厳冬の北鎌尾根


1997年12月28日〜1998年1月1日
メンバー:井坂・伊藤・濱口・惠川

  12/27(土)

18:30新宿発のあずさに乗り信濃大町駅公園でテント泊

  12月28日(日)小雪のち晴れ

  七倉(6:55)/高瀬ダム(8:05)/湯俣(11:05)/千天出合(15:00)
P2基部(16:00)*幕営  信濃大町→七倉(タクシー5,310円)

  朝、4時30分に起床し、ストーブの入った駅の待合室で朝食を摂る。
長野県警山岳警備隊の方に登山計画を聞かれ今年の積雪状況を伺う。
こんなに雪が少ないのは珍しいそうだ。

予約しておいたタクシーは既に待機しているので早めにタクシーに乗る。

  七倉の補導センターでお茶をごちそうになり登山計画書を提出する。昨日は16名が北鎌へ向かったそうだ。
先のトンネルで準備をしていると続々とタクシーが到着する。

踝までの積雪の中もくもくと湯俣へと向かう。小雪はいつのまにかあがり、日が射してきた。
水量は11月とさほど変わらないように見える。途中からアイゼンを付け、凍った岩を攀じ登り、
トラーバースし、氷柱をくぐり、千天出合手前の徒渉個所に到着する。

お祈りもきかず、水はよどみなく流れていた・・。

男性はまたしても、パンツ姿。私はフリースを脱いで下着を捲り上げ入水する。
水量は膝上。11月より水は更に冷たい。渡り終わって足を拭いていると、
後続の3人パーティーが徒渉してきて、「登高研の方?」と聞かれた。ACMLのメンバーでいらっしゃる

大阪ぽっぽ会の大見さんとお会いした。
私も大見さんが北鎌へ入る事を事前に知っていたのでどこかでお会いするかな?と思っていたが、
どのパーティーがぽっぽ会かわからなかった。
大見さんは私がACMLに計画を出していたので4人で女性1人のパーティーを目当てに
声をかけてくださったそうだ。

ACMLに計画を出しておいてよかった。槍まで数日よろしくお願いします。
とご挨拶して、P2基部へと向かう。

二回目の徒渉個所に到着する。また、ここも靴を脱いで入水の刑だ。水量は膝くらい。
水からあがって、がっくりきた。ここを今日の宿とする。既に数張のテントがあった。

 12/29(月)晴れ

  P2基部(7:00)/P2( 9:20)/P5(12:20)/北鎌のコル(14:30)
P8手前(15:00)*幕営

  明るくなってからのスタート。今日は尾根に出る日だ。
P2までは急登と聞いていたので覚悟をするが、雪も少なく、
木の根もふんだんに露出していてさほど困難さはなかった。

上部見覚えのあるルート。夏に間違えたルートは途中からP3への登りルートに合流していたのだ。
なんて、オマヌケだったのだろうか・・。

空を見上げると青空が広がっていて気持ちがいい。
P5手前の夏に懸垂したところをやり過ごし基部で天上沢側に少し下降し、トラバースしてP5を巻く。
そこから直上し、今度は千丈沢側へでて、切れ落ちたルンゼをトラバースし、直上。
(下部はアイスと岩のミックス)しばらく稜線沿いに急登が続く。P7からの下降は懸垂をした。
懸垂下降の地点で熟年男女のパーティーに追いつく。
彼らは27日に入山したと言う。ラッセルが大変だったそうだ。 

北鎌のコルはさほど広くなく幕営の形跡もない。そこで、もう少し先に行ったコルを切ってテント場とする。
整地しているとあとから4人パーティーがやってきて我々もここに幕営していいかと聞く。
2張でコルは一杯。すぐ後からいらした大見さんは次のピークで幕営すると言って更に登っていった。
その後2パーティーも続いて行く。
明日は前線の通過で、天気は荒れる予報。

12/30(火)雪

  P7基部(7:00)/P8( 8:00)/独標基部(9:30)/独標ピーク(11:45)
P14基部(15:45)*幕営

  しょっぱなの急登を終えると大見さんが出発の準備をしていた。
ここでお会いしたのが最後となったがその後どうされたか・・?

