私は火入れの酒を目指す。看板銘柄「丸真正宗」
            の特別純米と、東京都内一部地域限定発売「丸真正宗“江戸の祭酒”」純米で迷ったが、
            削り度合いの少ない後者を選んだ。どっしり濃くてやや甘い味が想像される・・・。

              蔵のパンフレットをいただき、店を後にする。

              ● 荒川

              目と鼻の先、荒川に散歩に向かう。天気はよく、青い空で気持ちがいいが、天気がいいと
            寒いのが冬である。風も少しあり、おそらく寒そうな顔で河川敷に向かう。とても広い広い
            川原である。散歩する老人、親子連れ、野球場で元気な青年達、背中には夕日、そばに京浜
            東北線の橋・・・・・・何やら臭い青春ドラマのような光景が眼前に広がる。私は昨晩あった電話の
            ことについて考える。世の中いろいろな人がいろいろに生きている。いつも楽しいことばかり
            じゃない。今の心境では水の流れなど見ているとどうしても寡黙にそんなことが頭をよぎって
            しまう。ただ、とても楽しいという感じではなかったものの、座ってじっと考えるうち、非常に
            心が落ち着いた。さあ、またがんばって生きよう。

              日が沈みかかっている。叔父の家に向かおう。

              ● 叔父宅

              先ほど二本購入した日本酒の片方を進物し、(とはいっても後に飲むが)よしなしごとを
           話はじめる。となりでは小学生の元気ないとこがゲームをしている。「モンスターファーム」
           ・・・鈴木あみ氏がCMしていたっけ?記憶おぼろげ。
              蔵に行ってきたことなどを言い、話がお酒の話に。そのうち叔父が長年漬けてきた生姜酒
           からはじまり、奥からどんどんいろんなものを焼酎につけた(つまり梅酒タイプの)酒が出て
           きた。「生姜酒」「グミ酒」「アロエ酒」「にんにく酒」・・・ここで特筆すべきは「にんにく酒」
           である。なにやら強烈なものを想像されるかもしれないが、なんとこれは18年ものなのだ。
           まあにんにくではあるのだが、生の強烈な風味はほとんどなく、酒は「これがほんとうに
           にんにくと焼酎だけなのか???!!!」と驚くほどの味になっているのだ。時は偉大である。
           とろりとコクと甘みがあり、飲んだことはないが、泡盛の古酒(クースー)の上級品もこんな
           感じになるのではなかろうか?と思った。とにかくすごいのだ。久しぶりに酒でシビれる思いを
           した。他、「グミ酒」もできがよく、ともに二度と得難い宝物である。

             叔父が引っ越すごとにこれを捨てずにとっておいてくれたからこそ私が今こんな思いができた
           わけで、感謝・感激の念を抱かずにいられない。ほんとうに生きているってすばらしい。
           考えてみれば私が今からこの「にんにく酒」を造りはじめて、この味が得られるときはなんと
           私は44歳なのだ。これはすごいことだ。・・・そう一家に話すと皆笑っていた。「確かにそうだ・・・」
           この談笑の中でも18年もの「にんにく酒」は慎ましくそこにいた。

             小学生のいとこが作りはじめたが、じゃがいもの皮むきで既に飽きてしまい、結局姉(女子大(短大
           だっけ?)生)と母がつくったというカレーライスを食べ、お酒についてなど話すうちにすっかり
           夜も更けた。楽しい話はつきないが、明日も仕事である。帰り際、姉の方に「学校がんばれよ」と
           言い、私は帰路につく。

             駅まで送ってくれた叔父と志茂駅で別れる。昨日〜今日といろいろ考えてしまったが、私は私の
           できることを精一杯していくほかない。がんばろう。少し眠くなってきた・・・

2000(平成12年)

3/11Sat    ● 野崎酒造株式会社(喜正 純米)

              今日のスタートは父の会社。大和市上草柳。点検から帰ってきた車を取りにきた。車乗り
            ついでに電車では廻りづらそうなあきるの市五日市近辺にドライブがてら出掛けようと
            思い立った。

             国道246号線から八王子街道〜16号へとぬける。あいかわらず車の多い道路である。
            甲州街道とクロスし、あきる野市五日市戸倉をめざす。だんだん周りの景色が山また山に
            なってきた良くなってきた…う〜ん、たまには車もいいものだ。
             ぐにゃぐにゃの山道(「〜峠」とか書いてあったが忘れた)も抜け、あきる野市に。
            武蔵五日市の駅を横に見てしばらくいくと看板に野崎酒造の看板銘柄「喜正」の文字が見えた。

             指示通りセブンイレブンの交差点を左折すると、すぐ道左に野崎酒造が見えた。車を
            少し過ぎたドライブインに入れる。と、腹が減っていることに気づき、そばを食べることに…
            あまり期待していなかったが、どっこい、このあたりはそばがとれるようで、それなりの味が
            安く食べられた。すばらしい。そばをお土産に買った。

             そばを盆堀川、秋川が流れている秋川渓谷の一角。ここは“沢戸橋”のバス停そばである。
            沢戸橋は戸倉城、戸倉三山、金剛滝登山口で、大多摩十景なるもののひとつなのだそうだ。

