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続・お正月を写そう♪ |
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神社は賑わっていた。 それもそのはず、本日は一月一日、元旦である。信仰心の希薄な日本人は、この日にまとめて、とばかり神社に殺到して神頼みに耽るのだ。 今日では初詣でというものはほぼイベントのひとつになっていて、神社に赴き、賽銭を投げ、いるかいないかわからない神様に他力本願な願い事を唱えた後、おみくじを引き、立ち並ぶ屋台を冷やかし、焼きそばなんかを食べるのが大抵一通りのコースである。 そのコースをほぼ順序良く進む人々の中、ひと際目立つカップルの姿があった。 正確にはカップルと表現できないかもしれない。何故ならそれは、ひとりの男にふたりの女の子という組み合わせだったからである。 男は背が高く、眼鏡の奥の瞳は切れ長で、何やら不機嫌そうな顔であることを差し引いても十二分に人目を引く美形だった。そしてその彼の腕にぴったりと寄り添っている女の子達は、片や藤の花を髪飾りに揃いの薄紫色した振袖を着こなし、優しげな微笑みを浮かべている色白美人、片や大きな瞳が印象的な、赤い振袖に髪飾りは赤いリボン、そこから長い黒髪を垂らしている小柄な美少女……とくれば、目立つなという方が無理である。まさに両手に花という言葉がそのまま歩いているようなこの組み合わせは、否応無しに周囲の注目を集めていた。 「なんか俺達、見られてるっスか?」 「越前くんが可愛いからだよv」 「そっスか? 先輩が綺麗だからじゃない?」 「やだなリョーマくんてば、そんなホントのコト言ってー」 「先輩こそー」 「……………」 振袖美女二人に挟まれ、傍から見れば幸せ者以外の何者にも見えない真ん中の男は、しかし眉間に皺を寄せ苦渋に満ちた顔をしていた。 「ねえ、手塚はどっちだと思う?」 「……何がだ」 「聞いてなかったんスか? 俺達のどっちが見られてるかって話っス」 「……………」 「ねえ、どっち?」 「……両方だろう」 「あ、やっぱりー?」 手塚の答えに不二とリョーマがきゃぴきゃぴと嬉しそうに笑って、手塚の腕にしがみつく。周りの男達の羨望と嫉妬の眼差しが、いっそう手塚に降り注いだ。 しかし手塚はそんな視線など意に介さず、ただひたすら知り合いにだけは見られませんようにと祈りながら賽銭を投げ、柏手を打つ。新年にそんな願い事をした人間は、恐らく日本全国でも手塚ひとりだけに違いない。 振袖姿の不二とリョーマを気遣いゆっくりと歩調を合わせている手塚だが、内心は一刻も早く帰りたくて仕方なかった。 大体こんな女装姿のふたりと外出するという行為自体、尋常ではないのだ(手塚的に)。それ以前に女装そのものが尋常ではないし、更に言うならば、女装に見えないところがもっと尋常じゃない。 そんな尋常ならざる一見美少女な二人を引き連れて、手塚はさあ初詣では終わったとばかり、さっさと帰途に着こうとする。そこをリョーマが引き止めた。 「部長、あれ買って」 指差したものは屋台のわたあめである。手塚は顔を顰めた。 「さっき家で食事をしたばかりだろう」 「わたあめは食べてないっス」 「……着物が汚れるぞ」 このセリフは効果が有ったらしく、リョーマはしぶしぶ諦めたようだった。しかし諦めたのは食べ物だけらしく、射的がやりたい輪投げがやりたいあれ買ってこれ買って、と次々に手塚を引っ張りまわして物をねだる。 「そんなものを買ってやる金はない」 「部長のケチ!」 「まあまあまあ」 まるで父娘のような(笑)微笑ましいやり取りを、それまで母親のように(笑)見守っていた不二が穏やかに仲裁に入る。 