〜 これまでのラブライブ!サンシャイン!ダイよしに堕天してるシリーズ 〜



結論から言うわ。


私、津島よs…ヨハネは、悪くない!!


いきなりなんだって?察しなさい!リトルデーモン!!察するのよ!!


だって…私もイマイチわかんな…いや、なんでもない!なんでもないわよッ!!

わかったわ!このヨハネが、一から説明してあげる!!



黒澤ダイヤから突然のラブコールを受けたヨハネは、シャンバラが崩壊したかと思うほど…らしくもなく動揺しちゃったの…。

だってだって!あのダイヤよ!?あのダイヤが、しおらしく………す、好き、なんて…言うから!!

ヨハネはダイヤと…契約すべきか悩んだわ…。

初めて告白されたと思ったら年上だし、女の子だし、ダイヤだし…き、キスされちゃうし…。

ダイヤを意識するものの、ダイヤとの付き合い方がすっかり解らなくなってしまったし…。

べ、別にヨハネはね!万人から好かれる至高の存在なのだから!良いのよ!!


…でも…。


ダイヤは、自分の想いは報われるつもりはない、なんて言うし!どっちなのよッ!!

じゃ、試しにデートする?ってヨハネが言ってから、3日も経ったのに!!何もない!3日よ!3日!!





好きなくせに、どうしてヨハネに構ってくれないのよッ!ダイヤ!!



「よっちゃん、ソレ…もう…。」

「ん?何?リリー。」



「…いや、なんでもない。とりあえずメモらせて。」

「????」






 [ 嫉妬して堕天した。ヨハネ視点 ]





朝。

珍しく早く目が覚めてしまった。

昨日、遅くまでダンスレッスンがあったので、今日の朝練はお休み。

家に帰って早めに魔力を補充したのが(身体を休めたのが)功を奏したのか、すこぶる元気だ。


(ふっふっふ…力がみなぎってくるわ…後は…)


木の上から校門を見下ろして、私は人を待っていた。

生真面目だから朝イチ登校してくるだろう、生徒会長のダイヤを捕まえるだけ。

そうね、前にダイヤにかけた堕天使奥義で…って、それは後が怖いから封印するとして。


(今日こそ…少しは、何か…)


なんというか…まだ、距離がつかめないのだ。

ダイヤはヨハネの事を好きだって言ってるだけで、特に付き合ってくれとか言われたわけじゃない。

でも、言われっぱなしで放置されても、私だって困るわよッ!!



そう、あれから、何も無い。


虚無よ虚無!ビックリするほどの虚無ッ!!

好きなら、もっとこう…あるじゃない!デートに誘うとか!二人で何かしようとするじゃない!?

なんで、何もして来ないのよ…!ヨハネがデートでもしてみる?って聞いたら、ハイって言ったじゃない!


溜め込んでた生徒会の仕事がどうとか言って、練習しか会えないし!

会ったら会ったで、『練習中はそのマントを外しなさい!』って、いつものダイヤだし!


本当に好きなの?って疑りたくなっちゃうわよ!



(大体、デートだって、そっちから誘いに来てくれてもいいじゃな…あ、ダイヤ来た!)



足音が、カツカツとやや早足なリズムを刻んでいる。

なんだか、今朝はリズムが乱れてるっぽいけれど、この音は間違いない。


(よーし…今日は、私がダイヤを…あれ?)



「…なんですの?ルビィ。そんなに腕にくっついていては、歩きにくいですわ。」

「…うりゅ…。」


現れたのは、黒澤姉妹。

ルビィがダイヤの腕を両腕でしっかりと捕まえている。ダイヤの靴音のリズムが狂っているのは、そのせいだ。

ダイヤは口では面倒そうに言うけれど、目は笑ってそれを許している。

それもそうだ…。なんだかんだで、ルビィは妹だもんね。ルビィは家族だけど、私は他人だもんね。



「全く…いつまでも甘えん坊ね…怖い夢でも見ましたの?」

「あ、あのね…あのね、お姉ちゃんが、遠くに行っちゃう……夢。」


(なんじゃ、そりゃ…。)


そんな夢でダイヤにべったりなんて、ルビィらしいったら、らしいけど…。


少し胸がチリチリと疼く。



「?私は、何所にも行きませんわよ?」


ダイヤは、不思議そうにキッパリとそう言い切った。


「あ…あの…そうじゃ…。」


何か言いたげにしているルビィを知ってか知らずかダイヤは続ける。


「勿論、今は、Aqoursの活動もあるのですから。放課後のダンスレッスン…今日こそ、サビの振りを全員完璧に揃えますわよ!

…と、そんな事より。ルビィ、貴女こそしっかりなさい。

黒澤家の人間として、夢に振り回されず、いつも凛と構えていなければなりませんわよ。」


らしい。

全く、黒澤ダイヤらしい回答。

それが、ルビィにとてつもない安心感を与えるんだろう。


「…うん。が、頑張ルビィ!」


ルビィの笑顔って、本当…可愛いなぁ…。

私には無い物だもの。


「それでこそ、我が妹ですわ!よしよしよ〜し!!」

「えへへ♪」


(うげ…。)


ダイヤってば、デレデレして妹の頭を撫で回しちゃってるし…。

朝っぱらの校門前で何やってんの?あの姉妹はっ!!


「あ…!」


しまった!足が滑っ…!!



不幸にも、ぐらっとバランスを崩した私は堕ちた…。



”がささっ・・・ダンッ!!”


