【 ν猫ねこ帝国興亡記 】

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●第六話   『 同族の匂い 』
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   6
 
 
 時は○○暦150年。
 ここは『ν猫ねこ♪』の野営地からから遠く離れた軍事大国『脳筋帝国』
 
 日も暮れかかった頃。
 その城下町。
 小汚い路地にある一軒の酒場に一人、旅装束の人物が片足を引きずりながら入って行った。
 
 そう、妾は『啓潤ねこ』じゃ。
 あれから宮殿の自室に保険証を取りに帰ったところ、全て差し押さえられていて。荷物を取りに入ることも叶わず叩き出されたのじゃ。
 復讐を心に誓ったからには、今更、神風猫率いるキャラバンに着いて行くこともできぬ。
 なけなしの手持ちをはたいて旅支度をし、ようやくこの国までたどり着いたという訳じゃ。
 妾が脳筋帝国に来たのには訳がある。
 この国は戦争に次ぐ戦争で広く武将を受け入れているというのが一つ。
 かなりの大国なので、身を入れて働けば大金を稼げるというのが一つ。
 そして、一番の目的は。
 来るべき復讐の時に備え、命知らずの戦闘狂どもと人脈を築く事じゃ。
 
 とはいえ今は持ち金も尽きた。
 わずかに残る手持ちでは酒の一杯がせいぜいじゃろう。
 今宵は空腹を抱えての野宿になるのぅ……。
 明日は朝一で軍属に志願しなければ、それこそドロ水をすする羽目になってしまうわ。
 
 さて、酒も空になったか。雨露をしのげる手頃な場所が見つかればよいのじゃが……。
 と考えていた時、隣の席に男が腰を下ろす。
「フヒヒッ だんな、この国の者じゃないね……どこから来なすった?」
 そう話しかけてきた男は薄汚れたフードを目深く羽織っていて顔はよく見えない。
 しかし、マントからはみ出していている尻尾を見ると『ねこの民』らしい。
 よく見れば猫耳だろうか。フードが不自然に盛り上がっている。
 こんな遠方にねこの民とな……?
「そう言うお前もこの国の者ではないようじゃが……妾に何か用か?」
「だんなは誰かに復讐したいと思っているんだろう? フヒャヒャッ」
 (なんじゃと?)
「……何の事かわからんの。言う事はそれだけか? 妾は忙しいのでな」
 あからさまに怪しい奴じゃ。関わり合いになるのはよそう。
 (しかし、妾が復讐したいという事をなぜ……?)
 そんな疑問が頭を掠めながらも、席を立とうとしたその時。
 小さな声でこうつぶやくのが聞こえた。
 
「……神風……猫……」
 !!
「フヒヒヒッ どうやら図星だったようですにゃ。だんなが復讐したい相手は……『神風猫』……違いますかにゃ?」
「……くっ。貴様何者じゃ!?」
「おっと、これはこれは申し遅れましたにゃ。フヒッ」
 芝居がかった所作で恭(うやうや)しく礼をすると、フードを上げた。
 やはり『ねこの民』だ。
 ただ雰囲気が尋常ではない、眼光からは狂気の匂いすら感じる。
 
「私『唯月ねこ』と申しますにゃ。……ま、似た者同士、仲良くしましょうにゃ……」
 そして『唯月ねこ』は、唖然とする妾をよそに、さも愉快そうに”げしゃしゃしゃしゃっ”と奇声を上げたのじゃった。
 
 
 続くのじゃ。