夏の北鎌尾根


1997年7月19日〜1997年7月21日
メンバー:伊藤・惠川

北鎌へ行ってみたい!行ってみたいけど、アプローチはどういなっているんだろう・・
情報収集したけれど、聞けば聞くほどイメージはわかない・・行ってみるしかないネ!


とうとう「北鎌」へ行ける日がやってきた!


7月19日(土)晴れ

高瀬ダム(7:00)/湯俣(9:15)/ひねくれ橋跡(13:30)/千天出合(15:00)
P2取り付き(15:30)/テント場(17:00)


 7月18日18時30分新宿発のあずさに乗り込み信濃大町で下車。
駅でタクシーを予約、近くの公園にテントを張り就寝。
朝5時55分にタクシーに乗り込み七倉へ向かうと既に何台ものタクシーがゲートの前に列をつくっていた。
一社に5枚の通行券が渡され、券がないと高瀬ダムへは入れないそうである。
 したがって6台目は戻って来るのを待って高瀬ダムへ向かう事になる。
料金はどんなに待っても 7,840円

 待っている間に指導センターで計画書を提出して、アプローチの写真を見せてもらった。
昨日まで大量の雨が降っていたのでかなり増水があり、徒渉できないと思ったら戻る事をいわれた。 
(前日の降水量32ミリ)

 高瀬ダムでタクシーを降り、長いトンネルに入る。湯俣までは道も整備され快適な歩き。
湯俣を過ぎるととたんと道は悪くなる。アプローチが核心とはよく言ったものだ。

 草や木が生い茂り、あたりをおおいつくす熊笹でわずかなトレースも見失いそうだ。
途中何度かの斜面のトラバースは、土砂崩れで足を置くだけで滑って行く。

 フィックスロープのあるトラバースは岩が濡れているのでザイルを使用した。
水はごうごうと流れている。こんなでは徒渉も危うく感じる!

 そろそろ例の吊り橋のあたりかな? と思って歩いて行くと、前から男性2人組みのパーティーが戻ってきた。
徒渉地点を探しにきたとのこと。さらに進んでいくと対岸に吊り橋の残骸が無残に垂れ下がっている。
白濁した豪快な流れがわれわれの行く手をふさいだ。

 吊り橋の残骸から7〜8メートル先に3人パーティーが二組準備をしていた。
一組目が潔く飛び込みザイルを張り、ザックを渡している。
次のパーティーは女性がトップで行ったが 飛び込んだとたん水流に流され
水圧で岩に押し付けられ水面下に沈んで浮き上がってこなかった。
 みんなでザイルを引き手繰り寄せ無事だったがひやりとした。 
先ほど徒渉地点を探していた2人組パーティーはあきらめて敗退した!

 後からきた単独の男性を先に徒渉させてあげ、上下のカッパを着込みいよいよ私の番になる。
フィックスしたザイル(先行パーティーにお借りした)にビナ通しをし、
さらにザイルを体につけ万全の体勢で一呼吸。

 出だしは腰までだが、かなり流れの抵抗があり歩くのもやっとだ。
岩に攀じ登りそこから上流へ向かって飛び込む。
その時にザイルを強くひかれ深みの方へ行ってしまった。
あわてて足をつこうとしたが、背がたたず結局泳いで渡った。襟元から冷たい水が進入してくる。
濡れ鼠の9人がP2取り付き地点へと向かう。

 P2基部は倒木の上を馬乗り伏せ状態で渡って行く。5〜6メートル下を激流が流れる。
先行パーティーは冬ルートを行くつもりだというので、夏ルート予定の我々は倒木を渡らずさらに右岸を溯っていった。
 これが間違いだと気がつかずに・・

 やぶこぎの連続1時間30分の後河原にでる。対岸にケルンが見え、白いガレ沢が見えた。
ここが北鎌沢と勘違いして テント場とする!



7月20日(日)晴れ

テント場(6:40)/ガレ沢取り付き(7:00)/P3(11:00)/P8(15:00)/独標(17:00)
テント場(17:20)


 テント場から数メートルのところに直径20センチ長さ5メートルの倒木が対岸に渡っている。
しぶきがかかり滑り度100% そこを荷物を背負って渡らなくてはならない。
馬乗りになると激流に爪先がつきそうで、流れに飲み込まれてしまいそうだ。
滑ったら最後 流れにまかれ終わりだと思い生きた心地がしなかった。

 下半身ずぶ濡れになって1センチづつの前進だ。

 ガレ沢を空身で偵察して確信はなかったものの伊藤さんの絶対の自信から突き進む事にした。
炎天下のなかどこまでもガレは続く。
やがて二股に出て右へ入りさらにつめて行くあまり人が入った形跡がないのが気がかりで、岩
壁につきあたってしまったらどうしようと思った!

 しばらく行くと濡れたチムニーを登る事となってしまった。私はザイルを付けさせてもらったのだが、
濡れたフットホールドで足を滑らせ落ちてしまい、両腕広範囲に擦過傷!