堕ちても、堕天使。(意味不明)


私はしっかりと地上に両足をつけた。

じんっと滲み上がって来る足の裏からの衝撃と痛み。



「ぴぎいいい!?」という悲鳴を上げたのはルビィ。

「なッ!?何事ですの!?」とダイヤが大声を上げた。



 で。 私は、というと…。



「〜〜〜〜〜〜っ!!」



足が…痺れて…言葉が…出ない……ッ!!



「善子さん!?」


「〜〜〜〜ッ!!」

(ヨハネよ…ッ!)


「善子さん!どうして木から落ちてきたのですか!?危ないではないですか!だから、高い所に登るのはおやめなさいと…!」

「う、うぐゥ…!!(ヨハネよ…ッ!)」


格好悪いったらない。

登場のタイミングを誤った挙句、ダイヤの前でこんな失態…このままじゃ絶対お説教だわ…ッ!

すると、ダイヤは突然しゃがんで私の足をがっしりと掴んだ。瞬時に足から痺れが全身へと伝わってくる。


「いひいいいいい!?痺れがッ!痺れがあああっ!!」

「足を見せてください!」


「だ、大丈夫よっ!それよりも離してェッ!…ぎゃんッ!」


ダイヤに掴まれた足は力を失い、私は間の抜けた声を上げて尻餅をついた。

それでも、ダイヤは足を離してくれない。ダイヤに抗議しようと顔を上げると、見た事もないような辛そうな悲しそうな顔をしていた。


「ダメですわッ!!ライブ前に足を痛める事が、どれだけ自身を苦しめる事になるのか…知りたくは無いでしょう!?」

「あ・・・」


3年生は…前のAqoursは、マリーが怪我をして、それを心配した果南とダイヤは歌わない道を選んだんだっけ…。

果南とダイヤも辛かっただろうけど、怪我をしたマリー本人が一番辛かったに違いない。

それを思い出した私はすぐに謝った。


「ごめん、なさい…。」


私の言葉にダイヤは優しく頷き、靴を脱がせると足首と足の裏に手を添えてそっと持った。


「さあ、足首を曲げてみて下さい…今度は私の手を押し返すように…痛みはありませんの?」


言われるがままに足首を曲げたり伸ばしたりしてみた。


「…無い。」


恐る恐るちらりとダイヤの顔色を伺うと、ダイヤは見た事も無いようなホッとした顔で微笑んでいた。


「良かった…。」



――― あ、この顔…好きかも 



という言葉が神速で頭を駆け抜けて行った。

ふと、別の視線を感じて視線を移すと…ルビイが複雑そうな顔をして立って見ていた。


「・・・・・・。」


待ってルビィ…その表情…『お姉ちゃんを盗らないで』って目、ですかぁ…!?

ち、違う違う!これは…事故よ!ヨハネは別にルビィから奪おうなんて考えてないからッ!!…と口をパクパクしつつも言葉が出ない。

すると、ダイヤがすくっと立ち上がって言った。


「ルビィ。先に行きなさい。私は善子さんを保健室に連れて行きます。」


「「え…ッ?」」

私とルビィは同時に素っ頓狂な声を上げた。

しかし、生徒会長様はいつも通りクールに「何か?」と言い放ち、私とルビィは「何も」と答えるしかなかった。


ダイヤは自然と私の腕を取り、肩に掛けた。大袈裟だと言ったのだけれど、ダイヤは”これから腫れてくるかもしれませんわ”と離してくれなかった。

背中に受ける、ルビィの視線が心底痛い。


その時、ほんの少し。


さっき木から落ちる前にあった自分の状態と、今のルビィが逆転しているような感覚に襲われた。

木の上から見ていた、一部の隙もなかった姉妹の間に自分が入り込んでしまえたような気がしたのだ。


(あ、今、私…意地悪い事考えてしまったかも…。)


な、な〜んて、ね!冗談冗談!そんな意地の悪い事を堕天使ヨハネが思う訳ないじゃない!大体、ルビィに悪いもの!



・・・・・。


(し、白々しい…)


自分で自分に言い訳なんてして、情けない…。




「善子さん、痛みません?」

「あ、ホント、大丈夫大丈夫。」


「いつものように魔術で治すとか我慢なんてしたら許しませんからね。」

「言わないわよ…!ていうか、いつも言ってないし!」



ルビィに、悪い…んだけど…どうしよう…。


――― ダイヤと久々にちゃんと会話出来てて嬉しい。


「ルビィ!あとは一人で行けますわね?」

「う、うん!」


…しかし、背中に刺さる視線に正気に戻らざるを得ない。



(ああ…ずら丸…こんな時の為のずら丸なのに…!こんなにもアンタが恋しい…ッ!!)


今のルビィのフォローなら”ずら丸”こと、国木田花丸しかいない…!

早朝過ぎて、ずら丸の登場は期待できそうも無い。


学校の廊下を二人で歩きながら、私は「ダイヤ、登校早いね」とか世間話をし始めた。


「貴女こそ。…早朝から木に登るなんて、クワガタかカブトムシくらいかと思いましたわよ。」

「虫扱いとか、酷くない!?」


ツンと突き放すような言い方だけど、木から落ちてきた事をまだ怒っているのだろう。


「他の生徒は真似をするとは思えませんが、立て札か何かで注意喚起を致しましょう。」

「何て?」


「”木の上で魔術等の行為禁止”。」

「思いっきり、ヨハネ一人への注意喚起よね!?それ!!」


「禁止したい人に確実に伝われば良いのですわ。」とダイヤは満足そうに笑った。


そんな事を話しながら歩いていると、保健室についた。

そう言えば、入学以来初めて入ったかも。


私はベッドに腰掛け、ダイヤは手馴れたように冷蔵庫からアイスパックを取り出し、タオルで包んで持ってきた。


「あの、聞いても良いですか?善子さん」

「何?ヨハネだけど。」


「…どうして、あんな無茶を?」

そう言いながら、ダイヤはしゃがんで私の足に触れた。


「どうしてって…」

するっと靴下が脱がされ、アイスパックがあてられてる。


「ひうっ!?いきなりあてないでよ!冷たい!」

「やはり左足に少し熱があります。冷やした方が良さそうですわ。」


そう言って、真剣な目でダイヤは私の足首を見つめている。

跪いて、私の足に触れているダイヤを私は見ていた。


(本当に、真面目っていうか…面倒見が良いっていうか…)

