ぶらっど でぃちゅく。 (Blood Disc オマケ) 





 ー 『すこぶる 3組。』というTV番組が、ウチの工房に取材にやって来た。 ー





お姉さん:「はーい!よいこのみんなぁ〜元気〜?

孫だからって、年寄りに年金たかっちゃダメだぞ〜♪

今日は『日本一スリリングな貧乏街で働く大人』を見学していくよ!

幼児共〜はぐれると二度とお日様の光、浴びれなくなるから、積極的にお姉さんについておいで〜」




幼児:「「「「「「はーい!」」」」」」





お姉さん:「はーい!本日は、ロボット工房の技術者・黒牢さん(仮名)の仕事ぶりを見学するよぉ〜!


 はい!本日はよろしくお願いします!」



幼児:「「よ「「「よーろーしーく・おーねーがーいしーますッ」」」す」」




黒牢:「はい、どーも。」

ミコ:『よろしくお願いします。』


お姉さん:「あれ?…そちらの女の子は、助手の方ですかぁ?」


ミコ:『いえ、愛人です。』






  ー CUT! ー






ディレクター:「あの、黒牢さん…一応、子供向けなんで…女の子が愛人と言い切られるのはちょっと…」

黒牢:「いや、あれはロボットよ。」

ミコ:『ロボの愛人です。愛液も出ます。』


ディレクター:「・・・・・・・。」


黒牢:「ほーら、皆さん困ってらっしゃるでしょ…もう、その”風俗ギャグ”で客を和ませるの止めなさい。

 大体、若い童貞男とオッサンにしかウケないんだから。」


ミコ:『会場のドン引きの空気、確認しました。以後気をつけます。』


黒牢:「はい、よかったよかった。あー、じゃあ、コイツは…助手役って事で。」


ディレクター:「あぁ…はい、ロボットの助手って事で…」


ミコ:『わかりました。一時的に、愛人=助手という形をとります。』


黒牢:「・・・何にも解ってないよ。助手オンリー」


ミコ:『了解しました。』




  ー TAKE2 ー



お姉さん:「今日は、ロボット工房の技術者・黒牢さん(仮名)の仕事ぶりを見学するよぉ〜!

 はい!本日はよろしくお願いします!」


幼児:「「よ「「「よーろーしーく・おーねーがーいしーますッ…」」」す」」


黒牢:「はい、どーも。」


お姉さん:「そして、こちらは”助手ロボット”のミコちゃん、だそうです!」


ミコ:『よろしくお願いします。』


幼児:「「よ「「「よーろーしーく・おーねーがーいしーますッ…」」」す」」


お姉さん:「…早速ですが、黒牢さん(仮名)は、どんなお仕事をしているんでしょうか?」


黒牢:「壊れたロボットを直したり、ロボットのお掃除やメンテナンス、改造をしています。」


お姉さん:「ちなみに、ミコちゃんは何をしているんですか?」


ミコ:『主に、黒牢の性欲を満たすお手伝いを中心に活動してます。最近は性感マッサー』





  ー CUT!! ー





ディレクター:「あの、黒牢さん…一応、子供向けなんで…性的な話はちょっと…」


黒牢:「すいません。基本プログラムが、風俗ロボットなものでして。」


ミコ:『申し訳ありません。基本がドエロボットです。』


ディレクター:「いや、潔いのは良いんですけど…真顔で言われても、困ります。」


黒牢:「ミコ、ギャグじゃなくても、性的な話はNGだ。いいね?」

ミコ:『了解しました。性的な話はNG。』




  ー TAKE3 ー



お姉さん:「今日は、ロボット工房の技術者・黒牢さん(仮名)の仕事ぶりを見学するよぉ〜!

