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 [ Fate/EXTRA SS 赤セイバー×女主人公 ]




「セイバー!」

「わかっておる!我が剣の錆にしてくれるッ!!」


セイバーは・・・今日も凛々しい。

彼女は、私のサーヴァントではあるが・・・なんというか・・・。


(・・・・・・カッコイイ・・・。)


自分の身長とも同じくらいの赤い剣をセイバーは、軽々と振るう。

その後姿を私は、ぼうっと見ていた。


「マ・・・ター!・・・マスター!!何をぼうっとしている!?」

「・・・え?あ!!」


ハッとした私の目の前には、既に敵が私に向かって牙を向けていた。



死ぬ・・・?



寒気を感じる間もなく、私は目を瞑った。



「させるかあぁっ!!!」



―――次の瞬間、セイバーの赤い剣が敵を真っ二つにした。



「マスター!無事か!?」

「う・・・うん・・・。」


華麗に着地したセイバーに対し、私はゆっくりと目を開き、情けなく尻餅をついたまま、返事をした。

・・・まだ体が震えている。・・・怖かった。


「マスター!」

「あ・・・セイバー・・・。」


駆け寄ってきてセイバーは私の肩に触れた。

その瞬間、私はセイバーに飛びつくように抱きついた。


「・・・む・・・ま、マスター・・・!?」

「セイバー…!セイバー…!」


何度も何度も名前を呼んで、私はセイバーに必死にしがみついた。

情けないとは思えど、怖くて怖くて仕方が無かった。


「大丈夫だ、マスター・・・この余がついておる。」


そう言って、セイバーは私の背中を何度も何度も撫でてくれた。


「ごめんなさい・・・セイバー・・・!」


元はといえば・・・自分は戦闘に慣れてきている、という慢心が招いた結果だ。

いつものセイバーなら『それでも余のマスターか!?』と怒ってくれても良いのに、セイバーは何も言わずに立ち上がって言った。


「・・・今日はもう引き上げるとしよう。トリガーの探索は、明日でも出来る。」


「でも・・・。」


私の言葉を遮るように、セイバーは背中を向けて来た道を戻り始めた。


「余は湯浴みがしたい。帰るぞ。」

「・・・・・・あ・・・うん・・・。」



・・・セイバーは怒ってる?・・・さすがに、怒ってるよね・・・。

ううん、違う・・・きっと、呆れて、もう怒ってもくれないんだ・・・。



無言で歩く。

セイバーの背中すら、まともに見られない。


・・・悔しい・・・情けない・・・。


「奏者・・・なっ!?ま、マスターどうしたッ!?」

「ゴメン・・・セイバー・・・」


私は立ち止まって、泣いていた。

こんな姿をサーヴァントに見せるなんて、とますます自分が情けなくなったが、涙は止まってはくれなかった。

そんな私の姿を見て、セイバーは驚き、私の顔を覗き込んだ。


「な、何故泣く!?余は、ちゃんと守った筈だが・・・もしや、どこか怪我でもしたのか!?」


私は、無言で首を横に振った。


「な、ならば何故泣く!?余は・・・余は・・・えーと・・・あの・・・とにかく泣くでない!!」

そう言って、セイバーはぽんと私の肩に触れた。


「・・・・・・ゴメン・・・。」

私は涙を止めようとして、俯いた。


「私、情けないよね・・・セイバーが一生懸命戦って、守ってくれてるのに、私・・・セイバーの背中をぼうっと見てるだけで・・・何も・・・」

「・・・・・・・・・。」


「・・・私・・・何も・・・!」


また涙が溢れてきた。泣いたってどうしようもないって分かっているのに。

こんな事していたら、ますますセイバーに呆れられてしまう。


すると、セイバーが私の傍に近づき、少し背伸びをして、腕を伸ばそうとして、止めて、もう一度背伸びをして・・・止めた。


「・・・マスター・・・!・・・むう・・・・くっ!・・・ま、マスター!少し屈めッ!!」

「・・・え?」


セイバーからの突然の謎の注文に私の涙は、止まった。


「良いから、少し屈め!今すぐに、だ!」


すんっと鼻をすすって、私は言われたとおり、少し屈んだ。

頭でも殴られるんだろうか。・・・でも、そのくらいの失態を私はしたのだ。

ここは、素直に受け入れよう。



だが、その途端、セイバーが私を思い切り抱きしめた。


「セイ、バー・・・?」


「余が守ると言ったら必ず守る!決して、約束は違えぬ!」


「・・・!」


力強いセイバーの言葉がアリーナに響く。


「余の背中を預けられるのは・・・マスター、そなただけだ!心から信頼している!だから・・・もう泣くな!」


呆れられたんじゃなかったんだ・・・と私は安堵し、セイバーの背中に腕を回した。

ほのかに薔薇の匂いがする。


「・・・まあ、余の芸術的な後姿に見とれるのは解るが・・・。」

「うん・・・ごめん。」


セイバーの説教のような自慢に対し、私は素直に謝った。

実際、セイバーの後姿に見とれていたのは事実なのだから。


「なッ!?・・・本当に見とれていたのかッ!?」

「・・・・う、うん・・・。」


私が素直に認めたのに、セイバーは酷く驚いたようだった。


「・・・そ、それで・・・・・・・ど、どうだったのだ・・・?」

