マルキオン教略史

    -The Brief History of Malkionism-

copyright 1995, Nick Brooke
翻訳・編集(c) 木村 圭祐/'たびのまどうし'しーちゃん ,1999  [1999.11.14].

論理王国と預言者マルキオン

  論理王国とは、大洪水以前、西方に存在した完全なる王国のことである。現在そのほとんどは西の大洋の底に眠っている。その最後の断片こそ失われたブリソス島であったが、それも今では人間の世界からは失われてしまった。力ある古の種族ブリソス人(下記参照)は、論理王国の唯一残された末裔なのである。

  この神秘の大地に住んだのは、創造主たる神の手によって生み出された最初の人間たちである。彼らは神の法に従って完全なる生活を送っていた。他の選択肢が存在しないことを理性的に理解し、それに従っていたのである。このような幸福な状態は、悪魔が高慢、不信、恐れ、無知といった罪を世界にもたらす以前であったからこそ可能であった。

  創造という否定し得ない事実を認識しているにも関わらず、ブリソス人たちは、創造主として知られているものがこの世に存在しているということを、否定するようになった。世界のすべてが完全であった時代には、彼らの厳格な論理はちゃんと機能する制度を生み出すことができた。しかし悲しむべきことに、すべては時を経て転落し、失われた。物質的な世界が精神的な世界から離れていくことは極めて自然なことではあったが、今やすべては再建される必要があった。成長を続ける世界の周縁でさまざまな罪に満ちた亀裂が口を開けているとき、彼らがその教条を守るには論理だけでは不十分だったのである。その恐怖と無知ゆえに、人々は創造主を忘れてしまった。

  氷の時代は、死すべき定めの種族がみずからの創造主を拒否したために訪れた、恐るべき不和と破壊の時代である。ある者は絶望に伏し、またある者は恐怖と無知ゆえに悪魔に従い、あるいは過ちの神々に力を与えた。世界は彼らの魂と同様、暗く、冷たく、そして苛酷なものとなった。だがこれは世界の内側で解き放たれた、邪悪なるもの、愚劣なるものへの罰にすぎなかった。大洪水が論理王国を飲み込み、巨大な氷河が大地を覆い、生命を世界から打ち消した。

  預言者マルキオンは、古の論理王国の創始者にして立法者である。彼の息子たちは、彼が民に説いた従順なる生活の模範であった。論理の時代に彼が宣言した不変の法に従い、息子たちは永遠に生きた。氷の時代、世界が灰燼に帰したとき、マルキオンは創造主の新たなる教えをその子孫にもたらし、この新たなる厄災をいかに受けとめる人々に説いた。しかし慰めを通じた救済という彼の示したものを嘲笑し、完全に廃れた古き法を頑なに守る者たちもいた。この者たちこそ今日のブリソス人の祖先である。彼らはその傲慢さゆえに預言者を彼らの地から追放した。

  ブリソスを追われたマルキオンは荒れる海を渡り、セシュネグへと至った。そこで彼はマルコンウォルを建設した。この都市は彼の聖なる都市となる。住人は、古の日々のようにその神を理解することはできなかったものの、神の預言者は常にそこに存在し、いかにして最良の生涯を送るか、いかにして弱さを強さへと変えるかを彼に教えた。この地はマルキオンの王国として知られるようになり、氷の時代を通じて争いとは無縁の孤島であり続けた。

  肉体の慰めは、マルキオンがその新たなる法の中で示した秘密である。この秘密により、人々はみずからを悩ませる間題から解き放たれるために、世界の資源を扱うことが可能になった。たとえ欠陥や愚考がこの世界に満ちていたとしても、マルキオンの法に従う者はその肉体が滅びた後に、栄光の慰めという魂の楽園において、完全なる保護と永遠とを得ることができるのである。肉体の慰めとは、この世には唯一度の生以上の何かが存在することを教えている。それは、正義と共に生涯を歩む者はこの世界から完全に消え去ることはないという教えなのである。


王子フレストルとセシュネグの蛇王族

  セシュネグはマルキオンの新たなる法に従い追放された者たちが築いた王国である。この国は多くの小都市国家からなり、曙の時代もっとも力があったのは"黄金の門の都"フロウワルであった。彼らの国は獣のごとき蛮族に取り囲まれていた。蛮族たちは創造主を拒絶し、より原始的な状態へと退行してしまった者たちの末裔である。だがこれらの都市国家は、ウュアタグ人(コラム参照)の援助によって他の西方の国々との接触を保っていたのである。