 はい!本日はよろしくお願いします!」


幼児:「「よ「「「よーろーしーく・おーねーがーいしーますッ…」」」す」」


黒牢:「はーい、どーも。」


お姉さん:「そして、こちらは”助手ロボット”のミコちゃん、だそうです!」


ミコ:『よろしくお願いします。』


幼児:「「よ「「「よーろーしーく・おーねーがーいしーますッ…」」」す」」


お姉さん:「…早速ですが、黒牢さん(仮名)は、どんなお仕事をしているんでしょうか?」


黒牢:「壊れたロボットを直したり、ロボットの掃除やメンテナンス等をしてます。」


お姉さん:「ちなみに、ミコちゃんはどんなお手伝いをしてるんでしょうか?」


ミコ:『黒牢が作業しやすいように、工房の中を掃除したり、作業着の洗濯をしたり

 黒牢の休憩の際は、コーヒーを淹れています。』


お姉さん:「へぇ〜そうなんだ〜…じゃあ、黒牢さん(仮名)に〜…質問ある人!手ぇ挙げて!!」



幼児:「「「「「はい!はい!はい!はいは〜い!!」」」」」



黒牢:「…うるっせえぇえッ!!甲高い声で、はしゃぐなッ!解体するぞッ!!」





   ー CUT!!! ー





ディレクター:「あの、黒牢さん…一応、子供向けなんで…子供にマジギレされるのはちょっと…。」

黒牢:「すいません…モスキート音と同じくらい、子供のテンション上がった声が嫌いなもんで、つい…」


ミコ:『黒牢、2〜3人ほど排除しましょうか?』

黒牢:「あ、いいね。それ。」


ディレクター:「いや、良くねえよ!!」


黒牢・ミコ:「『ジョークです。』」


ディレクター:「笑えねえ!!」





  ー TAKE4 ー




お姉さん:「今日は、ロボット工房の技術者・黒牢さん(仮名)の仕事ぶりを見学するよぉ〜!

 はい!本日はよろしくお願いします!」


幼児:「「よ「「「よーろーしーく・おーねーがーいしーますッ…」」」す」」


黒牢:「はいはい。」


お姉さん:「そして、こちらは”助手ロボット”のミコちゃん、だそうです!!」


ミコ:『よろしくお願いします。』


幼児:「「よ「「「よーろーしーく・おーねーがーいしーますッ…」」」す」」


お姉さん:「早速ですが、黒牢さん(仮名)は、どんなお仕事をしているんでしょうか?」


黒牢:「壊れたロボットを直したり、ロボットの…お世話をしてます。」


お姉さん:「ちなみに、ミコちゃんはどんなお手伝いをしてるんでしょうか?(面倒臭くなって、台詞短くしやがった…!)」


ミコ:『黒牢が作業しやすいように、工房の中を掃除したり、作業着の洗濯をしたり

黒牢の休憩の際は、コーヒーを淹れています。』


お姉さん:「へぇ〜そうなんだ〜…じゃあ、黒牢さん(仮名)に〜…質問…」



幼児:「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」


お姉さん:「じ、じゃあ、お姉さんから質問しちゃおうかな〜!

 お2人にとって、ロボットのお仕事は…どういう所が魅力的ですか?」




黒牢:「金になるところ。」

ミコ:『性的快感が得られるところですね。』





   ー CUT!!撤収!! ー





黒牢:「…ミコ。」

ミコ:『はい。』


黒牢:「TVは映るもんじゃないな。観るもんだわ。やっぱ。」

ミコ:『…学習しました。』






[ ぶらっど でぃちゅく。 オマケ・・・ END ]









ぶらっど でぃちゅく。 (Blood Disc オマケ2) 