               道を150mほど戻り、野崎酒造へ。あたりに蛇口がたくさんある。いい水が出るのであろう。
            周りは山々、そして堆肥の香りが遠くからする。なんだかここも東京であるというのは非常に
            不思議な感じだ。煙突、酒林、古い家屋、、、お決まりのほっとする風景。そばに蔵を改造した
            「ショールーム」なる販売所があるが、なんとお昼休み。しょうがないので待とうとすると、
            近所の方が通りすぎ、「中にいらっしゃいますよ。」とのこと。門をくぐってきょろきょろ
            していると、女性が声をかけてきてくださり、販売所を開けてくださった。俗っぽい言い方では
            あるが、田舎ならではの人間味のあるやりとりに気持ちが落ち着く。

             いろいろな解説を読む。手作りの蔵のようだ。純米と純米吟醸で悩む。米など、詳細を
            尋ねると実に丁寧に教えてくださった。再び心の中で喜びつつ、悩みに悩み、純米を購入
            した。値段的にはどちらもOKだったが、やはり安いほうでなんぼか?が重要だ。

             お礼を言い、車に戻る。戻る途中、塀の中を見ると、蔵人が道具の手入れなどをしていた。
            その姿を写真にとり、蔵を後にした。

             ● 中村酒造場(千代鶴 純米吟醸)

             お次の目的地、中村酒造場も同じくあきる野市内、牛沼というところである。とは言え、
            あきる野市は様々な市が集まってできたとても広大な市であり、同じ市内とはいえ、牛沼の
            中村酒造場は前の五日市戸倉の野崎酒造場とは異なりもう福生に近くかなり車も多いし、
            家も多い。こんな道を車で走ってもあまり面白くないといえば面白くない。

             考えてみると自分一人で自分の目的のために車を運転するのは生まれて初めてである。
            そんなに車が好きでないのもあるが、都市で止めるところを探すのは非常に面倒であることも
            その理由のひとつだ。しかし今日は郊外の酒蔵なので、そういった心配も皆無である。
             そんな普段車も乗らず、道も知らない私が苦もなく車に乗れるのだから…カーナビゲーションは
            本当に便利である。時代も変われば変わる。私が小さい頃にまさに未来の技術だと思っていた
            ナビゲーション、今や当たり前の技術である。自動運転ももう近いのかもしれない。味気ないと
            言えばあじけないが…云々…閑話休題。

             そんなカーナビゲーションに言われるがまま、何々街道とか…よく覚えていないが、
            たくさんの道を通る。目的地中村酒造場は滝川(滝山だっけ?)街道なる道沿いにまさにあった。
            「資料館・駐車場P」の看板のところに車を入れる。

             蔵の前に止める格好となった。煙突やタンクやら見慣れた様子。「見学には予約が必要です」
            の文字。「資料館・販売所 →」に従い、歩を進める。

             薄暗いそこには酒造用具、古い酒造免許、精米機の変遷など、様々な資料が展示されている。
            とても興味深い。その奥に中年の女性が何やら忙しなく作業をしている販売所がある。
            新酒・古酒、生か否か、そしてそれぞれ3銘柄…実に豊富なラインナップがずらりと並ぶ。
            しばらくじっと棚を見つづけながら品定め…とそこへ新たな客が入ってきた。ご夫婦+お姑さん
            といった組み合わせで、お目当てがあるらしく、なにやら銘柄を指定し、宅配便のラベルに記入
            している。どうも頼んだものは遊山という焼酎のようである。焼酎も手がけているらしい。
            看板銘柄“千代鶴”の中から純米を選ぼうとすると生しかない。「火入れしている中で純米な
            ものは?」「純米だと吟醸になりますね。」「お米は何?」「えーと…(しばらく引き出しの
            中を探す)…これです。」そこには八反錦なる名前が書いてあった。飲んだことのない好適米で
            ある。値段も1500以下をクリア。それを買って蔵をあとにした。

            ● 大多摩酒造株式会社(−)

             あきる野市の2蔵をまわり、一路青梅に向かう。目的地は青梅市青梅の大多摩酒造である。
            住所の感じでは青梅駅のすぐそばのようだ。ナビに従い、道を行く。…と渋滞であった。
             やはり土曜日だけあって青梅奥地へ向かう道は混んでいるのか…と思いきや、さんざん
            イライラした先にあったのは工事中の片側通行であった。これだから3月は困る。なんだって
            そんなに無理やり地面掘るんだろう?全く“税金の無駄”+“渋滞による迷惑”だ。

             やっと青梅街道に入り、青梅駅前の通りにさしかかる。この辺りのはずだが…なかなか
            見つけられない、と思っているうちにどんどん建物がなくなってきた。どうも通り過ぎて
            しまったようだ。先に再び渋滞が見えてきた。すかさずUターンをする。

             反対側車線をゆっくり戻って行くと、何やら古めかしい屋敷・・・とその脇に「大多摩酒造」
            の木の看板が見えた!通りすぎたところの中華料理屋の駐車場に車を入れる。

             引き返して建物をみると、それは大多摩酒造ではなく、東京都指定有形民俗文化財、
            旧稲葉家住宅なるものであった。その脇に大多摩酒造の入り口があったというわけである。
            しかし、何というか気配がない…。となりに酒屋があったので入店し、となりで造っている酒を
            探している旨伝える。店の方といろいろやりとりしたが、どうもどれが看板銘柄なのかもはっきり
            しない。これは直接行って聞く方がいいと判断し、店をあとにする。

