※ Fate/EXTRA/CCCを未プレイの方は、ネタバレ・・・キャスターが真名を躊躇無く言います。
[ キャスターと私。3 ]
包丁がリズミカルにまな板に当たる音がする。
シャキシャキという音。ネギ、だろうか・・・。
夢うつつに、それらの音はとても心地よくて。
「♪ふふ〜ん・・・ふふんふ〜ん♪」
それから・・・鼻歌。
薄目を開けると、ふっさふさの尻尾が揺れている。
「あら、大変!旦那様を起こさなきゃ!んもう、だから昨日は3回で止めて、早く寝ようって言ったのに〜もうっ肉食系なんだからっ・・・なーんて☆
なーんてなー・・・あー言ってみてー・・・あー・・・ノロケとか言ってみてー・・・あーあ・・・。」
・・・何か不吉な独り言が聞こえた気がするけれど、まあいいや。
ふっさふさの尻尾がこっちにやって来る。
薄目を開けていた私の瞼は、まだ重くて薄目を維持できず、閉じてしまう。
薄暗くなった視界の向こう側から、声が聞こえた。
「ご主人様、ご主人様、起きて下さいまし、起きないと・・・ちゅーしちゃうゾ☆」
・・・起きた。
がばっと起き上がり頭を振ると、キャスターは残念そうな顔をして言った。
「・・・んー・・・もう少し、寝惚けてくれてても良かったんですよ?ご主人様。」
「・・・・。」
とんでもない。
あのまま眠りの世界に落ちていたら、次に目覚めた時、ピンク色の世界に降り立つ事になる。
起きようと掛け布団を横にずらそうとすると、その上にキャスターがまたがる。
「さあさあ、今日のお召し物はどうなさいます?セーラーですか?体操服?んータマモ的には〜
前の制服に〜メガネとガーターかな♪あ、生足もいいですね♪・・・いや、いっそ、スク水!?」
私の今日のコーディネートを決めてくれるのは大体、キャスターだ。
・・・ホントに奥さんって感じ。
朝から、よく動くというか。
キャスターだって疲れているだろうに。
嬉しそうに、私の服を選ぶキャスターは、私の目の前で服を見せてくれた。(でも、スク水は無い。)
「どうなさいます?」
至近距離で、キャスターが私に話しかける。
いつも通り、私を見つめるキャスターの目はキラキラしている。
・・・こんな時に限って、真っ黒い意地の悪そうな顔をしていない。
「ご主人様?・・・もしや、具合でも悪いんですか?どれどれ。」
キャスターは、私の前髪を手で上げると、自分の額をつけた。
「ん〜・・・お熱はないみたいですね〜・・・あ、ちなみに私はご主人様に永久にお熱です♪」
・・・上手い事を言ったつもりか!といつもならツッコむのだが。
どうも・・・さっきから、なんか、変な感じがする。
そして、その変な感じの原因と対処法を私は知っている。
「キャスターに任せる。」
私は口を押さえて、立ち上がり洗面台に向かう。
「あ、あれ?ご、ご主人様?あの〜?」
「・・・・・。」
無言で顔を洗い、歯ブラシを咥える。
後ろでは、キャスターが妙にしょんぼりしたように耳を倒したまま、私に質問をした。
「ご、ご主人様・・・私、何かご主人様を不機嫌にしてしまうような事をしましたでしょうか?」
私は、鏡の中に映っているキャスターをちらっと見ながら、歯磨きを続けた。
「・・・あ、あの〜バレてしまったのなら、正直申し上げます。
た、確かに・・・その、ご主人様がご使用になられた制服の匂いを夜な夜な嗅いでいたのは、正直謝ります。
ごめんなさい!!」
人が寝ている時に、そんな事をしてたんかい!といつもならツッコミを入れるのだが、私はずっと歯磨きをしていた。
キャスターは私が黙ったままなので、いよいよ必死になって懺悔を始めた。
「・・・ち、違う!?・・・じゃあ・・・ご主人様が”洗濯しておいて”と私に預けてくださったブルマを思い切り顔から被った事ですか!?」
変態じゃねーか!洗濯しなさいよ!といつもならツッコミを入れるのだが、私の口の中は歯磨き粉の泡で満たされている。
「こ、これも違う!?じゃあ・・・ご主人様が眠った後に、思い切り胸に頬ずりしてた事ですか!?あ、アレは単に温もりが欲しかっただけなんです〜!!」
なんか時々寝苦しい感じがすると思ったら、原因はお前か!といつもならツッコミを入れるのだが、私は奥歯を磨いていた。
「・・・う〜・・・私が枕元で、ご主人様の耳たぶをはむはむしてた事ですか!?
