File No.016 バンダイ ベンダー事業部訪問


バンダイ本社とショウルーム
撮影;モロボシ・デンさん
(携帯電話カメラ使用)
     2004年8月12日
 2004年8月24日〜27日の間、東京出張がありました。ちょうど、幕張メッセで開催された「キャラホビ2004」における「ガシャポングランプリ」が終了した直後でした。そのため、作品を直接返却してもらうために、バンダイ本社を訪れるというチャンスが存在しました。

 私の作品については、仕事の都合がどうなるかわからなかったため、25日にモロボシ・デンさんが本社へ行かれた際、一緒に預かってきていただきました。結局、翌日26日に自由時間がとれたのでベンダー事業部にアポを試みましたが担当者のご都合で失敗しました。

 27日の出張最終日、仕事も11時くらいに終わることがわかっていたので、午後からは六郎太さんにショップ巡りのお付き合いをお願いしていました。前日夜のオフ会にて、六郎太さんが27日にグランプリ作品を受け取りに行かれるとのことでしたので、私もご一緒することにしました。

 当日、アポイントは13時でしたが、10分位前に本社ビルへ入り受付を済ませました。本社ビルは新築の近代的建物です。いざ、許可書を胸に付け5階のベンダー事業部へ上がりました。エレベータ内ではアムロ・レイの声で「上がりま〜す」などの仕掛けがあり来客を楽しませてくれます。

 さて、ベンダー事業部は、ホビー事業部など他のセクションと同じフロアにありました。通路にはキャラホビ出展のダンボールが置かれ、まだ片付いていないという雰囲気でした。社員はノーネクタイのカジュアルな服装で勤務されています。お尋ねしたところ、少し前まではネクタイ&スーツでしたが仕事の特質上、塗料などで汚れることもあったそうです。あと、リラックスした雰囲気の中で商品開発の閃きを養うという意味もあるかと思われます。営業部の方は、今もネクタイ着用とのことでした。ベンダー事業部の部屋の中を遠目に拝見したところ、机の上にはフィギュアがぎっしりと並べられていました。試作品なども多数置かれていたものと思われます。部屋の中は、完全なシークレットゾーンでした。

 さて、ベンダー事業部にて対応していただきましたのは井上さんでした。井上さんとは、少々のお付き合いがあったことから、「GASHA TECHの西村です」と自己紹介をしました。「お目にかかれて光栄です」と申しましたら、「お茶でも飲みに行きませんか?」とお誘いしていただき、「喜んで」ということで、社外の喫茶店へ行きました。

 およそ1時間、ガシャポンを中心としたお話を聞く事ができました。私としては、5年間GASHA TECHサイトを運営しながら研究してきたなかで、幾つかの疑問があったわけですが、それを一つ一つ尋ねてみました。その結果、多くの事実を確認することができました。

 お話の内容については、「六郎太メモ」(非公開)とにまとめ上げられました。さすが六郎太さんです。まるで人間ボイスレコーダーのごとく覚えていてくださり感服しています。私の方は、次に質問するポイントを必至に考えながら話を聞いていたこともあり、記憶が薄かった部分も少なくありませんでした。

 今回の対談の内容は、当サイトを訪れていただいている皆さまにとっても関心が強い事と思われます。ここにその顛末をご紹介させていただきたいと思います。事業部のご発言内容については、当然選択がかかっているものと思われますが、かなりギリギリのところまでのお話であったと思っています。その内容を公開することによって、ガシャポンに対する皆様の疑問や誤解が解消され、今後、商品をリクエストしてくための観点を捉えていただければ幸いだと考えております。今回の事によって株式会社バンダイが不利益を被ることはなく、マニア消費者層との信頼関係を強くすることに繋がると確信しております。

 それでは、以下、六郎太メモをベースに私の解釈や考察を補足して記してみたいと思います。内容についてのご意見、ご質問については、ベンダー事業部にお尋ねにならず、私の方で対応させていただきますので、その点ご理解ご協力をお願いします。


