皆様は『アルテミス』と聞いて、一番に思い浮かぶイメージはなんでしょうか?
おそらく、多数の方が・・・月と狩りの女神・アルテミス、と答えるのではないでしょうか。
※注 白い猫を真っ先に思い描いた人は、大人しくセーラームーンを観ましょう。
そして、その女神・アルテミスといえば・・・
気高さと美しさを兼ね備えた女神・・・そして・・・。
「ぶっちゃけさぁ…あたしさ、雄嫌いなんだよ。何?あの股についてる棒とそこから出る汁。超キモいんですけど。」
そう・・・『男嫌い』・・・ですね。
もしくは。
「う、うわあああああ!?み、見つかったー!!」
「ここがアルテミス様の森とは、そして、アルテミス様が水浴び中とは、全然、ちっとも!僕らは、全くもって知りませんでしたーッ!!」
「す、すいません!すいません!!覗きなんてしてませんから、スイマセン!!」
「…はい…これから、お前らには、鹿になってもらって、狩られてもらいまーす。(怒)」
「「「ぎゃあああああああああーっ!!」」」
「・・・人間の雄の分際で、あたしの裸見て、生きて帰れると思うなよ・・・!
ワザと急所外しまくって…のたうちまわった挙句、飢えた狼の餌にしてくれるわッ!!!」
「「「・・・!(泣)」」」
も、もしくは・・・『狩りの名手』・・・と言った所でしょうか。
「・・・今宵の月は、血に飢えていて、綺麗だなァ?えぇ?オイ・・・フェンリルよぉ・・・」
「そうッスね!アル様!あたしも月夜になると、昼より腹が減ります♪
あの、アル様・・・あたし、遠吠えしていいッスか!?」
「・・・おう、やれやれ。あの雄鹿共を恐怖で震わせて、失禁させてやれ。」
「・・・ア゛オォオオオオオオオオオオオオオォオン!!!」
「さあて・・・元・人間よ・・・楽しい私の狩りの時間だ、大いに逃げて楽しませろ・・・!」
・・・こ、この物語はフィクションです。
だ、だから、神様とギリシャ神話マニアの方は、怒らないで下さいね!
『 ギリ・しゃあ 』
さて、女神アルテミスの説明を終えたところで、今度は彼女の従順なる下僕を紹介しましょう。
「・・・フェンリル!狩りに行くぞッ!」
「はい!アル様!」
喋る狼女…彼女の名は”フェンリル”です。
フェンリルは、その昔、現在より体が大きく気性の荒い狼で、空腹に身を任せ、そこらにあるものを食い荒らしました。
ついには、大地を喰い始め、人間を大変困らせましたし、「えぇ・・・土まで喰うの?」と人々をドン引きさせました。
そこにアルテミスが、やってきたのです。
「オイ、そこの馬鹿食い狼…いくらなんでも喰いすぎだろ。森が無くなるし、腹壊すから、馬鹿食いは、やめろ。」
アルテミスは、女神らしくそう諭しました。
「あ゛あ゛!?うるせー黙ってろ!腹減ってしょうがないんだよ!!」
しかし、当時のフェンリルは気性が荒く、アルテミスの言葉など聞きませんでした。
「なんなら、お前も喰ってやろうか!?このバージンしかウリのないクソ女神へぶはぁッ!?」
「・・・テメエみたいな獣風情が・・・
誰に向かって口利いてるか、体毛ゴワゴワのその体にたっぷり、教えてやるわッ!うらああ!!!」
「キャイイイインッ!?ちょ、ちょ、ちょっと待っ…ぎゃああああああああああああ!!!」
「…処女神ナメんなよ…!こちとら、母親の胎内から出て、すぐに双子のアポロンをとり上げる為に
神のスピード急成長で、すぐに母親のお産手伝いに参加したんだよッ!
