危険な関係


 都大会も終わったある日のこと、手塚は不二とリョーマのふたりに連名の手紙をもらった。そこには都大会のお疲れさま会をするのでぜひ来て欲しいとあり、それは大いに手塚を震え上がらせた。
 何しろ都大会が終わったその日は、リョーマに拉致されて散々奉仕させられた。しかも珍しくそこには不二の姿はなく、本当にふたりっきりの時間だったのだ。でもそれであの不二が黙っているわけがない。もちろんその分の埋め合わせは後日たっぷりさせられた手塚だった。
 そしてそれも終わり、漸く平和な日々がきたかとほっとした所に来たのが、この手紙。場所は不二宅とある。
『…いったい何をさせられるんだろうか…』
 思わず深い溜息が出る。どうしてこんなことになったのだろうと考えても、答えは出てこない。だって手塚はふたりにそんな気持ちを抱いたことなど、一度もなかったのだから。
 トレードマークになってしまった、眉間の皺を更に深くさせながら歩いていると、向こうから同じテニス部3年の菊丸英二がやってくるのが見えた。菊丸は不二ともリョーマとも仲がいい。とくに不二とはクラスも同じだし、何しろ3年間同じ部活で頑張ってきた仲間だ。
「あ〜手塚だ!」
 菊丸は手塚の姿を見つけると、それは嬉しそうに微笑んで飛んできた。まるで抱きつかんばかりの様子に少々腰がひけたが、彼はあのふたりに比べればまだマシだ。というか手塚には切り札があるので、取りあえず安心していられる。
「あのね〜不二から伝言!逃げたら許さないよってさ!」
「菊丸…」
 思わず手塚はその場に座り込んで泣きたくなった。そんなことをこんな所で大声で、言わないで欲しい。思わず辺りに視線を向けると、こちらを見ていた数人が慌てて視線を背けるのが見えた。
「それでねぇ〜俺も行くから!大いに楽しもうね〜」
 更にそんなことを言われ、背中をポンと叩かれた時には、儚くなってしまいたいとさえ思った。けれど全てきっぱりと拒絶できない自分が悪いのだと諦める。
「でも手塚ってば、思ったよりもやるよね?だって不二とおちびとふたり同時に愛しちゃったりすんだよね?けっこうむっつりスケベだったんだね」
 くりくりとよく動く瞳で見つめながらニコニコと言われた言葉に、手塚は今度こそその場で果ててしまいたくなった。さすがの英二もそれは小声で言ったので、周囲のものに聞かれることはなかったが、充分に手塚をノックダウンする威力があった。
「あれ?俺がそのこと知ってるの、知らなかった?」
 きょとんとした表情で言われて、手塚は大きく頷いた。もうどうにでもしてくれ、という気分になってくる。
「やっぱり手塚ってばテニス以外のことは抜けてるんだね〜」
 更にしみじみといわれて声もでない。それはよくあのふたりに言われる言葉だったからだ。
『手塚ってテニスは上手なのに、どうしてセックスはいつまで経っても、下手なんだろうね〜』
『部長って本当にテニス以外は物覚え悪いよね〜』
 などなど…
 時には左右から、ステレオで責められることもあった。
 でもこんな関係、手塚が望んだことではない。
『いったい俺が何をしたというんだ…』
 本当にただテニスが好きで、テニスだけをしていたいだけなのに。
「でもなんか手塚ってかわいい」
 そんなことを心の中で思っていると、すっかり存在を忘れかけていた菊丸が言った。
「菊丸?」
「でも俺の趣味じゃないけどさ」
 にこにこと微笑みながら言われて、思い切り不審な表情を作る。
「お疲れさま会は俺も楽しみ!不二とはしたことあるけど、おちびとも手塚とも初めてだし〜」
「はぁ?」
 そして飛び出した暴言に、今度こそ手塚は固まった。確かに不二と菊丸は仲が良かったが、今の話からいうとふたりは既に…
「菊丸、お前は確か大石と…」 
「あ、大石だ!」
 思わず問いかけようとした言葉は、その弾んだ菊丸の声にかき消された。そして彼は手塚を見つけた時よりも更に嬉しそうな声で叫んで、手塚の後方からやってきたテニス部副部長の所へいってしまった。それを視線でおいかけると、菊丸は大石にごろにゃーんという感じで甘えている。
「…また、何か困らせたのか?」
 手塚の視線に何かを感じたのか、大石が心底心配そうに聞いてきた。
「大石!手塚は不二とおちびのだから、あんまりかまうと後が怖いよ?」
 親友の優しい言葉にほっと息がつけたものの、それはすぐに菊丸の言葉に吹っ飛んでしまった。
「英二だけど…」
「大石は俺だけ構っていればいいの!」
 そういうと菊丸は、大石の腕を引っ張って連れていこうとする。
「…はいはい。それじゃ、またな」
 そんな彼に困った顔をしながらも、大石は嬉しそうに顔を綻ばせ、手塚に手を振るといってしまった。
 そしてそれを唖然として見送っている手塚の耳に彼を呼ぶ、悪魔の声が聞こえてくる。
「部長!」
「手塚〜」
 振り返りたくない、と手塚が一瞬でも思ったのを誰か責められるだろうか。
『…山に行きたい……』
 そしてそう思ってしまったことも…


fin.

written by もーりん
2002.5.25ちょっと改稿

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