あたしの名前は、凜(りん)。パーツ屋の娘。 それ以外は特に自己紹介無し。 

知らないの?この街じゃ、趣味とかそんなのはね、自己紹介にもならないの。

名前、職業、素性が少し見えればいいの。



・・・だけど。




「黒牢、初仕事だぜ。娘の玩具なんだが、直しちゃくれねえか?」

「…初仕事なら、今終わらせたわ。情報屋の婆さんとこの、珈琲マシン直してきたところ。」


わたしが9歳の頃。


お父さんに連れて行かれたのは、薄汚れた機械と埃と変な臭いのする小さな工房だった。

子供の目からみれば、薄暗い場所でみる動かないロボット達は、ものすごく怖い存在だった。


その中心で、汚い作業着を着た若い女の人…それが黒牢だった。

手でスパナをクルクル回しているのが、カッコよく見えて、女なのにロボット直しちゃうんだなんて子供心に感心していた。

だが、黒牢は無愛想な顔で私をチラリとみると、”げ、子供だ”と呟いてそっぽを向いた。


・・・ちょっと、ムカッとした。


「じゃあ、2番目の客って事で頼むわ。」

「モノは?」


「…これだ。期限はいつでもいいが、なるべく早く頼む。」


そう言ってお父さんは、私の大切にしていた”オルガ”を差し出した。

オルガは私の友達のロボット犬だった。

この間の私の誕生日に、無理を言ってお父さんに買ってもらった、当時の高級品だった。


本物ソックリのロボット犬。

ロボットに寿命は無いに等しい。メンテナンスと電気があれば、オルガは私の傍にずっといるのだ。


だが、今は動かない。


「・・・・・・元は何?頭、ぺしゃんこじゃないの。」

「なんでも、近所の悪ガキにやられちまったらしくてな。元は、犬型ロボットだ…」


黒牢は、オルガを片手で拾い上げるとじっと見て、しばらく黙ってから


「・・・・・・無理。AIが完全につぶれてる。」


ときっぱり言い切った。

私はそれを聞いた途端、うずくまって泣いた。お父さんは、それを見て、頭をかきながら”うーん”と唸った。


「どうにか・・・どうにか、ならねえか?」

「…とっつあんには悪いけど、ロボットだからって、どうにかなるもんじゃないわ。普通の犬だって、こんな風に潰されりゃ死ぬわよ。」


死ぬ、という単語に反応して私はわーわー泣き喚いた。


「黒牢、娘を泣かすな!言葉を選びやがれ!」


お父さんの怒鳴り声にますます私は泣いた。

耳を塞ぎながら、黒牢はこう言った。


「しょうがないじゃないの。AIが潰されたら、全部パアに決まってるじゃない。これはもう鉄屑だって。」

「黒牢!テメエ!」


私は言い訳をして、素直にオルガを直そうとしない黒牢を”コイツ、全然ダメじゃん”と泣きながら思った。

やはり、こんな街では、直し屋なんて呼ばれているヤツだって、この程度なんだ。

こんな街にいる人間は、全員ろくでもない。


下品で、汚くて、すぐに嘘を付くし、そのくせ人を嘲笑うくせに、馬鹿ばっかりだ。

目の前にいる黒牢という若い女の人だって…きっと馬鹿なんだ。



「…そうは言っても、コイツを直すって事は、AIも取り替えるって事なんだから

完全にコイツを殺す事になるのよ。」


黒牢のその言葉に私は顔を上げた。


「……え?」


「コイツが、お嬢ちゃんと経験してきたメモリー…つまり”思い出”も取り替えるの。コイツが直ったら、お嬢ちゃんの記憶は、コイツの頭には無いの。

見た目は一緒に出来ても、全く別のロボット犬なのよ。」


黒牢は私の前に跪くと、ゆっくり、そしてしっかりととオルガの死を告げた。


「…コイツは、死んだの。可哀相だけど”元”には戻せない。」


真っ直ぐ射抜くような黒牢の視線に、私の心にすぐに”罪悪感”が襲ってきた。

それを振り切るように私は叫んだ。


「い、いいから直して!直し屋でしょッ!?半人前だから、直せないだけなんでしょッ!?」

私がそう言うと、黒牢は怒りをあらわにした。


「・・・こンのクソガ・・・”ゴンッ”・・・いでッ!?」


しかし、お父さんの拳骨が炸裂。ザマーミロだ。


「…という訳だ、直してくれ。黒牢。…あと今度、俺の娘をクソガキ呼ばわりしたら…



・・・・・・・・・手足バラして、野犬の前に放り投げるからな・・・。」



「…わ・か・り・ま・し・た。直させていただきます…。」

黒牢は不満いっぱいの顔でぺこりと頭を下げると、オルガを手術台のような場所に寝かせた。
それを見ながら、お父さんは苦笑しながら言った。

