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[ Fate/EXTRA SS キャスター×女主人公 ]






そろそろ、朝だ。

今日こそ、アリーナに行って・・・トリガーを取得しなくては・・・でも、また対戦相手が何か仕掛けてくるかもしれない。

キャスターの言うように、私も何か仕掛けるべきなのだろうか。


目を閉じたまま、まどろみの中で私は考えた。


が。


「ああ・・・ご主人様・・・なんて、無防備なお姿なんでしょう・・・


あーこのまま、寝込み襲っちゃおうかなー・・・。


・・・なーんちゃって☆きゃっ♪」


顔の近くで聞こえてきた不穏な言葉が、私の思考をシャットダウンさせた。





[ 良妻への道。2 ]




「ちょっと待てっ!」

「・・・きゃー。お、起きてらしたんですかー?ご主人様ー。(棒読み)」

がばっと起き上がった私に向かって、キャスターは不満そうな顔でそう言った。


「今・・・なんか呟かなかった?」

「まあ、それはそれとして・・・おはようございます♪ご主人様。」


三つ指をついて、狐はぺこりと頭を下げた。そして、話題を見事に逸らそうとしている。


「だから、何か呟いたよね?」


私は追及を止めなかった。

キャスターは一瞬の間のあと、ニッコリと笑って言った。


「可愛い狐の鳴き声くらいお聞き逃しくださいな♪」

「・・・可愛い鳴き声どころか、いかがわしい独り言が聞こえたんだけど?」


私は追及を止めない。

キャスターは苦笑いをしながら、両手をブンブン振って答える。


「だぁって、私、狐ですもん♪」

「”だって”の意味がわからない!私に・・・私に何する気だったの!?・・・ねえ、まさか・・・」


目の前にいるのは、英霊。とは、いえ・・・狐。

狐の主食は・・・肉、昆虫、植物、と幅が広い。


・・・キャスターくらいの大物の狐ともなると・・・


「わ、私の事・・・食べよう、とか思ってなかった?」


私の質問に、キャスターは「・・・あ・・・。」と呟き、黙ってしまった。


「ちょ、ちょっと!?なんで、黙るの!?否定してよ!」


うろたえる私に対し、キャスターはもごもごと言い訳を始めた。


「いや・・・そのぉ・・・狐という生き物はですねぇ、ご主人様・・・そういう生き物なんですよ・・・だからーそのーなんですかー・・・やめられない止められない、といいますか・・・。」

「や、やめようよ!止めようよ!私、かっぱ○びせんじゃないんだから!」


私がそう言うと、キャスターは急にムッとした表情になり、怒り始めた。


「ご主人様!私は・・・私は、ご主人様LOVE!!なんです!!!この熱意と愛情は、誰も止められはしないのです!

ご主人様は、私の愛が不必要だと仰るのですか!?それは・・・それは、いくらご主人様でも、あんまりですッ!!!」


そう言って、キャスターは涙目になって立ち上がり、遂には、大げさによろけながら畳の上にうつ伏せになり、めそめそと泣き始めた。


「うう・・・うえええ・・・。」


・・・・・・さすがに、ちょっと言い過ぎたかな・・・。


「・・・・・・(チラッ。)・・・・うううっ・・・!」


・・・・・・・・今、チラ見した・・・。絶対、目が合った。・・・・・・でも・・・やっぱり、言い過ぎたかな・・・。

よくよく考えれば、いくらなんでも、私の事を食べたりしたら、マスターの存在は消えてしまう訳で。

そうすれば、キャスターだって消えてしまう訳だし。

それが、わからないキャスターではあるまい。


・・・つい、狐の習性で口走ってしまった、と考えるのが、妥当だろう。


「キャスター・・・ごめん。私が悪かった。」


私は素直に謝った。

だが。


「うううう・・・一度ついた乙女の心の傷は、そんな簡単な言葉では癒えませんッ!ううう・・・・!」

「ご、ごめん・・・」


ここは誠心誠意をもって、謝ろう。すまなかった。


だが。


「じゃあ・・・ちゅーしてください。それで、チャラにしましょう。」


うつ伏せのキャスターはこちらを横目に見ながら、そう言った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