つくづくダイヤって”お姉さん”なんだなぁと思った。


「・・・なんですの?」と少し上目遣いでダイヤは尋ねた。

「あぁ、ゴメン。もしもヨハネにお姉ちゃんがいたら、こんな感じなのかなって。」


「こんな感じ、とは?」

「ん〜…なんだかんだ口うるさく言っても面倒見てくれるって感じ?」


にへっと笑いながら言うと、ダイヤは少し不機嫌そうに「”口うるさく”は、余計ですわよ。」と答えた。


「それに…私の妹はルビィだけです。」

「…あ、そ。」


はいはい、ヨハネは他人って訳ですね。はいはい。


(あ、今なら誘えるかも。)


ふとデートの事を思い出した。今なら、ダイヤと一対一で話せる。

雰囲気も気まずくないし、今しかない。


「…あのさ…ダイヤ、前に話したけど…覚えてる?」と私が言うと、ダイヤは顔を上げて、くっと首を横に倒して”なんですの?”と言葉無く尋ねた。


気付けッ!察してッ!と思うのだけども、流石に無理があるので、私はちまちまと話した。


「あのさ…」


途端に、自分でも驚くほど口が重くなった。


「あ、あの…だから…ッ…」


何故かルビィの顔が浮かんで、チクンと胸が痛む。

私はダイヤと…前みたいに仲良くしたい、だけ。

だからルビィから盗るなんて、しない。


「…私と…一度…ちゃんと、ね…?」


たどたどしくて、自分で自分にイライラするのに。

前みたいにダイヤと自然に話せたら私は、それでいいの。その為に、必要な事なんだから。


また、自分に言い訳に似た事を言い聞かせながら、私は言葉を発する。

ダイヤはイライラした様子もなく、上目遣いで私を見つめて聞いてくれる。


「あ、あの…だから…!」


恥ずかしい。なんで、こんなに恥ずかしい思いをするのだろう。

ああ、そうよ。ダイヤが真っ直ぐ見つめるからよ。


調子が狂う。ダイヤから好きなんて言われる前はこんな事は無かったんだから。

だから、ちゃんと一日デートすれば、私はきっとダイヤとの適切な距離の取り方を解るはず。


「私ね、ダイヤと…」


そこまで言いかけて、ダイヤはスッと私の頬に手を添えた。

流れるような動きで、立ち上がって腰を曲げて顔を寄せて、そのまま唇が重ねられた。


さほど、驚かなかった。


押し当てる、というよりも、優しく触れられているという感じで、ダイヤが凄く近くにいるという感覚に包まれていて…。

それらは、ちっとも嫌ではなかった。


嫌ではなかったので、目を閉じた。

ダイヤの香り…多分首の辺りから強く香っている。ダイヤの使ってる香水かな…。

控えめな花の香り。何の花だろう…。


もう少し触れてみたら、どうなるのかな、と手を伸ばしかけた時、ダイヤはスッと離れた。


そして「…これで、宜しいですか?」とダイヤは言った。

今度は、私が首を横に傾げた。


「…ちゃんと、キス致しましたけど。」


なるほど。ダイヤは、ちゃんとキスしてって勘違いしたのね。


(そんなの、言う訳ないじゃない!ダイヤのバカ。)


「いや、ヨハネは…デートしないかって言おうとしたんだけど…」


勘違いを指摘すると、ダイヤの顔がみるみる赤くなった。


「なっ!なななッ!!」


”大パニック”って顔に書いてるみたいな慌てふためきよう。

ああ、こういう所、ルビィみたい。やっぱり姉妹なんだと思い知らされる。


「い、良いわよ…別に。うん、いいから。」

慌てているダイヤを見ていた、力が抜けて笑いが込み上げて来た。


「ごめん、なさい…。」視線を逸らしながら謝るダイヤ。

やっぱり、素直じゃないのよね。


「堕天使ヨハネは、寛大なのよ。許します。」

「…どうも、許された気がしませんわ…。」

「何よぉ!許されなさいよ!!」


(ああ…でもルビィに、悪い事しちゃってる気分だわ…。)


ダイヤの勘違いとはいえ、またキスしちゃったし。

ルビィからしたら、ヨハネは…本当に、自分からお姉ちゃんを盗っていく女としか、見えていないのかもしれない。


「…で、するの?しないの?」

「わかりましたわ。デート…致しましょう。」とダイヤは生真面目に言った。


決闘じゃないんだから拳握りながら言うのやめて、と私は思わず苦笑してしまった。




『ぴんぽーんシャイニー☆ 生徒会長の黒澤ダイヤさ〜ん。理事長室まで来て下さ〜い。』



(マリーだ…。)

朝から陽気にダイヤの名前を呼ぶ理事長。

ダイヤは、ぴくっと眉を上げると「失礼」と短く言って保健室の扉を開けた。


「あ、ダイヤ!」

「はい?」


「行きたい所、お互いに一つずつ決めとこうよ!」

「…ええ。わかりました。」


そう言って、薄く微笑んでダイヤは扉を閉めた。





(何はともあれ、これで一歩前進、ね…うん。)


ごろんとベッドに倒れこんで、唇を指で撫でる。


(……キスって…誰としても、あんな感じなのかしら?)