それとも、睡眠学習効果を狙って、夜な夜な『貴女はキャスターに×××したくなーる』って呟き続けた事ですか!?
それとも、ご主人様の髪の毛を収集してDNAを手に入れて、違う女の髪の毛がご主人様の衣服についたら、すぐに判る様にしている事ですか!?
それとも・・・迷宮内で、坂上がる時にご主人様のスカートに向かって息吹きかけて、パンツ拝んでた事ですか!?
うううう・・・これじゃないとすると、もしかして・・・
夏コミで、ご主人様×キャスター18禁本を売り出そうとしてる事ですかっ!?げ、原稿見たんですか!?
アレは私に陵辱願望がある訳ではなくですね!単にああいう系が売れるから・・・
いえ!ご主人様の愛あるお仕置きがメインで・・・決して、ご主人様に鬼畜眼鏡になって欲しい訳ではないのです!
あの〜だから、最終的にご主人様の股間にアレが生えるのは、ご主人様の性別を否定している訳ではなく、一重に私の愛ゆえに一つになりたかった想いを表現してみた、と言いますか・・・!」
・・・なんか、私の知らない所で色々してるんですね。貴女って。
そのやらかしたほとんどの事が、あっち系なのが、なんとも貴女らしいというか。
私はカップの水を口に含み、軽く濯ぐと出した。
うん、口の中スッキリ。
「ご、ご主人様〜どうかお許し下さいませ〜!無視は、無視は嫌です〜!!」
土下座に近い状態で、キャスターは必死に謝り続けた。
「キャスター。」
私はキャスターの前に膝をついて、呼んだ。
「はい!つい、ムラムラを抑えきれませんでした!大変、申し訳ありませ・・・んっ!?」
キャスターの顎を持ち上げ、私は謝罪を続ける唇を塞ぐ。
舌を伸ばし、キャスターの舌に絡ませる。
ハーブの香りと、朝食の味噌汁でも味見したのだろう、彼女の口の中から、微かに合わせ味噌の味がした。
音を立てて、私とキャスターは離れた。
突然の事で余程びっくりしたのだろう、キャスターはへなっと私に寄りかかってきた。
「あ・・・ああ・・・ご・・・主人、さま?」
「・・・どう?私、普通?」
私はそう聞いた。
「う、うう、嬉しさと驚きで、こっちの尻尾が増えそうですっ!ていうか!どうしちゃったんですか!?
ふ、普通かと問われると、どー考えても普通ではないですよっ!」
「あ・・・やっぱ、まだ臭うんだ?」
「はい?」
「キャスター、覚えてる?一昨日出された、アレ・・・まずくて黒くて臭かったアレ。」
「・・・あ。ああ〜!思い出しました!
一昨日、おはぎだと思ってご主人様が口にした、ガウェインさんとユリウスさん共作の”魔団子”ですね。」
そう、一昨日の事だ。
迷宮から帰ってくると、生徒会室のテーブルの真ん中におはぎがあった。
誰も何も言わないし、何も被せていないから、このままでは、おはぎが乾いてしまう。
おはぎかわいそう。
そう思い、私はソレを口にした。
その瞬間!
『・・・んぐ!?マズっ!ニガッ!くっさああああああああ!?ゴホゲホゲホ!!』
『ご、ご主人様!?何食べたんですか!ぺって出して下さい!ぺっ!』
『あ、ホントに食べたの!?アンタ、死ぬ気!?それは、食物と言う名の飾りよ!・・・うわっ!くさっ!?』
凛よ・・・何故、早く言ってくれなかったのか。
あの魔団子を食べてから、口の中はおろか、全身から女子とは思えない臭いが発せられた。
思春期の女の子に、なんて酷い事をするのか。
『ガウェイン曰く、疲弊する貴女の体調を考慮して、精のつく物を厳選して、すり潰してくれたそうです。
それをユリウス兄さんが、味付けをし、成型したのです。どうです?素晴らしい兵器でしょう?』
レオが朗らかな笑みを浮かべつつ、鼻をハンカチで覆った。
『ユリウス。やはり、女性の食べる物に対しては、にんにくが多かったのでしょうか?』
『いや、俺に聞くな。』
犯人二人が何か話している。
『ザケンナーっ!私のご主人様が嘔吐の限りを尽くして、○ァブリーズでも消臭出来ない臭い発してるじゃないですか!』
キャスターは私の傍にいてはくれたけれど、明らかに口呼吸していた。
ああ、誰も手をつけなかった訳だ、と納得のひどさ。
息を吐いても、吸っても、とにかく臭い。
女の子なのに、臭いとか、ホントにありえない。
マイルームに戻って、キャスターがまずした事といえば、ガスマスクの装着である。
そんな姿で『どんなお姿と臭いを発しても、お傍におります!』と言っても、説得力はない。
モン○ミンを、その日寝る直前まで口でクチュクチュと含んでいた。
それから丸一日。私はずっと校内の異臭騒ぎにならぬよう、マイルームに篭って、消臭活動をしていたのだ。
そう・・・ずっと。
「そうですね、一昨日から比べて、ご主人様のお傍からは、いつものご主人様のニオイがいたします♪」
「はあ・・・良かった。」
私は、心の底から安堵の溜息を吐いた。
自由に呼吸出来る幸せをかみ締める。
「アレ・・・もう見るからに、ダークマターって感じでした。あれを食べ物だと認識なさったご主人様の感性も凄いと思うのですが。」
「だって・・・おはぎに見えたんだもん・・・。ちょうど、あんこが欲しかったんだもん。」
体育座りで私がそう言うと、キャスターが子供あやすように頭を撫でて言う。
「んもう!そのくらい、私が作って差し上げましたのに〜!」
「うん、もう・・・私、ここにいる限り、食べたいモノは、キャスターに作ってもらう。」
「はい、喜んで♪」
とにかく、もうニオイ的な意味で腐ってる系女子は卒業だ!
