[ 傘がなくて堕天した。 ]






私こと、津島善子は、ツイてない。

不運だ。

道を歩いてたら、犬に吠えられて、溝に嵌る。

猫に頭に乗っかられて、バランスを崩して転んだ先の自転車を全てなぎ倒す。

新商品のお菓子を買って食べて美味しかったのに、大半が製造中止になる。


「あーあ…。」



さっきまで晴れていたのに、私が帰る時に雨が降る事なんか、日常茶飯事。

まあ、この程度の小降りなら、走ってバス停まで…




”ざああああああああああああ”



すんごい雨降ってる…。


校門へ向かっていた女生徒達が悲鳴を上げて、校舎に戻ってくる。


「きゃー!やっばーい!」

「こりゃ酷いわー!」

「ずぶ濡れ必須ー!!」


校門に行こうとして、戻ってきただけで、あんなに制服が濡れるなんて…。

私なら濡れるだけでは済まないだろう。1分と経たず、滑って転びそう…。



ま、まあ…こんな事位、堕天使ヨハネは予見済みなのよ!ほーっほっほっほ!

ヨハネ専用アイテム『†停滞を約束されし透明傘†(クリア・アンブレラ)』がココにある限り、私は濡れない! ※ ただの置き傘(ビニール)


傘置き場に向かって、私は歩き出す。

こうやって最低限の予防策をしなくちゃ、不運に立ち向かえない。

そう…ここに、私の…置き傘が…


あれ?


…いやいや…あれ?

『 † yohane †』 ってちゃんと紋章入れておいたのに…あれ?

おっかしいなー・・・?



・・・ちょっと・・・ホント、マジで・・・お願い・・・見つかって・・・!


探す事、10分。

1年生、2年生、3年生の傘置き場全てを探したけれど、私の傘は、そこには無かった。



「ああ……嘘でしょ…!」


誰かに持って行かれたのかも…。

代わりに誰かの傘を持って行くなんて出来ないし…!


(ああ、もう、なんでツイてないのよ!)


思わず、しゃがんで頭を抱える。



「こうなったら…覚悟を決めるか…。」


大丈夫大丈夫。ヨハネは濡れても平気よ。死ぬ訳じゃないし。

髪型は崩れるけれど、敗北感に打ちひしがれた堕天使感が出て、むしろカッコイイかもしれないし!

アーティストだって、PVでよくずぶ濡れになったり、風に吹かれたりしてるじゃない!


ああ、そうか!そうよ!ここは、発想の転換ね!


…雨に濡れて飛べないヨハネの翼…ヨハネの髪の毛から落ちる涙にも似た雫が落ちる…

良いわ…すごく雰囲気出ててカッコいいじゃない!


そうと決まったら、早速濡れに行きましょう!




「通り雨かと思ったら、結構凄いね…」

「お母さんに迎えに来てもらおうかなぁ…」

「あ、あれ?あの子…」

「嘘…傘持たずに飛び出していく気?」




”ざあああああああああああああ!!”


「…くっくっく…」


良いわ…このヨハネの体に、降り注ぐが良いわ!!




「「「こ、この豪雨の中を行くつもり…!?」」」




”ざあああああああああああああ!!”



「ほーっほっほっほ!!」




「「「行った―――ッ!!!」」」



みるみる制服が、セットした髪の毛が、鞄が濡れていく。

振り返ると、玄関から残った女子生徒が私を見ている。


(雨の中のヨハネも素敵…そう思っているのね…!)


「ねえ、あの子、傘ささずにゆっくり歩いてるんだけど大丈夫かな…?」

「ていうか、雨に濡れて笑ってるんだけど…。」

「怖ッ…!」


時々は、こうやって濡れて帰るのも良いかもね…。


”ざあああああああああああああ!!”



あ…意外と、雨の勢いが凄くて、地味に痛いかも…。



”ざあああああああああああああ!!”


大粒の雨って、結構痛い…のね…。

…ていうか、ちょっと…寒い…。

帰ったら、†ホットギルティスウィート†(温かいココア)でも飲もうかなぁ…。


叩きつけるような雨をずっと受けていると、罰を受けているみたい。



(元は天使で、何も悪い事していないのに堕天した私(ヨハネ)…この雨は…天がヨハネを想って涙を流してくれているって解釈していいのかしら?)