■ 2004年8月27日(金)13:00〜14:00 バンダイ本社近くの喫茶店にて ■

<序章> 株式会社バンダイ ベンダー事業部 井上さん
 とても明るく気さくな性格の持ち主で、我々のような末端消費者に対しても距離を短くとっていただき、とても熱心にお話をしていただけました。赴任時は、HG仮面ライダーの担当だったそうですが、現在はダンバインやドラゴンボール等の不定期商品やベンダー商品全体の総括をするお立場にあります。ちなみに、HG仮面ライダーにデルザー軍団を加えたのは井上さんの仕掛けだったそうです。

<第1章> 商品企画
1.準備期間

 ガシャポンHGの企画は、発売の7ヶ月前。動き始めて6ヶ月間で販売に漕ぎ着けている。

2.ラインナップの決定

 基本的には、担当者の裁量に任せられている。ただし、営業部からの意見もあり調整が入ることも少なくない。アンケートは消費者の意見を聞く媒体として重視されている。アンケートの回収率は商品によって異なっている。その他、ラインナップの決定にはコストも考慮されている。HG仮面ライダーの例としては、ショッカー戦闘員を含める事で塗装コストが調整されていた。最近では、そのような調整は難しく、怪獣コンプリートスペシャル等は赤字商品となっている。

3.新キャラクターの資料

 TV放送に合わせた新キャラクターの発売は困難が伴う。資料として、デザイン画の他にスーツアクターに誰が起用されるかという情報も重要で、アクター(アクトレス)の体型も加味されて立体化に臨まれている。

4.プロダクションからの指示

 例えば、カラータイマーが赤色のウルトラマンは、プロダクションからは嫌われている。HGの場合、PART4初版のジャックやPART40のウルトラマンは、そういう制約を乗り越えて商品化された。ヒーローが不利な状態や情景の商品化には困難が伴っている(イマジネイションのマンVSゼットンは??)。

5.マン・セブンの出現率

 HGウルトラマンの場合、消費者の内訳としてヘビーユーザーとライトユーザーが高い比率を占めている。1パートでマン・セブンが抜けると、途端にライトユーザーの購買意欲が低下し、次パートの販売数にも影響が出ると事業部は分析している。そのため、マンとセブンの出現率が高くなっている。怪獣がコンプリートしたとしても再生計画やリアルバウトで、この先もラインナップの主力となるかもしれない。ウルトラマンジャクやエースについても、積極的に取り入れたい意向のあることが示唆された。


<第2章> 商品製造
1.原型師

 HG仮面ライダーとHGウルトラマンは、現在は1人の原型師が担当している。仮面ライダーではPART3辺りから、ウルトラマンではPART7・8以降から。(私が思うにライダーはPART2から?)原型製作時間は、1パート(6〜7種)のラインナップで一ヶ月という早さ。締め切りに間に合わない場合は別の原型師に頼むこともある。

2.原型のサイズ

 製品と等倍の原型を作成している。但し、キャストを抜く時に3%、金型から樹脂を抜く時に2%縮むので、結果的に原型は製品の105%の大きさである。ちなみに、ガンダムコレクションも等倍の原型が用意されているというから驚き。

3.分割

 基本的には工場に任せている。ただし、切って欲しくない部分は本社より指示がある。原型を損なわないことと、安全性を重視して分割位置が割り出されている。モールドの鋭さ加減や、子供が口に入れた時に飲み込まれにくい形状が考慮されている。モールドについては、センサー付きのチェック器具が使用されている。     

4.デジタル3Dスキャン

 デジタルスキャンは信頼性に欠けるので使っていない。例外的に、京本コレクションの国枝教授(京本正樹氏)は、ソフトボール大の胸像からデジタルスキャンによるダウンサイジングを行っている。またセーラームーン実写版も同様の手法が用いられた。過去の、MSセレクション17については、ポリゴンデータからではなく、ポリゴンに似せた等倍の原型が作られたそうだ。

5.塗装色の決定
        
 プロダクションに残されている写真資料と劇中のフィルム映像から知る彩色は、異なって見えることが多い。また、撮影中の補修による塗装の部分変化もある。このような事情から彩色の決定には困難が伴っている。言うまでも無く、コスト面や技術的側面も最終決定に大きく影響している。
 塗装を含めた製造前のチェックは、全てについて行われる。修正のあるテストショットについては、修正後に再度チェックされている。

