マルキオン、立法者にして預言者

    -Malkion, Lawgiver and Prophet-

copyright 1998, Nick Brooke
翻訳・編集(c) 木村 圭祐/'たびのまどうし'しーちゃん ,1999. [1999.11.14].



  マルキオンは論理の時代にさかのぼる、ブリソス人の立法者であった。彼は息子たちのために不変の法を定め、もし誰かがその法を変える様にいうのであれば、その者たちは論理の王国から追放されるべきだと息子たちに語った。皆がマルキオンのすべての法を理解することができ、あらゆる者がその法に完全に思いを巡らすことができたのである。世界は閉ざされたシステムであり、エントロピーも、摩擦も、過ちに向かうようなものもなかった。整然とした、閉じられた、4つのエレメントを持つ、予測できない事など何も起こり得ず、誰もが永久に生きることのできる世界であった。

  しかしそのとき・・・、世界は壊れ、崩壊を始めた。太陽が姿を隠して氷河期が始まり、混沌が創造へと這い寄っていった。非論理的な事が起こり始め、論理の時代の不変の法はその信奉者の大部分にとって死の罠となった。古き法に従って何かを行うことは今やきわめて危険な行為であり、人は死に始めていた。古き法に従うものはいかなるものも存在しなかった。混乱と絶望・・・。

  混沌が世界へと進入した時、マルキオンは創造主から直接啓示を受けた。啓示は死にゆく世界にいかにして希望と慰めを与えるかを示した。彼は自分のブリソスの血を引く子供たちに慰めへの信仰を通じての救済の新たなる秘密を示し、彼らにそれらの真実を納得させようと試みた。彼らのほとんどは納得し、彼に従った。しかし他の者、道徳に欠ける大多数は、彼の行動が彼自身の定めた法に反していると指摘し、その指摘はまた正確だった。彼らは法に厳格なブリソス人であったので、彼自身の手による不変の法を引き合いに出し、ブリソスから彼を追放した [1]

  これらのブリソス人はマルキオンの啓示自体には耳を貸したが、啓示は彼らを納得させることができなかった。彼らはマルキオンを含めていかなるものへの信仰も持ち合わせていなかったのである。彼らが従うのは厳しい論理の道であった。彼らの観点から見ても、我々は人々が大暗黒[2]の最中のまさに際立った狂気へと進んでいったことを知っている。たとえ我らが父マルキオンが実際に法を破った多数の者たちを除外し、彼らに自信を与えてしまったとしても、それは彼自身が他者を傷つけずにすむ場所へとみずから赴くという、彼の親切からに他ならない。

  マルキオンの忠実な信奉者たちは、荒れ狂う海を越えてセシュネグへと渡り、聖なる街マルコンウォルやその他の街に住んだ。彼らはマルキオンの新たに発見した信仰をもって創造主を崇拝し、自分たちと共に生活する預言者のもたらした法の相互理解を通じて導かれていった。大暗黒の最中、混沌の猛攻によって世界は引き裂かれたが、マルキオンは彼の民にただ創造主だけへの信仰を維持させた。この一つに結集された献身こそが世界を二分する"我が戦い、我らが勝った"と呼ばれる戦いを戦い抜く力を彼に与え、すべてを再び一つにしたのである。


[1] 預言者は名誉なき者である。そしてすべても・・・。

[2] 読者の中には、もう1人の、定命の狂気の予言者、"肉体を持つ男"を思い出した人がいるのではないだろうか?


  本テキストはNick Brooke氏が作成した作品を、氏からの許可を得て木村 圭祐(しーちゃん)が翻訳したものです。
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