…なんて事を考えながら、歩く。


(私を想って、か…。)


こんな状況になって考え事をしたせいだろうか、内側から不思議な感情が湧いて来ていた。


雨の音しかしない。

肌を打ちつける大粒の雨。

ちょっと痛いし、寒いし、周りには誰もいない。

濡れたヨハネがいるだけ。



(あぁ…寒…。)


無性に寒くなってきた。

なんだろう、この感情は…。

もっと色々インスピレーションが湧いて来そうなのに…。

現実の雨は、容赦なく、私の身体に降り続ける。


遠くの方で、相合傘で帰っている生徒が見えた。

どちらも傘からはみ出た肩の部分が濡れていて、それでも…楽しそうで…。



(…やっぱり、傘…必要だったかな…それとも、ズラ丸かルビィの傘にでも入れば良かったかな…。)



一人は慣れてるのに、な…。

孤高を貫くなら、避けては通れない道よね…うん!


孤高…か…。

インスピレーションが湧きそうなキーワードね…。



・・・孤高・・・。




”ざあああああああああああああ!!”




『善子さん。』



(・・・なんで、ここでダイヤが出てくるの・・・?)


別のインスピレーション出てきなさいよ!!

雨で身体が冷えて、変な事考えちゃうじゃないの!!



『善子さん。』


ああッ!ダイヤに壁ドンされた事とか、今思い出さなくて良いから!!ヨハネって呼んで!!



『善子さん。』


違う!違う!ダイヤとのアレコレを今掘り起こすな!私!だからヨハネだってばッ!!


(あー…完全に…コレ…思い出しちゃう…。)



ダイヤの部屋で、私は壁から背中が床に滑り落ちるように、仰向けの体勢にさせられて…



『……善子さん…いえ、ヨハネ…さん?…と呼べば良いのかしら?』


ダイヤの手が私の顎に添えられ、それで…ダイヤの唇が…




ああ…ダイヤに、キス、された事、思い出しちゃった―ッ!!




”ざあああああああああああああ!!”


「いででで…!?」



天を仰ぐと、雨の猛攻を顔面に受けた。

いずれ、私が還る場所からの仕打ちとは思えないわっ!涙なんかじゃないわッ!鞭よ鞭!!


すると、顔に当たっていた衝撃が急に止まった。



「…何をしていますの?」

「あ…ダイヤ…?」


振り向くと呆れたような顔で、傘をさしている黒澤ダイヤがいた。

さっきまでキスされた事を思い出していたのと、その相手が唐突に現れたせいで、ブツンと私の動きは止まる。


「…何をしているのか、と聞いているのです。」


ダイヤは、笑いかけるまでもなく、いつも通り冷静な生徒会長の顔をしていた。

まさに通常運行。

あんな事をヨハネにしておいて、よくも…。


「な、なな…何って、下校してるんでしょ!?」

「傘を持たずにずぶ濡れのまま、バス停まで行くおつもり?」

「そ、そうだけど…。」


心配、してくれてる・・・?

や、ややや、やっぱりダイヤってば、私の事好きだから?


なんて、舞い上がりつつある私の耳に、雨のように冷たい言葉が降ってきた。


「ずぶ濡れの貴女がバスに乗車し、バスの車内、座席を濡らしてしまう事で他の利用者に迷惑をかける事はお考えにならないの?」


「な…ッ!」


私以外の人間の心配ですか…!

さすが生徒会長ね…!

ずぶ濡れの私なんかより、その先の事を考えているって訳ね!えーえーわかったわよ!はいはいッ!