  とは、古の確実性が覆された時代である。マルキオン自身も、"われが戦い、われらが勝った"として知られる最後の革新的啓示を全世界に対して授けた後、慰めヘと至った。この啓示により、預言者を通じて創造主による直接的、個人的啓示が、この宇宙すべての霊的存在にもたらされた。全宇宙の平和への回帰が成功したのである。エレメントと領域には等しく調和がもたらされ、魔術師たちの支配と統制のもとにおかれることとなった。

  王子フレストルはフロウワルのフローラー王の息子である。時の第1年の終り、フレストルは啓示の中で天使の預言者マルキオンと出会い、個人が創造主との合一を探求し、それを達成するための方法を教えられた。フレストルは偉大なる探索へとおもむき、騎士階級を生み出すためにすべての社会的呪縛を断ち切った。彼の勇気ある功績によって王国は救われたが、新たなる継母セシュナと対立したことで、彼は彼女の国から永久に追放された。ブリソスとヴェイデルの島々を旅したのち、最後に彼はアケムの地に、そしてその地の青銅の都市へと至り、そこで邪悪なるブリソス人魔道士の手によって栄光ある殉教を果たしたのである。

  心の喜びは預言者マルキオンの第二の啓示であり、彼の子孫フレストル王子に与えられたものである。その教えは、法を忠実に守ることよりも、正義にかなった生き方の方が優れているとしている。なぜなら創造主は人の行動の外形的な正しさよりも、心の中の意図を喜ぶものだからである。正しき意図から行われた"罪深き"行動は、来るべき慰めから"罪人"を断ち切ることには必ずしもならない。ある意味では、フレストルは人間の良心を見出し、(当時あまりに杓子定規になっていた)形式主義的な魔術師たちの説教から解き放ったとも言える。彼の啓示が示したその正しさゆえに、この新しく、楽観的な崇拝の方法は急速に広まることとなったのである。1世紀の終りまでには、アケムのフレストル派教会が設立された。

  蛇王族はフローラー王と、セシュネグの地の異教の高女祭セシュナ・リキータとの子孫である。その王朝の最初の統治者はイルリアム王子であり、本来彼の足があるべき場所には蛇の尾が生えていたのである。彼の後継者たちも同様にさまざまな奇形を身に帯びていた。一説には女神であったとも言われている、彼らのカ強き先祖の公然たる援助を受け、彼らは彼女のカが認められるあらゆる地を手中におさめた。150年におよぶ着実な拡張ののち、セシュネラ半島全土が彼らの手に落ちたが、ここにいたってついにこの王朝は死に絶えたのである。

続く半世紀の間に、フレストル派教会はセシュネグ王国に根を下ろした。"フレストルの真の教え"と呼ばれた修正主義者による運動が優勢となったが、教会の創設者フレストルに対するセシュナの扱いに怒りを露にした彼らは、"蛇王族"の腐敗した異教の教えを糾弾し、彼らの墓でもあった神殿を封印した。

  銀の帝国は、新たなセシュネラの王たちがセシュナ女王の加護の領域を越え、その外側へと勢力範囲を広げたことにより形成された。人々は暗黒の大地ラリオスへと広がり、その近辺の蛮族たちを追い払い、もしくは改宗させていった。内陸部では、彼らはタニソール(タニア川の豊かな渓谷)とセイフェルスター(フェルスター湖周辺の肥沃な沿岸地域)に定住した。海の向こうでは、帝国にフロネラの海岸地域すべてとアケムが含まれ、さらにジルステラに最初の植民地が置かれた。しかしブリソスに対する攻撃が失敗に終わったとき、帝国の統一は失われた。新たに自由となったタニソールとセイフェルスターの諸王国はそれぞれ独自の道を歩み、西方の統一は失われたのである。


"欺くもの"、アーカット、暗黒帝国

  ラリオスはセイフェルスターを囲む高地であり、蛮族とあらゆる種類の怪物たちの徘徊する地である。ラリオスの向こうには、かつて創造主の真実が一度も支配したことのない大地が広がっている。そしてその地の国から偽りの伝道師たちがやってきた。彼らはより真実に近い創造主との合一がペローリアの地に存在する生ける神によってもたらすことができると説いていた。その"神"は信奉者からナイサロールとよばれていたが、我々はそれが"欺くもの"であり、悪魔の使いであることを知っている。事実が明らかにした通り、それは実は"神"などではなく、また死すべき定めの存在であった。

