不二リョでパパゴト 7



 泥棒は、不二がビニールロープとガムテープでぐるぐる巻きにした。
 警察にも通報したので、間もなくやってくるだろう。

「――ホントは警察に引き渡すだけじゃ、僕の気が済まないんだけどね」
 リョーマくんにこんなものを向けるなんて…と、転がっていたナイフを未だ気絶している男の喉下に突きつけながら不二が言う。
「この手で殺してやりたいくらいなんだけど…」
「周助!?」
「人殺しなんかになったら、リョーマくんと一緒に暮らせなくなるからね」
 そう言って、パチンと刃を閉じると、それも同じようにガムテープでぐるぐると巻いてしまった。
「………」
 同時にリョーマの頭の中も、たった今の不二の言葉がぐるぐると回る。
 一緒に暮らせなくなる…って……
 どういうこと?
 出てったんだろ??
 訊ねようとリョーマが口を開くより先に、不二がリョーマを振り返り、静かに、しかしやや厳しい口調で話し掛ける。
「リョーマくん」
「な…なに」
「刃物を持った相手に無茶な真似しないで? 危ないでしょう?」
「………」
 いきなり唐突に始まった説教に、リョーマは憮然とした。
「いくら君が運動神経良くっても、絶対に怪我しないとは言えないでしょ? 相手は大人なんだから…」
「っ、子供扱いすんなよ! あんただってオレと5つしか変わらないくせに!」
「今は僕の話をしてるんじゃないよ」
「――あんたの! あんたのパソコンが盗られそうだったからっ、だから止めようとしたんだよ!」
「………パソコンを?」
「そうだよ! 大体あんたが忘れていくから…っ」
 言葉の途中でそれは遮られた。
 がしっと不二に両肩を掴まれ、更にその真剣な表情に、リョーマは驚く。
「僕のパソコンのせいで、あんな無茶なことをしたって言うの?」
「そ、それは……」
 ……その通りなんだけど。
 不二の怖いくらいに真剣な瞳が、まるで怒っているようで。恩着せがましい言い方だったか…と後悔した途端、再び抱き締められた。
「リョーマくんのバカ!」
「なっ」
 いきなり馬鹿呼ばわりされてリョーマの眼が吊り上がりかけたが、立て続けに不二が叫ぶ。
「バカバカ! パソコンなんかよりリョーマくんの方が大事に決まってるでしょう! もしもリョーマくんに何かあったら、僕は倫子さんに一生顔向けできないよ!」
 死んだ人間にどうやって顔を合わせるつもりなんだか……
 一応、至極真剣に訴えているらしい不二には聞こえないよう、リョーマは心の中でだけツッコミを入れてみた。
「倫子さんもいなくなったのに、リョーマくんにまでもしものことがあったら…! 僕は、僕はこれからどうやって生きていけばいいんだよ……!」
 ぎゅうぎゅうとリョーマを抱き締めて切々と訴える不二の声は震えていた。
 もしかしてもしかしたら、泣いているのかもしれない。
 リョーマは不二の背中にそっと手を回し、そして先程から気になっていたことを訊ねた。
「あのさ……、あんた、出てったんじゃなかったの?」
「え?」
 きょとん、と顔を上げた不二は涙こそ流していなかったが、やや瞳が潤んでいた。
「だから、この家を出て、自分ちに帰ったんじゃなかったの?」
「たしかにさっきまでマンションの部屋に行ってたけど……ケーキを焼きに行ってただけだよ?」
「―――はあ?」
「この家のレンジはオーブン機能が付いてないでしょ? マンションからオーブンを運ぼうかとも思ったけど、パソコンよりもうんと重いし。それにあっちの方が調理器具も揃ってるから、とりあえず今日はあっちで作って、ケーキだけ持ってきた方が早いかなと思って」
 不二の説明を聞きながら、リョーマは視線を泥棒の男に向けた。正確に言うと、その顔に張り付いている白い物体に。
「やっぱこれ、ケーキだったんだ……」
 しかも不二の手作りだったとは驚きである。
「そうだよ。せっかくリョーマくんに食べてもらおうと張り切って作ったのに……こんな奴に食わせることになるなんて」
 涙目の不二に再び殺気が宿るのを見て、慌ててリョーマが気を散らせる。
「で、でも、なんでケーキなんか作ったんだよ?」
「え? パーティーにはケーキでしょ?」
「パーティー?」
「そう、僕の歓迎パーティー♪」
「……………」
「お寿司は先に作っておいたんだけどね。あ、チキンも。肝心のケーキがここでは作れないってことに気付いたのが夕方でね。それからマンションに行ってケーキ焼いてたらいつの間にかこんな時間に…」
「……………」
「…リョーマくん?」
 明らかに脱力しているらしいリョーマに、不二が恐る恐る声を掛けた。
「あの、遅くなってごめんね。お腹空いた?」
 途端に、ギロリとリョーマに睨まれる。
「……遅くなるんなら、そうやって連絡すればいいのに。何でしてこなかったんだよっ」
「え、だって、リョーマくんをびっくりさせたかったから」
 エヘヘvと何故か照れ笑いを浮かべる不二に……ついにリョーマがキレた。

「こんの馬鹿親父ー!!!」

 ちゃぶ台があったら間違いなく一徹返しをしていただろう迫力で怒鳴り飛ばす。
「ていうか父親失格! 父親だっていうんなら、もっとそれらしくしてろよっ! 大体御飯だって、御飯なんか……いや別に御飯は作っていいけど……でもケーキまで焼かなくていいし……っていうか焼いてもいいけど! 何作ったっていいんだけど! 夜遅くまで連絡もなしに出歩いて心配かけて世話やかすんじゃないっ!!」
 途中やや怪しくなりながらもリョーマは何とか一気に言って、ハアハアと息を荒げる。言われた不二は目を真ん丸にしてしばらく呆然としていたが……やがて、嬉しそうに笑った。
「心配してくれたんだ……ごめんね」
 不二の満面の笑顔に、リョーマの顔が赤くなる。
「わ、笑いながら謝るなっ」
「だって何だか止まらないんだよ、嬉しくてv」
「笑うなっ」
「ごめんねv」
 リョーマに顔を思い切りつねられても、不二は幸せそうだ。
「ふふv それにしても……さっきのリョーマくんのセリフってば、亭主関白な旦那みたいだったねえ」
「――は!?」
「だって家でゴハン作って待ってればいいんだー! なーんて♪」
「んなこと言ってねえ!!」
 思わずガラが悪くなるリョーマの叫びを、不二の耳は完全スルーしている。
「安心して、リョーマくん。言われた通り、これからはずっと家にいるから大丈夫だよ。幸い僕は自由業だしね。あ、だからここでケーキ焼くのならいいでしょ? オーブン運ばなきゃな〜。そうそう、オーブンがあれば料理のレパートリーも広がるんだよね〜何作ろうかな〜〜♪」
「……………」
 うきうきと楽しそうにひとりで今後の食卓の展望を語る不二に、リョーマは脱力し、逆らう事を諦めた。
「……言っとくけど、荷物運びなんてオレは手伝わないからね!」
 だから、せめてもと、可愛くない事を言ってみたのだが。
「やだな、もちろんそんな事しなくていいよ。亭主関白な旦那様は、ただケーキが焼けるのを待っててくれればいいんだからねv」
「旦那じゃねえー!!!」

 端から見ればほとんど痴話喧嘩にしか聞こえないような偽親子漫才は、ようやくやって来たおまわりさんが越前家のチャイムを鳴らすまで延々と続いたのであった。




next






----------

2004.7.31