不二リョでパパゴト 3



 命懸けって、何なんだ?

 キーンコーンカーン、と4限終了の鐘が鳴る。
 リョーマは寝起きの頭をむくりと上げて、大きくひとつ伸びをした。
「リョーマくん、今日はよく寝てたねえ」
「チャイムは目覚ましじゃねーんだぞ、越前」
「英語の荒井、睨んでたぜ〜」
 クラスメイト達が食堂や購買へと向かう途中、口々にリョーマを冷やかしていく。リョーマはそれに適当な返事をしながら、今度は大きな欠伸をした。
 今朝、不二から聞いた話や不二の言葉を反芻しているうちに、すっかり寝入ってしまったらしい。あまりにも突っ込みどころ満載の話だったうえに、朝御飯をしっかり食べてお腹がいっぱいだったこともあっては、寝るなと言う方が無理だろう。
 そして、ぐーすか寝ていたせいか、はたまた育ち盛りのせいなのか、こうして昼になればちゃんとお腹は空いている。リョーマは椅子から立ち上がると、自分も購買へ向かうべく教室を出た……のだが、その途中で担任の教師につかまり、そのまま職員室へ連行されてしまったのだった。

「越前、おまえ午前中の授業、ほとんど寝ていたそうだな」
「うっス」
 担任の手塚の質問にあっさりと頷くリョーマに、職員室にいる他の教師達がくすくすと笑いを漏らす。手塚はひとり渋い顔をしていたが、溜息を吐いた後、小声でリョーマに訊ねた。
「……もしかして、体調でも悪いのか?」
 遠回しに母親のことで労ってくれているのだ、と気付いたリョーマは慌てて首を振る。そういえばこの担任は母親の葬儀でも、色々と自分に気を使ってくれていた。普段叱られてばかりいたので(叱られるようなことをしている自分が悪いのだが)、そのギャップに驚いたものの、少しだけ気が楽になったものだ。
「全然平気っス。元気っス」
「そうか。確かに…よく見れば顔色も、いつもよりいいようだ」
 ホッとした表情を見せた手塚に、リョーマは最近まともに食べていなかった朝御飯を今日はしっかり食べたせいかな、と今朝の食卓のメニューを思い出す。しかし味噌汁の具を思い出している途中で、手塚にポカリと丸めたプリントで頭を叩かれてしまった。
「体調が悪くないのなら、授業中に寝るんじゃない」
「…ういース」
「それと越前、その……住所等の変更はあるか? 新しい保護者の氏名も確認しておきたいんだが……」
「え」
 手塚のセリフに思わずリョーマは言葉に詰まる。
 保護者って…アイツ? って、いやいや、まだ様子を見ることにしただけだし、だいたい、そうだ、アイツだってどこまで本当のこと言ってるのかあやしいもんだし……でも戸籍はちゃんと見せてもらったし、母さんのために泣いてたし、朝御飯も作ってくれたし……もしかして晩御飯も作ってくれるのかな……結構美味しかったから、夜も期待してていいのかも……
 リョーマがどんどん外れた思考に耽っていると、それを打ち切るかの如く職員室の扉がスパーンと音を立てて勢いよく開かれた。
「おチビ! やっぱりここにいた〜」
「菊丸先生、ドアは静かに開けて下さい!」
「あ、すいませ〜ん」
 教頭に注意され、へこへこ謝りながら、菊丸がこちらへ近付いてくる。
「……菊丸先生、もう少し教師としての自覚を持って下さい」
「まあいいじゃん手塚〜」
「学校では先生を付けろと何度言ったら……」
「ハイハイ、わっかりました手塚センセイ!」
 同期だという二人だが、性格の方はまったく正反対のようで、既に教師としての貫禄充分な手塚に比べて、未だに服装も言動も学生並の菊丸は、下手をするとそこらの生徒よりも他の先生に叱られたりしている。そんな菊丸はリョーマの昨年の担任で、リョーマのことをやたらと気に入っていた。
「菊丸先生、その呼び方やめて下さい」
「おチビはおチビだからおチビでいいのだ!」
「喧嘩売ってるんスか……」
 リョーマが低い声で睨むが、菊丸はにゃははと笑うだけである。
 平行線を辿りそうな二人の争いの間に、手塚が溜息を吐きながら割って入った。
「それより菊丸先生、越前を捜していたようだが……」
「あ、そうそう! おチビを捜してたんだよ!」
「俺に何の用っスか」
「違う違う、用があるのは俺じゃなくて〜」
「……?」
 手塚とリョーマが首を傾げていると、先程菊丸が勢いよく開けた職員室の扉を、今度は静かに必要最低限の音だけを立てて開ける音が聞こえた。
「失礼します」
 続けて耳に入って来たその声に、リョーマが驚いて入口を振り返る。
「なっ」
「あ、リョーマくん♪」
 つい声を上げてしまったリョーマを目敏く見つけて、不二が嬉しそうに笑いながら手を振った。
「あの子だよ〜、おチビを捜してたの」
「越前の知り合いか?」
 高等部の生徒か?それにしては私服だし、顔もあまり見掛けないような…と手塚が訝しんでいる間に、リョーマはダッシュで入口に駆け寄り不二を怒鳴りつけた。
「あんた何でこんなとこにいるんだよ!」
「何でって、忘れ物を届けに来たんだよ」
「忘れ物?」
「ハイ、お弁当」
「〜〜〜っ!」
 リョーマが声もなく抗議していると、いつの間にか手塚と菊丸がすぐ側までやって来ていた。気付いた不二がにっこりと笑って訊ねる。
「こんにちは。リョーマくんの担任の先生ですか?」
「はいはーい、元担任の菊丸でーす」
「…現担任の手塚ですが……君は?」
「不二周助と言います。昨日からリョーマくんのパ…」
「わーーー!!!」
 不二のセリフを慌ててリョーマがオーバーアクションで遮った。
「何でもないです! 周助! もう行くよ!!」
 そう叫んで不二の腕を掴むと再びダッシュで廊下を走っていく。
 残された手塚と菊丸は、呆気に取られて顔を見合わせた。
「……何だったのかにゃ?」
「……知らん」
 しかしとりあえず、廊下を走っていったことは後で注意しなければ、と風紀顧問でもある手塚は思ったのだった。




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2003.12.23