そんな事を考えている内に、意識が段々落ちていった。





「善子ちゃん。」


不意に声を掛けられ、目を開けるとずら丸がいた。


「…ヨハネよ。ずら丸。」

「だったら、マルは花丸ずらよ。善子ちゃん、一時間目もう終わってしまったずらよ。」


花丸はそう言って、ノートを私のお腹の上に乗せた。


「ああ、そう…。」

「何かあったずら?木から落ちたって聞いたずら。」


「下界を見下ろし、人間を観察するのは堕天使の務めよ…!」

「…主にダイヤさんを、ずらか?」


(・・・コイツ・・・!)


ガバッと起き上がって、花丸を睨む。


「ずら丸ゥ…余計な事言うんじゃないわよ!裁きの堕天奥義出すわよ!?」


ところが、花丸の表情ときたら暗くて、ベッドの足元にしゃがみこんで三角座り。落ち込んでます感、丸出しだった。


「…悪いけど、今そんな気持ちになれないずら…。」

「何よ、アンタ…何かへこんでる?」



珍しいわね、と言いかけたのだが、花丸は涙目で言った。



「善子ちゃん…オラ、ルビィちゃんと喧嘩したずら…。」

「ゥええええ!?アンタ達が、喧嘩ぁ!?」






花丸とルビィが…喧嘩したぁ!?

いっつもくっついてて、リア充全開な学校生活送っていた二人が…喧嘩なんて…!


「け、喧嘩って…あんたらが!?」


思わず保健室のベッドから起き上がって、ずら丸にもう一度聞く。


「…そうずら…」


おどろおどろしいテンションでずら丸こと、国木田花丸は答えた。


「な…何があったのよ?」


世界の終末でも迎えたかのような虚ろな目で、花丸は三角座りして床にのの字を書きながら、ぼそっと一言。


「マルは最低ずら…。」


(うわ、相当落ち込んでるわね…。)


大抵の事では揺らがないマイペースな花丸が、ここまで落ち込むのは珍しかった。

親しいルビィと喧嘩したのが原因とはいえ、かなりの精神的ダメージを負っているのは目に見えていた。


「だから、何があったんだってば。言ってみなさいよ。堕天使ヨハネはリトルデーモンに救いの手を差し伸べる為にいるのよ!」


ベッドから上半身を乗り出して、ずら丸の肩に手を置いた。

まずは、事情を聞いてみないと。


すると、花丸はバッとヨハネを見ると、掠れかかった声で言った。


「どうしよう…!善子ちゃん!マル、ルビィちゃんを…傷つけちゃった…っ!!」


こんなに取り乱すなんて…。

私は花丸の丸くなった背中をさすりながら聞いた。


「だから、何があったの?落ち着きなさいよ。」


なんだかんだ言って、ずら丸には(ノートとか)お世話になっているし、幼稚園の頃一緒だった事もあるんだから、こんな時くらい頼りにしてくれてもいいのよ。

そういう心持ちで聞いたのだけど、ずら丸はヨハネの制服を掴むと、こう言った。


「善子ちゃんが…頑張ってくれないからずらッ!!」

「はあ!?よ、ヨハネのせい!?なんで!?」


わ、私のせい!?言いがかりもいいトコよ!!


「ダイヤさんと善子ちゃん、付き合ってるんでしょ!?」

「は!?ち、ちちち違うわよ!?まだ……あ。」


言いかけて、ハッとした。

”まだ付き合ってない”なんて…まるで、これから進展があるかのようじゃない。



「まだ、ずらかぁ・・・。」

頬杖をついて”やっぱりね”というような態度で、花丸は天井を仰ぎ見た。


「あああああ!違うッ!まだっていうか!全然っていうかッ!とーにーかーく!違ーーーう!!」


ベッドの上で私は頭を抱えて立ち上がって吠えた。全力で否定する。だってまだ、デートしてないし!距離感も確かめてもいないもの!!


「なんで!ヨハネがあんたらの喧嘩の原因になるのよ!言いなさいよ!事と次第によっては堕天奥義の刑よ!!」


ベッドの上からヨハネが花丸に怒鳴りつけると、花丸は口を開いた。


「…ルビィちゃんがね…マルに言ったずら。」

「何て?」


花丸は三角座りをして俯きながらぽつりぽつりと話し始めた。


「お姉さんが…ダイヤさんが、最近善子ちゃんと仲が良くなって嬉しい筈のに、時々寂しくなるんだって。自分だけ取り残されてしまう気がするって。」

「え…」


そういえば、今朝。

ルビィがダイヤの腕にしがみつきながら、言っていたっけ。


『あ、あのね…あのね、お姉ちゃんが、遠くに行っちゃう……夢。』


(あれって…もしかして…。)


…私のせいで…ルビィが…?



