翻訳注意報

    -Glossary of Malkionism -

copyright 1999,木村 圭祐/‘たびのまどうし’しーちゃん


  翻訳を生業にする人たちは、海外の文書を訳す際、キーワードに注意します。特に専門用語や特殊な言いまわしが使われる場合、気をつけないと訳のわからない翻訳になります。本来複数の意味を持つ普通名詞でも、特定の文章中や状況下では固有名詞のように使われます。このページは私が翻訳する際に気になった単語についてちょっと思ったことや、他の人から指摘されたことなんかを文章化しています。でもまだあんまりないね。

Aeolian  エイオル派

  もともと嵐系の神への崇拝と見えざる神への崇拝を混合したものをアイオリア派aeolianと呼んでいました。これはギリシャ神話のアイオリアという風の神の名が語源だと考えられ、当初日本では天空派という翻訳が当てられていたように記憶しています(オフィシャルか同人誌かは不明)。ですがSplinters SectではエイオルAeolという名の聖人がこの教派を創始した事が描かれていました。そのため(Splinters Sectを翻訳していることもあり)、ここではエイオル派としています。ただしEolとの訳を分ける意味で、エイオルとしているが、音的にはエ(ア)オル位が近いかも・・・。

Ecclesiarch  総大司教

  総大司教という訳語は、はっきりいって間違いです(キッパリ)。EcclesiarchはEcclesa-(教会)と-arch(トップ、長)を組み合わせた言葉で、厳密には高位聖職者、という所でしょうか。総大司教はPatriarchが正しい単語です。Ecclesiarchジェナーテラブックでは教主という訳語を当てており、これの方が近い感じもします。ただ私が総大司教という単語を当てたのはそれなりの根拠があります。最大の根拠はEcclesiarchという単語が一つの位階として扱われているという事です。現在この地位についているのは在レプレインのロカール派総大司教“敬虔なる”セオブランクと在サウスポイントのフレストル派総大司教“神秘者”ガイセロンの二人だけです。ジェナーテラブックではガイセロンが厳密には全フロネラに対して霊的権威を有していることが書かれており、類推するにセオブランクも同様に全セシュネラに対する霊的権威を有していると考えられます。
  Codex誌には以前マルキオン教の位階についての記事があったのですが、その中ではEcclesiarchとして上記の二座、さらに同格の存在としてクストリアに単身教派のPaatriarch、すなわち総大司教が座していることが書かれていました(このPatriarchが本当に存在しているのか、現在誰がその地位についているかは不明)。このPtriarch=総大司教と同格というのも理由の一つですが、キリスト教会の総大司教というのはローマ、コンスタンティノープル等の総本山に座し、いくつもの司教区を霊的に統治しています。このような類似性からも、おそらくは総大司教で問題ないだろうという考えから、この訳語に決まりました。教主と訳してしまってはこのマルキオン教共通の位階という正確が失われると考えたからです。ちなみに教会会議でもフレストル派、ロカール派から参加しているのはみな司教、大司教(Bishop,Archbishop)です。まあ、でもPatriarchに訳語を当てなくてはならないときが来れば、また悩むことになるでしょう。

Prelate  主教

  Prelateの訳語は司教、大司教、修道院長を含む高位聖職者、あるいは主教()というのが本当です。前3つはどれか一つに絞る訳にもいかず(それぞれ独立した原語がある)、現在の主教という訳語を当てて有ります。位階的には司教ないし大司教という所でしょう。修道院長もジェナーテラブックの記述からすれば捨てがたいのですが、カルパッティアもPrelateなのでどちらかというと主教の方がいいでしょう。もし良い訳があればご一報ください(笑)。

Saint  聖人

  個々の聖人についてここでは触れず、聖人そのものについて考えてみたいと思います。桂令夫氏は「誤解をおそれずに言えば、小さな神様なのです」。といってます。キリスト教では現世利益自体は否定されているものの、聖人信仰はその欠点を巧みにカバーし、さながら多神教的世界を形成しているのです。システムとしても聖人への嘆願は神性呪文のようなメカニズムを持っていて、場合によっては神性呪文よりも強力と考えられるような祝福も存在します。いわば聖人の祝福は、マルキオン教魔道社会の神性呪文・・・なのかなあ? 聖人によってはある教派で聖人と認められていながら、別の教派では認められていないケースも多々存在します。顕著な例はアーカットで、またエイオル派や暗黒異端派のようなカルト的構造を持つ教派(神性呪文も獲得可)では、聖人も下位カルト、英雄カルトとなってしまいます。ものの本によれば聖人には死すべき定めの者しかなる事ができないといいます。となると聖オーランスや光持ち帰りし者たちを聖人とするエイオル派ではオーランスとかを元人間とか考えているんでしょうか・・・?

Stygian  暗黒異端派

  暗黒異端派という名称は厳密に言えば複数の教派の総称です。マルキオンの教えには「神はただ一柱、その神は見えざる神である」というものがあって、いわゆる主流派の教派では他の神はその存在すら認められていません。ですが西方の歴史に大きなインパクトを与えたアーカットは、マルキオンの教えを捨て異教の神へと走りました。彼のこの行為を認めるかどうかが、暗黒異端派かそうでないかを分ける境界線となっています。暗黒異端派の諸教派では、アーカットがこの行為によってより高次の神秘へと至った考え、彼の行為を肯定的に受けとめています。そのため扱いに違いはあれ、これらの教派は見えざる神以外の神の存在を認めています。
日本語訳は“暗黒”異端派となっていますが、必ずしも暗黒系の神々だけを認めているわけではありません。嵐系(単神派教会)、ルナー系(サイアノール教会)の神々を認めている教派も暗黒異端派と考えられます。語源的にはStyx(ギリシャ神話の神)なのであながち誤訳とする事もできませんが、ややこしいので問題を感じないでもありません。おそらく教会の裏切り者=地獄のイメージではないかと思います。ただしアーカットは後年暗黒同盟、暗黒帝国なるものも建国しているので、そこからきた言葉と考えれば、なんとか認められる訳ではないでしょうか。

  本テキストは[著者名]氏が作成した作品を、氏からの許可を得て木村 圭祐(しーちゃん)が翻訳したものです。
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