「私の傘にお入りなさい。一緒に…」

「遠慮するわッ!」


私は、差し出された傘から飛び出すように雨の中へ再び歩き出す。


「待ちなさい。風邪を引きますでしょう?」

「あー今度は、風邪を引いて他の生徒にうつしたら困るって言いたいのね。わかってるわよ。風邪引いたら学校来ないから。」


「そ、そんな事…!言ってないでしょう!?私はただ…!」

「”生徒会長として当然”って?ダイヤ個人として、ヨハネを心配してくれた訳じゃないでしょ?どーせ。」


「・・・・。」


あ、黙った。これは、怒ったな、と私には解った。

ダイヤは、怒ると一瞬黙るクセがあるのよ。



「いいから、傘にお入りなさい。」

歩く私について歩きながら、ダイヤは既にずぶ濡れの私に傘を傾け続ける。


「ヨハネの心配より、ヨハネが周りに与える影響を考えるダイヤなんか嫌いよッ!」

私がそう言うと、ダイヤは少しだけ視線を逸らし、寂しそうな顔をしたが、すぐに冷静な顔に戻した。


「…嫌いで構いませんから、傘にはお入りなさい。」

「な、なんで上から命令する訳!?」


「貴女が濡れたままだと、私が嫌だからです。」

「…は?」


「貴女が、一人でしかも傘も持たずに、ずぶ濡れで帰る後ろ姿を見てしまったから…。放っておける訳がないでしょう。」

「それ…心配、してくれたって事?」


「ええ。そう判断して下さって構いませんわ。」

「は…始めからそう言えばいいのに。」


「入っていただける?」

「い、いいわよ。仕方ないわね〜!」


な〜んだ、ダイヤはやっぱり素直になりきれないだけなのね。と私は納得して、傘に入る事にした。

ダイヤの赤い傘に入って並んで歩く。

隣に立つダイヤは真っ直ぐ前を見て歩いている。


ちらちらと見ていると、ダイヤが「なんですの?」と聞いてきた。


「あ、いや…この間の事…」


私はそう言いかけて、すぐにこの話題は失敗した、と思った。


「この間…」


私達、この間キスしたよね〜?、なんて…今、二人きりでする話題じゃない!!


この間、ダイヤはハッキリ言わなかったけれど…。


『…もしかして、ヨハネの事、好き、なの…?』

『ええ。』


私への好意を肯定はしていたダイヤだけど、あれから…今の今までダイヤは私に何もしなかったし、会う事もなかった。



「ああ、あの時は…申し訳ありませんでしたわ。」

「・・・・・。」


そう言ったきり、ダイヤは黙り込んだ。


「・・・・。」

「・・・・。」


”ざああああああああああああ…”


謝って…終わり?え、それだけ?

深追いしたいけれど、それをしてしまうと、ますます気まずくなる事は解りきっていたので、私は黙っていた。


でも、心の中で燻り続けるのは『何故、そこで止めるの!?ダイヤ!』という思いだった。


もっと、こう・・・あるでしょう!?

あ…待って。これじゃあ、私…ダイヤの次の何かを期待しているみたいじゃないの…!


(あーやめやめ。)


靴下が靴の中でジュクジュクいってて、気持ち悪い事に気づく。

雨を浴びた事を、ちょっと後悔。

しかも、雨が当たらない状態になった事で、肌に張り付く制服の冷たさが露骨に感じ始める


「…寒。」


ボソッと呟いた私の肩をダイヤは瞬時に抱いた。


「なっ!?何してんの!?」

「寒いと今、おっしゃいましたでしょう?」

「だ、だからって…!」


密着する身体から、ダイヤの体温が伝わる。

確かに触れ合ってる部分は暖かいけれど…


「ダイヤの制服、濡れちゃうでしょ!?」


ジワジワと私の濡れた制服から雨がダイヤの制服を浸食していく。

でも、ダイヤは淡々と答える。


「構いませんわ。もう、半分濡れていますから。」


そう言うダイヤの右肩は本当に濡れていた。


(…私に、殆ど傘を傾けていたせい…?)



「どう、して…?」

「…人を思い遣るのは当然でしょう。貴女は……妹の友人ですもの。」


私の顔を見ず、ダイヤは真っ直ぐ前を見ながらそう言った。


「な、に、それ…。」

とってつけたような理由に、少しだけイラっとした。

確かに、ルビィの友達ではあるけれど…!!