             しかし、しかしである。どこから敷地内に入るかわからないのだ。確かに旧稲葉家の裏側に
            煙突もあるし、建物も見えるのだが。そこで、まあせっかくでもあるので旧稲葉家の中の係の
            人にでも聞いてみようと思い、文化財見物とあいなった。中に入ると話好きそうな男性が建物に
            ついて、ガラスについてなど、熱心に説明してくださる。なんでもガラスは非常に貴重なもの
            らしく、もうあまり残っていないものらしい。確かに手作りビードロ調のゆがみ具合が魅力的な
            ガラスであった。
             ふと会話の中で何をしに来たのかという問いがきたので、後ろの大多摩酒造について
            聞いてみると、いろいろ話してくれた最後に、「でも今はもうそこでは造っていない」の一言。
            どおりで活気がないわけだ。後継者不足やコスト問題で現在は委託醸造してもらった原酒の
            水割り・瓶詰めしかしていないようだ。銘柄は“酔悦”というものであるらしいが、ここで醸造
            していないものを買ってもしょうがない。旧稲葉家の係の方はこちらの落胆ぶりを察してるのか
            いないのか、気にせず生酒がどうだこうだなどと話していたが、私は日本酒のまた悲しい一面に
            ぶつかり、うわのそらであった。

             蔵を周りから見まわし、もの思いにふけりながら車に向かった。気を取り直し次へ行こう。

             ● 田村酒造場(嘉泉 純米吟醸)

             あきる野市、青梅市にある蔵は全て周り、東へ向かう。次は福生市の2蔵である。まずはじめに
            福生市福生の田村酒造場をめざす。

             ここには実は因縁があり、以前飲んだここの純米酒がとてもまずく悲しい思いをしたのである。
            (しかも純米と言う表記はおそらく嘘で、アル添だったかもしれない)まあ、店の保存状態が
            悪かったのかもしれないし、その一件だけで見限るのも早とちりであるかもしれないと思いつつ、
            やはり不安な気持ちでナビにしたがいやや渋滞している街道を進む。看板が見え、矢印に従い
            右折…しかし見当たらない…と思っているうちに玉川上水に当たりT字路となってしまった。
            とりあえず左折する……見つからない…また戻る…見つからない…矢印に従っても住宅街しか
            ない…。…あたりをぐるぐると40分も走りまわったであろうか?…よほどこの蔵とは縁が悪い
            らしい…。いい加減いらいらし、あきらめて少し離れたコンビニで場所を尋ねると、なんとそれは
            T字路の玉川上水を越えたところだったのだ。何度も何度も前を通っていたのに……!!T字路を
            右折し、すぐに左折する目立たない道があった。道理で気づかないわけだ…参った!

             何というかやはり少々疲労を感じ、教わった通り行くと、「なんでこれが見つけられないの?」
            と誰かにバカにされそうなとてもとても広大な蔵がそこにはあった。大きい。今までみた蔵の
            中でNo.1かもしれない。何やら入るのに躊躇してしまった。

             おそるおそる事務所らしき場所に行く。これも今まで見た中でもっとも大きい。窓口にて
            酒の購入をしようとすると非常に事務口調で女性に対応される。

               すると奥から初老の男性が出てきて、「どんなのがほしいの?」などいろいろと聞いてきて
            くださり、もう終わりに近い時間であろうのに展示場も開けてくださった。
               綺麗な照明に照らされる展示室の中央に台、そしてここで造られている酒が一同に輪になって
            飾られている、それだけ。なかなかおもしろい部屋であった。何というか妙なライティングなどで
            非常に大仰な感じがしたが、まあ種類やラベル、解説などを見ながら買うものを選ぶことができた。
              ここでも選択肢があまりなく、純米の吟醸を選ぶに至った。「特別限定品」なる文字が見える。
            雰囲気的にもまあいけていそうな感じである。

             事務所にてお金を払い、その場を去る。去りつつ、広い敷地内の写真を何枚か撮る。見つける
            のにだいぶ時間を食ったせいで暗くなりかけている。福生のもうひと蔵へ急ぐ。

            ●石川酒造株式会社(多満自慢 淡麗純米)

             今日の最終目的地、福生のもうひと蔵、“多満自慢”石川酒造である。「福生市熊川1番地」・・・
            電信柱の住所をあてにして混んでいる新奥多摩街道をゆっくり進む。熊川600台・・・・・・見つけら
            れない・・・いつのまにか地名が変わっている。この辺か?と一回右折する。そこに酒屋を見つけ、
            横につける。ちょうどご主人が表に出てきたところで場所を尋ねると、やはり少し位置的には
            過ぎていた。

              教えられた通りに行くと、果たして“多満自慢”の文字が見えてきた。駐車場のようである。
            あまり車は停まっていない。少し離れたところに蔵はあるらしい。ここでかなり古く明治の頃
            から造っているというビール“多摩の恵み”なる文字も見える、というか案内には「カジュアル・
            レストラン 福生のビール小屋」なる表示で、“石川酒造”の文字はない。ちょっと神奈川県の
            熊澤酒造と似た感じを受けた。

              犬の散歩や子供など、民家の中を抜け少し歩くと目的地が見えた。これまた前の田村酒造場
            と比較しても負けぬぐらい大きなところである。また、ここは非常に観光というか販売・見学
            飲食などを総合的に機能的に敷地内に配置している。非常にサービスベースにやっている感じ
            で、小澤酒造などとも少し違う、非常に近代的な感じであった。酒の販売店員などもあから
            さまにバイトの大学生といった風で、今までになかった感じである。しかし全体にがつがつ
            していないせいか、そんなに嫌な雰囲気ではなかった。飲食店もゆったりとしておりなかなか
            いいのではなかろうか。今度機会があればまた来ようと思ったのであった。