 その後は木登りや、やぶこぎの連続で 4時間を費やし稜線にでる。
ごみやたばこの吸い殻が落ちていたので北鎌の稜線だと確信してほっとする。
この時点で北鎌のコルに出たものと思い込む。小さなピークが連続して前方に大きなピークが見えた。
これが独標と思い、ここが超えられれば槍が見えると勇んで超したが、槍の穂先も見えないではないか・・ 。

 我々が稜線に出たところはP2とP3の間であった事がわかりがっかりした。
こんな事なら素直にP2から取り付いた方がはるかによかったと思ったって後の祭り。

 お天気がいいのはありがたいが がんがんと日差しは厳しい 時々出てくる這松が先ほど受けた生傷に刺さる。 

 今日中に槍に抜けるのは夢の話となってしまった。せめて独標を抜けようと頑張った。
独標は千丈沢側を大きく巻くルートをとる。ガレ場が続き、 疲れた体にはいやらしい!

 山の上部にはガスがかかっていて槍の姿は見えない。ここは本当に独標だろうか・・。
独標を降りきったところのルート上にわずかな場所が整地されていたのでテント場とする。
夕食を考えるが、二人共全く食欲がない。抜けるつもりでいたので水の使用も厳しい制限が必要だ。

 伊藤さんが持ってきたパイナップルの缶詰がなんとありがたかった事! ふた切れずつ味わいながらいただいた!
固形物を取るより水を飲みたかったのでココアや紅茶を飲んで早めに就寝する事にした。



7月21日(月)晴れ

テント場(5:40)/北鎌平(8:00)/槍頂上(8:55)

 稜線上でしかもテントの左右は切れ落ちているからさぞかし風が強いだろうと思ったがほとんど風もなく暑かった。
いつもなら一晩でかなりテントが濡れるのにさらさらに乾いていたのには意外だった。
朝も焼きそばを作るが私は相変わらず食欲がなく水分しか取れなかった。

 朝焼けの中槍に向けて出発。目の前の小ピークを超えるとついに槍が現れた。
稜線に出て、初めて槍の全貌が見えたので意欲が沸き上がる。

 しかし到達するまでにはいくつものピークを超えて行かなくてはならない。食事をとっていないので気を抜いた
らまずい。初めは私がトップを行ったが、自信がないのでトップを交代してもらった。2級程度の岩登りであるが、
岩がもろく大きな岩でも引っ張るとすぽっと抜けそうで恐い。

 足を置くとがらがらと崩れる。昨年夏に登攀した滝谷のクラック尾根を思い出し、
どのホールドも信用できなくなった、
ハングした岩につかまりながらのトラバース体をふった時にザックを岩にぶつけバランスを崩さないように慎重に行う。
可憐な高山植物を見て心を落ち着かせる。(見た事がない花が沢山!)

 全てピークを踏んで行くのかと思ったが、ほとんどが千丈沢側をまいて通過した。
北鎌平の手前にロールマットをつけた赤いザックが放置されていた。
昨年の小林さんの記録で出てきた捨ててあったザックはこれかな?と思った。

 北鎌平はごろごろの石からなり、雪がついたらさぞかし沢山のテントが張れることだろう。
しかし、石の間に沢山のゴミが捨てられていて悲しかった。

 槍の頂上は遠い。一歩一歩ゆっくり詰めて行く。チムニーの個所に出た。
伊藤さんはまいてチムニー上に出た。
私はチムニーを行くつもりでいたら、上から“ザイルをだすよ”という声。
私がバテ気味なのを考慮しての計らいだ。 感謝して甘える事にした。
登り終わるとザイルをたたんでから行くから先に行ってくれと言う

 右から回り込むと頭上に一眼レフを構えた登山者が見えた。頂上なんだ・・!

 ここまでリードで行ってくれた伊藤さんより先に私が頂上を踏む事はできない!
ザイルをたたむのを待ち伊藤さんにピークを踏んでもらって、私が続く。

 祠を目の前にして、カタカナで“キタカマ”と書かれた岩に手をかけ、見慣れた場所へ足を踏み入れる。
ついに自分の足で歩いて来たのだと思ったとたん胸がいっぱいになった。

 2日半かけて歩いてきた北鎌のルートを振り返り、長かった道のりを思い返した。
しばし感激に浸ったあと、肩の小屋に降り即牛乳を喉に流し込んだ。
自由に水分を補給できるありがたさをかみしめながら。

 やっと念願の北鎌を歩いた 積雪期ではないので時間的に余裕が有ると見てあわよくば涸沢から、今夏入る予定
の前穂登攀に備え、奥又白を経由して上高地に降りようと思っていましたが考えが甘すぎました。
抜けられると思っていたので水の量も少なすぎました。

 食欲がなくなり食事をとらずに行動したのもかなり危険だったと反省しています。
体力の無さが一番の原因だと思いますがどんな状態でも喉をとおる食事をもう一度考え直さないといけないと思いました。
徒渉についても先行パーティーがいなかったらわれわれも敗退の道をたどったかもしれません。

 今回の北鎌は、私にとってはとても良い勉強の場となり、到達出来て非常にうれしく思います。
私はまだ積雪期の北鎌経験はないのですが、きっともっと素晴らしいルートになるのだろうと思いました。
いつの日か雪の北鎌へ入れる日を夢見て頑張りたいと思います。

 最後に色々な個所で暖かい配慮をしてくれヨレる寸前の私を槍の頂上へ導いてくれた
よきパートナー伊藤さんに深く感謝したいと思います!

sawanosuke