「あの日、自分の欲望と衝動に負けてあんな事をしてしまって、貴女を混乱させてしまい、私は深く反省しているのです。」


「反省って…。」


「貴女に避けられたり、なじられたり、嫌われるのは覚悟の上で、私は今貴女の隣にいます。

貴女が私の傍にいる、この僅かな時…少しの間だけでも、せめて私は貴女を思い遣っていたい、それだけです。」


少しだけ、ダイヤの瞳が哀しみを帯びたように見えた。


「フーン、所謂、罪悪感って奴からの優しさ…?」

「そう…とっていただいても構いませんわ。」


冷静ぶったダイヤは真っ直ぐ前しか見ていない。

なんだか、つまんない。

雨を浴びて寒さのあまり、頭の中に浮かんだダイヤは、こんな感じじゃなかったもの。

私の肩を抱く手だって、あの時は、もっと熱かった…。



「…じゃあ、私の事もう好きじゃないのね?」

私は意地悪を言った。

「――っ!」

即座にダイヤは反応した。顔を真っ赤にして、私を見た。


「そ・・・っ!」


かあっと熱くなっていくのが、肩から伝わってくる。

ああ、まだ好きでいてくれてるんだって思った。


その時、私は嬉しかった。

こんな風に自分を想ってくれる人間がいて、それが自分と正反対のダイヤなんて。


「ダイヤ、あのさ…私ね…」


嬉しかった。

それは本当。


ダイヤの気持ちを知って、凄くビックリしていたけれど…

こうやって思い遣ってくれたり…この強い雨を防いでくれる傘を差し出してくれる優しさは…凄く嬉しくて…。


さっき、雨に打たれて”孤高”ってキーワードを思いついた時、ダイヤが浮かんだのがわかった気がした。


きっと、私も会いたかったんだ。


あれから、ずっとダイヤに会っていなくて…宙ぶらりんだったから。

突然すぎて、ビックリしたけれど…言わなきゃね…。


嬉しかったよって。




「…報われるつもりはありませんわ。」


突っ撥ねるように、ダイヤは突然そう言った。


「え…?」


「私が勝手に…こうなったのですから。貴女は、無理に応えなくていいのです。」


それは、自己完結もいい所だった。

私の気持ちは、聞いてもくれないって事?


「そ…それって、本当に勝手すぎ…。」

「ええ。」


私の呟きを、ダイヤはやはり聞き逃さない。

私の肩から伝わるダイヤの体温は、温かいのに…なんだか、寂しくて。

好意は痛いほど伝わってきて、身体は温かくて、嬉しいのに…。


なんだか、ダイヤが遠くて。距離的には、こんなに近いのに…私達の気持ちは、全然近くなくて…!



「結局、それって…ダイヤのしたい事してるだけよね!?ヨハネの事、思い遣ってくれるんじゃないの!?ヨハネの事…好きなんじゃないの!?」

「ですから…勝手に私が貴女に対して気持ちを抱いただけです。そんなもの報われるつもりは無い、と…。」


「そんなものって…ヨハネに対して失礼だとか思わないの!?」

「…そもそも、私達は、女同士です。こんなの非生産的で…」


(今更、そういう事言う…?)

禁断?いけない事、そういう事が…私、堕天使の本分なのよ!


「そういうのッ!いいからッ!!」


私は見上げて、ダイヤの顔に自分の顔を近づけた。


「っ!?」


また、ダイヤの表情が変わった。焦りと戸惑い。

さっきまで能面みたいな表情だったのに。


(ああ、そうか…。)


