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ラブ・コールは突然に |
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チャーラーラーチャーラララチャーラーラ〜〜〜♪ 微かに聴こえるメロディは、おそらく携帯電話の着信音。 最近は16和音だの何だのとかなり工夫されて音が柔らかくなっているのだが、それでもこうした会議の最中においては耳障りなことこの上ない。手塚は眉を顰めて溜息を吐いた。 校内における生徒の携帯電話の所持・使用は、校則で禁じられている。 だが実際それはなかなか守られたものではなく、教師ももはや授業中に使うのでなければ、とほとんど黙認しているのが現状であった。そして生徒も心得たもので、音を消すなり何なりして賢く使用していたのである。 しかし、会議中だというのにオフにしていない不届き者がいるらしい。 会議に集まっている生徒達は各部の代表であるだけに無駄に騒ぎ立てたりはせず、せいぜいそんな粗忽者は誰かとチラチラ視線を飛ばす程度である。しかし、いつまでも同じメロディが大音量で繰り返されていては、さすがに聴こえない振りも出来ない。 まったく、けしからん…… 周りの人間がキョロキョロと辺りを見まわす中、取り立てて野次馬根性を持ち合わせていない手塚は不機嫌そうに腕を組んでいた。しかし突然、隣に座っていた大石に肩を叩かれ、顰めたままの顔で振り向く。 「あのさ……、もしかして手塚のじゃないか?」 「何を言っている。オレは携帯電話など持ってないぞ」 手塚は校則を破るようなことはしないのだ。 もちろんそんなことは大石だって重々承知しているのだが、しかし鳴り続くメロディはどうしても手塚の鞄から聴こえてくるような気がするのである。 「手塚、朝練の時、不二達から何か受け取ってただろ?もしかして……」 言いにくそうに大石が口を開いた途端、手塚の顔が青くなった。そして慌てて鞄を探り、不二とリョーマからもらった(というか押し付けられた)包みを取り出せば、確かにそれが発信源のようである。音が一気に近くなり、気のせいかそれはブルブルと震えていた。(バイブ機能と言うんです、部長!) 携帯が入っているだろうその包みを持って半ば呆然としている手塚を見るに見かねて、大石が席を立って進言する。 「すみません、きっと手塚…くんの自宅から急用の連絡なんです。席を外してもかまいませんか?」 大石の台詞に、議会を進行していた生徒会長は俯いたまま「どうぞ」と言い、監督をしていた教師は「ああ、行ってきなさい」と渋い顔で答えた。しかし二人ともその肩は小刻みに震えている。大石は苦笑した。 仕方ない。何故なら、先程から辺りに響き渡っている軽快なメロディは、モーニ●グ娘の最新ヒット曲だったのだから…… もちろんそんな曲名は知らず、ただの煩い曲だとしか認識していない手塚は、議長と教師の態度を当然怒っているものだと思い込み、ひたすら恐縮して謝りながら足早に教室を出て行った。 そして、その扉がピシャリと閉まった途端、教室中がどっと爆笑の渦に包まれる。 それはそうだろう、堅物で有名なエリートテニス部の部長が、モ●娘。のメロディと共に退場していったのだ。 恐らく手塚はもうここへは戻ってこれないだろう…(色んな意味で) 大石はやれやれと溜息を吐いた。今度、せめて着メロは『明日があるさ』に変えてやろう、と思いながら。 しかしきっと間違いなく不二と越前の妨害に遭うだろうな…と考えて、大石は再び大きな溜息を吐くのであった。 笑い声の響く教室から逃げるように立ち去り(部長は廊下は走りません)、とりあえず人気のないトイレに飛び込んだ手塚はようやく包みから携帯を取り出した。携帯初心者の手塚は、どのボタンを押せばこの喧しい音が止まるのか分からなかったのだが、「煩い!」と怒鳴りながらとあるボタンを押せば、ピタリと音が止んだので手塚は自分の選択が正しかったと安堵する。ただのマルチコール機能なのだが、そんなことはもちろん手塚の知る範疇ではないのだ。 しかし、音が止んだ代わりに今度は通話口から声が聞こえてくる。予想していたとはいえ、その声を耳にした途端、やはり手塚は脱力してしまった。 『手塚ったら、出るの遅いよ。何コールしたと思ってるの?』 「……………不二!どういうことだこれは!?」 手塚が携帯に向かって力の限り叫ぶと、しばらく沈黙が返ってきた後、呆れたような不二の声が聞こえてくる。 『…あのね、そんなに大声出さなくても聞こえるよ。最近のは高性能なんだから』 「そんなことはどうでもいい!この携帯電話は何だ一体!」 『何って、プレゼントだよ。ちゃんと今朝そう言ったでしょ?』 「こんなものはいらん!大体金は誰が払うんだ!」 『僕が払うから安心していいよ』 「そんなことができるか!」 『そりゃあ、君が払いたかったら払えばいいけど』 「そうじゃない!携帯電話など必要ないと言ってるんだ!」 ひたすら声を荒げる手塚に対して、不二は少し間を置いて、あのね…と諭すように話し出した。 『携帯っていうのはね、持ってる本人じゃなくて周りが必要とするものなんだよ。つまり君が持っていないと僕やリョーマくんが不便なわけ。君は可愛い恋人達(←笑)に不自由な思いをさせて平気なんだ?そんな冷たい自分勝手な人間なんだ?』 こんな風に言われて手塚が上手く切り返せるわけはないのだ。当然だが不二の計算勝ちである(もちろん負け知らず)。手塚には大人しく携帯電話を受け取る以外、残された道はなかった。 『わかってくれればいいんだよ♪』 嬉しそうな不二の声に手塚は溜息をひとつ漏らしかけて、不意にあることに気づく。 「ちょっと待て……だからと言って、今、電話をかける必要はなかった筈だろう?」 手塚は先程の教室での醜態を思い出し、不二に向かって問い質した。何も学校で学校にいる人間に電話をかける必要はない筈である。自分も相手も同じ校内にいるのだから。 しかし、手塚の怒りを込めた殊更低い声にも不二はまったく怯むことはない。 『やだなあ、急用があるから電話したに決まってるでしょ』 「急用?」 『ちょっと待って』 そう不二がくすくす笑ったかと思うと、間髪入れずに不二よりも幾分高い声が通話口から聞こえてきた。 『あ、部長!?』 「リョーマ?一体どうした…」 『あのね、部長大好きvvv』 「……………」 思わず全ての機能が一時停止してしまった手塚の耳に、おまけと言わんばかりに、ちゅっという音が響く。手塚は顔を赤くして慌てて携帯を遠ざけたが、自分を呼ぶ声が聞こえて何とか正気を取り戻すと再び携帯を耳にあてた。 『もしもし?手塚?ちゃんと聞こえた?』 「………不二……今のは…」 『ね?急用だったでしょ?』 「……………」 『あ、もちろん僕も愛してるからね♪』 そして先程と同じように、ちゅっという音が続けられるのを、手塚は頭の中のどこか遠くで聞いていたような気がする。 手塚国光の携帯ライフは、まだ始まったばかり…… |
fin. |
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written by あいりん |
| 携帯ネタが古い上に部長が生徒会長ではありません…2006.10.29 |