だから僕は嘘をつく



「不二先輩の誕生日って、いつ?」
「――――――――今日だよ♪」



 それはデートの帰り道。
 ふと。
 それこそ、歩きながらふとリョーマが思いついた質問に、不二はにっこりと笑って答えた。 リョーマは一瞬大きな瞳を更に大きく見開いたが、すぐにその瞳で不機嫌そうに不二を睨み付ける。しかしそれでもやがてフイ、と視線を外すと何でもない風を装って不二の前を歩き出した。

「別に、教えたくないならいいっス」
「教えたじゃない。今日だって」
「………………嘘ばっか」
「酷いなぁ。恋人の言うことを信じてくれないの?」
 拗ねるようなその口調にハン、とリョーマが不信感も顕わに振り向くと、不二は非難の言葉を口に出しながらもにこにこと笑っている。
不二が笑っているのはいつものこと、なのだけれど。
「……なんで、そんな嬉しそうなんすか」
「ん?リョーマくんが僕の誕生日を気にしてくれたのが嬉しくって、ね」
 言葉通り本当に嬉しそうに笑う不二にリョーマは、バカじゃないの…と呆れたように呟いた。しかしその耳が微かに赤く染まるのを見て、不二が「愛だなぁ」と内心こっそり頷いていたことをリョーマは知らない。
「……先輩はオレの誕生日知ってんの?」
「もちろん。12月24日でしょ?」
 恋人が自分の誕生日を記憶していることは嬉しい。確かに嬉しいのだけど、教えてもいないのに知られていることや自分だけ知らないという不公平さが妙に腹立たしく思えるのも確かなのだ。

「…で、いつなんすか?」
 多少開き直ったように再度訊ねてくるリョーマに、不二はわざとらしく眉を寄せて苦笑する。
「だから、今日だってば」
「…なんで、今日なんすか」
「なんでって言われてもねぇ」
 困ったなぁ、と全然困った様子を見せずクスクスと笑う不二に、リョーマはできるだけ顔には出さなかったけれど、内心はかなりムッとしていた。


 いつもこうなのだ。
 悪戯好きで意地悪な性質の恋人は、こんな風に自分をからかうことに至福の喜びを感じているらしい。
 いつだったか、自分の困った顔や怒った顔を見るのが好きなんだと堂々と言われたことがある。 心底嫌そうに顔を顰めた自分を不二は嬉しそうに眺めていて、更にムカついたことをリョーマは思い出した。

 ――悪趣味過ぎ。

 以前、そう言ってやったことがある。しかし。
『やだなぁ。僕の趣味の良さは君が一番良くわかってるはずだけど?』
 嫣然した微笑と共にそんな台詞を返され、何も言えなかった。わからなかったのだ。果たして自分は喜ぶべきかどうするべきなのか。
 わかったのはそう、悪趣味なのは―――、実は自分の方だったということ。


 リョーマは溜息をひとつ吐いて、無理矢理心を落ち着かせる。
 そして少し冷静になると平時の強気を取り戻し、負けずに意地悪心を芽吹かせてニヤリと笑った。
「そんなに言うなら、今日が先輩の誕生日ってコトにしてあげてもいいけど」
「けど?」
「来月だったらよかったっスね」
 リョーマの瞳に悪戯そうな光をちらりと確かめて、不二は微かに首を傾げてみせる。
「だって、オレもう今月こづかいあんまりないし」

 ――だからプレゼントはあげない。

 つん、と澄ました顔で言外にそう言ってのけるリョーマに、不二は一瞬だけ目を細めてから面白そうに微笑んだ。 新しいオモチャを見つけた子供のような無邪気な笑顔である。 しかしそっぽを向いていたリョーマは、それが邪気だらけであったことには不運にも気がつかなかった。
「じゃあ、今日は予定を変更しようか」
 そう言って、不二はいきなりくるっと方向転換して、今来た道を逆に歩き出す。
 不二はリョーマの意趣返しのつもりの台詞にも全く堪えておらず、それどころか妙に嬉しそうな様子だ。その足取りの軽さにリョーマの不満が不審に変わる。
「先輩、どこ行くんすか?」
「僕の家」
「今から?」
「だってお金がないリョーマくんは、身体で払ってくれるんでしょ?」
「!?」
「たっぷりサービスしてよね♪」

 にっこり、と。
 ただでさえ整った顔に更に壮絶なくらい綺麗に笑みを浮かべた不二とは逆にリョーマの顔が青くなった。それを見て不二はふふふ、と楽しそうに笑う。
「大胆だよね、リョーマくんてば。もちろん、そんな君も大好きだけど」
 言ってリョーマを引き寄せると、その柔らかい頬に音を立ててキスをした。
「先輩!」
「誰も見てないよ」
 不二の言う通り、薄暗くなった住宅街の路地には確かに誰もいなかった。安堵しかけたリョーマは、しかし慌てて首を振る。
「そーじゃなくて!誰が、…カラダで払うなんて言ったよ!」
 台詞が台詞なだけに、リョーマはできるだけ小声で叫んだ。しかし恐らく大声を出したところで不二の耳には通じなかっただろうとリョーマはすぐ後に思う。
「僕にはそう聞こえたよ?」