  "欺くもの"は、もっとも深き邪悪を従う者たちに吹き込んだ。タニソールですさまじい疫病が発生し、セシュネラとアロラニートヘと広まったとき、"欺くもの"の伝道師たちは奇跡的な能カで疫病の犠牲者を癒し、その地の人々からの受容を勝ち取った。しかしブリソスの魔道士たちは、そもそもこの疫病を広めたのが実は"欺くもの"のカルトであることを発見した。このような裏切りから、ナイサロールは新たなる名前"欺くもの"を意味するグバージの名で呼ぱれるようになった。このような事実にも関わらず、タニソールの王はその信仰に魅入られ、生ける神の栄光のためにアロラニートを征服しようと軍勢を送り込んだ。この軍勢を押し戻すためにブリソスからも軍勢が送られた。

  アーカットはこの軍勢に参加した一兵士にすぎなかった。彼の気高き精神は、ブリソスの無為な生き方に縛られることを潔しとしなかった。彼の仲間が敗れたとき、彼はブリソスの古の教えではこの新たな敵に勝利することはできないことを悟ったのである。彼はブリソスの束縛を捨て、よりマルキオン主義のより高次の真理を受け入れた。その熱狂的な献身により、アーカットは完全なるフレストルの騎士となり、タニソール王国に対する大十字軍に際し、セシュネラの軍勢を率いた。

  対混沌十字軍は恐怖に満ち、そして多くの犠牲を払った闘争であった。それは幾世代にも渡って続き、数千数万の命と魂が奪われた。もっとも恐ろしいかったのは、"欺くもの"の信者たちが普遍的な人間性とのつながりを喪失し、魂も肉体もともに堕落した歪んだ生物になり果てたことである。我々はそれを"カージョルクの徒"と呼んでいる。タニソールでは王とその騎士たちが魂無きヴァンパイアとなった。ラリオスでは高地地方のいくつかの部族が人狼へと変貌してしまった。闘争が長引けば長引くほど、その腐敗はひどくなっていった。この忌まわしき敵に対し、アーカットは差し延べらた助けはそれが何であれ受け入れた。そしてこの事実こそ彼の転落を証明しているのである。

  西方での軍務でひどく傷つけられたのち、アーカットは高徳の道から転落する。その強迫的なまでの"欺くもの"への憎悪から、アーカットはついにマルキオンの教えを捨て、代わりに異教の死と破壊の神を受け入れた。セシュネラ王は彼を追放し、その魔術師たちは彼を教会から破門した。彼の戦い(もはや十字軍の本質は失われていた)は続いたが、反逆者と見なされた彼に従った西方の人間はほとんどいなかった。戦った相手と同様に、アーカットはその真の人間性を見失い、闇き心を持つトロウルになり果てたと言われた。彼が帰還を果たし"欺くもの"に対する勝利を宣言したときにも、西方で彼を歓迎する者はいなかったのである。

  暗黒帝国はアーカットが戦いを終えたのち打ち立てた国である。それ以前に彼が解放したセイブェルスター諸都市の同盟から生まれた、この強力で危険な国家は、黒魔術と邪悪な魔道を使うトロウルたちによって支配されていた。一度怒らせると残酷で無慈悲なこの国は、セシュネラを数世紀に渡り脅かし続けた。アーカットの暗黒帝国の民は、暗黒の神々と古の秘密を崇拝する彼の教え、暗黒異端派に従っていた。暗黒異端派はアーカットが堕落したという事実を受け入れていない。彼らによれば、アーカットはマルキオン教を離れたのちにより高次の秘密へと至り、彼はそれを自分に従う者に教えたという。この秘密により、見えざる神への信仰と他の神々への信仰を組み合わせることが可能になったと、彼らは主張する。これら他の神々は一般に創造主への奉仕者として崇拝されるが、この異端の中でも特に有害な形態の信仰では、他の神々が創造主と同等の存在であると主張しているものもある。


ジルステラ、正義への回帰と神智者

  ジルステラはかつてグローランサの中央洋にあった大陸であり、曙の時代、この地に初めて定住したのはセシュネギからの植民者たちであった。この大陸は急進的な魔道士や伝統主義的思考を持つ魔術師、追放された哲学者や流刑になった貴族が西方全土から集まり、楽園となりつつあった。故郷では歓迎されない者たちもジルステラの植民地では新たな生活を見出すことができた。こうした勢力が一体となって新たに充実した思想的潮流を形成し、当初は"欺くもの"の欺瞞とアーカット背教の後の、マルキオン思想の再統一に尽力していた。