              販売店にて(バイト風であまり話をしようとは思わなかった)パンフをもらい、純米酒を
            買った。
              敷地内写真をとりつつゆっくりと帰路に着いた。

              帰り道新奥多摩街道やら府中街道やらなにやら、とにかく行く道行く道混んでいて車の欠点を
            みつつも、あっという間に5蔵もまわったこと、カーナビの楽しさ、知らない道を一人で行く
            楽しさなどを考えるとまあたまには車もよかったかな、などとボーと考えるのであった。

              すっかり暗くなったが、ようやく勝手知ったる道に入ってきた。少しほっとしつつ、さて
            帰ったらどれを最初に飲もうかなどと考えはじめ、今日の蔵巡りは終幕である・・・。


3/18Sat     ●これく亭

              今日はスタートがJR中央線豊田駅である。なんのことはない休日であるのに会社の最寄り
            駅である。今日は再びかの人とともに車で移動である。(というか私が車に乗せてもらって
            いるのであるが)というか実は当初から蔵に行くことを想定していたわけではないのである。

              というわけで、八王子・北八王子付近のカレーレストラン「これく亭」に向かい、食事と
            あいなった。(これまた会社にさらに近いのか?、よくわからないが、、)メニューは
            「ASIAN TASTE」と表されているだけに、タイ風もインド風も楽しめ、非常に美味であった
            ゆっくりと食事をした。

              その後の行動を協議するうちに八王子の3蔵のうち、下恩方のほうにある蔵が車でないと
            行きづらいこともあるのでせっかくだから今から行こうということに話がまとまった。

            ●有限会社中島酒造場(日出山 大吟醸 生酒)

              これく亭を出て、我々を待つのはやはり道路の混雑であった。場所もはっきりしていない
            ので、地図の「下恩方」交差点を目指すが、そこには大量の車が。しかも細い道でバスが
            行く手を遮る。
              もうだいぶ薄暗くなった頃「下恩方」交差点についた。そこにちょうどコンビニがあった
            ので入って“日出山”を探すがない。扱ってない店の人に聞いてもわかるかどうか怪しいの
            で、周りを見回し、何屋さんでもよいので古くからやっていそうな店を探す。道路の反対の
            店舗が目に留まる。行くとそれは米屋であった。「酒は米で造るんだから知ってるであろう」
            などとは全く思わなかったものの、まあそこに入り、中年の女性に尋ねる。

              「この辺に中島酒造場っていうのがあると思うんですけど・・・」
              「はいはい、ありますよ。でもそうねえ、、、この道をちょっと戻って・・・」

              道を教えてもらうとなんのことはない、さっきまで行く手を遮っていた美山町行きバスに
            ついていけばそこに着いていたのであった。

              引き返し、少し迷いもしたが、やがて相も変わらず“それらしい”煙突が道路から見えた。

              「あった、あった」

            車を停め、蔵へ向かう。一週間前の巡りに比べると非常にこじんまりとした蔵でなかなか
            好みである。

              造りのシーズンももう終わりの頃のせいか、あまり人気がない、、、と奥に明かりが見える。
            人の姿が確認できる。そこへ歩いていき、お酒を売ってもらえるかどうかを確認する。

              「お酒売ってもらえますか?」
              「どんなものが欲しいの?大吟醸とか、活性酒とかあるけど」
              「私純米好きなんで、純米がほしいんですけど・・・」
              「あー、今年の純米は最初のタンクもまだオリが降りてないな・・・何せ造りの作業が今日
            終わったところだから。去年からの貯蔵品は普通酒と大吟醸生と活性酒かな・・・」
              「あ、やっぱり終わられたんですか、、、うーん純米はまだないのか。残念・・・。お店には
            出されるんですか?出してる店あったらしりたいんですけど。」
              「純米は頼まれた量だけ造ったからあんまり市販にはまわらないと思うよ。」
               ・・・・・・
               ・・・・・・

              などなどやりとりしたが、結局すすめもあって大吟醸の生酒を買った。このクラスでは
            破格の \1,600/720ml であった。造りはしっかりしていそうだったので、きっとアル添量も
            少ないだろうと判断し、(事実これは非常にうまかった)せっかく氏と来たのもあり、
            予算\100オーバーながら記念に購入することにした。
              機会があればではあるが、近いうちにもう一度訪ねれば純米が手にはいるであろう。

              このあともその方と酒に関する雑談をしているうちに、すっかり暗くなり、寒くもなって
            きた。お仕事終わり間際の親切で丁寧な対応にお礼を言い、氏とともに蔵を後にした。

              帰りも相変わらず道は混んだりしたが、まあ一人ではないゆえそれほど苦でもなく帰路
            をゆくのであった。

              ・・・この後のよしなしごとは省略して、本日の巡り記は終わらせていただこう。


5/13Sat     ●中久本店 2F 喫茶室 蔵

              府中に蔵が??しかも大国魂神社の近く?東京都蔵元一覧を見て思ったのはそうした驚き
            であった。物心つかぬよちよち歩き時代から幾度と無く来ている(とはいえ今まで訪れてきた
            のはもちろんそこに1マイルを1分30秒強で走る動物がいるためだが・・・)東京都府中市に
            私の好きな日本酒の蔵があるというのだ。

