ペンダントの秘密


 あまりにも嬉しそうにリョーマが近付いてきたものだから、手塚は逃げることができずにその場に立ち尽くしていた。彼がこの青学テニス部に入って以来、手塚にはいいことが何もない。突然、部長は俺のものだからと、彼に押し倒されてやらされてしまったことに始まって、気がついたらそれまで友人だと思っていた不二とまで人に言えない関係になってしまった。
『手塚は越前くんはよくて、ボクとだと嫌なの?』
 あの綺麗な顔でそんなことを言ってじっと見つめられたら、手塚でなくてもぐらりと来てしまうだろう。それでなくても彼はお年頃なのだから。 
「部長〜」
 語尾にハートマークがついてリョーマが走ってくる。その後ろには不二が意味深げな笑みを浮かべて立っていた。なんとなく背筋が寒くなる。
「これ、先輩と俺からのプレゼント!」
 いきなりそう言って渡されたのは片手に乗るぐらいの小さな包みだった。綺麗にラッピングなどされているそれは、よくよく見ると高級宝飾店のものらしい。
「ねぇねぇ、開けてみてよ!」
「開けろと言われても…いったいこれはなんだ?」
「だから、プレゼント!」
「それは判っているが…」
「ボクと越前くんからの愛だよ。手塚は受け取れないっていうの?」
 いつの間にか側に来ていた不二がにっこりと魔王の微笑みを浮かべて言ってきた。
「開けるのは練習の後でだ。それよりもサボる様なら…」
  手塚は少し躊躇したもののきっぱり言うと、
「…校庭10周?相変わらずだね。それじゃボクは走ってこようかな〜越前くんも一緒に行こう」
「え!俺、走るのやだ」
 不二はそう言ってリョーマを連れていってしまった。後に残された手塚はなんとなく嫌な気分になる。もしかしたら言うとおりに今、この包みを開けてしまった方がよかったのかも…
『いや、今は練習中だ』
 自分には青学テニス部の部長としての勤めがある。そう自分に言い聞かせてコートに入ると彼は、すっかり包みのことは忘れていた。


 練習の後で帰り支度をしていると、何が嬉しいのか知らないが不二がにこやかに側にやってきた。リョーマは今日は当番らしく少し離れた所でテニスコートの整備をしている。
「手塚、今日はもちろんボクたちと一緒に帰るよね?」
 不二はそう言って、ちらりと傍らにいる大石を見た。すると更にその隣にいた菊丸がこれも何を考えているのか判らない微笑みを浮かべて、大石の腕をとって連れて行ってしまった。
「…別にいいが、何か用か?」
「さっきのプレゼント、まだ見てくれてないんだろう?」
「プレゼント?あぁ、これか…」
 すっかり忘れていたそれを手に取り、手塚は包みを開け始める。
「あ、待って!開けるのは越前くんが来てからにしてほしいな」
 珍しくそんなことを言ってくる不二に手塚はますます不信感を募らせる。いったい彼らは何を考えているのか…
「何、ボクの顔に何かついている?」
「いや、なんでもない…」
 うろんげな手塚の視線に気づいたらしい不二がにっこりと微笑みながら聞いてくるのに、そう答える。どうせ口で勝てる相手ではないので手塚はだんまりを決めた。
 それにしもて不二は酷く機嫌がいいらしい。にこにこ微笑んでいるのはいつものことだが本当に機嫌がいいらしいことが、手塚には何故か判った。やっぱり付き合いが長いからだろうかと考えるいると、コート整備が終わったらしいリョーマがこちらに駆けてくるのが判った。
 本当にあんなに小さな彼のどこにあんなパワーがあるのか。それはいろいろな意味で。ふと溜息をつくと傍らにいた不二がこちらを見て笑った。またその微笑みが手塚には怖い。
『さっさと帰った方がよかったかもしれない…』
 けれどどちらにしても彼らからは逃れられないだろう。
「部長!」
 溜息をついているとリョーマがかわいらしく名前を呼んできた。
「あ、まだそれ開けてくれてないんだ?」
「越前くんが来てからと思って、ボクが止めたんだよ」
 横から不二が言葉を挟むと、リョーマの瞳が意味ありげな表情をした。
「それぐらいじゃ、この間のアレは帳消しにしないよ?」
「ボクはそれほどせこくないよ?」
「ふーん」
 ふたりの間に火花が散るのを見て、手塚は思わず硬直する。本当にさっさと帰らなかったことを後悔した。
『…アレとはなんなんだ…』
 更にそんなことまで思ってしまい背中に冷や汗が流れる。
「部長、どうかしたの?」
 そんな彼にリョーマが話かけてきた。不二も彼に視線を向ける。
「いや、なんでもない…」
「何でもないにしては顔色が悪いね…大丈夫?」
 不二がそう言いながら、少しひんやりとした感触のする掌を額に押し当ててきた。
「熱はなさそうだ、よかった」
 にっこりと微笑む不二の顔は本当に綺麗で、彼の本性を知らなければうっとりと見とれてしまったかもしれない、と手塚は即座に思う。
「部長、それ開けてみてよ…」
「そうだよ、手塚見てよ」
 その場の雰囲気を嫌ってリョーマが言うとさすがに不二もそれに同意した。手塚はすっかり忘れ去っていた、綺麗なラッピングを解き始めた。
 そしてほどなく洒落た小箱包が出てきてそれを開けるとそこには、銀のプレートのついたペンダントがあった。手塚は思わずふたりを交互にみる。
「綺麗だろう?ボクたちふたりで選んだんだ」
 まずにっこり微笑みながら不二が言う。
「本当は金の方がよかったんだけど、部長にはプラチナだって先輩が譲らなかったんだ」
 そして少し頬を膨らませながら、リョーマが言う。
「本当は銀の方がよかったんだけど、それだと手入れが大変だから」
 更に不二にも言われて、手塚はこれを自分がしなくてはいけないらしいことに気づいた。
 確かにそれはセンスのいい品物だったが…
「因みに、3人でお揃いなんだよ」
 もちろん続けて言われた言葉が、考え込んでいる彼にだめ押しをしたことは言うまでもない。
 手塚国光14歳。彼の受難は続く…


fin.

written by もーりん

目次へ