「最初からそう言えばいいんだよ。変な所も親方に似たな、オマエさんは。」

黒牢の親方は、つい最近死んでしまったらしく、その頃からこの工房は黒牢がたった一人で経営している。

「商売下手って言って頂戴よ。」


そう言って、黒牢はオルガのつぶれた首を真っ二つに斬った。

私は、それを黙って見ていた。



次の日、私は黒牢の工房へ一人で出かけた。



「…見ていい?」と聞くと、黒牢は「どーぞ」と素っ気無く言い、しかし手は休む事無く動かしていた。


「・・・直りそう?」

「ロボット犬の修理なら、ね。オルガとしては、無理だけど。」

棘のある言葉に私は、またもムッとした。


「…どう違うのよ。」

「…わからないのなら、これから知ればいい。」


「…どういう意味よ。」

「だから、それもこれから知る事になるでしょうよ、と。」


「…お父さんに言うわよ。」

「こっちも、お父さんに言ってやってもいいんだぞ。」

黒牢の声が、急に低くなって、私は恐る恐る尋ねた。


「・・・何を?」

「コイツの頭を潰したのは、近所の悪ガキじゃない・・・・・オマエだって事。」


「・・・・・・!」


「…壊してみて、初めて解っただろう?…罪悪感ってヤツ。」


そう言って、振り向いた黒牢の目は、無表情なのに、怖かった。


「…子供が潰したにしては、力が強すぎるし、第一…お嬢ちゃんの目を見ていればわかる。」


「…な、なによ…。」


私がやっとの思いでそう言うと、黒牢はふうっと息を吐いて、声の調子を戻した。


「…安心しなよ。私は別に、ロボットを壊したからって叱ったりなんかしないよ。

ロボットは壊れるもんだし、人間だっていつかは死ぬもんだし、殺される事もあるから。」

「……。」

「…だけど、一つ覚えておきな。

いくら泣いても、後悔しても、戻ってこないモノがこの世にはあるって事。」


…そんな事は解っている…つもりだった。

オルガはロボットだ。直るに決まっている。どんな形でも、オルガが直れば私はそれで良かった…。

オルガが元に戻れば、元の生活に戻れると思っていた。


「…だ、だから直してって・・・」

「だから、コイツはもう…オルガじゃない。」


そう言って、黒牢はすっかり元通りになった犬型ロボットの電源を入れた。


『ワン!』


オルガのように、啼く犬型ロボット。頭以外はオルガのまま。

変わったのは頭だけ。だが、私は、何故か触れられなかった。


「・・・・・・。」


「…オルガって登録は一応した。呼んでご覧。」


「・・・・お、オルガ。」


『ワンッワンッ!』

私の声に反応してか、オルガという単語に反応したのか、犬型ロボットは啼いた。

私は無言でオルガに似た犬型ロボットを見つめた。

それを見た黒牢は、静かに言った。


「…元のオルガに似せて調教は出来るわ。ただ、AIは違うからね、オルガの頃についていた細かい癖とかも似せるなら、一からやり直しよ。」

私は、オルガの得意技のジャンプを命じた。

「……オルガ…ジャンプ…」

『……。』

しかし、オルガは反応しなかった。AIを変えた事の重要性に気付いたのは、ここでだった。

後悔しても、もう遅い。あの時、頭が潰れた時から、オルガはもういなかった。


違う。頭が少しピカピカしているだけの違いに見えたが、中身は全く違っていた。

尻尾の振り方も、似ているけれど、違う。オルガと呼んだ時の反応だって…上手くいえないけれど、違う。


やっと…黒牢が言った『可哀相だけど”元”には戻せない』と言う意味が、今になって解って、今になって、身体中に突き刺さるように痛かった。


「オルガ…。」『…ワンッ!』


違う。このロボットは、違う。

ぺしゃんこになった犬の頭さえ直れば、オルガは、戻ってくると思っていた。

でも、オルガは、もういないんだ…。

私は、泣きながら、オルガに似たロボット犬の前に膝をついた。


「………っ…オルガ…ゴメンね…オルガ、ゴメンねッ!!」

『くぅ〜ん…?』


そして、私は黒牢に全てを話した。


「…近所の奴らに馬鹿にされたの…ロボット犬なのに、オルガは馬鹿だって…

馬鹿はあいつらの方なのに…だから、私…あいつらを噛めってオルガをけしかけたの…」


「…うーん…ロボット犬に、人間を襲う機能はないからねぇ…それはちょっと難しい注文だったね。」


「そしたら…オルガ、動くのを止めて…車に轢かれて…私が…あんな命令しなければ…!

