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バレンタインの憂鬱 |
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カレンダーを見つめながら手塚は、大きく溜息をついた。できれば溜息などつきたくはないが、2月14日にピンクのハートマークがついているの見ると、どうしても出てしまうのだ。 もうひとつ大きく溜息をついてから、手塚は視線を逸らして窓の外を見つめた。今日は朝から雨で、釣りにいく計画が流れてしまった。既に推薦で高等部への進学もきまつているから、勉強する必要もない。せめてトレーニングでもしようかと思ったが、本日は家に来客があり静かにしている様に言われている。 『また、あの季節がやってくるのか…』 再びカレンダーに視線を戻してしまった手塚は、また大きく溜息をつくとベッドに横たわった。毎年恒例のチョコレートの日が目前に迫っているのを確認して、気分がたそれがれる。この日は朝の通学途中から、見知らぬ他校の女子生徒やら明らかに大学生とか社会人の女性にも呼び止められて、色とりどりの包装紙に包まれた包みを受け取ってくれと言われる。 もちろんその度に丁重に断っている手塚だ。机や下駄箱に置かれるものについては、放置すると宣言しているので昨年は一昨年に比べれば随分と減った。因みに放置されたチョコレートは担任が適当に処分したらしい。数人の教師から高級チョコレートもあったと言われた所を見ると、職員室で食べたのだろう。誰の口にも入らずに捨てられたのでなくてよかったとは思う。 『いっそのこと14日は学校を休むか…』 既に授業はないに等しいから、大石でも誘ってどこかのテニスコートを借りるのもいいかもしれない。そう思った瞬間に、菊丸の顔が浮かんでそれは却下になった。 傍目にもいちゃいちゃなふたりが14日の計画を立てていないわけがない。そしてそこから連想されるものは、ふたりの悪魔の顔。 昨年の4月から手塚を悩まし続ける、ふたり。 不二周助と越前リョーマ。 「そういえば何もいってこないな…」 それがまた不気味だ。きっと何やら考えているに違いな。いや、考えてない方がおかしいとさえ思う。何しろ相手はあのふたり。 「手塚♪」 「部長〜」 ふたりが自分を呼ぶ声まで聞こえてくる。 しかも耳元で… 「部長、寝てるんすか?」 「起きないと襲っちゃうよ〜」 更にまた聞こえてきた声に、手塚は声の方に視線を向けた。 するとそこに、にこにこと笑顔のふたりがいる。 「…………」 手塚は声もでないほど驚いていた。いったいいつから彼らはここにいたのだろう。ほんのついさっきまで人の気配すらしなかったし、だいたいドアが開いた気配すらない。 「何?何をそんなに驚いてるんだよ?」 「部長、俺たちが来たの嬉しくないの?」 口々にそういいながらずっと近寄ってこられて、手塚は思わず後退った。 「いつ入ってきたんだ、お前たち…」 「つい今だよ?手塚のお母さんが勝手にどうぞっていってくれたから、入ってきたんだけど…なんかまずいことでもあったの?」 「…もしかして部長、ひとりでやろうとしてたとか?」 更にそう詰め寄られてもう反論することもできない。 『そんなに体力、俺に残っていると思っているのか…』 思わず心のなかで思う。 「部長、するのはいいけど、おかずは俺か先輩じゃないとダメっすからね」 「そうだよ、他の子のことなんか考えてしたら許さないから」 許さないと言われても、と手塚はまた内心で思った。 「…それより、なんの用なんだ?」 うなだれながらなんとか言うと、ぬっと目の前ピンクの正方形の箱が出された。 「これは?」 「僕たちからの愛だよ」 「そう、愛っす」 「愛…」 「そう、だから受け取ってね。僕たちの手塚」 不二はそう言うとちゅっ、と頬に口づけてくる。 「あ!抜け駆けずるい〜」 更にリョーマがそう叫ぶと、反対側の頬に同じ様に唇を押し当ててきた。 「中、見てよ〜僕たちが一生懸命飾りつけしたんだら」 「…判った」 不二に催促されて中を見た手塚は、そこで白くなった。 そこにはチョコレートでこんな文字が書かれていたから。 『2月14日は一晩中、3人で愛しあおうね♪』 |
fin. |
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written by もーりん |