 その特殊な耳を罵るべきか、それとも脳ミソ自体を罵るべきか…。

 そう迷った末にリョーマは、結局この男には何を言っても無駄に違いないという至極賢明な判断を下し、自分を無理矢理納得させた。そして脱力すると大袈裟なくらいに長い長い溜息を吐く。
「………だったら、死ぬほど甘いケーキでも買ってきてやる…」
「んー。でもリョーマくんより甘いケーキなんてないしねぇ」
 甘いものが苦手な不二に、せめて精一杯の嫌味を込めて言ってみた台詞はしかしあっけなく一蹴され、更に不二はにっこりと笑って続ける。
「それに、お金ないんでしょ?」
「………………」
「それともさっきのは嘘だったのかな?」
「………………」
「嘘つきだなぁ、リョーマくんは」
 何故か嬉しそうにそう言うと、不二はむくれるリョーマの腕を掴んで狭い路地裏に引っ張りこんだ。


「ちょ、せんぱ……っ、周助!」
 外では滅多にされないその呼び方に不二は口元を緩ませながら、嫌がるリョーマの身体をコンクリートの塀に押し付けるとそのまま強引に口付ける。 そしてすぐさま口唇を舌で割り、逃げるリョーマの舌を素早く絡めとると、いきなり強く吸い上げた。
「………っ!!」
 いつもの優しいキスではなく、まるであの最中にされるような激しいキス。
 こんなところで何を、という驚きさえも舌と一緒に吸い取られそうになり、リョーマは必死になって抵抗した。しかし振り上げた腕も不二の手によって止められ更にキツく吸い上げられ、快感というより痛いだけのそれにリョーマの顔が歪められる。
「…ん……っ、んぅ……!」
 合わせた口唇の隙間から漏れる苦しげなリョーマの声に、ようやく不二が口付けを解く。 そしてそれまでリョーマを押さえ込んでいた腕をゆっくりとその背にまわすと、まるで先程の乱暴なキスが嘘のように優しく抱きしめた。 その違いに数瞬戸惑いながらもリョーマはなんとかして顔を起こすと、気を取り直してキッと不二を睨み上げる。
 しかしその目元はうっすらと赤く、黒い瞳も微かに潤んでいるので対した効力はない。不二はくす、と笑うとリョーマの目尻に軽く唇を落として、その口端から細く伝う睡液を指で拭ってやった。

「嘘つきな人は、舌を抜かれちゃう……ってね」
「―――――――どっちが嘘つきだよ…っ!」
 一瞬絶句してしまったリョーマだが、吐き捨てるようにそう言うと身体を捩って不二の腕から抜け出した。 自由になった両手で不二の胸倉を掴んで引き寄せ、噛み付くように唇を合わせる。 そしてさっきのお返しだとでもいうように舌を絡ませると、思いきりキツく吸い上げてやった。
「………ん…っ」
 しかし捕らえたはずの不二の舌はどこか余裕を残していて、リョーマが息を継いだ隙にひらりと交わしてしまう。そしてまた、リョーマの舌に捕らえられては再びするりと逃げるのだ。
 からかわれてる、と気づいた頃には既にリョーマの腕は縋るように不二の首に巻き付けられていて。
「……んぁ…は………ぁっ、ふぅ……っ」
 いつしか目的は忘れ、ただ快感のみを追いかけていた。


「おっと」
 先程の痛みだけのそれとは違い、背筋が痺れるようなキスはリョーマの身体を甘く溶かした。かくん、と力の抜けた腰を不二は片腕で抱きとめる。
やや焦点の合っていないリョーマの黒い瞳に、にっこり微笑む不二がぼんやりと映った。

「嘘をつくのもいいね。リョーマくんからこんなキスが貰えるなら」

 そう言って赤くなったリョーマの唇を不二がぺろ、と舐めた。
リョーマは目をぱちぱちと瞬かせると、その頬を微かに赤く染め、更にムッと膨らませて呟く。
「やっぱ、嘘、だったんじゃん…」
「あ」
 珍しく不二がしまった、という顔をして、それから楽しそうに目を細めた。
「リョーマくん?実は明日が僕のホントの誕生日なんだけど…」
「―――誕生日は1年につき1回まで!」
 ぼすん!とリョーマが不二の胸に強く頭を埋めてそう言うと、くすくすと可笑しそうに不二が笑う。
「リョーマくんのケチ」
「……周助のウソツキ」
「嘘つきな僕は、嫌い?」
「………………ダイキライ」
 リョーマが小さく呟きながら、ぎゅ、と不二の服を掴む。 不二はそれにふわりと笑うと、リョーマの形の良い耳に唇を寄せて囁いた。


   嘘つきだね、君も………




fin.






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で。
結局いつなんですか誕生日は!?
と、不二先輩の誕生日がわからないもどかしさを
リョーマさんと共に分かち合おうかと♪(笑)
それにしても甘・・・・・・・不二リョなのに!?
つーかここ路上なんですけどね・・・・・

2001.1.28 あいりん