※注意・・・年齢制限アリですので苦手な方はお戻り下さい。

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No,No,Kiss



「痛っ」

恋人の小さな悲鳴に、片桐はそれまで読んでいた本から顔を上げた。
「英二?」
「……なんでもない」
ふるふると首を振る英二を多少訝しげに思った片桐だが。
英二がオレンジジュースの入ったコップをトレイに戻すのを見た瞬間、ピンときた。

「虫歯か?」

片桐の問いに英二は再び首をふるふると左右に振る。
「虫歯じゃないよ。ただの口内炎」

英二は嘘を吐くのが上手な方ではあったが、それでも恋人の片桐が見抜けないほどではなかった。
「じゃあ、見せてみろ」
そう言って、英二に近付き、手を伸ばす片桐に、珍しく英二の方が後退る。
「片桐さんのスケベ」
「……あのな」
あまりの言い草に片桐は溜息をつき、行き場をなくした手で煙草を咥え直した。
「まあ、いい。早いとこ歯医者行けよ」
「やだ。歯医者キライ」
言外に虫歯だと認め、尚且つ開き直ったようなセリフに、片桐はやれやれと再び溜息をつく。
「歯医者好きなヤツなんて、いないだろ」
「やだ」
「英二」
「行かないったら行かない」
言いながら、じりじりと部屋の隅まで移動してクッションを抱え込む英二の姿は何とも可愛くて、片桐の苦笑を誘ったものだが。

「オレが虫歯だろうと何だろうと、片桐さんには関係ないじゃん」

と、何とも可愛くないセリフがその口から飛び出した途端、片桐はそれまで下げていた眉をピクリと顰めた。

「……たしかに関係ないな」
「…………」
「痛いのは英二で、オレじゃないもんな」
「…………」
その、静かだけれど刺を含む口調から片桐が怒っているということは、例え恋人の英二でなくとも簡単にわかったに違いない。

「歯医者には行かないんだな?」
「一生、行かない」
現実的に、そういうわけにもいかないだろうとわかってはいたのだが、今更引くに引けない英二であった。

「じゃあ、一生おまえとはキスできないな」

先程と少しも変わらぬ静かな口調でとんでもないことを告げられ、英二は目を見開いて驚く。
「な、なんで!?」
「風邪と虫歯はキスすると伝染るって言うだろ」
「…うそっ!知らねーよ、そんなの!」
「嘘だろうと本当だろうと、オレは試してみる気はないからな。このトシで歯医者通いはゴメンだ」
「…………」
「ま、いいよな。関係ないオレとは別にキスなんかしたくもないだろ?」
煙草の煙を吐きながら意地悪く続けられた言葉に、自分の失言を後悔していた英二は、プツッと切れた。
すっくと立ち上がると、それまで抱えていたクッションを片桐に向かって思い切り投げつける。
「英二!」
クッションなので衝撃は少なかったとはいえ、ぶつけられた拍子に煙草を落としてしまった片桐は、慌ててそれを拾い上げると灰皿に押し潰しながら怒鳴った。
「危ないだろ!火事にでもなったら…」
どうするんだ、と続けようとした片桐の口は、次いで投げつけられた何か柔らかいものによって塞がれる。
顔に巻き付いたものを広げてみると、それはさっきまで英二が着ていたセーターだった。
「英二?」
顔を上げると、英二はちょうどセーターの下に着ていたシャツのボタンをすべて外し終えたところで、片桐はあっけに取られる。
何をしてるんだ、と見ればわかることを思わず訊ねてしまった片桐に、英二は無言で脱いだシャツをこれまた思い切り投げつけた。
さすがにセーターよりも軽くて空気抵抗のあるそれは、今までのように片桐にヒットすることはなく、二人の間にひらひらと舞い落ちる。

「………ストリップはいいけど、風邪ひくぞ」
「片桐さんからお金取る気はないよ」
片桐の冗談混じりのセリフを冷たくかわし、英二は最後の一枚のTシャツを勢い良く脱ぎ捨てると。

「キス、しなかったらいいんでしょ」

そう言って、挑戦的な目で片桐を見下ろした。









「……ん…っ、んん……っ」

くぐもった英二の声と湿った音が、明るい部屋の中に響く。
「英二……いいかげんに……っ」
「……やっ、」
四肢をついて片桐の中心に顔を埋めている英二の肩を、片桐が押し退けようとすればするほど、英二は殊更ムキになってそれを咥え直した。
「ん……んぅ………っ」
「…………」
そして咥えたまま赤い顔で睨まれて、仕方なく片桐は諦めるとその力を抜く。

『キスしなきゃいいんでしょ』

先程の言葉通り、英二は片桐にキスをすることも求めることもなく、ただひたすら片桐のそこに慣れない愛撫を繰り返した。

恐らく、意地悪を言った片桐への意趣返しのつもりだろう。
実際、いきなり自分のものを咥えられた片桐は、普段の沈着冷静さはどこかへ行ってしまったように慌てて英二を引き剥がそうとした。
片桐のそんな様子に英二は内心笑みを浮かべたが、表面上はまだまだ怒りは解けない振りをしてみせる。
しかし、最初はささやかな優越感と共に片桐のそれを愛撫していた英二も、次第に溺れるようにその行為に夢中になっていった。

「……んっ、んん…、ん…っ」
未だ経験の浅いそれ自体は拙いものではあったが、それでも目を閉じて顔を紅潮させ懸命に舌を動かす英二の姿に、片桐のそこは自然と熱をもち始める。
大きくなったそれを必死で含みながら英二は苦しそうに眉を寄せ、その口端からは飲み込めない唾液を漏らした。
そして自分も堪え切れなくなったのか、片桐の熱いそれから片方の手を離すと、英二は自分のズボンのファスナーを下げ、その中に手を入れる。

