【 ν猫ねこ帝国興亡記 】

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●第四話   『 一陣の風 』
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   4
 
 
 時は○○暦150年。
 ここは常春の国『ν猫ねこ♪』……の領地だった所からから少しはなれた場所。
 ねこの民はキャラバンを組んで放浪の旅に出ることになったんだにゃ。
 
 
  君主用の天幕。
 中から嬌声が聞こえてくる。
「ああんっ神風猫さまもっとぉ。もっと激しくぅ♪」
 さて、私は『るぽぽねこ』(えろす担当・巨乳)を何度も突き上げながら、これからどうするべきか思案している所なのだにゃ。
「あんっあんっ」
 うむ、困ったにゃ。
 とそこへしょぼんな顔をした『豆乳ねこ』(健康志向・ハカー)が耳を伏せながらおずおずと進言した。
「……あのう、恐れながら。そんな事している場合じゃないと思いますにゃぁ」
 その一言で、落雷を受けたかのような衝撃を受け、すぐさま”すぽっ”と引き抜いて官服を身にまとう。
「豆乳タンありがとう、目が覚めたにゃ。私はすべき事を誤っていたにゃ」
「神風猫さまぁ。もっとしてえ」
「売女め、じゃまだっ! ねこ国民が私を待っているにゃ」
 なおもすがり付くるぽぽねこを足蹴にしてさっそうと天幕を出る。ふっ、これが漢の生き様よ。
 それを見て、すこしシャキーンな顔になった豆乳タンはしっぽをぴんと立てている。
「神風さま、ねこのために頑張って下さいにゃ」
 うむ、私が頑張らねば、身が引き締まる思いにゃ。
 
 そうだ、こんな時こそ民に私の姿を見せなければ。
 そう思い野営地の広場まで行くと、みんなが熱狂的に迎えてくれた。
 私は人望高き王にゃ。さすがにゃ。
 
『金返せにゃ〜! 税金どろぼーにゃ〜!』
『へっぽこ君主辞めろにゃ〜〜〜!』
『みんなお前のせいにゃ〜〜!』
 
 ツンデレばかりだにゃ。みんな素直じゃないにゃ。
 いたたたっっ! 石を投げるのはツンすぎるにゃ!
 ゴンッ!
 ひとまわり大きい石が頭にヒットしたにゃ。くらくらするにゃ。
 豆乳タンが、またちょっとしょぼんな顔になって、
「神風さま、みんな興奮しているからお下がりくださいにゃ」
 と言って私を引っ張る。
 もう一匹、柱の陰からニヤニヤしながら覗いてるねこがいるにゃ。
「ぱぶろん! こちうっ!!」
 また逃げられたにゃ、ちくしょう、にゃ。
 そのフラストレーションが、私の最後のリミッターを解除した。
 おのれ。
 
 ――刹那。一陣の風が吹く。
 
 そのあまりに微(かす)かな前兆(まえぶれ)に、気付くねこは居なかった。
 
  キンッ
 ガラスが触れあう様な、甲高(かんだか)く、澄んだ音が響く。乾いた音を立て、鞘が転がる。
 私が愛剣『村正』を抜いたのだ。
 顔をやや俯(うつむ)かせ、八相の構え(はっそうのかまえ)を取る私の口から。低く、荘厳な声が響く。
 いや、只の声ではない。
 形容するならば――『祈(いの)り』
 
「……一つの命はねこのため……」
 風はひゅうひゅうと嘆きの声を発し始めた。
「……一つの命は國のため……」
 呟く度(たび)に風は勢いを増し、嘆きは悲鳴に昇華しつつある。
「……一つの命は……」
 官服が、漆黒の後ろ髪が、バタバタと音を立て狂ったように踊る。
 もはや自分の声も聞こえぬほどごうごうと雄叫びを上げ竜巻(たつま)く中心で、尚も詠唱は続く。
 ゆったりと、しかし無慈悲に……。
 刀身に禍々(まがまが)しい古代文字が浮き上がり、碧(あお)い光が這いずり回る。
 地の底から弦を弾いたような羽音が、永(なが)い余韻を残しながら歌う。
 そして、その歌声が最高潮を迎えると同時に――――
 
 ――七度、祈りの声が響く。
「一つの命は私のため! 出(いで)よ! 猫又!!」
 
 ――閃光。
 見る者を麻痺させる眩(まばゆ)い光が刀身を着飾る。皮肉にもその晴れ姿を拝めるねこは居ない。
 ”はっ!!”
 短い掛け声と共に、肺腑から絞り出された咆吼(ほうこう)が――――
 ――――懺悔した。
 
 「裂(れつ) 空(くう) 猫(ねこ) 波(は) 斬(ざん)」
 
 ――激震。
 この世の終わりを思わせる轟音が骨の髄まで激震を走らせ、刀身から迸(ほとばし)る鋼(はがね)の猛獣は、悲運な犠牲者を弄ぶように大地に喰らい付く。
 多くの者は我が身に降りかかる災厄を意識する間もなく消え去った。そう、文字通り。
 ベルベットが美しい波模様を彩る様に、大地がうねる。たおやかな蛇が這う様に、亀裂が舐め尽くす。一拍の後、憤怒の如き炎の鉄槌が打ち上がり、宙に弾き飛ばされた花びらは可憐な舞いを見せる。
 ひらひらと……。
 いや、
 花びらではない。ねこだ。
 
 そして――――
 
 ――――再び静寂が訪れた。
 
 
 ●【逃亡】神風猫の必殺技が炸裂した。領民が1500000人逃げ出した。(2005 12/25 23:15)
 
 うむうむ、困ったにゃ。
 
 
 続く。