[ Fate/EXTRA 〜コミュニケーションを考えよう。〜 ]




「ちょっと!アンタね、少しは魔術師としての自覚あるの!?」


屋上で焼きそばパンを食べながら、端末を見つめていると、遠坂 凛がいきなり声を掛けて来た。

声を掛ける、というか・・・いきなり大声で怒鳴りつけられた、と言った方が正しいかもしれない。


「あ、えと・・・夕方トリガーを取りに行くつもりだけど・・・」


とりあえず、今日の予定を口にしてみるが、凛はまったく納得しない。

いや、納得するどころか、ますます怒りが表情に出てくる。


「そういう事言ってるんじゃないの!」

「はあ・・・」


魔術師としては先輩の凛にとって、記憶も経験も何もない自分みたいな者には、やっぱり何か一言言いたい事があるらしい。

ここは・・・覚悟して聞こう。


「あのね、ここはね戦場なのよ!それなのに、なんなのよ・・・アンタときたら、こんな所で焼きそばパンを頬張って・・・」

「す、すいません・・・。」


「本当に自覚あるの?今、ここで後ろから襲われてもおかしくないのよ?」

「う・・・すいません・・・。でも、セイバーがいるし・・・。」


私のサーヴァントのセイバーは普段は姿を隠してはいるが、常に私の傍にいる。だからどこか安心している自分がいる。


「それよ!」

「はい?」


「ここは、戦場だって言ってるのに・・・アンタって人は、セイバーとイチャイチャイチャイチャ・・・!!」

「すいませ・・・え?・・・い・・・イチャイチャ?」


ふとした私の疑問に凛は聞き返した。


「な、何よ?」

「いや・・・私とセイバーって、他の人からそんな風に見えるのかと・・・。」


「あ・・・アンタ・・・自覚なかったの!?呆れた!」


・・・呆れられた。

なんだかよくわからないけど、私はセイバーとイチャついて見えるようである。


「・・・き、聞き捨てならんぞ!いつ余と奏者がイチャイチャしていたというのだ!」


あらら、セイバー・・・。出てきちゃった・・・。


「してるじゃないの!アリーナで戦闘が終わる度に・・・手を合わせて・・・!」


凛の言葉に、私は思い当たった事を口に出してみた。


「・・・ああ、もしかして”ハイタッチ”の事?」

「それ!なんなの!?あれ!」


「なんなのっていうか・・・ねえ?」

後ろで仁王立ちするセイバーに私は話を振る。


「余の勝利を奏者と分かち合う儀式のようなモノだ!」

「・・・・・・・・。」


・・・はい、大変、簡潔な説明ありがとうございました。


凛の言う、手を合わせる”ハイタッチ”は、私が何気なくセイバーに教えたものだ。

始めはセイバーのあまりのマイペースぶりに、どうやってコミュニケーションを取ろうか悩んだ挙句、編み出したのが、このハイタッチである。

戦闘で勝利した後、パチンと手を合わせ、笑い合い、勝利を分かち合う。幸い、セイバーはこれを凄く気に入ってくれた。

今では、すっかり定番になっている。

と私が訂正の説明をするが、凛は納得しなかった。


「いいえ!違います!アレは”ハイタッチ”じゃないわ!」


すぐに異議ありが唱えられた。


「・・・え?違うの?」

「なんと!?」


驚く私とセイバーに向かって凛はビシッと人差し指を突きつけ、こう言い放った。


「手を合わせた後、指が絡んでるじゃない!指が絡んだ時点で!断じて、ハイタッチじゃないわっ!!」


「・・・・・・・。」


・・・そういう問題か?


