南ア/北岳バットレス・ピラミッドフェース〜中央稜

2002年8月31日〜9月1日
メンバー:
藪内・他1名


北岳バットレス中央稜は前々から気になっていたルートだった。
四尾根からは嫌でも目に入る暗くてがらがらのCガリー。
ガリーを詰めた一番先にはハングを連ねて聳え立つ威圧感のあるリッジ。
傾斜も強く陰鬱に真っ直ぐに頂上へ向けて付き上げている。

中央稜を登るには四尾根から継続するのが一般的だが、既に二回も登っている四尾根から単純に継続するのは面白くない。
中央稜だけならCガリーを延々と詰める手もあるがそれも面白くない。
混むとヘッデンで下りなくてはならなくなる。
二日目のルートも悩ましい。
などなどとルート選定には悩んだ挙句(これが楽しかったりするんだが)
一日目はピラミッドフェイスから四尾根への継続し、終了点でビバーク。
二日目に下降して中央稜に取付くことにした。
これなら四尾根が混んでもどうにでもなるし、二日目も楽ちん。
宿題になっていたピラミッドフェイスも一遍に攀る欲張りな計画。
水を背負ってのV級には少々不安があるが、楽しそうである。


8月30日(金)曇り時々晴れ

この日は宇都宮出張、でも前週から分かっていたこのなので、装備は前週の水無川本谷遡行までに全部まとめて預けてある。
でもさすがにネクタイで出る気にはなれず、トレッキングシューズを履いて小さいザックを担いでの出張。
なかなかふざけたいでたちだとは思うが勘弁してもらおう。

三鷹駅で待合せて一路広河原へ、到着は23:00。
駐車場は既に一杯。さすがに人気の山だ。
空きを見つけて幕を張り、明日は早いと早々に寝る。


8月31日(土)晴れのちガスでもやっぱり時々晴れ

広河原(4:30)〜D沢(7:10)〜ピラミッドフェイス取り付き(8:00)〜四尾根合流(12:50)〜四尾根終了点(15:00)

混むのを恐れての早発ちだったが、クライマーの姿を全く見ないまま取付きへ。
ゆっくり仕度をして今回はピラミッドフェイスの末端から攀り始める。
最近のガイドではピラミッドフェイスの下部は崩壊していて危ないので、下部岩壁の上部は横断バンドまで草付きを登れと書いてあるが、
それでは面白くないので昔のIV級のピッチを忠実にひろう。快適。
2〜3年前に崩壊した横断バンドは、不安定に残っていた大岩も既になく、浮石もほぼ落ちていて、ザレと小さな浮石に注意すれば特に問題なし。
とは言っても後続がいる場合には細心の注意が必要ではあるが。
この辺で後続が2パーティー取付きへ向かっているのが見える。
しっかしガラガラっちゅうか、貸切り状態、こんなことがあるんだねぇ。

ここからピラミッドフェイスの核心。
まずはジェードルとクラックのV級。二年前に時間切れで敗退したピッチ。
残置が少ないのでナッツとカムを駆使。
快調にフリーで抜けて次は逆層のフェイスのIV+、ここも問題無く抜けるが、
この辺でオールトップで攀っていたこともあって、さすがに疲れが出始める。
次も逆層のフェイスIV+、取付きから続く逆層フェイスの連続に少々飽き、「またかいな」と攀り始めたら、あっと思った瞬間足が外れた。
きっちり止めてもらったものの、久々に本ちゃんで落っこちて、疲れとびびりとで次のV級のピッチはめろめろになっちまった。
特に上部の凹角は残置も少なく、ナッツとカムでA0、情けない限り、
左のフェイス側に足を出せばフリクションが効くだろうと頭では分かっても、
足裏のフリクションが信じられない精神状態になっているのでどうにもならず。

もう1ピッチ右上気味にザイルを延ばすと四尾根に合流。
ここまで難度の高いピッチを攀ってきたので、ほとんど散歩道に感じる。
ここからはつるべに切り替える、核心の3mほどのV級は相棒にお任せ、
彼はいとも簡単にフリーで越えるが、ぼくはどうにもならずここもA0、セカンドでA0かよ・・
いつもフリーで越えているのに、がっくりするなぁ・・