6.塗装マスキング方法

 特殊な金属溶解液に型抜きした本体を入れると、表面に、銅の薄い皮膜が形成される。それを剥がし切り抜く事で、色毎の立体マスキングプレートができ上がる。それを一つずつ被せながら、流れ作業で彩色を行う。かつて、HGウルトラマンPART3のダダに44工程の塗装があると聞いて驚いたが、最近の仮面ライダーには48工程あるものも存在する。マスキングプレートは5回に1回洗浄する事がマニュアルに定められている。したがって、1回目と5回目とではマスキング境の鮮明度に僅かな相違が生じている可能性がある。

7.タンポ印刷の方法

 シルクにインクが乗っているものに、シリコンのタンポを押してから被写体へ転写する。転写の際、位置がずれないように「型」になっている。ちなみに、ガンダムコレクションはタンポ印刷が多用されている。

8.中国工場の様子

 香港北方に所在している。他社の委託工場も集中する。ベンダー事業部としては3ヶ月に1度くらい現地を視察している。現地駐在社員はいない。この時、テストショットの検査がまとめて行われる。本社に輸送するより短い時間で行うことができる。
 カプセルへの梱包も全て工場で行われる。ビニール袋への封入は、パーツの密着や摩擦を防ぐ以外、特に規定はない。カプセルについては、内部のボリュームにより開く可能性のある場合にテープ留めされる。なお、梱包時に作業員の髪の毛が入り込まないよう、ブロアが吹かれている。
 輸送は低コストの船便で行われるが、貨物コンテナの中は高温と低温という過酷な条件にさらされる。そのため、15〜80度の中で商品の耐久テストが繰り返され、問題が無いことを確認した上で梱包・出荷される。キャプテンハーロックが紙包みであったのは、ビニールの場合に艶消し黒が光沢に変化してしまうことが耐久テストによって確認されたため、この処置がとられた。


<第3章> その他
1.海外版について

 最近では、版権も海外で取れてしまうこともあり、例えば香港バンダイが商品化しているものなど、全て把握できていない。本社に対して、消費者から海外版の質問も寄せられるが回答に苦慮している。
 また、海外版についてもGASHA TECHで未確認なものも多々あるようである。HGウルトラマンの箱入り商品や、数々の塗装省略版、色違い版である。塗装省略については、出荷先の通貨事情による。すなわち、ガシャポンはベンダーマシンによるコイン販売が基本である。例えば通貨の単位が日本円にして200円に満たない場合、逆に商品のコストを調整してこれに合わせたものとなる。MSセレクション5の塗装省略版は、こうした事情で生産された商品という事が判明した。中には無彩色の状態で出荷されたものもあるという。また、出荷国によっては、塗料に含有される物質を禁止していることがあり、その場合、適応できる顔料を用いるために色調が変わってしまうこともあるらしい。

2.カプセルのリサイクル

 カプセル回収は、メーカーとしては行えていない。カプセルコストが省略できれば、塗装工程を15工程増やすことができるようなので侮れない。しかし、回収に係る費用の方が大きくなってしまうため、現実には不可能である。

3.新しい台座

 HGの台座は、過去には汎用品が多く実用的なものではなかった。最近、各キャラクターの専用台座として実用化した台座だが、これは実際に安定して飾ることができるよう配慮されたものである。ギャラリー枠のような台座は、フィギュアの大きさが制限されてしまうので全てに用いる事はない。

4.バンダイブランドの誇り

 バンダイは世界の子供に親しまれているメーカー。保護者から苦情が来るような情景の商品は作れない。一例として人殺しや流血、残酷な場面、あるいはアダルト風。美少女系も慎重な商品展開をしている。この辺りの倫理を貫いてこそ、安心のブランドを提供していることになる。

5.他事業部との関係

 お互いに、良い意味で刺激し合っている様子。情報や意見交換も行われている。ちなみに、キャンディ事業部のいわゆる「食玩」の方が薄利商品(原価が高い)という。すなわち、同じ定価の商品でもベンダー商品と比較すると少々良いものができていることになる。


2004.8.29作成