「ダイヤさん…善子ちゃんの前だと、ルビィちゃんの前では見せなかった顔を、してるらしいずら。それもショックだったらしいずら。」

「そ、そんな…!」


ダイヤって、大体ああじゃないの。

あ…でも、確かにキスとかはしないかも。


「善子ちゃんにお姉さんを盗られるかもって考えが…消えないんだって。」

「――!」


そんなつもりは、無い。

ダイヤはヨハネの事が好きだけど、ヨハネは……ダイヤと同じじゃないもの。



「それで…マルは”そんなの気のせいだ”って言ってしまったずら。

お互いがお互いを気にしすぎだから…これがキッカケになれば、ダイヤさんはルビィちゃんの過保護的に心配しなくて済むし…

ルビィちゃんは…お姉さんと離れていても自信を持って輝けるようになるかもって…。」


「ずら丸…アンタ、あの姉妹の事、そこまで考えてたの…?」


私はすとんとベッドに座って、花丸の顔を覗き込んだ。

ところが、花丸は自嘲気味に口を開いた。


「でも、そんなの…建前…いや、嘘ずら…。」

「…嘘?」


ぼうっと壁を見ながら、花丸は語り始めた。


「マルは…単に、ルビィちゃんをダイヤさんから引き離したかっただけずら。

ルビィちゃんが苦しい心の内をマルに打ち明けてくれたのは、きっと自分の中で消化するには苦しかったからなのに…。

マルを信頼して頼ってくれたのに…!マルは…マルは……ッ!」


再び震える花丸の肩。

花丸の両手はしっかりと握られ、自分の膝にガンガンとあてられた。


「ちょっと!ずら丸!やめなさいよ!痛いでしょ!?」


思わず、私はその手を掴んだ。



「マルは卑怯者ずら!善子ちゃんとダイヤさんがくっついてしまえば!ルビイちゃんがマルの事もっと必要としてくれるって考えてしまったずら…ッ!」


涙声の花丸の言葉に、私はある確信をもった。


「あ、あんた、まさか・・・!?」


その、まさかだった。


「マルはルビィちゃんが好きッ!だから!善子ちゃんには頑張ってダイヤさんとくっついて欲しかったのッ!!」

「・・・・・・。」


だから、か。

納得がいった。

最近の花丸が、私にダイヤに会いに行けとか、頑張って欲しいとか、ダイヤ関連になると焚付けるような事を言っていたのは…この為だったのね…!


「そんなマルの不純かつ卑屈な思いをルビイちゃんは見抜いたんだずら…!

”どうして、そんな事言うの!?酷い!花丸ちゃんの…未熟DREAMER!堕天使の涙!!”って…言われてしまったずらあぁ…!!!」


「ねえ・・・最後の、けなされてるの?どうなの?曲名だよね?あと私の料理名でけなすってどういう事!?」

「るびべェちゃああああああん!!許してじゅらあああああぁ!!!」


花丸はボロボロと大粒の涙を零して、大号泣。


「・・・よしよーし。」


私は、黙って付き合う事にした。ポケットからハンカチを出して花丸に渡して、頭や背中を何度も何度も撫でた。

花丸の涙はヨハネのハンカチでは拭いきれず、ベッドのシーツに顔をおしつけて、花丸は泣きに泣いた。


(本当に好きなのね…。)


友達が人を想って感情に振り回され、それでも溢れ出て来て止まらない心の叫びが聞こえる場所に、私は今いる。

スクールアイドルとして、堕天使ヨハネとして、誰かの…いや、見てくれる観客達の心をパフォーマンスで揺さぶらなくてはならないのに。


(人を好きになるって…大変、なのね…。)


他人事のように、私はそう思った。

たった一人の心の動きに、花丸がこんなに翻弄されて。

嫌われてしまったかも、という悲しみと言うんじゃなかった、という後悔でいっぱいで。

巻き戻らない時間を嘆く。



(ダイヤも…そうなのかしら…?)



あのダイヤは…私の事で、こんな風に泣いてくれる?

でも、私は…ダイヤをこんな風に泣かせたくない、とも思う。

私のせいで、ダイヤがこんな風に傷ついて泣くなんて、嫌だと思う。



「あー!もう!花丸!」

「ぐずっ…何?善子ちゃん。」


私は、ティッシュの箱を花丸にずいっと差出しながら言った。


「ヨハネよ!あんたが腹の中で何を思ってたのだとしてもよ?ルビィの為にって考えていたのは本当の事でしょ?その気持ちに嘘はないでしょ?じゃあ、それで良いじゃないの!」

「で、でも゛ぉ…!善子ちゃぁん…!」


ぢーん、と鼻をかみながら、花丸は真っ赤な顔でまだ泣いている。


「ヨハネだって!ぐずぐず泣かないの!後悔してるんなら、さっさと謝ってきなさいよ!簡単な事じゃないの!!」

「でも、善子ちゃん…ゆ、許してくれなかったら…?」


「ヨハネっ!許されるまで謝るのよ!謝って!謝って!謝り続けなさい!!それでもルビィが許してくれなかったら…」

「許してくれなかったら?」


「ヨハネが話をつけてあげる。」

「…善子ちゃんが?」


「だからヨハネだっつの!…ダイヤとは、何でもないって言ってあげるから。」

「そ、それは、ダメずら!」


「な…なんでよ!?だって、本当になんでもないんだから!!」

「だって!善子ちゃん!ホントはダイヤさんの事…!!」


それ以上は聞きたくなかったので、思わずずら丸の制服のスカーフを掴んでしまった。


「それ以上言ったら、本当に怒るわよ!」

「……。」


私の目を見た花丸は黙って、こくんと頷いた。


「ほら…行きなさいよ。ルビィもきっと後悔してるわよ。」


三角座りから立ち上がった花丸のスカートをポンポンと手ではたく私に、花丸はやっと少し笑って、こう言った。



「…善子ちゃんとダイヤさんって、本当に似た者同士ずら。」


やっと笑ったと思ったら、それか、と私は睨んで、花丸の頭に軽くチョップを喰らわせた。


「うるさい。さっさと行きなさい!天罰キック喰らわすわよ?」

「キックだったら、天罰じゃなくてただの物理攻撃ずら。」

「ツッコミは、いいから行って来いッ!!」


「ありがとう。善子ちゃん。」

「・・・フン。礼は良いわ。」




扉が閉じて、私も保健室を後にした。


――― 柄にもなく、天使っぽい事しちゃったかしら。



足は、もうちっとも痛くなかった。




放課後。


花丸は放課後になるや否や、ルビィの手を強引に引いて教室から出て行った。


(…ルビィと花丸、ちゃんと仲直りできてるといいな。)