先に進んでいた4人パーティーと熟年男女のパーティーを途中で追い越すと先にトレースはなくなった。
何回もの雪壁登りを繰り返し、独標の基部に到着。独標基部には停滞しているテントが一張り。
井坂は千丈沢側に回り込みルンゼを直登するルートをとろうとする。

これは失敗ルートファインディングだった。

窪みでビレーをするが、チリ雪崩が激しく井坂は埋まりながらのビレー。

ルンゼはブルーアイスとなっていてアイスクライミングを強いられる。
後続のパーティーも我々の後に続き待っていたがしびれをきらせ戻っていった。
独標の登りの途中に出ると、後ろで待っていたパーティーが既に登ってきていた。
素直に正面から取り付くのが正解。

なお、夏のトラバースルートは不可。雪と風はおさまらず、汗もでない。
P11は千丈沢側をトラバースするが、ここは雪が不安定で、足元が崩れそう。
非常に危ないので、ロープをフィックスした。

P13は夏はガレた登りだったが、氷結していて、ロープ&バイルを使った。
井坂は一人千丈沢側を回って登った。難なく登れたそうである。冬は千丈沢側を巻くのが正解のようだ。

痩せ尾根のアップダウンを繰り返し、P14のコルを切ってテント場とする。

今日は一日中雪が降り、寒さでエネルギーが消耗した。コルは風が強い。雪も止みそうにない。
夜半にテントが埋まりそうになって雪かきをした。

12/31(水) 強風 雪 後晴れ  気温マイナス20度

  P14基部(9:10)/北鎌平(10:30)/槍ピーク(12:40)/肩の小屋(14:20)
槍平(17:00)*幕営

  昨日からの雪、強風が収まらず、出発時間を遅らせ、激しくなるようだったら停滞とする。
しばらくすると太陽が出てきたのでテントをたたみ出発。青空が見えるものの相変わらず風は強い。
吹き飛ばされそうなナイフリッジ。執拗に現れるフロントポイントでの雪壁登り、

何百メートル下まで、急傾斜は続く。

  P15を登ったところで視界が開け、やっと槍が全貌を現した。
槍は青空の下、静かに我々が到着するのを待っている。
北鎌平は夏のほうが広く感じた。
一休みしていよいよ槍の登りにかかる。

途中まで行ってロープを出す事にした。雪壁、岩、アイスの急登だ。もう、脹脛がぱんぱん。
チムニーもアイスと化している。そして最後のピッチ。途中までくると雪をかぶった祠が見える。
やっと来た!感激で、足が動かない。北アルプスのパノラマの中、槍の頂上に立った。

  槍からはクライムダウンで肩の小屋へ降り、中崎尾根を使い槍平へ向かう。

槍平まで、これまた長く長く、到着した頃は夕暮れ。
安心して、食べて食べて食べまくり(まるでみんな餓鬼)紅白を聞いて就寝1時。今年も沢の水が取れた。

1/1(木)雪のち曇

  槍平(7:40)/新穂高温泉(10:30)   新穂高温泉12:00→平湯12:45(バス)
平湯→新島々(タクシー13,400円/トンネル通行料750円X2含む)

槍平から新穂高温泉へと向かう。無料の温泉に入り(前面ガラス窓がちょっと気になる)
平湯までバスに乗る。今年から安房トンネルが開通したので、松本から帰れる。
しかし、12:00の新穂高温泉発に乗ると平湯〜松本行きのバスの接続が悪く
2時間近くも平湯で待つ事になるので、
平湯からはタクシーを利用した。往復のトンネル通行料を取られるがその方が効率がよい。

まとめ:

  北鎌はアプローチが核心と言われているが、確かに夏は増水した沢の徒渉などからも同感。
しかし、(今年は雪が少なかったせいか?)
冬はやはり稜線に出てからのほうがはるかに危険度は高い。
アプローチは比ではないと思った。
ザイルワーク、アイスクライミング、安定したアイゼン歩行、体力、
そして精神力などを身に付けて挑まなければならない。と本に書いてあったが、
まさにその全てが要求された。自分の未熟さがあからさまになり、また反省。

  今回天気予報があまり良くなく、停滞もあるかと思ったが全日行動できてよかった。
けれども北鎌の風は強く冬山の厳しさを改めて痛感した。
はずかしながら私と伊藤は31日の気温の低下と強風により顔面軽度の凍傷となってしまった。

  北鎌は厳しかったけれど夏・冬とも期待を裏切らない素晴らしいルートだった。
槍に到着した時は嬉しさのあまり涙が出てしまい、メンバーに深く深く感謝した。


sawanosuke