              ネットで“野口酒造”検索をすると、「辻の應接間 喫茶室 蔵」なるものが見つかった。
            どうも蔵の2階を改築して喫茶店をやっているようである。
              府中駅から伊勢丹の脇を抜け、欅並木を大国魂神社に向かって歩く。突き当たり大国魂神社の
            T字路、旧甲州街道を右に進む。旅館や菓子屋などを右手に見ながら一分も歩くと旧甲州街道と
            府中街道が交わる十字路となる。その角に中久本店はある。

              (−実はいったん通過し、そば屋「吉見屋」にて昼食をとった。なかなかいい店であった。が、
            その詳細はここでは省略しておこう。−)

              中久本店は野口酒造店の「国府鶴(こうづる)」の販売元となっており、蔵を改造した一階は
            酒屋、そして二階が喫茶室となっている。一階の酒屋にて確認すると国府鶴があった。店の人に
            「こちらで醸造しているものですか?」と尋ねると、「いや、今は他に委託しています」との
            ことである。少々予想はしていたが、残念だ。原酒の割水・調整をやっているところは府中街道
            を少し北上したところらしい。

              とりあえず 2F の 喫茶室  蔵 に上がる。そこには非常にゆったりした空間が広がっていた。
            紹介のページに出ていた通りのソファやライト。古い調度品、“レジスター”でないレジ(何と
            いうのかよくわからない・・・)、府中に関する文献がいくつか、、、、天井が高く、非常に落ち
            着く。チーズケーキが絶品、コーヒーもおいしい。しかも安い。混んでもいなかったし、すっか
            り脱力し、くつろげた。

              日曜休みなのとPM5:30に閉まってしまうのが何とも惜しい。とはいえ、手がかかって
            いる感じなので、あまり長い時間やったりしては商売的に合わないかもしれない。

              非常にいいところなのであまり知られたくないな、、、と思いつつ、その心地よさを綴ってみ
            た。本当にいいところだ。間違いなく再訪するであろう。

              外に出るとぐずついた天気はすっかり完全な雨へと変わっていた。

            ●野口酒造店(−)

              上で尋ねた蔵をめざす。府中街道を北上、国道20号線(“新”甲州街道ということになるか?)
            と府中街道の交差点付近にそれはあった。ただ今工事中のコジマ電気だかなんだかの脇に看板が
            見える。蔵は古い建物などではなく、近代的な建物。家一軒分より少し広いぐらいの敷地
            いっぱいに二階建て?で建っている。造りもやろうとすればできないこともないか?
            むろん素人なのでよくわからないが。

              裏側にまわってみる。なぜか某有名銘柄の樽が置いてある。ボーっとよしなしごとを考え
            ながら、ゆっくりと通過する。

              だんだん強くなる雨の中、その場をゆっくり去った。

5/20Sat     ●西岡酒造株式会社(月丸 特別純米)

              今日は八王子の2蔵を巡る予定。ホームページのあった西岡酒造をまずめざす。
            もうひとつの蔵も住所が同じ町内のようなので容易に見つかるであろう、と適当な
            当たりをつけ、待ち合わせ八王子駅にて待つ。あいにく小雨が降っている。
            
              待ち人来たりて、腹ごしらえ後北口より長房団地行きのバスに乗りこむ。バスは
            甲州街道に入り、西へ向かう。氏と路線バスに乗るのは考えてみれば初めてである。
            雨が結構はっきりしてきた。ホームページの案内通り「本郷横町」バス停にて降りる。
            
              さて、、、と探すまでもなく、街道を挟んで反対側に西岡酒造はあった。看板銘柄
            「月丸」の“○の中の月”マークが見える。どうも蔵は街道沿いにあることが多い。
              とりあえず道路を挟んで写真を撮る。電信柱などが結構邪魔である。撮っている
            うちにどんどん雨足が強くなってくる・・・甲州街道を渡り蔵へ向かう。

              なかなか“それらしい”構えの建物。じーっと眺める、まあ眺めていても何なので、
            「酒蔵ショールーム」なる販売所のようなところに入る。看板銘柄の月丸各種をはじめ、
            様々な酒が並ぶ。4合瓶以下のサイズでもいろいろな酒が売られており、少々高い
            大吟醸クラスも手頃な値段で試すことができ、非常に良心的である。とりあえずいつも
            通り4合で\1,500を切る特別純米を選び、席に座ってしばらくショールーム内を見回す。

              いろいろな写真が飾られている。芸能人の番組に出てくる写真や某バラエティ番組に
            「月丸」の樽が出ている写真、などなど。目を引いたのは相撲の番付表などとともに
            北の海(現・・・何親方だっけ??)の写真が多く見受けられたことで、あとで話を聞いた
            ところによると、現役時代に後援会の一員だったのだそうだ。また、映画「写楽」に
            ちなんだ酒も並んでいる。

              客が2名ほど来たが、その合間をぬってその北の海の話をはじめ、いくつか話を聞いた。
            聞いたのは主に酒や蔵のことであるが、この蔵の看板銘柄であったはずの「社会冠」と
            いう銘柄の酒の話からはじまり、酒の生産量の減少、高付加価値商品へのシフト、蔵の
            築年数(現在の蔵は戦争の空襲で焼けた後に建てたとのこと)、旧態依然とした商売で
            はやっていけない故に、出来るだけ興味を持ってもらおうという意図でのHPや夏場
            遊んでいる蔵を使っての酒蔵コンサート、様々なイベントなどを行っている旨などなど
            ・・・・・・実に落ち着いて素朴に丁寧に話してくださった。地道な中にも状況に対する積極的な
            姿勢がにじみ出ていて、「ここの酒はうまいに違いない。」と確信した。
            