そんな事を思いながら、歩いていると。



「…っと、離してッ!離して下さいッ!!」

ダイヤの声が廊下を反響して聞こえてきた。物凄い怒ってる。


「What?どうして〜?」

続いて聞こえたのは、マリーの声。また、何かダイヤの事をからかったのか…


ひょこっと柱の影から様子を伺う。


(え・・・?)


私が廊下で見たのは、怒っているダイヤと、後ろから羽交い絞めにしているマリーの姿だった。



「昔は、よくしてたじゃありませんか〜。」

ダイヤの顔に頬擦りをしているマリー。


(へえ、昔から仲良しなんだー…。)と無理矢理冷静さを保とうとしても、チリチリと心が騒ぐ。


「昔は昔!今は今ですわっ!!」


ジタバタと抵抗するダイヤだけど、完全にマリーに捕まっていて、全く振りほどけない。


(ああ、3年生の3人って本当に仲、良いもんね…。)と無理矢理納得させようとしても、ヂリヂリと心が騒ぐ。




「じゃあ、果南なら良いんですかー?」

「…なんですって?」


マリーの方を振り向いて、ダイヤはマリーを睨みつける。

それを待っていたかのように、マリーはにんまりと笑って小声で言った。


「それとも…」


それともの後がよく聞こえなかったのだが、マリーのその一言で、ダイヤは一気に”怒り”を露にした。


「!…鞠莉さん、言って良い事と悪い事があるって、ご存知?」


いつもの”ぶっぶーですわ”というテンションではない。本当の怒りだ。

マリーはダイヤに何を言ったのだろう?

ダイヤが本気で怒っているのに、マリーはそれでもニコニコ笑っている。



「ん〜やっぱり、ダイヤって怒った顔がcute…♪」


「ふざけ…ッ!」



――― あ。


そう思った時、もう…遅くて。

ダイヤの口が、マリーに塞がれた。


「やッ…!」




柱の影にいる私の耳に、短い吐息とリップ音が聞こえて…




「――――。」




足が、勝手に、どんどん前に進む。



「ごめんなさい。あんまりダイヤが可愛いから思わず…あら?善子…」

「―よ、善子さん!?」



ダイヤの瞳が揺れている。

私に見られたくなかったのね。



「――――。」




ルビィの知らないダイヤの顔を知っているのは、私だけじゃない。


それに。


”私の知らないダイヤ”を知っているのは、ルビィもだし、果南やマリーだって、知っているのだ。


どうせ、私は…ダイヤの何も、知らないわよ…!

どうせ、私は…非リア充の、堕天使設定に塗れた変な女よ…!


ダイヤとの距離感なんか、測る必要なんてなかったのよ…!





『 だって、ダイヤと私は、なんでもないんだから! 』





「――――。」





「よ、善子さんっ!?こ、これは…ち、違…ッ!」


必死に言い訳をしようとしているダイヤの顔を私は見ないで、二人に近付いた。


「あら、善子☆何か用?」


ニッコリと笑っているだろうマリーを私は見ないで、口を開いた。


「…別に。そっちはそっちで、お好きにどーぞ。ヨハネは堕天結界を張りに行くから先を急いでるの。」


そう言って、私は二人の傍を通過した。



「ふうん……ダイヤを連れて?」


つんと左手が突っ張った。

私の手には、涙目のダイヤの白い手があった。

いつの間にか、私はダイヤの手を掴んでいた。



「善子が連れ去ってくれないと、マリーがいただいちゃうゾ☆」

「ま、鞠莉さんっ!貴女、いい加減に…!」


「昨日今日現れた人に、渡せませんからね?」


マリーがダイヤの手を取ろうとするので、私は反射的にダイヤの手を引いて、自分の方に引き寄せた。



「よ、善子さん…?」

「おやおや。」



「…ダイヤは、ヨハネと契約済みなのよ!」



「「・・・ん?」」


ダイヤとマリーは首を同時に傾げる。



「つまり!ヨハネのリトルデーモンに触んなって事よッ!行くわよッ!ダイヤ!」

「え?あ…え!?」



私は、勢いに任せて、ダイヤを引っ張って進んだ。





「…鞠莉、強引過ぎ。ていうか、ダイヤにキスは、やりすぎ。」

「ノンノン。果南。この位しないと、自分の気持ちに気が付かないでしょう?あの、デーモンガールは。」






(落ち着け…落ちつかなくちゃ…。)




左手が熱い。

ダイヤの手が、凄く熱い。


「あ、あの…ちょっと、善子さん…まっ…待って…!」


いくら早足で歩いても、頬にあたる風で身体の熱が冷める事はなかった。




『つまり!ヨハネのリトルデーモンに触んなって事よッ!行くわよッ!ダイヤ!』



な―――――んで、あんな事を言ってしまったのォ――――!?