アポロンの頭引っ張った時と同じように、テメエの頭も引っ張って”キリン”にしてやろうか!?ええ!?」
「そ、それだけは・・・ご、ご勘弁を・・・ぐ、ぐふっ・・・(気絶)」
アルテミスは、女神らしくそう・・・諭し(?)・・・話し合いの末、凶暴なフェンリルを”退治した”のです。
しかし、アルテミスは、ただフェンリルを退治した訳ではありませんでした。
フェンリルは、アルテミスの力で、狼女となり、アルテミスの元で”生きるチャンス”を与えられたのです。
それは、今までの贖罪を償う為です。勿論、その試練は、とても過酷なものでした…。
「フェンリル…お手。」
「…はい!」
「フェンリル…チンチン!」
「…はい!」
「チンチンは、男のシンボルだから、嫌いだって言ってるだろうがぁッ!やるんじゃねえよッ!!」
「ぎゃああああああああああ!?じ、自分で言ったクセにーっ!?」
アルテミスの与えた試練は、とてつもなく厳しいものでした。
もう、容赦もへったくれもありませんでした。
「…そのド低脳に、あたしに関する事を、しっかり叩き込めッ!!口答えもするなッ!
それが解るまで、徹底的に躾けるぞッ!オラァッ!今度は、踊れぇッ!」
「キャイイイイイン!!(泣)」
そんなこんなで。
「アル様!今日は何を狩りに行くんですかー?」
「んー?…なんかな、最近、地●ジカって新種の鹿が出たらしいんだ。」
「マジっすか?旨いんですか!?地デ●カって!!」
「さあなぁ…とりあえず、人間界へ降りてみないとわからんが…特徴は、水着を着てるらしい。」
「水着…わかりました!あたし、アル様の為に、頑張って地デジ●追い込みますッ!」
「よしよし…イイコだ…。」
・・・い、今では、立派に更正して、アルテミスの”狩猟犬”になっています。
さて、ココで女神アルテミス以外の女神のお話もしましょう。
「あら…東軍が進軍したのですのね…」
冷静に考えに耽るのは、女神アテナ。
「どうだ!アテナ!東軍の活躍で、死人200人突破だー!」
一方、はしゃいでいるのは、女神アレス。
アテナとアレス。
名前は似ていますが、両者とも、戦の女神です。
共通して、2人共”戦争”が、大好きです。
「・・・じゃあ、伏兵えい♪」
「あー!ズルイぞっ!アテナ!!」
「あぁら”戦略”といって下さいな♪・・・はい、落石の罠で、死人1000人突破〜♪」
「あっ!…くっそーッ!!人間共!もっと戦えッ!!血反吐、吐いてでも進軍しろッ!!」
正確には・・・2人共・・・人間の戦争を操作して見るのが、大好き、な訳ですが。
え?不謹慎だって?そうですね。
しかし、それは、人間側からの見方に過ぎません。
人間達は自分の欲を埋める為、自分の富や名声、または神の為の戦と称し、様々な理由をつけてはいますが…
ただ、同じ人間同士、戦っている事に変わりはありません。
勿論、女神達には、そんな人間の事情など、関係ありません。
「あー!馬鹿っ!・・・あー・・・王が自害した……また負けたーッ!!」
「やーいやーい、負け戦女神〜♪」
彼女達は、人間に戦の仕方を教え、導きます。
自分達が、より楽しむ為に。
「なによー!!そっちにはニケがいるから、勝率上がるんでしょ!?アテナー!ニケを追っ払れ!!」
「あら、ダメよ…あの子、私の事が大好きだから、離れたくないんですって♪」
勝利の女神・ニケ・・・彼女も同じです。
アテナの楽しみの為、奔走し、人間達を勝利へと導くだけなのです。
おや?