「え?何が?」


「余の後姿は・・・奏者の目から見て、どうだったのか、と聞いておるのだ!」


顔を真っ赤にしながら、セイバーがそう聞いてくるので、私はまた素直に答えた。


「・・・格好良かった。」

「・・・・・・・う、うむ・・・ま、まあ、当然であろうな!ふははははは!!」


そう言いながら、顔を真っ赤にしながらセイバーが腰に手を当て、笑い始めた。

セイバーが笑っているのを見て、私も少しだけ笑う事が出来た。






マイルームに戻ると、セイバーが今日の反省をする、と言い出した。


「・・・とはいえ、だ。戦闘中にぼうっとするのは感心せぬな。」

「・・・もう、しません・・・。」


反省してます、と私は頭を下げた。




「うむ・・・許さん。」



「・・・え?」



やはり、セイバーは怒っていたのか・・・?

私の顔色は自分でも解るほど、青ざめていった。



・・・嫌な、予感が・・・する。



「・・・今後、奏者が余の後姿に見とれぬように、その身体にみっちりと教えてやろう。」

「え・・・ちょ・・・ッ!?」


セイバーが縄を取り出し、私の手首に巻きつけた。


「今は邪魔をする敵もおらぬ。この余の美しい姿を・・・後ろだけとは言わず、全方向から、とくと見ておくが良い。」


そう言って、セイバーは微笑み、さあ見るが良いと立ち上がり、華麗にゆっくりと一回転してみせた。


「は、はぁ・・・ありがとう、ございます・・・。」


だけど・・・気になる事が一つ。


「あのセイバー・・・どうして、私・・・縛られてるの?」


そう、手首に巻かれた、この縄。

セイバーに、ぐいっと引っ張られるだけで、両腕が上に引っ張られ、自由が奪われる。

私の問いに、セイバーは目を細めて笑った。


「解らぬのか?奏者は今日、失敗を犯したのだ。これは、その・・・”仕置き”だ。」

「し、仕置きって・・・!?」


「・・・ふっふっふっふ・・・。」


青ざめた私の問いに、セイバーは不敵に笑ったまま・・・言葉で答えてはくれず・・・。


私は問いの答えを”身体”で知ることになった。


脇腹から脇、二の腕までセイバーは撫で上げた。


「やっ・・・セイ、バー・・・ぁ・・・ッ!」


思わず、ゾクリとして、変な声が出る。


「良い反応だ・・・奏者・・・良いぞ・・・ふふふふ・・・。」


ニヤリと不敵に微笑むセイバーを見て、私は思った。

”・・・もう、二度と・・・同じ失敗はしない”、と自分自身に誓いをたてた。


「・・・とはいえ、やはりコレは余の趣味では無いな。」


そう言って、セイバーは縄を外し始めた。

人を縛っておいて、あんな笑みまで浮かべて、ノリノリだった割には、あっさりとソレは外された。


「・・・安心したか?奏者よ。」

「え・・・?」


セイバーのその微笑に、先程の悪ノリの類は全く無かった。


「えと・・・うん・・・。」


私は曖昧な返事をした。どうしてだろう。

落ち着かない私は、たださっきまでセイバーが縛り繋いでくれていた、手首をさすりながら、目線を逸らした。


「奏者よ、手首を痛めたのか?そんなにきつくは結んではいなかったはずだが・・・」

「・・・あ、ううん。そういう訳じゃ、ないの・・・。」


上手く表現出来ない、何か。

その何かが、心の中でジクジクと疼く。

黙っていると、セイバーが膝をついて、私の顔をじっと見たかと思うと、腕組をしてから、やがてびしっと指差してこう言った。


「・・・そ、そのような反応をするな・・・!・・・・・・・たくなる・・・。」

「ん?何?」


最後の方がよく聞き取れなかったので、私は膝をついたままセイバーに近づいた。


「だ、ダメだ!奏者!そのッ!今の余は・・・」

「何?どうしたの?」


急に顔を真っ赤にして、セイバーは私と距離を取る。

何故、距離を取るのか。

私には、それが少し不満だった。


「ねえ、セイバー?」

「・・・し、知らんぞ!?余が・・・余が、今、どういう状態か、マスターならば察しろ!」


顔を真っ赤にして、私が近づくのを拒むセイバーに、私は、ますます不満を感じた。

上手く表現出来ない、何かが心の中で暴れ始めた。

正直、これ以上、近付いたら、セイバーが私をどうするのか、わからない私じゃなかった。


「わかってる。」

「なっ・・・!?」


驚くセイバーの肩に額をつけて、私は小声で言った。


「・・・わかってて、私、セイバーに近付いてるの。」

「・・・・・・マスター・・・。」


セイバーは私の肩に手をかけ、両目でしっかりと見つめ、ゆっくりと唇を近づけた。

自分のサーヴァントの全てを、私は受け入れた。

柔らかい感触の後、優しい暴君は私を押し倒した。

これから、この暴君のする事を、私は受け入れるつもりだ。

多分、それがこの心の中でジリジリと疼く何かを解消してくれる気がするから。




彼女が、私に背中を預けてくれているのと同じように・・・私も、セイバーを信じている。




優しい暴君の貴女が、私は大好きだ。






[ 自重を知らない暴君3 ・・・END ]





あとがき。

加筆修正したら、綺麗に終われるかなとか思いましたが・・・なんか無駄な抵抗だったみたいですね。(笑)