あと、ユリウスとガウェインは、二度と料理をしないで下さい!
「ごめんね、無視したような態度取って・・・喋ってまだ臭かったら、嫌だったから・・・。」
私は、起床から一連の行動を謝った。
「あ、いえいえ。そういう事なら、いいんです♪・・・あー・・・あの、それでですね、ご主人様?」
「ん?」
「あのー別に私は構わないんですよ?構わないんですが・・・何故に、先程キスを?」
「・・・だって、口の中が一番臭いがきつかった訳だし。確かめるって意味で。」
「では、私の鼻先にガムのCMみたいに、息をはあっとしてくだされば良かったのでは?・・・いえ、私は構わないんですよ?」
「・・・・・・うん。」
キャスターの言う通りです。
別に、キスまでする必要はない。
「したかったんですか?一昨日から、私に触れられなくて寂しかったんですか?」
「・・・・・・・・キャスター、ガスマスクして、近付いてくれなかったじゃない。」
朝、目が覚めて、いつも通りキャスターが変な独り言言いながら、いつも通り私の傍に寄って来てくれたのが・・・
どれだけ、嬉しかったのか・・・言葉に出来ない。
近付いただけで、不快な顔をされたり、気を遣われつつ遠くでえづかれるのは、もうこりごりだ。
「ん〜〜〜〜もうっ!ご主人様ってば〜ッ!拗ねちゃって可愛いッ☆」
「拗ねたくもなるわよ。」
「・・・でも、嬉しかったです。朝一番のおはようのキスなんて、新婚みたいで♪」
「じゃ、時々・・・しよっか。」
毎日だと義務感出ちゃうし。
こういうバカップルみたいなのは、時々くらいが丁度いいのだ。
「え〜!?私、毎日でもOKですけど〜♪」
身体をくねらせて、キャスターはそう言った。
「・・・ところで、キャスター。」
「はい!」
私が告白すべき事は済んだ。
今度は、言わなければいけない本題に入ろう。
「さっき、キャスターが懺悔した事は、アレで全部かな?」
「・・・・・・・は?」
「私の制服のニオイを嗅いで、ブルマかぶって、寝ている私に色々して、私が鬼畜攻めの同人誌を発行しようとか・・・」
「・・・あ・・・あの・・・えーと・・・」
おはようのキスから始まる、朝。
たまには、そんなのがあってもいいかもしれないが。
それはそれ。
これはこれ。
「この・・・駄狐ッ!!!」
「ごめんなさああああああい!!」
[ キャスターと私。3 ・・・END ]
『も、もうしませんから・・・お許しを〜!』
『・・・じゃあ・・・モフらせて。』
『そんなもんで許されるならば、ご存分にどうぞっ!』
『・・・・・・じゃ。』
”むに。”
『ひゃん!ご、ご主人様・・・そこ、尻尾じゃないし・・・モフる、というより・・・パフる?いや、ムニる?直接表現だと・・・揉む?』
『別に、良いじゃない。それとも・・・私に、口応えをするの?』
『あ、いえ・・・そんな事は・・・あっ・・・!』
『このお口が・・・私に反抗的な事を囁くのかしら?・・・涎まで、こんなに垂らして・・・』
『ご、ご主人様・・・あん・・・!』
「・・・キャスター・・・この同人誌は・・・売れないよ・・・。」
「何故です!?こんなに萌えるのに!!」
― END ―
もう、本当にマトモなSSが書けないんだな、と思いました。