マルキオン教の聖書

    -The Malkioni Bible-

copyright 1998, Nick Brooke
翻訳・編集(c) 木村 圭祐/'たびのまどうし'しーちゃん ,1999. [1999.11.14]


  ジルステラの神智者は預言者に関する膨大な量の断片的資料を集約的に編纂し、これ(そして彼らの著名な調査技術)を用いて、今日広く広まり、かつて中部海洋帝国の版図の内にあった地域の大部分で目にすることのできる聖なる文献を抽出した。[1]

  便宜上これを"ブック"と呼ぶ。もしあなたがこれを聖書に似ていると感じるならば、その複合的な本質に関わるいくつかのアイデアをあなたに与えてくれるだろう。"ブック"が見られる地域には現代のロスカルム、セシュネラ、セイフェルスター、ウマーセラといった地域が含まれている。グローランサのこれらの地域に由来する教会は、本質的に同一の聖典に地域的な付加を施して用いている。

ロスカルム  "ブック"には"ジグラットの夢"、さらにティロールの外典なる重要な一文献が含まれている。
セシュネラ  "ブック"には"ロカールの生涯"、それがどこにあるものであるにせよ、彼が書き記して壁に打ちつけた文献、さらに"槌王ベイリフェスの勲"が含まれる。
セイフェルスター  "ブック"の他に、彼らの秘匿する文献に保持された異端的アーカット派教義の深遠な思想的底流が存在する。むしろ中世まで流布していた異端的グノーシス主義書を保持しているようなもの、という方が適切な表現である。
ウマーセラ  "七シダルフ文書"がシダルフ派信仰の思想的背景を規定している。また沈黙の預言者の"黙想"も存在し、「風の日」には教会で声に出して朗読される。


  編集された"ブック"と同様に、"ブック"に記載されている記述が、遠く離れたマルキオン主義の地では別々に存在していることもある。アロラニートでは間違いなくマルキオンの法体系を共有しているが、その一方で遠く離れたノチェットの地下墳墓や、カルマニア、ヒョルトランドbなどに見られる預言者に関する記述も、彼らの"ブック"の中に見ることができる。

  "マルキオン教とは法である"と宣言している現代の教派は、神智者によって編纂された彼らの"ブック"の中から集められた完全な、もしくは解釈のほどこされた法を元にしている。この法の一部は、(比較可能な大量の資料の中からその中核的真実を抽出するという)減算的、選択的な神智学的手法の真の本質ゆえに、より古い、神智者の影響を受けていない教派でも見ることができる。

  この考え方に従えば、マルキオン教徒の一般的な、共通の性格を知ることができ(ほとんどの教派は4つからなるカースト制度と、主要な3つの戒律を有している。しかしそれが必ずしも必要というわけではない)、さらに自分が作りたいと考える興味深く地方的な独自の版を作り出す余地と正当性が残されている。

  また、フレストル理想派やロカール派、シダルフ派というような教派の場合、彼らは神智者の"見えざる神教会"の生き残りである。従って彼ら自身の"預言者的"啓示を享受したり、独自の地方的特色を持つマルキオン教を作り上げてきたのである。

  もしくは他の、暗黒異端派、カルマニア派、ティロール派、エイオル派などは、神智者の"ブック"から集められたわずかな断章を有するだけであり、それに彼ら独自の豊かで深みのある"異教的"文献が加えられている。

  私は、かって神代より存在した変化も追加もない"真にして一なる聖典"よりも、この方がずっとおもしろいと考えている。この考え方であればグローランサにおけるゲームと探索をより楽しむことができ、さらに今まで出版されたマルキオン教についての記述との間に、深刻な不整合をもたらさないはずである。



[1]神智者の文献的方法論と、Frank HervbertOrange Cathoric Bibleとの間に見られる平行性は全体としては意図されたものである。

  本テキストはNick Brooke氏が作成した作品を、氏からの許可を得て木村 圭祐(しーちゃん)が翻訳したものです。
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