  正義への回帰は当初、西方に広まりつつあった異端に知的運動として形成された。賢明で敬虔な学者の一団が、マルキオンとフレストルのものとされるあらゆる預言を収集し、その内なる意味を解き明かそうとしたのである。純粋理性を用い、純粋なる教義のまわりに広がった、数多の偽りの付着物を剥ぎ落した。この務めに捧げた献身から、彼らは神智者として知られている。正義の情熱で武装した彼らは、西方の他の国々をその異端的過ちから解放し、「過ちの神々」を真なる唯一の神に服従させるべく、大十字軍を送り出した。

  神智者たちはウェアタグ人の海軍カの独占状態を覆した。炎山の悪魔のごときカを用い、海の種族を打ち破ったのである。その信仰の敬虔なる純粋さによって、彼らはあらゆる敵を打ち破り、あらゆる地域で唯一にして絶対なる見えざる神の真理を説いた。彼らはセシュネラ王国を蛮族の大君主より解放し、ロスカルムの不正なる支配者たちを追い払った。彼らは暗黒帝国を打ち破壊し、アーカットの空虚なカルトを千ものばらばらの代物に引き裂いた。暗黒の大陸パマールテラには都市を建設し、帝国を築いた。しかしこの偉業の中にこそ、彼らの失墜の根は存在していたのである。なぜならその勝利の栄光の中で、彼らは、自分たちにカと支配をもたらしていた明快な信仰を忘れ去っていたからである。

  中部海洋帝国は、東方諸島の果てからもっとも南の海岸まで、あらゆる海洋に広がっていた。しかし神智者たち自身が見出した真理も、彼らの飽くなき好奇心を満たすことはできなかったのである。彼らはより偉大な知識とカとを求めた。彼らは信仰心が定めた一線を踏み越え、汚れたる秘密を探り始めた。すべてを知ろうとするあまり、彼らは何も理解することができなくなっていたのである。ある者は退廃に耽り、またある者は悪霊の崇拝に手を染めた。自分たちは他の者から神として崇拝されるべきだと主張したものさえいたのである。10世代を経るに至り、自分たちの敬虔なる祖先が再発見した、見えざる神とその預言者マルキオンの法を、彼らは完全に忘れてしまったのである。

  神智者たちの没落は世界的に神の怒りだと考えられている。神の名のもとに行われた涜神の行為の数々に怒った見えざる神は、ジルステラ人の上にその呪いと破壊を解き放った。彼らが捕らえ、破壊したと考えていた偽りの悪霊どもが、彼らに向けて解き放たれたのである。国々は炎と嵐によって破壊され、大地も海のありとあらゆる災厄が彼らを襲った。彼らの都市の思い上がった数々の塔は打ち倒され、彼らの支配はすべての土地で覆された。ウェアタグ人がジルステラを死の波の底へと運ぶべく蘇ったとき、海洋はまず彼らの艦隊を、さらに彼らの故郷を飲み込んだ。彼らの帝国の中心であった古の大地セシュネラは、地震によって引き裂かれ、洪水に飲み込まれた。神智者は一人たりとも生き残ることができなかったのである。

  海の大閉鎖は中部海洋帝国の棺を閉じる最後の釘であった。ブリソスの"最高魔道士"ザブールは大いなる呪いによって海からあらゆる船を一掃したのである。ウェアタグ人たちですらこの呪いと戦うだけの強さを持ち合わせていなかった。彼らの都市船のあるものは沈没し、あるものは難破し、またあるものはこの世界の境界の彼方へと追いやられた。彼らの多くはみずから選んで死の海流に乗り、大渦巻から地界へと下ったと言われている。5世紀以上もの間、大洋の波濤を越えることに成功した船乗りはいなかった。大陸は互いに切り離され、島々は孤立した。"水夫"ドーマルの航海まで、この呪いが破られることは無かった。




ブリソス人

  ブリソス人の文化は、グローランサの人間の中でもっとも古く、そしてもっとも保守的な文化である。あらゆるブリソス人は、古代からの規則に従って生きている限り不死の存在である。しかし一度でもみずからのカーストの制約を犯せば、老化がはじまり死すべき定めの人間となるのである。異質な哲学に汚染されることへの恐怖から、彼らは自分たちを他の人間から隔離している。

  頑迷なブリソス人は、彼らの古代からの生き方に含まれていないものすべてを拒絶する。彼らは不道徳な無神論者であり、死後の世界の存在を信じず、聖人の力を認めず、見えざる神すら崇拝していない。マルキオンの法を歯牙にもかけない彼らは、何の迷いも無く《切開》を行なう。にも関わらず、ブリソス人たちは自分たちがもっとも古く、もっとも完璧にマルキオンの教えに従っていると主張している。