アルテミスがやって来ました。
「・・・ま、勝利=正義では、ないって事は確か、だよな。」
アルテミスとアテナ・アレスは友達です。しかし、2人は、アルテミスとは、趣味は合いません。
あくまでも、話をしたり、どこのアンブロシアの実が美味しいか、香水の話に華を咲かせる方が多いのです。
「あら、アルテミス…珍しいわね?貴女も戦を?」
「ああ、アルテミスからも言ってやってくれ!アテナはズルをしているんだ!」
2人の女神に向かって、アルテミスはアンブロシアのタルトを差し出しながら言いました。
「あのさー…戦争なんかされると、私は逆に困るんだよ。
森が焼けるわ、動物はいなくなるわ。狩りが出来なくなるじゃん?夜もうるさいしー。」
そう”クレーム”です。
「そう?私は、ワクワクするけれど…人間達が限りある命を燃やして、戦い・・・
勝った方は、栄光を掴み…負けた方は滅んでいく・・・そんな儚さが、とても好き。」
と言ったのはアテナです。アンブロシアのタルトには、目がありません。
「私も戦争は、ワクワクするわ。アテナとは違うけど、戦うのが好きというか、戦う過程が好きね。
どうやって勝利を掴むか…を考えるのも好き。」
と言いながら、アンブロシアのタルトを切り分けたのはアレスです。彼女も、アンブロシアのタルトは好物です。
「・・・わかった。アンタ達の趣味には口は出さない。アンタ達が戦争好きなのは、良いんだけどさァ。
人間共は『神の為に!』とか『神の御心のままに!』とか言って戦うじゃん。
・・・誰も頼んじゃいねーし、私ら神を戦争する理由に利用されちゃたまんねーっつーの。それ、何にも思わないの?」
アルテミスの言葉に、2人の女神は顔を合わせて、少し考え込みました。
「あー…それはちょっとわかるかも。結局は、人間同士の殺し合い。人間にしか利益はないし。
神様とか、神の言う事なんて、人間にとっちゃ…戦争する理由のお飾りみたいなもんなのよね。」
とアテナは言って、タルトを頬張ります。
それに対し、アレスも頷きました。
「人間って、信じてくれるのはいいんだけどさー…意外と、勝手なのよね。
負けたら、勝手に私に”負け戦の女神”なんてレッテル貼るし。
しかも頼んでないのに、勝手に人間達が像とか作ってくれるんだけどさ…それが、何故か裸。
で、その裸像がある限り、自分達は負けないとか思ってるらしくて…。」
溜息をつきながら、アレスはそう呟きました。
それに対し、アルテミスとアテナは・・・
「「うわー公然セクハラじゃないのーっ!!」」
と、声を揃えて、驚きました。
「いや、別に私に、似てないからいいかな〜とか思うんだけどー…」とアレスは苦笑い。
彼女を始め、女神達は決して人間を憎んでいるわけではありません。
しかし。
「「いや、それは怒っていいんじゃない?セクハラ。それは、セクハラ。」」
「・・・・・・そ、そう?・・・じゃあ・・・」
「お、おい!…勝利の女神像が盗まれた上に、燃やされたぞーッ!!」
「どうすんだよーッ!今度の戦争、勝てねえよぉ〜!(泣)」
「や、やめよう・・・今からでも間に合う・・・戦争やめよう・・・!」
「お、慌てる慌てる…」
「あ、見て見て…あの人間、泣いてるわ…」
「たかが、自分達の作ったもので…あんなに狼狽して…」
「「「ぷっ!クククク…あはははははは!」」」
・・・女神達は、決して人間が憎いわけではありません。
しかし、人間達が間違った道を進もうとする時、女神達は、気まぐれにほんの少しだけ
人間達に、少しはマシな人生の過ごし方を教えてくれる時もある・・・のかもしれません。
話はまたまた変わって、アルテミスとフェンリルのお話に戻ります。
「アル様…人間の臭いがします。」
フェンリルの言葉に、アルテミスは何故か顔をしかめ、言いました。
「・・・・・・・また、か・・・フェンリル、その臭いは追うな。放ってお…」
「ん?こっちから、します…!」
「あ、コラ!追うなというに!」