私のせいで、こうなるんだ…。

冷静沈着な生徒会長が、この堕天使ヨハネのせいで、こうなるんだ。


ああ、そうだ。ヨハネがダイヤの仮面をこうやって剥がしてあげればいいんだ。

そうやって、私のせいでどんどん戸惑っていけばいいのよ。


私は、心の中で含み笑いをした。


「ダイヤ、自分勝手すぎよ。私にあんな事しておいて、私の中に入り込んでおいて、勝手に私の事を諦めるなんて絶対、許さないんだから!」

「そ、それは…!」

痛い所を突かれた、とダイヤは顔を引きつらせた。



「ねえ、結局、ヨハネの事、まだ好きなの?嫌いなの?」


「……。」


”その質問は答えなくては、いけませんの!?”という顔をして、こっちを見るダイヤ。


やっぱりヨハネの事、好きなんでしょ?ダイヤ。


言わせたい。この人に、ハッキリと好きって言わせたい。

ヨハネに振り向いて欲しいって、私への想いが報われたいって、言わせたい。



「好き?嫌い?」



みるみる顔を赤くしたダイヤは、顔を片手で隠すようにして、隠れ切れていない潤んだ目で私を見た。


「貴女は…私に……”また”襲われたいんですの…?」


ダイヤが、能面のような表情を保っていたのは、自分の欲望を出さない為。

ちらりと見える瞳からは、隠しきれていない感情が見えた。

自分の気持ちを持て余して、戸惑って…それが、全部ヨハネのせいだなんて…。

だったら、ますます…私がなんとかしてあげたいって思うじゃない。



「私は…貴女の事を…自分の欲望で、これ以上、あんな風に傷つけたくないんです…!今だって…」

「それで今更”女同士だから”って理由つけて諦めなきゃいけないって思ったの?」

「事実、ですもの。」

「だったら、なんで私に傘を差し出したのよ?どうして、優しくしたのよ?」


「・・・それは・・・。」


私は更にダイヤに近付く。

ダイヤは、びくっと後ろに下がったが私はダイヤの手首を捕まえた。


「あのね。ヨハネに惹かれるのは当然よ。天使なんて綺麗なモノより、ちょっと悪くて危険な匂いのする堕天使の方が、惹かれるでしょう?

だから、そういう邪な気持ちをこのヨハネ抱くのは、当ッ然ッなのよ!後ろめたい事なんて無いわ!…だから…」


「・・・・・。」

「だから、まずは好きって、言いなさいよッ!!」



目を見開いて、ダイヤは私を見ていた。

これで、ダイヤが何も言ってくれなかったら、どうしようって内心ドキドキしていた。



「…好きって、ちゃんと言って…良いんだからね。」


私は、ちゃんと言葉に出して言って欲しかっただけよ。


「私…言いたいことがあったの。ダイヤに…好きって言われて、少なくともビックリしたけど、嬉しかったって…言いたかったの!」



するとダイヤは、私を真正面から抱きしめた。

傘は道に転がり、雨が私達を包んだ。

心臓の鼓動が胸から胸に伝わって、ダイヤの体温は、とても温かくて…。


(あ…凄いあったかい…。)



「…私が好きなのは、津島善子という人間です。堕天使ヨハネを名乗ってはいますが、津島善子が好きなんです。」


涙声のダイヤの背中に私は手を回した。


「…こんな時にまで、善子って呼ぶのやめてよ…。ヨハネって呼んで。」

「善子さん…!」

「ヨハネ…だってば…。」


何故か、私もダイヤにつられて泣いてしまった。

ダイヤの気持ちが真っ直ぐ伝わってきて、雨みたいに、降り注いでくるようで。



この気持ちが恋なのか、なんなのか…わからない。

これで、ダイヤの気持ちにきちんと応えた事になるのかも…わからない。


私を放っておけないって思ったダイヤと同じように、私も…ダイヤを放っておけないんだ。



「結局、二人で、ずぶ濡れですわね…」

「そうね〜ツイてないわね〜。」


傘を拾い上げて、ダイヤは私に近付いた。


「私は、ツイていると思いますわよ。」

「…そ…そお?」


「泣いてもわかりませんし。」

「まあね。」


「あと・・・。」


すると傘が不自然に傾いたかと思うと、ダイヤはすっと顔を近づけた。


触れるだけのキス。

ダイヤの唇から伝う雨の雫が、私の唇、そして私の口の中に滑り込んだ。


「こういう事をしても、誰も見ていませんし。」

「…あ…あ…くッ…い、いきなりは無しよッ!ダイヤッ!!」



私がそう抗議すると、ダイヤは太陽みたいに笑った。


― END ―

あとがき

まだ二人の位置づけがふわふわしている時期に書いたものです。

なんだか、妙に違和感を覚えますね(笑)