              そうこうしているうちに外ではどんどん雨が強くなっていく・・・何気なく甲州街道の
            反対側に目をやる・・・「あ??!、あれ・・・」そこにはすっかりおなじみな煙突を持った
            建物群が。次の目的地小澤酒造場は住所的に近くにあるとは思っていたが、道路を挟んで
            反対側だとは全く気付かなかった。さっきここ西岡酒造の写真を撮っていたのはあそこの
            すぐ脇だったのである!!しかしどうも開いている様子がない。
            
              「あの向かいの蔵って、造りはやってるんですよね?」
              「ええ、やってますよ。でも今日はお休みかな」
              「あそこのお酒入手したいんですけど、近くに売ってる酒屋さんはないですか?」
              「ああ、それならこの道をまっすぐいったところに・・・」
            
              30分程度お邪魔しただろうか?お礼を言い、案内された酒屋へ向かって甲州街道を
            西へ向かって去った。
            
            ●小澤酒造場
            
              小澤酒造と言うと、青梅市沢井の方も小澤酒造も同じ名前であるが、こちらは雨の
            八王子である。あいにく今日は酒造自体は門が閉じており、反対側から写真を撮ることで
            引き上げることにした。それにしてもかなりの雨、、、写真はどうなんだか・・・
            
              左右を高層マンションなどに囲まれ、何とも奇妙な景色ではある。時代を生き抜いて
            きた、といったところであろうか。山に囲まれた青梅と比べるとその窮屈そうな感じが
            何ともかわいそうな感じもする。同じ住宅の中とは言っても北区の小山酒造ともまた全然
            違った窮屈さだ。まあそれは上の西岡酒造にも言えることではあるが。
            
              ・・・などといろいろ考えつつ、小澤酒造場を横目に教わった酒屋、近江屋へ向かう。
            
            ●近江屋(桑乃都 純米吟醸 生)
            
              なんとも商売がうまそうな(笑)名前の酒屋だが、名前に劣らず、和洋様々なお酒を
            ずらりと並べている。日本酒も思ったよりも意外なものが何の気無しに並んでおり、私を
            感嘆させた。
            
              冷蔵庫の中に“桑乃都”を発見する。
            
              「えーと、そこの小澤酒造さんの酒はこれだけですか?」
              「この奥にある・・・これもそうです。」
            
              それは別銘柄品であった。別に一升瓶のものなどもあったが、結局値段がぴったりだった
            のもあり、桑の都 純米吟醸 生 を購入した。

              しばらく、「へー」とか「ほー」とか言いながら棚を眺めてから店を出た。
              「ただ、ご主人、全部とは言わないけど高い大吟醸とかはせめて冷蔵庫に入れてあげて
            ほしいな」と心の中で思いながら。
            
              さあ、ここまで歩いてきたことだし、西八王子まで行ってそばでも食べて帰るかと氏と
            相談しつつ、さらに強くなる雨の中を去った。

7/2Sun      ●土屋酒造(鳳櫻 純米原酒 “やわくち”)

              二日連続の露の合間の真夏日。昨日に引き続き、今日も湿気とともにうだるような暑さ。
            14 時をまわり風が出てきた。まだまだ暑いが家を出る。15:47。

             鷺沼までの道のりでCDレンズクリーナーといとしの椎名林檎姫が全曲作曲・作詞・編曲・
            プロデュースしたともさかりえのシングルを買い、電車に乗る。時雨れてくるのであろうか、
            暗い雲が遠くに見える。
             溝ノ口で南武線、登戸で小田急に乗り換え・・・久しぶりの小田急である。今日の目的地は
            狛江市にある土屋酒造。登戸から新宿方面に3つ、喜多見駅からが最も近いようだ。

             喜多見駅を降りる。ミスタードーナツとマクドナルドが一緒になっている店舗が正面に。
            駅前は何というか小さいが余裕のある間取りといった趣。お、手打ち蕎麦があるではないか。
            日曜はやっていないようだが。その他Nゲージ専門店、こだわりのありそうな飲食店など、
            なかな興味深い。
             商店街通りを南下する。するとすぐに右に日本名門酒会加盟の酒屋がある。目的の土屋酒造の
            銘柄「鳳櫻 吟醸 桜子」ののぼりも見える。しばらく行って左には再び蕎麦屋が。立派な
            看板が目立つ。5時からやるらしい。後で寄ろう。

             ずっと南下すると世田谷通りにぶつかる。「喜多見駅前」交差点。ここを右折する。地図を
            見ると、セブンイレブンとコスモ石油のそばまで行ってそこの十字路のようなものを左折した
            ところのようだ。
             はたして進んで行くと「二の橋」というバス停が見えてくる。これは渋谷−調布間の京王バス
            のようだ。さらに進むと「一の橋」なるバス停があり、そのそばに確かにセブンイレブンと
            コスモ石油があった。ここを左折する。駅からは実は少々遠回りだが、これが一番わかり
            やすそうなのでこのルートを通った。

             左折すると少し先に凄く背の高い木が固まっているところがすぐ見える。目を凝らすと紙で
            できた案内のようなものに“土屋酒造”の文字が見える。あっさり場所は見つかった。