今日に限って、アルテミスの言葉を聞かずにフェンリルは、あっという間に臭いの元へと行ってしまいました。
「アル様、見つけましたー!!・・・・とりあえず・・・喰って良いですか!?」
「”とりあえず”じゃないだろ、馬鹿狼。喰うな。」
アルテミスが、フェンリルの声の方向へ行くと…そこには、確かに人間がいました。
顔は、涙でぐちゃぐちゃでしたが、若く美しい娘でした。
「・・・・私は、アルテミス。一応、聞いておこう・・・お前の名は?」
「・・・・え・・・エウローペと申します・・・牛の背に乗せられ、ここへ・・・。」
エウローペは、そこまで言うとまた泣き出しました。
「・・・・・まったく・・・あの御方ときたら・・・。」
アルテミスには、心当たりがありました。
あの御方、とは・・・・全知全能の神・ゼウスの事です。
アルテミスのお父さんでもあるのですが、アルテミスには、どうしてもゼウスの悪い癖が許せませんでした。
ゼウスは、美しい女性をみると、勝手に欲情して勝手に契りを結ぶのです。
アルテミスからすれば、愛という名の性欲が尽きないオッサンにしか見えません。
こうやって、女性を神の世界へ連れ込んだり、人間界へ下りて、女性を何人も孕ませた事もあります。
その度、ゼウスの奥さんのヘラは、獅子のような咆哮をあげ、ゼウスではなく、ゼウスが手を出した女性へ復讐しに行ってしまいます。
現に、アルテミスのお母さん”レト”もその復讐の被害者の一人でした。
ゼウスとの子、アルテミスとアポロンを体に宿していたにもかかわらず、ヘラが断固として出産を妨げたのです。
それをかわいそうに思った、ゼウスの母”レア”は、そっと手を差し伸べました。
出産の女神・エイレイテュイアをそうっと、レトの元へと向かわせたのです。
その御蔭で、アルテミスが生まれたのです。そして、彼女は母の出産を助ける為、急成長せざるを得ませんでした。
神は自分の成長速度を操る事が出来るのです。
そして、双子のアポロンが生まれた訳ですが…その時…ゼウスは何をしていたのでしょう?
・・・・それはアルテミスにも、誰にもわかりません。
ただ、解る事がひとつ。
「お願いです・・・・私を・・・私を故郷へ返して下さい・・・!父や兄達が心配しています・・・
・・・私は神を裏切った事など一度たりともありません!お願いです!故郷へ返して下さい!女神アルテミス様!」
涙ながらに訴えるエウローペに対し、アルテミスは、冷たく言い放ちました。
「ゼウスは、一度目を付けた女から手は離さない。ブスに生まれ変わるのを待つんだな。」
ゼウスは、全知全能の神、逆らえばアルテミスといえどもタダでは済みません。
自分の母が受けた苦しみに比べれば、この程度何の事もない。目の前にいるのは、短い生涯を生きる人間なのですから。
アルテミスは、エウローペに背を向けました。
「・・・うう・・・父さん・・・兄さん・・・」
再び泣き出したエウローペの頬を、フェンリルはぺろりと舐めながら、聞きました。
「・・・お前、泣いてないで、ソレ喰わないのか?喰えば、不老不死になる神様の実で、甘くて美味しいんだぞ。」
「・・・要らないわ・・・私が不老不死になっても、父さんや兄さんに会えなければ、この苦しみは永遠に続くのだもの…!」
それを聞いたフェンリルは、待ってましたと腐りかけたアンブロシアの実を頬張りました。
一方、背中でその台詞を聞いたアルテミスは、ふと自分の母がアポロンを産み落とした時の事を思い出しました。
苦しそうに、汗と涙にまみれながら、アポロンを産み落とした母の姿を。
あの時…きっと、自分が生まれる前は、もっと苦しんだのだろうな、とアルテミスは思ったのでした。
あの時、アルテミスが生まれるきっかけをくれたのはゼウスの母、レアでした。
あの時・・・差し伸べてくれた女神の優しい手の御蔭で、母は自分を生んでくれたのだ、と。
アルテミスは、振り向きました。