「ふむ・・・凛とやら。一つ聞いておきたいのだが。」

「何よ?」


セイバーが凛に質問とは珍しいな、と思いつつ私はそれを傍観しながら、とりあえず、焼きそばパンを頬張った。


「・・・余と奏者が指を絡ませると、そなたに何か害でもあるのか?」

「・・・え?」


(もぐもぐもぐもぐ・・・。)


「余と奏者が共にアリーナで戦闘を重ね、その勝利を分かち合うコミュニケーション行為で、そなたに何か迷惑でもかけたか?」

「そ、それは・・・!」


(もぐもぐもぐもぐ・・・。)


「・・・もしや・・・妬いておるのかぁ?」

「だっ!誰が!!」


(もぐもぐもぐもぐ・・・。)


「ふむ、最初から怪しいとは思ったのだ。初対面で、我がマスターの体をペタペタ触るあの行為からして、そなた、さては奏者の事を・・・」

「だーッ!!それは!違うわよ!!あれは、あたしが勘違いしただけで・・・!!」


(もぐもぐもぐもぐ・・・。)


「では、問題あるまい?」

「だ、だから!そういう事じゃなくて!あたしは、ただ、イチャついてないで、もっと緊張感を持てって意味で・・・」


(もぐもぐもぐもぐ・・・。)


「緊張感の無さは、奏者の長所であり、短所でもある。それに、余がついている限り、負けは無い。」

「あ、あんたねえ・・・!」


(もぐもぐもぐもぐ・・・。)


「「・・・って、いつまで食べてる!!」」


セイバーと凛に一斉にツッコミを入れられ、私はゴクンと口の中の焼きそばパンを飲み込んだ。


「・・・え?ダメだった?」


「元は奏者の提案だぞ!?ビシッとこの女に言ってやるのだ!余と奏者のコミュニケーション行為の正しさを!!」

「何が正しさよ!?コミュニケーションなら、他にもいっぱいあるでしょうが!それをアンタ達はイチャイチャ・・・」


二人が一斉に喋りかけてくるので、正直、対応に困った。

聖徳太子じゃあるまいし、とても聞き分けられそうにも無い。


「うーんと・・・えーと・・・話を総合すると・・・。」


私は一つの結論に至った。


「凛。右手挙げて。」

「え?あ、うん。」


”パチン。”


「いつもアドバイスありがとう、凛。」


そう言って、笑いながらぎゅっと握る。これが、いつもセイバーにしているハイタッチだ。


「・・・な、何で・・・あたしに・・・!?」


かあっと顔を赤くしたと思ったら、凛はそっぽを向いてしまった。


「いや、いつもありがとうって気持ちを込めて。」

「・・・あ、そ・・・そう言うことなら・・・まあ、いいわ。」


凛が大人しくなったので、納得してくれたのだな、と私は思った。

やれやれ、これで問題は解決か、と私は焼きそばパンを口にしようとすると・・・


「待て!奏者!!余とのコミュニケーションを、その女ともするのかッ!?」

「・・・あ、ダメだった?」


今度はセイバーが怒っている。


「ダメに決まっておろう!!余と奏者のコミュニケーションであろうが!!馬鹿者ッ!!」

「あ、ゴメンゴメン。」


”パチン。”


「いつもありがとう。セイバー。」


今度は両手でハイタッチ。そして、笑ってぎゅっと手を握る。


「むう・・・釈然とせぬが、まあ良い。・・・両手で握ってくれるだけ、その女より上であるからな!」

「・・・ッ!!」


「・・・・・・・・・。」


ああ・・・セイバー余計な事を・・・!


「だ、だから!イチャイチャするなって言ってるでしょッ!?」

「はぁ〜っはっはっはっは!見よ!これが余と奏者の絆だッ!」


「ど、どんだけマスター好きなのよ!?アンタ!!」

「フッ・・・愚問であるな・・・答えるまでも無いわ。」


「鼻で笑うんじゃないわよー!何よ!その”どや顔”!!!」

「はっはっはっはっは!」


(もぐもぐもぐもぐ・・・。)


「「だから喰うなあああああああ!!」」


「・・・あ、ダメだった?」


・・・結局、その後2人の討論に巻き込まれ、2人に散々ハイタッチを強要され、私の焼きそばパンは、パッサパサに乾燥してしまった・・・。


(・・・今度は食堂で食べよう・・・。)



― コミュニケーションを考えよう。・・・END ―




あとがき

今でもちょくちょくプレイしています。

ただ、無性に焼きそばパンが食べたくなったり、麻婆豆腐が食べたくなったりします(笑)