「拓さーん!」 抱きついてくる、というより、飛びついてくる、と言った方が正しいかもしれない。 「拓さん、久しぶりばい!元気だったと?」 「おう、お前も相変わらず元気そうだな」 「うん!」 大きく頷いて、それを証明するように、更にぎゅっと抱きつく力が込められる。 「あーわかったわかった。わかったから、もう離れろ」 「へへー」 笑いながらするりと離れていく弾道の腕を。 本当は引き寄せて、 お前以上に力強く抱きしめたいのは俺の方だ。 力強く抱きしめる 人ごみの中を歩いていると、小柄な弾道はすぐに埋もれてしまいそうになる。 人の波を器用によけるということができないうえに、少しでもぶつかった相手に向かっていちいち謝っているので、なかなか先へ進めず、下手すると埋もれては逆流しそうになっている。 「大丈夫か?」 「だ、だいじょうぶばいー」 「もっとこっち寄れよ」 「よっとるばいー」 たしかに弾道はさっきから懸命に赤野の隣に寄ってきてはいる。 しかし、そうする端からまた、どん、と人の波が弾道の肩にぶつかって、離れていくのだ。 舌打ちをしてから、ぐい、と弾道の肩を抱き寄せた。 「た、拓さん?」 「さっきからまともに歩けねえだろ」 こっちのが早い、と言えば、弾道も嫌がることもなくそのまま赤野の上着をぎゅっと掴む。 手を繋ぐ、という方法をすっ飛ばして肩を抱いたのは、他の奴が弾道に触れるのがいい加減我慢できなかったからだ、なんて。 そんなことを言えば、驚くだろうか。呆れるだろうか。 それとも、笑ってくれるだろうか。 抱き寄せる 閉めたドアの鍵をかけるのも忘れて、後ろから抱きしめた。 驚く弾道も無視して、ただひたすら無言で、ぎゅっと。 しばらくそうしていると、されるがままだった弾道の指先が伸びて、そっと腕に触れる。 「…拓さん?」 手と声が、少しだけ震えているような気がして。 悪い、と謝りかけて、やめた。 「…時差ボケなんだ。家帰ったら安心した」 誤魔化すようにそう言うと、ほっとしたように弾道の肩の力が抜ける。 そんなあからさまに安心されては、苦笑するしかない。 ゆっくりと、抱きしめていた身体を放した。 それなのに。 「おかえりなさい、拓さん」 振り向いて、こっちを見上げる弾道の顔を見たら、たまらずにもう一度抱きしめてしまった。 安堵の表情だけだったなら、あのままやめてやれたのに。 残念そうな赤い顔を見せるおまえが悪いんだ。 後ろから抱きしめる いまだ寝息を立てている弾道を起こさないように、出来る限りベッドを揺らさないように、片肘をついて寝顔を眺めていた。 幸せな朝だ。 幸せすぎて怖い、とさえ思えるほど。 苦笑しながら、そっと指を伸ばして弾道の頬に触れる。 夢なんかじゃない。 この温もりは現実だ。昨夜だって散々確かめた。 なのに、すぐに不安が胸の内を襲う。できることならもう一度、強く掻き抱いて、自分にとって都合のいい夢じゃないと確かめたい。いくらでも、何度でも、確認したい。俺のものだと。 いっそこのまま、この腕の中に閉じ込めておけたら。 「ん」 小さく声が上がった。 起こしたか、と一瞬慌てたが、そうではないらしい。しばらくもぞもぞと身じろぎした後、やがて心地いい場所を見つけたのか、そこに落ち着くと再び穏やかな寝息をゆっくりと繰り返す。 その寝息がくすぐったい。 しかし、くすぐったいだけじゃない笑いが思わず自分の口から零れた。 まるで自分の考えが伝わり、それを宥めるかのように、擦り寄ってきた弾道に。 そして、ただそれだけで胸の中の不安がみるみると溶けていく、そんな自分の単純さに。 ああ、そうだ。 おまえを閉じ込めるだなんて、できるわけがない。 でも、それでも。 どうしても、そんな気持ちを抑え切れないときがあるだろう。 そんなときは、せめて優しく髪を撫でて、包み込むようにそっと抱きしめればいい。 こんなふうに。 包み込むように抱きしめる 「拓さーん!」 到着ゲートを走り抜けて、拓さんのところまで一直線に駆けていく。 拓さんの顔を見ると、どうしても自然と足が速まって、大抵はその勢いのまま抱きついてしまう。もうずっと昔からの癖のようなものかもしれない。 けれど今は、最近いつもそうしているように途中でブレーキをかけて、拓さんの手前で、ぴたり、と立ち止まった。 今日も、ちゃんと止まれた。 見上げれば、拓さんは変な顔をしている。最近よく見る表情だ。 「ただいま、拓さん」 「…おかえり、ダンドー」 笑ってそう言ってくれたけど、やっぱりどこか困ったような顔をしている。 やがて突然ガリガリと頭をかきだした。 「あー…、ダンドー」 「うん」 「その、こないだのアレだがな」 「アレって?」 「……………」 「冗談ばい。ちゃんと覚えとるよ」 自分の口調が妙に素っ気無くなってしまうのは、どうしてなんだろう。 もう子供じゃないんだからあんまり抱きつくな、と拓さんに言われたのは少し前のことだ。 子供じゃないと言われたことは嬉しかったけど、でも続いた言葉はあまり嬉しくなかった。それでも、そう言われてからはちゃんと言われたとおり、それを守っている。約束を破って拓さんに嫌われたら悲しいし。 「やっぱ、なしな」 しかしいきなりそんな風に言われて、一瞬意味が良くわからなかった。 でも、腕を広げて苦笑いしている拓さんを見た途端、手と足が勝手に動いて、その腕の中に飛び込んでしまったんだ。 久しぶりの、拓さんの感触。 広くて逞しい背中に、ぎゅう、と腕をまわしながら、ぽつりと呟く。 「…拓さん、オレが抱きついてこなくて寂しかったんだ」 自分でもびっくりするくらい拗ねた声が出た。 拓さんが、軽く笑う気配が伝わる。 「寂しかったのはおまえもだろ」 「そんなことなか!」 思わず言い返すと、再びくっくっと笑われて、ゆっくり抱きしめられた。 「でも、おまえ、変な顔してたぞ?」 そう言われて、ふいにさっきの拓さんの変な顔を思い出す。 変な顔って、あんな顔かな。 「拓さんの変な顔がうつったんだよ」 言ったら、また笑われた。 「じゃあ、やっぱり寂しかったんだな」 そう言って、ぎゅっと抱きしめる力をこめて。 負けずに自分も抱きしめたかったけど、何故だか急に目の奥が熱くなって腕に力が入らなかったので、ただひたすら拓さんにしがみついていた。 せめて、次に会ったときは、力いっぱい抱きついてやるんだ。 だいすき、って叫ぶのもいいかな。 そんなことを思っていたら、いつの間にか声に出てたみたいだ。 耳元に、俺もだ、という囁きが落ちたから。 抱きつく
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拓弾小話5連発をお送りしましたv
200.8.2 あいりん
ちょっと変わった形式ですが甘いのはいつも通り・・・むしろお題がお題なだけに甘さ倍増。
最後だけが弾ちゃん視点なのは、お題が「抱きつく」だからです。うおおお弾ちゃん!
なんとなく話は時系列に並んでいるようなそうでもないような感じになりました。
好きに想像してください。
事後っぽい赤野ポエムは少々自重しました。(ホントはもっと恥ずかしい赤野だった)
朝チュン話は妄想すると萌え広がって大変です。
いつかチャレンジしたい。(いつかっていつ)