「……ん…、んん………は…ぁっ」

左手で片桐を支え、唇と舌で繰り返される愛撫。
恐らく無意識だろう、右手で自分のものを触り慰めるその姿。
何よりも、すっかり感じ入っている英二の切なく歪められたその表情と甘い吐息が、片桐の目にはこれ以上ないくらい扇情的に映る。

煽られて、堪らなくなった片桐は小さく舌打ちをすると、いっそ自分のものに縋りつくようだった英二を強引に引き剥がし、その身体を軽々と膝の上に乗せた。
そして、愛撫するものを喪い、嫌がる英二の後ろに手を這わせそこに触れると、細い身体が大げさなくらいビクン、と揺れる。
「や…、やぁ――――っ」
いきなり何の前触れもなしに指を1本挿れられ、英二は仰け反った。
その背を空いた手で支えながら片桐は、痛みに震える英二の胸に顔を埋め、桜色の突起をちろりと舐め上げる。
「―――…っ」
声もなくその身をぶるっと大きく震わせ、英二は片桐の顔を引き離そうと両手をその頭に回したが、再びもう片方の突起を軽く噛まれ、意に反して思わず片桐の頭を抱きかかえてしまった。

「…あ……や…っ、はぁ……っ、……あぁ……」
自分の中を片桐の長い指が動き回るその感触に、英二は絶え間なく嬌声を上げる。
既に触れてなくとも英二の中心はすっかり熱く昂ぶっていて。
もう堪え切れない、と英二はついいつもの癖でキスをねだるように、その顔を片桐に近付けた。
しかし視線が触れ合った途端、片桐が思わせぶりに目を細めるのに英二はハッとして、慌てて顔を背ける。

「歯医者に行くなら、キスしてやってもいいぞ」
思った通り意地悪そうに、けれど甘く耳元に囁かれて、英二は痺れたように身体を震わせながらもぶんぶんと大きく首を横に振る。そして片桐をキッと睨み上げると、その肩に思いきり噛み付いてみせた。
「―――っ」
片桐の小さな呻き声を耳にして、英二は満足そうに顔を上げて小さく笑ったが。
「……この、イタズラ小僧……」
「ひぁっ」
お返しと言うように中に埋められていた指を2本に増やされ、英二は再び力なく片桐に縋りついた。
2本の指が少し乱暴にその中を探るたび、けして痛みだけではないその感覚が英二を刺激し、その口からは押さえ切れない喘ぎが次々と紡がれる。

いやいやと首を振りながらも、いつしかその動きに合わせるように、英二は緩く腰を振っていた。


それから何度も、英二は無意識のうちにキスを求め……
しかし、そのたびに正気に戻っては片桐の肩や首筋に歯を立てるので、いい加減に観念した片桐の方からキスを仕掛けたのだが、英二はそれさえも拒むようになってしまった。

「う……っ、…ん………は…っ」
額に汗をうっすらと浮かべ、目に涙を溜めてまで耐えるその強情さに、片桐は呆れ返る。
「………ったく…」
ひとつ溜息を吐いて、片桐は英二の後ろからいささか乱暴に指を引き抜く。その衝撃に甘い悲鳴を上げる英二の頭を後ろから掴んで無理矢理仰向かせると、強引に口付けた。
「ん―――――っ!」
英二が背中に爪を立てるのにも構わず、片桐は舌をその口内に割り込ませると、探るように歯列をなぞる。そして奥の方の、ふと違和感を感じたところを突ついたその途端、英二の身体がびくっと揺れた。
恐らく虫歯に沁みた痛みのせいだろう。
しかし、過ぎた痛みが快感に変わるように、次第に英二の中心は今にも弾けそうなくらい張り詰めて、片桐の舌が虫歯の穴をなぞるたび、びくびくとその身を震わせた。

「んんっ、……はぁっ」
英二は、ようやく解かれた口付けに抗議するように片桐を睨んだが、その拍子に小さな瞳から涙が零れ落ちる。
その涙を舌ですくうように舐め取って、同じように滴を零している英二の中心にも手を伸ばすと、片桐はその先端に軽く刺激を与えてやった。
「ぁああっ」
途端、あっけなく弾けてしまった英二は、その余韻に身体を小さく震わせてから、ぐったりと片桐の胸にもたれかかった。



「……キス、しない……って……言った…くせ、に……」
「…すまん」
乱れた息を整えながら拗ねた素振りをしてみせる英二を、片桐がぎゅっと抱き締めた。
驚いて顔を上げると、温かい手が英二の頬を包み、その指が涙の跡を優しく拭う。

「オレが、悪かったから…」
「………片桐…さん……」
「…だからもう関係ないなんて、言うな」
「…………」

英二が、返事の代わりにそっと両手を片桐の背中に回す。
覆い被さるように片桐がゆっくりと英二をカーペットの上に押し倒す。

そして片桐は目を閉じた英二の頬を愛しげに撫でると、深く、深く、唇を合わせた。









「痛っ」
「片桐さん、虫歯伝染ったの!?」
「………違う」
「うっそー、痛いんでしょ?」
「…痛いのは、おまえにあちこち噛みつかれた傷だ」
「なーんだ」
「…………」


こんな会話が交わされても、それでもふたりは幸せ。


「ねえ片桐さん。オレが風邪引いてもキスしてくれる?」
「…さあな」


例え、この先ふたりして、歯医者や内科に通うことになったとしても……





fin.

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