             写真を撮りながら近づいていく。門はしまっていて活動している様子はない。酒林やその他
            お決まりアイテムもあり、保護樹となっている木々に囲まれいかにも酒蔵である。住宅街の
            まんまんなかではあるが、今まででもそういうところは多かったし、そうでしかるべきでもある。
            こういうものが住宅の中に残っているとホッとする私がいる。もちろん山の中もすばらしいが、
            人々の生活の中にあってこそ日本酒にとっては意味があるのかもしれない。

             すぐそばに「鳳櫻」の看板を掲げる酒屋がある。周りを歩くとその酒屋の隣を含め、土屋と
            いう苗字の表札が4、5件。酒屋もそうなのかもしれない。立派な家もあり、きっとこの辺りの
            名家なのだろう。

             怪しい空模様がとうとうポツリポツリと言い始めた。酒屋に入り、東京−埼玉ー神奈川共通
            銘柄、「やわくち」(「鳳櫻 純米原酒 やわくち」)を買い、傘を差して駅に向かう。傘を
            持たない近所の人々が足早に家路を急いでいる。

             あたりをつけ、先ほどの「二の橋」のところで左折し、進むとまさに蕎麦屋の前に出た。
            まだ4時半だ・・・日本名門酒会加盟の酒屋にでも入って時間を潰そう。雨は強くなったり急に
            止んだり。梅雨の合間の真夏日の午後。

7/8Sat      ●渡邊酒造(吟雪 “江戸造り” 山廃純米吟醸  、ぎんせつ“あ、不思議なお酒” 純米)

             昨日の台風の影響の大雨とはうって変わり、今日はとても暑い。昨日の野球中止の
            ショック(招待入場券が紙屑になった)から立ち直るべく、家を出る。13:55。先週
            同様溝ノ口で南武線に乗り、終点立川へ。東京の蔵巡りのスタートも確か立川から
            だったなあ…。

             立川から多摩モノレールに乗りさらに北上、終点上北台をめざす。何ともこの
            辺りは広大な空き地が多く、広々としている。上北台で遠くの山を撮る。山は霞み
            つつもいい天気である。

             行き方もよくわからないが、市内循環バスなるものが近くに行くと想定されたので、
            乗りこむ。あ、5千円しかない。あわてて運転手に断り、くずしに走る。バスの
            始発点でよかった…。
             途中で子供達が降りるとバスは私一人の貸切状態となった。「青梅街道に出てすぐ
            のバス停は?」「原山かな?」「じゃあそこで降ります。」
             神明2丁目を過ぎて青梅街道に出た…その角にめざす渡邊酒造が!…「あっっ」と
            思ったがもう遅い。青梅街道を少し行ったバス停で降りる。排ガスと熱気、ギラギラ
            と午後の太陽が肌を差す。

             戻りながら裏側から煙突の写真を撮る。青梅街道だけあって車の通りも多い。蔵に
            着くとなかなか立派な蔵である。駐車場もあり、「ショールームP」と書かれているが、
            鎖で閉鎖されている。なんと今日は休みか?!不安がよぎる。案の定ショールーム
            らしきところもシャッターが降りている。酒屋は周囲にあるが、是非ラインナップが
            みたいところだ。事務所らしきところにいくとあかりが点いていて人がいるようだ。

             「すいません、今日は休みですか?」「ええ、休みですけどどんなご用時ですか?」
            「お酒売ってほしいんですけど…」「ああ、構いませんよ。じゃあ、あっちのショー
            ルームで…」

             ショールームの裏側から中に入る。こじんまり、ひんやりとした中に冷蔵庫、きき酒
            用容器など、おなじみの光景。冷蔵庫の中を見るといろいろ揃っていた。目を引いた
            ものに「あ、不思議なお酒」があった。あの一の蔵の酒と同じ名前だ。純米吟醸の山廃
            など気合の入った品も並んでいる。しかもうれしいことにやや安めだ。

             「どのようなものを?」「えーと純米で…」「純米と言うとこれとこれと…」

             続いてそれぞれについて酒のタイプなどいろいろ話してくださった。話の隙間に
            「あ、不思議なお酒」について聞くと、やはり低アル酒で、一の蔵と関係があるようだ。
            数年前に基礎部分の技術を数社で共同開発して、名称のみ共通としてあとは各社の
            土地に適した自由なラベル、微調整をして売っているものなのだそうだ。

             純米吟醸山廃(なんと\1,456!)と低アル酒の小さい瓶を買った。パンフなどを
            もらうときに「日本吟醸酒協会 20周年記念蔵元めぐりスタンプカード」なるものが
            目に入った。「これは・・・?」説明を受けると、今年6月から来年5月までの一年の
            期間に蔵元を巡ると巡った数で景品として吟醸酒がもらえるものらしい。さっそく
            スタンプをもらい、参加蔵を見ると、なんと次に行く予定の豊島屋酒造も参加
            している。なかなかツイている。

             休みだというのに開けてくれたばかりでなく、様々なお酒の説明までしてくださって
            本当にうれしい限りであった。何度も頭を下げ、蔵を後にした。

             灼熱の中、すぐ目の前のバス停にてバスを待つ。

            ●豊島屋酒造(金婚 特別純米)

             神明2丁目より西武バスに乗り、東大和市駅へ向かう。人生二十数年であまりなじみの
            ないところだが、先日とある用事でこの東大和市には来たことがある。このバス(立川行)
            も乗った記憶がある。