お父さんに誕生日に無理言って、せっかく買ってもらったのに…だから、私…私…」


「近所の悪ガキのせいにして、元通りに直してもらおうとしたの?」

「・・・うん。」


「お嬢ちゃんは、お父さんに正直に謝る事なく、そして、コイツの存在を消す選択をしたんだ。

もう、解るだろう?コイツは、オルガに似ているけど、もうオルガじゃないのは。」


「・・・うん・・・。」


「見て…これがオルガのAI…。」

「……。」

オルガのAIは、曲がって、右端が少し捻れていた。


「解るね?…オルガが…元通りに、ならない事は。」

「うん…ごめんなさい…」


それを聞くと、黒牢はぱんっと膝を叩いて、犬型ロボットを抱き上げた。


「よし…コレ、もう一度だけ、入れてみよう…多分、数分持つかわからないけど、一回だけ起動出来るはずだから。」

「本当!?それって…オルガに会えるって事?」

「ただし、一度だけ。直る訳じゃないし…一度電源が落ちたら、もう二度と起動できない。

それでもいいのなら。オルガに言いたい事、あるだろう?」


私の答えは決まっていた。


「…会いたい…謝りたい…ちゃんと、頭も撫でてあげたい…」


「・・・ok ちょっと待ってて…。」


そして、私はオルガと最後の対面をした。

やはりオルガのAIは私をちゃんと覚えていて、私がゴメンねと言って頭を撫でるととても嬉しそうに尻尾を振った。

そして、私の『ありがとう』の”が”を言ったところでプスンという音と共に、オルガは崩れ落ちた。

私は、黒牢に頼んでオルガのAIをその場で貰う事にした。

黒牢は、AIチップを加工してペンダントにしてくれた。

そして、泣きっぱなしの私の頭を優しく撫でると、あんなに無愛想だった表情を柔らかい微笑みに変えて言った。



「・・・また、おいで。」


黒牢の腕は細いのに、何故かその時とてもたくましく見えた。うっすら滲んだ首筋の汗も。




…それ以来…。



「まぁた!どうして、いっつもこうなのよ!人が片付けてもすぐに!魔窟か豚小屋じゃない!」


「…まーた来た…うるさいなぁ…今日は、パーツの配達じゃないじゃん…」


黒牢が、あの日”またおいで”って言ったから今日もこうして来てやっている。

ちなみにオルガのボディは、そのまま持ち帰って、今も私の机の上に飾ってある。

動かなくなっても…これ以上、オルガは失いたくなかったからだ。


「そうよ、悪い?…掃除しに来てあげたんだからね!」


「ありがとーごぜーますぅ…」


埃っぽい部屋を掃除していると、時たま服の中に入れているハズのAIペンダントがひょいと飛び出て来る。


「ねえ、黒牢…」

「んー?」


「コレ、覚えてる?」


ふと私はペンダントを、黒牢に見せてみる。黒牢の事だから覚えてなさそうな気がするけど…と思いつつ私は答えを待った。


「………ああ…あん時のAIチップか。」

「覚えて、たんだ…」


初めての出会いを覚えてくれているのは、嬉しい。


「まァ…忘れる必要ないじゃない。」

「そ、そっか…」


私だって、忘れられない。だって。あの日から、私は黒牢の事が…


「なんたって……凜の弱みだからね。」

「・・・・・・・・・はぁ?」


「ロボット犬壊したの、まだ秘密にしてるんでしょ?とっつあんに」


私は溜息をついた。


「・・・・・・・ばーか。」


「何よ、そのバカって言い方…ムカつく。」


「もーいいですー。」


この街の住人は下品で馬鹿ばっかりだ。

でも、その中にはそんなヤツばかりじゃなくて。


私が見下げようとしても、見下げ切れない…愛しい人間が住んでいるスリリングな街だ。


この街じゃ、趣味とかそんなのは、自己紹介にもならないの。

名前、職業、素性が少し見えればいいの。


でもね…


その”少し”が見えたから…私は、黒牢が…。



「あ、そこ触るな。」

「じゃあ、自分で掃除くらいしなさいよッ!黒牢!」



・・・私は、黒牢の事がもっと知りたくて、今日もココに、来ている。



― END ―





”BloodDisc”のお話は、意外と好評で、小ネタを作ってみました。

しかし、いずれまた…突発的に。

長いお話で彼女達に会える…かもしれません。



つまり、書いてるんだけど、出来てない、という事ですね(笑)