12月25日。
海堂の部屋で、リョーマはクリスマスプレゼントの手袋を渡す。今日の昼間に、部活が終わってから選んできたものだ。恐らく海堂の方もそうだろう。真新しい包みを渡されて、リョーマは嬉しそうにがさがさとラッピングを解いた。
ふわり、と良い匂いがする。
包みの中には、バスキューブやバスオイル、その他色んな入浴剤が入っていた。
一体どんな顔してこういうものを買うのかな、と想像してまたも笑いが込み上げてくるリョーマだったが、それよりも嬉しさのせいで自然と頬が緩んでしまう。
いかにも他人には無関心というような顔をして、けれどちゃんと自分が喜ぶものを一生懸命考えてくれる恋人。
「ありがと、先輩。いいっスよ、これ」
「…おう、これもいいぞ」
そう言って新しい手袋を大切そうに机の上に置き、照れ隠しのためなのかパワーグリップなんか突然握り始める海堂を見て、リョーマはくすりと笑うと、またいつものコミュニケーションを試みる。
「ねえ、先輩」
「なんだ」
「先輩って、オレと一緒にお風呂入りたいんスか?」
ガン、と掌からすっぽ抜けたグリップが足の甲に落下して、海堂は声なき声を上げた。
「危ないっスよ」
「……誰のせいだと思ってやがるっ」
「だって、遠回しに誘ってるのかと思ったから」
言いながら、リョーマがプレゼントの入浴剤をひらひらと振ってみせる。
「な…っ」
「兄さん?」
顔を真っ赤にさせた海堂がそれに反論しようとした途端、コンコンとドアがノックされ、そこから海堂の弟・葉末がひょこりと顔を覗かせた。
「あの、母さんがケーキ焼けたからいらっしゃいって……」
海堂とリョーマの顔を交互に見て、葉末は一度言葉を切る。
「……取り込み中でしょうか?」
「……何でもねえっ」
「ちょうどよかった、葉末。今日お風呂一緒に入ろ」
「いいですね、入りましょう」
「おい!!」
誰もが恐れ慄く海堂の恫喝も怖い顔も、しかし身内と恋人にはさっぱり効き目がない。
「でもその前にケーキ食べませんか」
「もちろん食べるよ。今日のは何?」
「林檎と胡桃のケーキです」
「ふうん、美味しそ」
二人は仲良く話しながら、さっさと部屋を出て行ってしまう。
「………」
残された海堂は、ひとり無言で憤慨していた。
リョーマにからかわれるのはいつものことだが、更に葉末とタッグを組まれると凶悪な事この上ない。仲間外れにされた自分の反応をリョーマは明らかに楽しんでいたし、葉末の方も分かってやっているのかどうなのか、妙にリョーマに協力的なのである。
おまけにこの二人には、前述の通り威嚇をしても効果はないし、当然だが年長者として腕力に訴えるわけにもいかないし……結局いつも海堂が我慢を強いられてしまうのだ。
畜生、と呟きながら、海堂は部屋を出た。
「先輩も一緒に入る?」
「うわっ!?」
ドアの影に、出て行った筈のリョーマが隠れていたのだ。
「やっぱ一緒に入りたかったんでしょ?」
「……んなわけねえだろっ」
咄嗟の返事でも、海堂は素直ではない。
と言うよりは、本当の本当にその気がまったくないのだろう。奥手というか純情というか淡白というか。まさか愛情が薄いなんて今更そんなことは思わないけれど、それでも何となく面白くないリョーマは海堂に詰め寄ってみる。
「じゃ、なんで怒ってんの」
ねえ、と上目遣いで見上げると、ようやく海堂が口を開いた。
「……葉末と」
「葉末?」
「……葉末と入んのかよ」
「先輩が一緒に入ってくれるなら、葉末と入るのはやめるけど?」
ふふん、と笑って訊ねるリョーマ。その瞳は明らかにある答えを期待している。
しかし、答える前に海堂の顔がみるみる赤くなっていくのを見て、つい堪え切れずにリョーマは噴き出してしまった。
しまった、と思った時はもう遅い。
「風呂くらい、ひとりで入りやがれ!」
真っ赤な顔でそれだけ言うと、海堂はズカズカと大股でリビングの方へ行ってしまう。
「あーあ」
一緒に入ろうと言わせてから、やっぱ嫌だとか先輩のスケベとか言って散々からかうつもりだったのに、などと悪魔のようなことを実は考えていたりしたリョーマは、残念そうに小さく舌打ちした。
まあでも仕方ない。
ここは言われた通り大人しくひとりでお風呂に入って。
そして貰ったばかりのバスキューブの香りをさせて。
「もう一度、迫ってやる」
不敵にそう呟いてから、でもその前にケーキケーキ、とリョーマは踊るような軽い足取りで海堂の後を追いかけたのだった。
fin.
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この海リョはまだ未遂なんでしょうか?
そんな馬鹿な!当り前のようにお泊りしてんのに!しかも家族公認!
そのわりにはちゅーもしてくれない困った海堂先輩・・・
海堂ファミリー大好きです。特に葉末。敬語ラブ。
兄に内緒で葉末リョしてるかもしれません。でも兄の前でやることに意義があるのかも(何の)
なーんかトライアングルっぽいかもー?(笑)
ちなみにこれは「てぶくろ〜」のすぐ後に書いてたんですが、
微妙に修正してたら一年経ってしまいました(笑)
2003.12.25 あいりん
