晴れてハレルヤ



 今日はとても寒い。
 とてもとても寒くて、風も冷たくて、空もどんより曇っている。
 だけど、今日だけは、そんな天気に誰も文句をつけたりしないのだ。
 むしろある期待を持って空を見上げさえしてしまったりする、そんな冬のある日。

「おチビ〜、横向いて?」
 いつも唐突な言動でお騒がせな菊丸だったが、今日も例外ではなかった。部活の休憩中のリョーマを捕まえて、「いいから横を向くのだー!」とひたすら繰り返す。
「何なんすか…」
 言いながらリョーマは、最早逆らうのも面倒くさかったのか言われた通りに横を向く。するとその途端、菊丸の顔が迫って来たかと思うと、そのまま素早く頬にキスされてしまった。
「へへ、オレん時はほっぺにちゅーしてもらったから、そのお返しだよん♪」
「……………」
 満足げに笑う菊丸を、リョーマはただ黙ってじっと見上げている。怒られるかなと内心ビクビクした菊丸だったが、どうやら睨まれているわけでも呆れられているわけでもないらしい。とりあえずほっとする。でも無反応なのもちょっとサビシイかも〜と苦笑いした途端、続けられたリョーマのセリフに引っくり返ってしまった。

「こんだけっすか」

 え、えええ!?こんだけって、こんだけって!?
 も、もっとすっごいことをしちゃってもいいいいいいのかなー!?
 などとほんの一瞬の間に様々な想像を働かせて激しく興奮した菊丸だったが、対するリョーマは至ってクールだった。
「プレゼント。他には何を奢ってくれるんすか」
「………………がっくし」
「がっくし?」
「何でもないっ!」
 思わず声に出してしまったらしい落胆の呟きを菊丸は慌ててフォローする。
 そうだ、考えようによってはこれはデートのチャンス到来ではないか。引退後もこうしてしょっちゅう部活に顔を出してはリョーマにじゃれついている菊丸であったが、未だ部活以外でリョーマに会ったことはなかったりする。
「よし!おチビの好きなの何でも買ってあげよーっ」
「じゃ、FILA最新モデルの……」
「うわーっ!」
 遮るように叫んで菊丸はがっくりとうなだれた。何でも買うとは言ったけれどそれは勢いというもので、所詮中学生の懐は小さい上に常に赤字の財政難で……要するに何と言うかつまり貧乏だった。
「ダメならファンタでいいっス」
 しかし極端にランクを下げるリョーマに、菊丸は安堵より不安を覚える。
「ちょうど喉渇いてるし」
 更にその、いかにもついでといった言い方に不安は募る一方である。
「おちび……」
「何すか」
 もしかして、からかわれてるんだろうか。やっぱり。
 やっぱり、何とも思われてないんだろうか、自分は。
 先月ほっぺにちゅーしてくれたのだって朝の挨拶と兼用だったし、そもそもおチビはアメリカ帰りだし……
 そんなことを考えて少し悲しくなった菊丸だったが、すぐにぷるぷると首を振る。落ち込むのも早いけど、立ち直るのも早いのだ。
「よおっし!おちびファンタ何本飲む!?」
「1本でいいっス」
 ノリの悪いリョーマに再びがくっと挫けそうになったが、そこは何とかして堪えた。
「な、何味にする!?」
「オレンジ……あ、でもやっぱりグレープ」
「わかったにゃ〜〜〜!」
 リョーマの返事を聞くなり、菊丸はダッシュで走って行ってしまった。そして恐ろしいことに、1分も経過しない内にファンタを手にして戻ってくる。
「…早かったっスね」
「愛の力なのだ」
 息を切らしながらも菊丸は笑って答えて、リョーマにファンタのグレープ味を渡した。
「ありがとうございマス……そっちは?」
「これはオレの分〜」
 菊丸はファンタのオレンジ味の缶をプシュッと開けて一口飲む。
「オレンジも飲みたかったんでしょ?これならどっちも飲めるよん」
 とか言いながら、実はリョーマとの間接キスを狙っていたりする少々姑息な菊丸。それに気づいているのかいないのか、リョーマは自分が貰ったグレープ味をごくごくと飲むとプハッと息をついた。
「じゃ、オレンジも貰うっス」
「どーぞどーぞ」
 しかし差し出したファンタを持つ菊丸の手をリョーマは掴んでぐっと引き寄せると、近付いた菊丸の唇に、ちゅっと自分のそれを触れさせたのだった。
「―――――っ!?」
「オレンジ、ご馳走様」
 舌を出しながらリョーマがにっと笑う。菊丸は驚いて思わず唇に手を当てた。
 い、今のは間接キスじゃなくて……もしかして、もしかして!
 一体今何が起きたのかと菊丸が懸命に把握しようとしている間に、リョーマはファンタを飲みながらスタスタと歩いていってしまう。気づいた菊丸が慌ててリョーマを呼び止めた。
「お、おチビ!」
「何すか」
「な、何って…えーと、あ、そうだ!お誕生日おめでとう!」
 菊丸の唐突な、しかし今更な言葉にリョーマは少し目をぱちくりさせてから、くすっと笑う。
「ありがとう、先輩。プレゼントもね」
 そう言ってファンタを掲げてから、再び歩き出した。
 そうしてコートへ戻って行くリョーマの後ろ姿をぼーっと見送っていた菊丸の視界に、何やらちらちらと小さな白いものが飛び込んで来る。雪が降り始めて来たのだ。
 しかし菊丸の気分は、今まさに快晴だった。晴れに晴れて、あまつさえ鐘までリンゴンと鳴り響いていた。それはこの後、問題の現場を目撃していた魔王をはじめ、リョーマを狙う男達に袋叩きにされたり、雪の中を突っ立っていたため風邪を引いたりしても、鳴り止むことはなかった。




fin.






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リョーマ誕生日編。タイトルを最初に決めて書き始めました。
菊リョソングだと歌ってくれたなぎさんありがとう〜v
でもなんかリョ菊っぽい・・・(冷汗)
しかもちゃんと両想いにするつもりだったのにイマイチ誤魔化してしまいました。
ごめんよ菊ちゃん。
でもリョーマさん、菊ちゃんのことちゃんと好きだから!
ちょっと(かなり)菊リョのリョーマさんはクールなだけで!

2001.12.24 あいりん