終了点到着は午後三時過ぎ、中央稜継続も考えたが、
時間も少し遅いので、予定通りビバーク体制に入る。は実は嘘でテントを担ぎ上げたのだった。
とは言えシュラフは当然のように省略、軽量化のためにアルコールも省略。
しかし時間も早いし、アルコールがないとどうも落ち着かない。

相棒はフルマラソンは走るわ、泳ぎもするわの体力抜群男、
「肩の小屋までビールを買いに行くなら俺は止めない」という強引な発言に、「仕方ないですねぇ」と一時間で500mlのビールが四本届けられた。感謝。
ちなみに彼が走っているあいだぼくはテントの中でしばしの昼寝。

結局後続は終了点に六時過ぎについた1パーティのみ。
あとの1パーティーはフランケ方面に入り途中で降りたらしい。
ビバークのパーティーが他にいるかとも思ったがそれもなく、夕方になって雲も下がり、
富士山を真ん前に眺めながら抜群の展望の中就寝。


9月1日(日)晴れ

四尾根終了点(5:10)〜中央稜取付き(6:00)〜北岳山頂(8:50)〜09:30四尾根終了点(9:30)
八本歯のコル(10:40)〜広河原(12:50)

早朝の外気温は夕方と同じ8℃。
夜明け前に雷鳥が二羽遊びに来てくれた。
北岳で雷鳥を見るのは初めて、全然期待してなかったのでちょっと感激。

中央稜の取付きへはまず枯れ木テラスまでクライムダウン。そこから懸垂。
50mザイル2本なら1ピッチで下りきることは可能だが、途中でザイルがくわれそうなクラックがあるので、
中間の懸垂支点で切って、2ピッチにした方が確実かも知れない。
取付いた頃に後続が枯れ木テラスに登場。前夜はどこにいたんだろう?
さらに続々と後続がマッチ箱に上がってくる。
今日は多いねぇと吃驚。

中央稜の1ピッチ目は残置の少ないフェイスを直上し、かぶったフェイスをトラバース、最初の一手が少々微妙。
抜け口に残置シュリンゲのぶら下がったピンがある。
ザイルの流れが悪くなるのを気にし、抜けたところの小テラスをやり過ごして2ピッチ目のリンネの入り口まで進み
ピッチを切るがあまり支点が良くない。
やはり手前のテラスで切るのが正解か。

2ピッチ目は相棒がトップ。
第2ハングに突き当たったら右へトラバース、
突き当たる前に右上気味にルートも取れる。だんだん高度感が出てくる。

核心の3ピッチ目は第2ハングの切れ目を探しながら、さらにスラブ状を右へトラバース。
スタンスが豊富だが高度感があり痺れる。
越沢の2スラブあたりを登りこんでいればなんてことはないんだろうけど、鈍りきった高度感にはなかなか厳しいものがある。
第2ハングには三箇所ほど越えられそうなところがあるが、
ぼくは最初の残置シュリンゲの下がったところをやり過ごし二つ目を越えた。
スタンス、ホールド共に豊富なので、思い切って行けば特に問題はないが、
出口近くの右のホールドが「ぐらっ」としたのにはちょっとどきっ。

顕著なリッジまでザイルを延ばし相棒と交替。
次のピッチは傾斜は緩いが浮石が多く、しかもザレている。
油断せずにザレの終わるところまで延ばした方が安全。
立ち木でビレイ可。
あとは山頂までしばしの散歩。直接頂上へ突上げるのは気分が良い。
登山者の皆さんが拍手で迎えてくれた。なんだか得意な気分、えっへん。

あとは四尾根終了点まで戻って残置品を回収し下山するだけ。
下山途中に見た四尾根は各テラスで順番待ちが鈴なり。
ビバークは正解だったねと超特急で飛ばし、広河原まで二時間で到着。


<藪内:記>