motto!



「おチビ!何食べてんの―――――っっ!!!???」

 とある日の夕方、菊丸家に絶叫が轟いた。
 まるでムンクのように両頬に手を当てて叫ぶ菊丸に、しかしリョーマは動じることもなく飄々と答える。
「ひょこ」
 もぐもぐと口の中に入れた物を食べながら答えたので、その返事は舌足らずなものになった。でも菊丸にはそれで充分通じた……しかし。
 しかし、菊丸が聞きたかったのはそれではないのだ。
「なっ、何でチョコ食べてんのさ!それっ、オレにくれるヤツじゃなかったん!?」
 菊丸の言葉に、リョーマは怪訝そうな顔を向ける。そしてチョコを舌で溶かして飲み込んでからようやく口を開いた。
「これはオレが貰ったやつっス。何で先輩にあげなきゃいけないの?」
「何でって……だって………だってバレンタインじゃん―――!!」

 そう今日は2月14日。聖バレンタイン・デー。
 世の中の男達が期待と不安に胸をふくらませる日。しかし恋人がいる男に不安は必要ない。期待だけ抱いていればよいのだから。
 例に漏れず、菊丸英二もそうだった。恋人のリョーマがどんなチョコを用意してくれるかとても楽しみにしていた。いや、リョーマがチョコをくれるということが嬉しいのだ。大好きな大好きなリョーマから貰うということが……
 リョーマの部活が終わるのを待って、二人で一緒に帰る道すがら。リョーマの鞄からチラリと覗いたチョコレートらしき包みに、菊丸は胸を躍らせていたというのに……
 ああ、それなのに。
 あろうことか、リョーマは菊丸の部屋でそのチョコをバリバリと食べているではないか。菊丸がキッチンの冷蔵庫に常備してあるファンタを取りに行ったその隙に。

「日本のバレンタインて、女が男にチョコ配るんでしょ?今日初めて知ったけど」
「―――!」
 そうだった。リョーマは帰国子女なのだ。日本のバレンタインの習慣を知らないのも無理はない。ただ14日の約束を取り付けただけで安心していた菊丸のうっかりミスとも言えるかもしれないが。
「日本て変わってるね。チョコは好きだから、いーけど」
 そう言ってリョーマはチョコを摘むと、パクッと口に放り込む。
「……オレもチョコ好きなんだけどにゃ〜……」
「ふーん………先輩は貰わなかったんすか?チョコ」
「断ったんだよ〜〜おチビがくれると思ったからさ〜〜〜」
「………オレ、女じゃないし」
 リョーマのそっけない返事に菊丸は、うにゅ〜〜と泣き崩れた。しかし突然ハッ、と気づいたことがあり、リョーマに訊ねてみる。
「じゃあさ、じゃあさ、アメリカのバレンタインてどんなの?」
「…あっちは……男の人が女の人にプレゼントを贈る、んだと思う。花とか、ドレス、とか。親父が『この日だけバラが値上がりする』って愚痴ってたし」
「だったら、オレがおチビにプレゼントしなきゃなんだ!?」
「…オレ、女じゃないってば」
「んじゃ、おチビがオレにくれるの?」
「…………先輩、ドレス欲しいの…?」
「ち〜〜が〜〜う〜〜〜っっ!!!」
 見当ハズレの(もしかしたらわざとかもしれない)リョーマに菊丸がバタバタと暴れ出した。
「そーいうんじゃなくてさ!気持ちが欲しいの!バレンタインはやっぱり好きな子からさ、好きだよーっていうキモチが欲しいんだよ―――っ!!」
「先輩、うるさい」
 ジタバタと駄々をこねる菊丸を一蹴して、リョーマは菊丸が持って来たファンタをぐび、と飲む。そんなつれない恋人に菊丸はヘナヘナと脱力して……そのままいじけモードに突入してしまった。背中を丸めてくすん、と鼻を鳴らす。
「…おチビはオレのこと愛してにゃい〜〜〜」
 いじいじと泣き言をいう菊丸にリョーマは溜息を吐いた。
 この恋人は自分より2つも年上のくせして、たまにこんな風に妙に子供っぽい。いや、たまに、でもないけれど。しょっちゅう甘えてくるし。ヘンな言葉は喋るし。
 それでもリョーマはそんな恋人が嫌いではなかった。むしろ好きだった。だからこうして付き合っているわけなのだが……

 リョーマは再びふぅ、と溜息を吐くと、チョコをひとつ摘んで口の中に放り込んだ。 そしてそのまま両手をつき、這うようにして、未だにいじけている菊丸の背後へとにじり寄る。
「エージ」
 めったに呼ばれない名前の方で呼ばれて、菊丸は「う?」と半泣きの顔を振り向かせた。すかさずリョーマがその唇に唇を押し当てる。
「!?」
 驚く菊丸を余所に、リョーマは口に含んだチョコを舌でするりと菊丸の口内に滑り込ませた。

 甘いチョコと、甘いリョーマの舌。

「……これで文句ないでしょ?」
 唇を離してリョーマがニヤリと笑う。ぼうっと余韻に浸っていた菊丸は、それにハッと正気に返るとすかさず叫んだ。
「も……もっと欲しい!!」
「………………」
 さすが気分屋。調子に乗らせたら日本一である。
 しかしリョーマはそんな調子づいた菊丸の要求をいともあっさりとはねのけた。
「やだ。あとはオレのだもん」
 そう言ってまたひとつチョコをひょいと口に入れ、残りのチョコが入った箱を両手で抱え込んだ。
「チョコはいーから!おチビのちゅーだけでいーから!」
「……で、いいから?」
 リョーマがムッとして聞き返してきたので、菊丸が慌てて訂正する。
「あ!んにゃ!違う!おチビ…じゃない、リョーマのキスが、欲しい!です!!」
 右手を上げて宣誓するように菊丸が言った。そんな菊丸をリョーマはちらりと見てから、つん、と顔を背ける。
「…………あげない」
「うにゃ〜〜」
 さっきの勢いが嘘のように菊丸は再びへたり込んでしまった。
 しかし。

「……欲しいんなら、そっちから取りに来れば?」

 リョーマのその台詞に菊丸ががばっと顔を上げる。そしてそこに恋人の悪戯そうに誘う瞳を見つけると途端に顔を輝かせて、しゃかしゃかと四つ這いのままリョーマの正面にまわり込んだ。

「リョーマ……」
「エージ……」

 ふたりは見つめ合い………同時にプッ、と吹き出した。
「エージ、犬みたい」
「うんにゃ、オオカミなのだ。これからおチビをバリバリ食べちゃうかんね」
 がう、とおどけて狼の真似をしてみせる菊丸に、リョーマはくすくすと笑う。
「バカ………ちゃんと、味わってよ」
「もち!愛してるよん、リョーマv」
 そんな菊丸の言葉に答える代わりに、リョーマはそっと瞳を閉じた。




fin.






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危うくリョ菊になるとこでした・・・(笑)
初めて書いたバレンタイン小説は不二リョでなく塚リョでなく、菊リョ〜♪
菊ちゃんカワイイ〜v(自分で言うところが・・・)
王子冷たい〜v(喜んでるし・・・)

例によってこの菊リョもシュパシュパッと書けました。
ヘタレ攻めは書きやすい(笑)

タイトルはジュディマリから。
あせらないでこの夜をもっと愛してね♪
大好きですこの歌vv

2001.2.14 あいりん