マリーが『渡せない』なんて言うからよ!そうよ!ダイヤが嫌がってんのに、キスなんかして!!

ダイヤは、ヨハネが好きなんだから!!


(…す、好き…。)


今、私が手を繋いでいる人物は、私の事が好きなのだ、と意識した瞬間。


「よ、善子さんッ!?」

ダイヤに名前を呼ばれて、かあっと身体がまた熱くなった。


「善子言うな!!”ヨハネ”!!」


訂正の声が裏返ってしまった。


(落ち着け…落ちつかなくちゃ…。)



「と、止まって下さいません!?」


自分でも止められないし、止まらないのよ!

なんで、こんなにイライラするのかも、もう訳わかんない…っ!


「ちょ、ホント、止まって…!止まりなさいってばっ!!」


今、振り向いて、もう一度ダイヤの顔を見たら、私変な顔してないっていう自信が無いし!

ダイヤに、変な顔見られたくない!



「止まれ、と言う言葉が通じませんのォッ!?」

「うな…ッ!?」


やや巻き舌で怒りを含んだダイヤの声と共に、ぐんとダイヤと繋がっていた腕が突っ張った。

なんて事…!ダイヤの奴、足で踏ん張って私を止めた…だと…!?


すると、ダイヤは離れることもなく、がっしりと私の首から腕を回した。


「ふっふっふっ…いつだったか、貴女から喰らった技がありましたわねェ…!私、学びましたのよ!?」

「…え!?」


不敵でどす黒い笑いを発しながら、ダイヤは叫んだ。


「 黒澤流奥義 ”堕天狩りの前奏曲”!! 」

「な、何ソレ…ゥぎゃああああああああああ!!!!!」


この女…い、いつの間に…関節技を…!?


「ぎ、ギブギブギブ…ギブッ!降参ッ!すみませんでした―ッ!!!」


とにもかくにも、私の勢いはそこで殺された。

ふんす、と鼻息荒く、得意気な顔のダイヤは腰に手をあてて、廊下に四つんばいになっている私を見下ろした。


「…まったく。廊下をあんな速度で歩いたら、誰かにぶつかって怪我をしてしまうではないですか!」

「・・・・・・。」


なんだ、そんな事。と私は思った。

いかにも生徒会長っぽい理由で、今の私を止めるなんて。

こっちは顔を見られたくなくて、必死だったのに。




「でも。」とダイヤは、しゃがんで私の頭の上に手を置いた。

熱を帯びた温かいあの手を私の頭に乗せて、3,4回程撫でた。


「あの状況から助けてくださって、感謝いたしますわ。」


そう、優しい声が降って来た。


「……別に…。」

四つんばいになったまま、私は廊下の床を見ていた。


別にダイヤを助けた訳じゃないわよ。という言葉も出てこなかった。

顔を上げてダイヤの顔を見たら、何か言葉を発しようとしたら、全く違う言葉が出てきそうだったからだ。


私の目の前で、アンタが助けてって顔して泣きそうな顔してたからじゃない。


ダイヤとは、なんでもない。

ダイヤが私を勝手に好きなだけ。


ダイヤは、自分の想いが報われなくても良いって言った。


ルビィは、私とダイヤが一緒にいると姉を盗られてしまうのでは、と思っている。

花丸は、ルビィが大好きで、ルビィを悲しませたくないと思っている。

二人が喧嘩する必要なんて無いわ。


だって、私は、ダイヤの事をなんとも思っていないんだもの。


マリーは、ダイヤの事を私なんかに渡せないって言って…キス、をした。

ダイヤは、それを嫌がっていたし、私を見てうっすらと涙まで浮かべた。

だから、ダイヤをマリーから引き離し連れ出した。理由はそれだけ。深い意味なんかない。


昨日今日現れた人間には渡せないなんて、当たり前じゃない。

だって知らないもの。私は、ダイヤの事を皆より知らない。


だから、私は…ダイヤのなんでも無いのよ。



「そういえば善子さん。私、あれから考えたのですが。」

「・・・何よ。」


「デートの行き先ですわ。」

「…ああ、うん…。」


「貴女が行きたい場所、もしくは好きな場所でお願い致しますわ。」

「…な、なんで?」


「私、貴女の事で、まだ知らない事が多すぎるからですわ。」

「し、知らないって…。」


「お互い、Aqoursのメンバーなのに、交流不足でしたわね。だから、もっと知りたいんです。善子さんの事。」


ああ…どうしよう。

”ダイヤの事をよく知らないから”って理由が消える。


「……し、知ってどうすんのよ…!幻滅するかもしれないわよ?私、前々から変だもの!」

「善子さんが変なのは、知ってます。でも…どこまで、どう変なのか、教えてくださいます?」


なんで、そんな事を言うのよ…!

前みたいに、知るとか知らないとか以前に”あり得ませんわ!認めませんわ!片腹痛いですわ!!!”って斬り捨ててくれたら…!




―― 私とダイヤが一緒にいる事で、ルビィが姉を盗られると不安を感じている。
 
『ぶっちゃけ知らないわよ、そんな事。』

―― この先、私と一緒にいて、ダイヤを今朝の花丸みたいに泣かせたくないなって思う。
 
『泣きたいのは、こっちの方でしょ?』

―― 小さい頃からダイヤと一緒だったマリーは、私なんかにダイヤは渡せないと言う。 

『渡すも渡さないも、ダイヤは、マリーのモノじゃないし。』

―― 私は…黒澤ダイヤをよく知らない。 

『 だからさ、私(ヨハネ)はどうしたいの? 』

自分の中から、ヨハネ(私)が私に問う。 

『そんなに、ダイヤに、嫌われる理由が欲しいの?…本格的に嫌われちゃう前に。』

そう。怖いのだ。

皆、変だとか、一緒にいると恥ずかしい、とか。

ダイヤなんて、私と正反対の場所にいる人間なんだから、一時の感情で一緒にいても、きっと…。

『…ああ、私(ヨハネ)は信じていないのね。自分のリトルデーモンの事を。』


…そんな……そんな事…ない…!