             ・・・と回想にふけていると東大和市に着いた。西武線で最終目的地、豊島屋酒造のある
            東村山を目指す。天気はますます良い。駅に降り立つともう16:00だがムッとした熱気が
            身体を襲う。

             地図通りすぐに街道のようなところに出て・・・お、これは府中街道ではないか。府中街道
            は北上するとこんなところを通っているのか・・・街道を北上する。バスがあるのかどうか
            はよくわからないが、大した距離でもない。コンビニでレンズ付きフィルムを補給し、
            再び歩き出す。「久米川四丁目」なるバス停が現れた。まあしかし半分も来ているであろう。
             更に北上、2つめの「久米川辻」バス停があり、目印の交番が現れた。この交差点を右折
            し、美容院の左脇の道を入り、進む・・・とちょっと先に大きな木が見え、その下の看板に
            「金婚醸造元」の文字が見える。あっさり見つかった。

             遠目から写真を撮りながら正面まで来ると、敷地内で掃除をする人がいる。入っていくと
            「なにかご用ですか?」と声がかかる。「あの、お酒買いに来たんですけど」「あ、じゃあ
              そこお入りください。旦那さんもいらっしゃいますから」

             事務所内に入るといかにもそこは事務所で、私に気付かず女性と男性−こちらがご主人なの
            だろう−が忙しなく働いている。「あのー…。」「あら、いらっしゃいませ。何でしょう?」
           「お酒を買いに来たのですが。」「あ、はいはい。ちょっと待ってください。」…

             ラインナップがずらりと並んだが、吟醸になると4合\2,000台に跳ね上がってしまい、特別
            純米を購入した。きっと純米吟醸はうまいに違いない。

             パンフなどもらい、卓上を見るとやはりスタンプカードがあった。「えーとこのスタンプ…」
            「あ、これですか?どうぞどうぞ」「…っていうか、さっき武蔵村山の方でこれはもらったん
            です。突然で申し訳ないんですけど、これに押すスタンプくださるとうれしいんですけど」
            「あら、渡邊さんのところ行ってらしたんですか、…」

             …いろいろ話をするうちに「もちろん今造りやってませんけど、せっかくだから蔵の中
            ご覧になっていきますか?」…という展開になり、ありがたくも見学とあいなった。女性が
            一通りいつもの風景を案内してくださる。醸造タンクのずらりと並ぶ部屋、連続蒸米機の
            脇には昔使っていた手作業で米を蒸す釜があった。麹室はやはり閉ざされていた。瓶詰め
            のラインはさほどの規模でもないので一本である。説明も過不足なく丁寧でやりとりしながら
            10分程度写真を撮り、見てまわった。

             事務所の前に戻り、お礼を言うついでにここが東京最後の訪問蔵であることを伝え、
            私自身の写真を撮ってくれるようお願いし、昨年の夏の御幸ノ浜以来、久々に私が写る。

             突然の訪問にも親切にしてくださったことに何度もお礼を言い、蔵を去った。
            何かとても気分がいい。

            ●手打ちうどん ますや

             久米川辻の交差点にこの看板見をつけて今日何も食べていないことを思い出した。店に
            入ると一杯飲み屋のようなところで、今しがた宴会だか寄り合いだかが終わったらしく、
            座敷に料理が散乱している。「いいですか?」「…別に構わないよ」その歳とった女性は
            鋭い目線で答えた。不思議な空気の店である。メニューを見ていると、声をかけてきた
            「お兄さん冷たいやつ?」「…いや暖かいうどんもらいます。えーと、おろしうどん」

             外の車の音と食器を洗う音しか聞こえない。うどんを手に取るのが見えた。関西などの
            それとは違う俗に言う“田舎うどん”のようだ。まわりを見まわすと“津軽の方言”、
            “なまはげのひとこと”など、あからさまに出身地がわかるものがある。

             なんとも不思議である。豊島屋酒造に来なければこんなところには一生入ることが
            なかったであろう。愛想の悪い店員何人かだが、何かこう落ち着くところのある店である。
            いろいろなことを考えた。

             …トイレに行って戻るとちょうどうどんが出てきたところ。「おにいさん、早く食べないと
            のびるよっ」「はいはい」まるで息子にでも言い放つように言われ、あわてて食べ始める。
            いかにも田舎だが、それほどガチガチに固いわけでもなくそのだしと併せてなかなかの味で
            ある。休む間もなく食べていると、「おにいさん足りるー?」「おにいさん、てんぷらでも
            入れるかい」と声がかかる。苦笑しながら遠慮すると、あっそう、といった感じで作業に
            戻る。何かやんわり楽しい。

             食べ終わり、ゆっくりお茶など飲み、外を見ると木々が結構揺れている。昨日の台風は
            ひどいものであったが、まだその余波が残っているのか。

             立ちあがり、勘定を済ませる。ある程度の味であの量にしてこの値段は半端なく安い。
            外へ出るとやはり風が少し出ていた。が、依然としてムッと暑い。

             確か昨年の夏、神奈川県内酒蔵巡りをしたときは最終日は残暑で夏ももう終わり、といった
            趣であったが、東京都内酒蔵巡り最終日は梅雨ももう終わり、「さあ、これから夏だ」、
            といったところか。
             うどん屋の壁に貼ってあった色紙のようなものが印象深かったので最後に。


          「たった一言が人の心を傷つける たった一言が人の心を暖める」


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7/8Sat  22:12  東 義一



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