私は首を傾げると、キャスターは再び泣き出した。


「・・・うええええええええええええええええん!!!」

「わわわわわ、わ、わかった!ほっぺにする!」


せ、誠心誠意・・・誠心誠意・・・善処するしかあるまい。

だが。


「うわああああああああああああああああああああん!!私の心の傷に対して、その対処はあまりにも軽い!軽すぎますぅ!!!」

・・・どうやら、お気に召さなかったようで。


「・・・じゃ、どこがいいの・・・?」と、私が希望を聞くと、キャスターはスッと起き上がった。

そして「勿論、くちびるです。」と、即答した。


「・・・・・・・・・・・・・・・うーん・・・。」

「・・・ちっ・・・うわあああああああああんっ!!」


私が腕を組み考えると、キャスターは、またうつ伏せになった。・・・しかも何気に舌打ちも聞こえた。


しかし・・・この調子では、満足な情報収集も出来ないまま、夕方になって・・・いや、夜になってしまう可能性もある。

万全の体制で、トリガー取得を目指す為には、マスターとサーヴァントの協力は必要不可欠。


「わかった・・・。」

「本当ですか!?」


即座に起き上がったキャスターだが、私の顔を見て、すぐにふて腐れた表情になって言った。


「・・・あーなんかー・・・その顔、渋々って感じするんですけどー・・・?」


・・・この期に及んで、まだ文句を言うのか・・・と私は思ったが、口に出すのはやめた。


「いや、全然。」


私は、顔を横に振った。

すると、畳にのの字を描きながら、キャスターがしなを作って言った。


「じゃあじゃあ・・・『キャスター愛してるよ』って・・・ビシッと言ってから、ちゅーして下さい!今、私に必要なのは、そういう愛です!いいですね?ご主人様!」


強要される愛・・・。

恥ずかしい台詞・・・。


これを愛、というべきなのか・・・これでは、完全に私はキャスターの尻に敷かれているような気がするが・・・。

しかし、これ以上、キャスターの機嫌を損ねてしまう訳にはいかない。


「・・・わ、わかった。」


誠心誠意。誠心誠意をもって・・・。

私はキャスターの両肩に手をぽんと置いた。


キャスターの期待の眼差しが、突き刺さるように注がれる。


「・・・・あ・・・愛してるよ、キャスター・・・・・・・・」


私が、そう言うと、キャスターがぱあっと笑顔になり、目を閉じた。


「んー。」


催促の「んー。」が聞こえる。


・・・・・・・・キスをしろ、と?