  ブリソス人の魔道士は世界でもっとも有名な魔術師である。かつて彼らのその神秘的な技が完成の域に達した時代があった。"最高魔道士"ザブールは大陸を破壊し歴史の行方を変えたと言われている。   マルキオンとフレストルはブリソス人であった。最初に彼らの教えに改宗した者たちもまたそうである。彼らは預言者を信仰したためにブリソスから追放された。信仰を通じた慰めと喜びという楽観的な教義よりも、厳格で非情な論理を好んだブリソス人は、生来厳格で、保守的、未知なるものを恐れているのである。彼らは預言者たちよりもたらされる救済を頑なに拒んでいるのである。

  今日、現存する唯一のブリソス人の居住地は、セシュネラの西部にある喜びなき灰色の地、アロラニートだけである。有名なソグの真鍮の都市も未だ彼らによって統治されている。その他にも小さな居住地が世界中の沿岸地域に散在している。ブリソス人は死にゆく種族である。

ウェアクグ人

  ウェアタグ人は自分たちが"開祖"マルキオンとマーメイドの間の不義の子の末裔であると主張している。彼らの緑色や青色の肌、水かきのある手足から、この祖先の交わりは窺い知ることができる。彼らはまた、海やその他の水域に肉体的な親和性を生来有している。

  曙の時代には、彼らは大洋を支配した。当時海洋交通の大半は巨大な海ドラゴンの生ける肉体から建造された彼らの巨大な都市船が担っていた。彼らはブリソス人、マルキオン教徒双方の良き友人であり、植民する彼らを載せセシュネラ、フロネラ、ジルステラの岸へと大洋を渡った。ブリソス人はウェアタグ人に寛容であった-彼らの信仰が、その祖先である不死の魚人や、さまざまな波や深淵の精霊に対する崇拝と見えざる神への崇拝を明らかに混ぜ合わせたものであったにもかかわらず、である。

  海に生きるウェアタグ人たちは第2期の初頭、神智者の手で抹殺された。彼らは400年後ジルステラを破壊するために戻ってきたが、ザブールの海の大閉鎖の恐るべき呪いによって海から一掃された。ごくわずかな居住地だけが残っており、西方の沿岸部を中心に、かつてドックがあった場所に散在している。ソグ・シテイの住民の緑色の肌はもっとも有名な例である。

ヴェイデル人

  ヴェイデル人はブリソス人の古来からの宿敵である。彼らは堕落した種族であり、ずる賢く、歪んだ無神論者であり、好んで人をだまし、盗み、あるいは神を冒涜する。彼らは完全に腐敗した、神の救いの望みなど有り得ない者たちである。ブリソス人と異なり、彼らはマルキオンの法を認めている素振りさえ見せない。

  かつて、ヴェイデル人には3つの種族が存在した。茶色、赤色、そして青色である。氷の時代、ザブールの魔術がこの汚れた大地を沈め、すべてを消し去った。少数の茶色ヴェイデル人の漁師たちだけが、小さな群島に散らばって生き残ることができた。

  海の大開放の際、怪物じみた赤色ヴュイデル人の戦士を載せた火山島がどこからともなく出現した。さらに悪いことに、ドーマルの秘密をだまし取ったヴュイデル人たちは、主要な海上勢力の一つとなったのである。現在、茶色ヴェイデル人は、不当にもパマールテラへの航路を支配している。彼らのいとこともいえる赤色ヴェイデル人の海賊船に競争相手を迫い払わせているのである。彼らは恐ろしいほど裕福である。彼らだけが独占的に供給している珍しい物産には、法外な価格をつけることができるからである。幸いなことに、支配的な種族であった青色ヴェイデル人は、時の曙以前に絶滅している。

  ブリソス人と同様に、ヴェイデル人も彼らのカーストの掟にに従っている限り不死の存在である。-だがその掟の中には、近親相姦や乱交、殺人、その他あらゆる種類の反自然的な行為が含まれていることは良く知られている。悲しむべきことながら、彼らの存在に耐えねばならない西方の港町では、一般市民との不和を避けるために、彼らは必ずゲットーの中に閉じ込められている。



  本テキストはNick Brooke氏が作成した作品を、氏からの許可を得て木村 圭祐(しーちゃん)が翻訳したものです。
  原文作品の著作権は原著者に、翻訳作品の著作権は原著者と翻訳者に帰属します。営利目的、非合法な目的、反社会的な目的での利用でない場合にかぎり、自由に使用、複製を許可します。ただし複製に当たっては本テキスト冒頭の版権表示(原文および翻訳文)を必ず含めるようにしてください。他の媒体への流通には著作権者の許可が必要です。
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