「なんで…!」

思わず顔を上げた。

目の前のダイヤは少しだけ笑っていて、私と目が合った時、嬉しそうに目を細めた。



「…なんで、ダイヤは、そんな事言えるの…!?私、ずっとこのままよ?ずっと変で不幸よ!?本当に後悔するかもよ!?」



「好きになってしまったら、そんな事、大した問題じゃありませんから。」


困ったように笑って、ダイヤはそう言った。


(ああ、マズイ…。)


あの日、初めてキスをされた日のように、退路が全て断たれてしまったあの状況に似ている。

初めて、人から好きだって言われて、触れる度に、心臓が跳ね上がって…。

まるで…恋みたいな感覚を喰らわされて…。

そんな趣味、ヨハネには無かったのよ…?本当よ。


でも。ダイヤにとっては、それらも大した問題じゃないのよね?



 ”好き”に なってしまったのなら。



「ダイヤ。」

「はい?」


四つんばいだった私は、しゃがんで私と目線を合わせていたダイヤの制服を掴んで引き寄せる。

ダイヤの唇の端から黒子まではみ出すようについていた…多分、マリーのリップの色を、私の舌と唇で剥がした。


「…な!?」


ダイヤはすぐに身を後ろに引いて、目を見開いて驚いていた。


「…浄化、しといてあげたから。」


そう言って、私は立ち上がって、スカートの埃を払う。


ああ、慣れない事したから耳まで熱い。


「浄化!?一体、何を言ってますのッ!?誰が、不浄だと言うのですかッ!失礼なッ!」

どうして、この女は、モノの例えを知らないのか…!!勘違いもいい所だわ!と、私はダイヤの方を向いて、指をさして言った。

「だあああー!!さっき、マリーに…ち、ちゅーされたでしょ!?だからよ!ていうか、皆まで言わすなッ!!」

自分の顔が真っ赤になっているのは、自覚したくない程、自覚しきった。

「…それって…?」


まだ聞くのか、と私は背中を向けて手を叩いて、それ以上のダイヤの質問を打ち切った。

「浄化!?一体、何を言ってますのッ!?誰が、不浄だと言うのですかッ!失礼なッ!」


「だあああー!!さっき、マリーに…ち、ちゅーされたでしょ!?だからよ!ていうか、皆まで言わすなッ!!」


「…それって…?」

「あーもう終わりー!この話終わりー!終わりまーす!!」


「よ、善子さん…?」


「逢瀬の時刻は、追って電子鳩のさえずり(LINE)で連絡するわ!!じゃ!!!」


「お、逢瀬って…!あ!廊下は走らない!!」

※ 逢瀬…愛し合う男女がひそかに会う機会を指す。ダイヤは意味をしっているが、善子は…。



後ろから、はあっという溜息が聞こえ、私は逃げるように、そのまま早歩きで立ち去った。



その後。練習が始まった。
ルビィとずら丸は、無事仲直りしたみたいで、ニコニコ笑って柔軟体操してるし。

「NOOOOO!!」

ダイヤは、マリーに”黒澤流奥義”を無言で喰らわせていたし



・・・ああ、これで元通り、なのかな、と私はホッとした。

これで、練習に身が入るってもんだわ!



「よっちゃんよっちゃん。」

「ん?リリーどうしたの?柔軟ペア組む?」


リリーは、うん♪とやけに上機嫌に返事をしてくれた。

背中を押しながら、リリーは言った。


「…ありがとう、よっちゃん。」

「はい?ペア組んだ事?」


「ううん、今回色々、オイシ…うん、あの…とにかく、ありがとう。うん。」


頬を桜色に染めたリリーは、視線をダイヤにチラチラと向けながら、ほくそ笑んでいた。

嫌な予感。


「・・・・・・見たの?」


そう問うと、リリーは突然歌い始めた。


「…♪君の心は〜輝〜いて〜るか〜い♪」


「歌って誤魔化してんじゃないわよ…!見たの?ね?リリー!」



柔軟どころではない。リリーに小声で質問し続けると、リリーは私の目を見て、しっかりと歌った。



「…♪”YES”と答えるさ〜♪」


アンサーソングだった…!!



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!何をどこから見たの!?リリー!!」


「よっちゃん、やるね☆」

そのグッと立てた親指とちょろっと出した舌がムカつく!!



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!」


柔軟そっちのけで、頭を抱えて私は床をゴロゴロ転がった。




「善子ちゃん、ゾンビみたいにうるさいずら。」


「そこ!集中なさいッ!!」


「ダイヤさん!そんな事より、鞠莉さんが口から泡吹いてますよ―ッ!?」


「…え?んまあぁ。誰がこんな事を―(棒読み)」


「ダイヤでしょ。まあ、鞠莉の自業自得だけどさ―。」


「3年生チームがやけに冷たい…!こ、怖いよ!曜ちゃ―ん!!」





 Aqours 本日の練習は、中止になりました。





 - END -


あとがき

私の書くダイヤさんは比較的、穏やからしいです。

善子→ダイヤだとまた違うのでしょうが、このダイヤさんは善子にベタぼれです!