「うおーい、リョーマあ」
ガチャ、と扉が開いて、煙草を咥えた南次郎が顔を出した。
リョーマは読んでいたテニス雑誌から、不機嫌そうに顔を上げる。
「入る前にノックしろっていつも言ってんのに」
「何だよ、エッチな本でも読んでたのか? オレにも見せろや」
ニヤニヤと下品な笑いを浮かべながら煙草をふかす南次郎に、リョーマは呆れたような冷たい視線を送ってから、再び雑誌に目を戻した。
「なあ、リョーマ」
「何」
「部長は今度いつ来るんだ?」
「………」
「なあってば」
「…知らないよ」
顔も上げずに素っ気無く答えるリョーマだったが、『部長』という言葉にその指先がぴくりと反応していたのを、南次郎は見逃さない。
「何だ、次の約束してねえのか」
「…してないよ」
「いかんなあ。別れ際に次の約束取り付けんのが正しい交際の仕方だぞ」
「………」
リョーマは無言で更に冷たい視線を投げる。しかし、当然ながらそれに怯むような南次郎ではない。構わずドアに寄りかかると、腕を組んでべらべらと喋り出した。
「言っとくが、まだオマエらの仲を許したわけじゃねえぞ。でも部長はあれだ。腕もそこそこだしな。いやまだまだオレ様の足元にも及ばねえぞ。でもまあオレ様と比べんのが間違いだしな。ガハハ」
「………」
「それに、ほれ、部長はなかなかオトコマエだしな。いやもちろんオレの若い頃に比べりゃ劣るがな。オレも母さんに逢うまでは女の子にキャーキャー言われたもんだ。いやまだまだ現役だがな。おっとこりゃ母さんには内緒だぞ」
手塚の話をしているのか、自分の自慢話をしているのか、次第に話が逸れてきたような気がする。
南次郎は、相変わらず冷たい視線を向けたままの息子をちらりと見て、煙をひとつ吐いた。
「聞けば部長は生徒会長もやってるらしいじゃねえか。さぞかし女の子にキャーキャー言われてんだろなあ。ちくしょう、羨ましいぜ……まあでも中学生にキャーキャー言われても仕方ねえか……せめて高校生くらいじゃないとさすがのオレも許容範囲ってもんがあるしな……」
やっぱり話が逸れていく。
これ以上野放しにしておいてはいつまで続くか分からない。リョーマは仕方なく溜息を吐きながら、南次郎の与太話を遮った。
「親父うるさいよ。オレこれ読んでんだから、どっか行って」
「何だよ。冷てえじゃん」
「じゃんとか言うな」
「いいじゃん。もっと部長のハナシしようぜ」
「部長って言うな」
「何だよ、部長は部長だろ」
「あんたの部長じゃないだろ」
「オマエの部長だってか?」
「………っ」
不意打ちのツッコミに、リョーマの顔が僅かに赤くなった。それを見て南次郎は、心底楽しそうにシシシと笑う。
「そうかそうか、オマエの部長か」
「るっさいな! そんなんじゃないよ!」
「うーむ。それじゃ何て呼べばいいんだ? 国光か?」
「呼ぶなーーー!!」
リョーマが叫んで雑誌を投げ付けた。しかし南次郎は笑いながらひょいと躱して、更にリョーマの怒りを煽る。そしてそのまま退散しようとして、おっといけねえ忘れてたぜ、と再び顔だけ覗かせた。
「そうそう、今夜の晩メシには国光も来るからな」
「―――はあ!?」
唐突なセリフの内容に、呼び方を咎めるのも忘れてリョーマが素っ頓狂な声を上げる。
「さっき煙草買いに出たら、バッタリ会ったんだよ。あ、重ねて言っとくがまだアイツを認めたわけじゃねえからな。でもやっぱ息子の相手は慎重に厳粛に見定めてやらにゃいかんと思ってよ。なあに、いびって追い出すようなこたしねえから安心しろや」
「………あ」
「あ?」
「あんたが出てけこのクソ親父ーーー!!!」
リョーマが手近にあった目覚し時計を掴んで、思い切り投げ付けた。
慌てて南次郎が首を引っ込めると、ガシャーンと派手な音をたてて廊下の壁にそれがぶつかる。
「家庭内暴力か……思春期の息子を持つと辛いなあ〜〜〜」
そう言いながら、しかし口調とは裏腹にうきうきとした足取りで、南次郎は廊下に転がった時計を器用に避けて、そのまま階段を降りていった。
母さーん、晩メシ一人分増えるからよろしくな〜という声が遠ざかっていく。
残されたリョーマは、息を切らして、それでも父親の悪口を十通りくらい並べてから、ようやく落ち着いたのかそれとも脱力したのか、その場に寝っ転がった。
しかししばらくして突然起き上がると、先程投げ付けた雑誌や目覚し時計を拾って、元の場所に戻す。ついでにその辺に転がっていた雑誌やゲームのソフトを片付け始める。全部片付いてしまうと、今度は部屋の中をうろうろと歩き出した。
そんなリョーマの様子をこっそり覗き見していた南次郎と、それを発見したリョーマとで、再び乱闘が繰り広げられる。今度はウォークマンが破壊された。
散々リョーマをからかって満足した南次郎が退散すると、リョーマは再び座り込んで、そして再びうろうろし始める。ふとドアを見れば、再び南次郎が覗いていた。
そんなことを3回くらい繰り返しているうちに窓の外はすっかり日が暮れて、4回目のバトルが始まろうとしたその時、玄関のチャイムがピンポンと軽やかに鳴ったのだった。
To be continued...?
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これで「END」にしたら怒られると思って一応(笑)
しかし気長にお待ち下さい。(すみません・・・)
でも塚リョにしたいので頑張ります。塚リョ未満も楽しいけれど。
だけど書いてて何より楽しいのはパパかもしんない。
親子漫才はいつまでも書けそうで怖いです。(終わらなくて)
さて次回は、
突撃!越前家の晩御飯!
南次郎の鑑定眼が光る! サバも光る!
手塚はピーマンを避けられるか?(それは私)
うな茶でドキッ★
お楽しみに!(しないでください)
2002.9.19 あいりん
