12月24日。
冬休みに突入したとはいえ、部活は休みではない。それでも、今日のテニス部の練習は午前中だけとあって、比較的楽な方であった。
コート整備を終わらせた一年生達も、まだまだ元気いっぱいである。
「そう言えば、今日ってリョーマくんの誕生日なんだよね」
「ええ! 越前ってばクリスマス生まれかよ!」
「堀尾くん、今日はクリスマスじゃなくてクリスマスイブだよ」
「う、うるせえな、わかってらい」
「クリスマスイブ生まれなんて、なんかカッコイイよねえ。さすがリョーマくん……って、あれ? リョーマくん?」
当の相手に話し掛けたつもりのカチローだったが、その姿が部室内のどこにも見当たらないことに気付いてキョロキョロと辺りを見渡した。すると、言い難そうにカツオが切り出す。
「リョーマくんなら、さっき『お先に』って言って帰ったよ」
「何だよ、越前のやつ。相変わらず協調性のない奴だなあ」
「何か急いでたみたいだったけど」
「へえ、珍しいね。リョーマくんの急いでるところって、見たことないや」
「確かに珍しいな。雪でも降ったりして……お、ちょうどいいじゃんか、 クリスマスだしよ」
「だから堀尾くん、今日はクリスマスじゃなくてイブだってば」
「…っくしゅ」
部室で噂されているせいか、それともこの凍えるような気温のせいか、リョーマがひとつくしゃみをした。
それに気付いたのか、校門前にいた人影がこちらを振り返る。
「海堂先輩」
ついさっきまで一緒に部活をしていた先輩が、そこに立っていた。
「…遅えぞ」
「だったら部室で待ってればいいのに」
「………」
答える代わりに大きく白い息を吐いて、海堂はスタスタと歩き出す。リョーマは小走りにその後を追った。
「これでも急いで来たっスよ」
「………」
「あんまり急いで来たから、手袋忘れちゃったし」
「………」
「今日は寒いっスね」
「………」
わざとらしく白い息を吐いてみせたが、海堂の無反応ぶりにリョーマはやれやれと首を竦める。
そもそも珍しく一緒に帰ろうと誘ったのは、海堂の方である。それならばもう少し愛想良くしてくれたって……と、そこまで考えてリョーマは噴き出しそうになった。思わず、愛想の良い海堂を想像してしまったのだ。
怖い。怖すぎる。でも笑える。
リョーマが笑いを堪えていると、目の前ににゅっと手袋が突き出された。
「使えよ」
「…どうも」
遠慮なく受け取って、両手にはめる。
少し大きいそれは、まだ海堂の体温が残っていて温かかった。
「温かいっス」
「………」
「先輩の匂いがする」
ゴン、と海堂が電柱に衝突した。
「先輩、前見て歩いて下さいよ」
「……てめえが変なこと言うからだろうが」
「変なこと言ったつもりはないっス」
嘘である。
海堂が動揺することは、計算済みのリョーマであった。まあ、電柱にぶつかるほどとは思わなかったけれど。
このひとつ年上の恋人は、無愛想で不器用で強面てで、おまけに無口で照れ屋である。
自分も無口な方だとは思うが、さすがに二人でいるとこちらの方が饒舌になってしまうようだ。しかも、それでこの恋人をからかったりして遊ぶのが存外楽しいコミュニケーションでもあると気付いてからは、リョーマは海堂の前ではやたらと喋るようになってしまった。
「ねえ、先輩」
「………」
「なんで今日は一緒に帰ろうって言ったんスか?」
「………」
「今日、何の日か知ってるんスか?」
「………クリスマス…イブ、だろ」
「へええ?」
ようやく返ってきた応答に、リョーマは面白そうに笑うと、いきなり海堂のコートのポケットにずぼっと手を突っ込んだ。
「うわっ、何しやがる!」
「あれ? ない……こっちかな」
「わっ、おい、コラ!」
首を傾げて今度は反対側のポケットに手を突っ込むリョーマに、海堂は慌てふためいて抵抗する。しかしその甲斐虚しく、あっさりとリョーマは目的の物を見つけ出してしまった。
「…今日はクリスマス・イブ…ってことは、これはクリスマスプレゼントっスか?」
海堂のコートのポケットから取り出した包みを掲げて、リョーマが笑って訊ねる。
ポケットに入れられていたそれは、少々袋の端が折れたり歪んだりしていたが、赤と緑のクリスマスカラーで綺麗にラッピングされていた。一見、立派なクリスマスプレゼントに見える。
だが、しかし。
「見りゃ、わかんだろ……」
そう、しかしよく見れば、リボンを留めたシールには『Happy Birthday』のロゴが入っていた。
リョーマは嬉しくて、けれど笑いたいのを少し我慢して、海堂を見上げる。
「わかったけどさ、誕生日おめでとう、くらい言ってくれたっていいじゃん」
「……渡す時に言おうと思ったんだよ」
「ふーん。じゃ、今どうぞ」
「てめえが勝手に持っていきやがったんだろうが!」
「先輩がさっさとくれないからでしょ」
「何だと!」
「何スか」
他愛もない、犬も食わない何とやらを繰り広げようとしたその途端、二人の目の前を白いものがちらりと横切った。
ひとつ、そしてまたひとつ。
見上げれば、幾つもの白い結晶が舞い降りてくる。
「雪だ」
「雪だな」
「White Christmas っスね」
「……White Birthday だろ」
海堂の言葉に、リョーマが空から視線を降ろすと、海堂は柄でもないことを言ってしまったというように顔を逸らした。
その顔に向かって、訊ねる。
「White Birthday?」
「………and Happy Birthday.」
誘導尋問の成功が嬉しかったのか、それともただ嬉しかったのか。
満足そうにリョーマは笑った。
「プレゼント、ありがと」
「ふん」
「明日のプレゼントも楽しみにしてますね」
「………あ?」
「明日のクリスマス・プレゼント。今日のはバースデイ・プレゼント」
当然だとばかり答えるリョーマに、海堂の眉が吊り上がる。
「てめえは二つも貰う気なのか」
「誕生日とクリスマスは別でしょ。オレだって、明日先輩にプレゼントあげるつもりだけど?」
「………」
考え込む海堂を見て、リョーマはくすくすと笑った。
「ね、先輩。プレゼントは手袋でいいっスか?」
だからこれちょうだい、と手袋に頬を埋めるリョーマがあんまり幸せそうに笑うので。
「……仕方ねえな」
海堂は照れ隠しのために少し怒ったような顔で答えてから、明日のプレゼントを何にするか思案し始めた。
明日もまた、雪の中で、同じ笑顔が見れるように。
fin.
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初・海リョをお届けしましたv
実は誕生日&クリスマス企画に分岐小説をやろうとしたんですが(無謀すぎました)
一番最初に書き出した海堂先輩があんまり可愛いもんだから!ウフ!(・∀・)
まあそんなわけで会話中心なのはそのせいです。
最初の、何リョとでもとれる一年生トリオの会話もそのせいです(笑)
純情な海堂先輩は楽しかったのでまた書きたいでーすv
あと今回出せなかった海堂弟・葉末くんも書きたい。
リョーマと葉末は仲良しこよしなマイ設定(笑)
2002.12.24 あいりん