「手塚、せっかく一緒に初詣でに来たんだから記念に何か買ってくれてもいいじゃない」 もちろん僕にもね♪と微笑む不二は、有無を言わさぬ迫力満点で、更にそうだそうだとリョーマにも迫られ、手塚は敢え無く敗北した。 しかし、だからと言って基本的に無駄遣いは嫌いな手塚は、よくわからない屋台のよくわからない安物を買う気は起こらず、せめてもう少しましなものはないのだろうかと辺りを見回す。そして、それを見つけた。 境内を少し戻り、その売り場に赴く。 「…御守り?」 「ああ、これなら買ってやろう」 「え〜、つまんない」 リョーマの文句に手塚が反論しようとした途端、不二が楽しそうに言った。 「ねえ、お揃いで縁結びの御守りにしようよ♪」 ピンクの御守りを手に取って微笑む。すかさず手塚は却下した。 「そんなものはいらん」 縁結びの御守り(しかもピンク)など、恥ずかしくて買えるわけがない。 「うん、まあねえ、今更こんなものがなくても僕達の縁は結ばれまくってるってわかってはいるんだけどねえ。こういうのは気持ちだよ、気持ち。わかるでしょ? 手塚。健気でしょ? 僕達」 にっこり微笑んではいるが、やっぱり有無を言わさぬ迫力で迫る不二にまたもや負けそうになる手塚だったが、何度も押し負けていては情けないとばかり何とか踏ん張ってみる。 「か、金を出すのは俺だ。それが欲しければお前達が勝手に買えばいいだろう」 そう言って、学業なんとかの御守りを手に取ろうとする。 「そんなこと言ってると……」 不二が少し低い声で呟く。手塚は、嫌な予感がした。 「僕達、勝手にこれ買っちゃうからねっ」 声高らかに不二が手にした御守りには、あろうことか『安産祈願』と記してあった。手塚の脳内で昨夜聞いたはずの除夜の鐘がゴーンと鳴り響く。 「〜〜〜そんなものお前達に必要ないだろうがっ!」 印篭のように御守りを掲げる不二に向かって、手塚が怒鳴る。自分をからかっているだけだとわかってはいるものの、性格上素直に反応を返してしまう手塚だった。 「―――……」 そんな手塚の前で、何故か不二が黙り込む。そして突然その瞳から涙をぽろりと零した。 「ひどい…っ」 「!?」 「ひどいよ、確かに僕達は子供が産めない身体だけど…そんな言い方って……っ」 「〜〜〜!?」 ほろほろと泣き崩れる不二に驚き、そして続けられたそのセリフに手塚は声も出ない。 「そうっスよ、ひどいっス部長! 散々俺達の身体を好きにしたくせに…」 いつの間にかリョーマまで加勢に入り、手塚に迫っている。 「子供が産めなくてもこんなに部長が好きなのに…」 「こんな身体でも愛してるって言ってくれたじゃない? あれは嘘だったの?」 「俺達のこと、もてあそんだの?」 瞳を潤ませて訴える二人のセリフに、周囲の参拝客が一様にぎょっとして手塚を見たり、ひそひそと耳打ちしたりしている。 自分達を中心にざわめき出した御守り売り場で、手塚は青くなった。 「さっきはあんなに愛してくれたのに…」 「そうだよね、あんなに激しかったのに…」 「わかった! わかったからやめろ!!」 尚もとんでもないことを言い募るふたりを、慌てて押し止め手塚が叫ぶ。 「この縁結びの御守りを買えばいいんだろう!」 「ありがとう、手塚v」 「やったねv」 わーい、と手を取り合って喜ぶ不二とリョーマは、ついさっきまでの嘘泣きの余韻もない。周囲が呆気に取られている中、手塚は素早く縁結びの御守りを3つ購入すると、ふたりをほとんど抱きかかえるようにして脱兎の如くその場を去ったのだった。 ちなみに手塚の新年の願いも虚しく、どうやら知り合いに目撃されてしまったようで、手塚国光が振袖美女二人に安産の御守りを買ったとか買わなかったとかいう、あながち間違ってもいない噂が、新学期の青春学園中等部を嵐のように駆け巡ったのである。 |
fin. |
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written by あいりん |