・・・いや、約束したのだ、迷ってないで、せねばなるまい。

私は軽く触れるようにキスをし、離れようとしたが、キャスターが瞬時に両腕で私をがっちりと固定した。

・・・も、ものすごい力だ・・・!何故、戦闘時にこの力を出さない!?と疑問に思う間もなく、キャスターは強引に私を抱きしめたまま、倒れこんだ。

畳特有の匂いがして、私は薄目を開けてキャスターを見た。


キャスターは、私を見下ろし笑っていた。


「・・・ご主人様・・・一つ良い事をお教えしましょう・・・狐は・・・いえ、私は一途なんです。」


それは・・・果たして、良い事なのだろうか。と私は思ったが、言えなかった。


「私は、ただ、ご主人様をこの場で食べちゃいたいくらい、お慕いしている訳です。この気持ち・・・プライスレスです!!」


力強くそう言い切ったキャスター。

そこで私は、ハッと気付いた。


「え・・・?も、もしかして、私の事、”食べる”って・・・そういう意味?」

「・・・他にどんな意味があるんですか!?」


信じられない!といった表情で、私の顔を覗き込むキャスターに対し、私は正直に告白した。


「いや、てっきり・・・捕食されるのかと・・・。」


そう言うと、キャスターは両手をブンブン振り回しながら怒った。


「あー酷い!!ご主人様!もう一回です!もう一回ちゅーしてくれないと、私の新たに出来た傷は癒えません!!!」


「え!?ま、また・・・?」

「いいですかッ!?私の原動力は、ご主人様の愛なんです!!さあ!たっぷり注ぎこんで・・・」

と言い掛け、キャスターがふと黒い笑みを浮かべ、こう言った。


「というか・・・私が、ご主人様に注ぎ込みますね?・・・たっぷり、と。」


そう言って、着物の帯を緩めるキャスターに対し、さあーっと私の血の気が引いていく。


「ちょ、ちょちょちょっと待っ・・・んぐっ!?」



抵抗空しく・・・私は・・・違う意味で”捕食”された。



・・・もう少し・・・もう少し、私が冷静にキャスターの事を考えていたら・・・それだけが悔やまれる。



・・・いや、もう・・・何も考えられない。

「さあ、お触り下さいな・・・。」


導かれる手に当たる、柔らかでハリのある、温かい肌の感触。


「わ・・・きゃ、キャスター・・・!」


咄嗟に手を離そうとするが、キャスターがそれを許してはくれない。

私の掌はどんどんキャスターの胸に押し当てられ、その胸が私の指の間からこぼれそうになる。


「ご主人様は、ちょ〜っと考えすぎなんです。考えず、感じて下さい。」


そうは言っても、と口を開こうとした瞬間、キャスターは唇を塞いだ。

そして、まるでソフトクリームでも舐めるように、私の唇を舌で優しくぺろりと舐めた。


「・・・・・・どうです?悪い気分じゃありませんでしょう?」


「・・・・・・・・・・・・。」

(うーん・・・。)


そう聞かれて、私は視線を上に逸らした。

びっくりは、した。自分のサーヴァントにこんな事をされるなんて思ってもみなかったから。

目の前の狐は、私の両頬をぐっと押さえ、視線を自分へと向けた。


「だ〜か〜ら〜、ご主人様。考えない、考えない。」

そう言うが早いか、キャスターはまた唇を塞いだ。


今度は・・・深い。ぴったりと唇をつけられ、半ば強引にキャスターは舌先で私の上唇と下唇の間に入り込んだ。

キャスターの舌先が、私の舌を刺激する。


(こ、こんなの・・・!?)


私はそこまで考えたが、また思考がストップした。


考えるのを、キャスターが許してくれないのだ。


制服と着物の擦れ合う音が、やがてしなくなる。

肌同士が触れ合い、キャスターの尻尾が時折私の太ももを撫でるように触れる。


「きゃ、キャスター・・・ねえ・・・」

「大丈夫です♪全て、私にお任せ下さいな♪・・・優しく、ゆっくりと・・・不安な事も何もかも、考える間も与えない、濃厚な愛の時間を差し上げます。」



そう言うと、キャスターは再び私から考える時間を奪い取った。

考えなければ、と思う時間から、ただ感じる時間へと変わる。




私の心の奥にあったはずの不安・焦りは、その感じている時間の間、その存在を消した。




「・・・ご主人様、とっても、可愛かったですよ♪初々しいくって♪・・・きゃっ☆」


そう言って、ぺろりと指を舐めるキャスターに対し・・・私は「・・・・・・ありがとう・・・。」と、力なく答えた。

これは、これでマスターとサーヴァントの絆が深まったのだ、と・・・そう思う事に・・・した・・・。


「ああ、また愛が私を強くしてくれた・・・今度も滅殺・・・というか、瞬殺してご覧にいれます♪ご主人様♪」


うっとりしながらも、頼もしい一言に、私は寝転びながら笑って答えた。


「うん・・・頼りにしてるよ、キャスター。」





[ 良妻への道。2 ・・・END ]





・・・どうして・・・どうして、綺麗なSSが書けないの・・・!?と思いながらも、UPしました。

加筆修正しましたが、もうこれ以上どうにもなりませんでした。


キャスターファンの皆様、申し訳ありませんでした。