腐りかけたアンブロシアの実と、泣き続けて衰弱しきったエウローペを見たアルテミスは、声を掛けました。
「・・・エウローペ・・・これは、わたしの森の泉の水だ。人間界のモノだ。・・・飲まぬと・・・父と兄に会えんぞ。」
それから、アルテミスはゼウスの元へ行きました。
都合の良い事に、そこにはゼウスの奥さんのヘラもおりました。
「父上…お耳を。」
そう言って、アルテミスはゼウスにこう耳打ちしたのです。
「エウローペが、ヘラ様にお会いしたいと言っております…なんでも”うち…本妻さんの面を拝みたいんどすえ”…とか。」と。
ゼウスの顔色が一瞬にして、変わりました。…何故、舞妓さん風の言葉使いなの!?と思いつつ。
せっかくお気に入りの娘を連れてきたばかりなのに、ここでヘラにエウローペの存在がバレたら
ゼウスは”また浮気か!”とヘラに責められ、エウローペは殺されてしまう事が容易に想像できました。
更に、アルテミスは耳打ちをします。
「いかがでしょう?一時的にエウローペを家族の元へ帰し、その間、エウローペは、私が見張ります。
時がくれば、私が責任をもって迎えに参ります。神の世界に再びエウローペを連れてきたら、ご自由になさって下さい。」
とゼウスに進言したのです。
「・・・・うむ。」
ゼウスは、頷きました。
アルテミスは、一礼をするとエウローペの元へと戻りました。
そして、エウローペを連れて人間界へと再び下りたのです。
「おお!エウローペ!」
「・・・お父さん!兄さん!!」
「ああ、アルテミス様…ありがとうございます!ありがとうございます!」
なんと、アルテミスは、エウローペを故郷へ返してしまったのです。
「・・・エウローペ。とりあえず、好きな事をして、好きなものを好きなだけ喰って過ごせ。時は限られている。」
アルテミスがそう言うと、エウローペはフラフラになりながらも、しっかりとした眼差しを向け答えました。
「・・・・・・はい。アルテミス様。」
そして、月日が流れ。
ゼウスは、アルテミスにエウローペを連れてくるように命じました。
ところが、いつまでたってもアルテミスは迎えに行こうとはしませんでした。
業を煮やしたゼウスは、とうとうアルテミスを呼び出しました。
「ええい!どうして迎えに行かないのだ!今の私は、ヘラの目があるから、動けないのだぞ!
お前が時が来れば、迎えに行くと言うから預けたのに!」
ゼウスは怒っていましたが、ヘラがどこで聞いているか解りません。小声でアルテミスを叱ります。
それを知ってか知らずか、アルテミスは大声で答えます。
「一時的に、と申し上げた筈です。」
「ちょ、ちょっと・・・声!音量下げて!空気読んでッ!!
一時的って、もう経っただろ!迎えにいかんか!ワシの有り余る愛という名の性欲がすごい事になるぞ!!」
ゼウスがアルテミスにそう言うと、アルテミスはニコリと笑いながら言いました。
「・・・何を言うんです。
永久の時を生きる神にとっての”一時”は・・・人間の一生にもあたりませんよ?
まだ、一時のいの字も経っておりません。」
その言葉を聞いたゼウスは、全てを悟りました。
「・・・・・・・・お前・・・図ったな・・・?」
ゼウスの怒りに負けじとアルテミスは、膝をついて毅然とした態度で言いました。
「…何を言うんです、父上…私は、嘘偽りは申しておりません。
・・・この処女神と・・・母の名に誓って。」
そう言って、ゼウスを黙って見つめました。その目は、アルテミスの母と同じ目でした。
「私は、エウローペと約束をしました。」
「約束、だと?」
「・・・今度、神に会う事があれば、私の矢で心の臓を射抜いて欲しいと。」
それは、ゼウスが神の世界へまたエウローペを連れ去る事も、人間界で会う事も出来ない、と示すものでした。
ゼウスは、奥歯をギリリと噛みましたが、ここでアルテミスに何かすれば
ヘラに全てが露呈してしまうだろうと思い・・・結局、ゼウスはエウローペを諦める事にしたのでした。
「・・・・・・・今度は、その手は喰わんぞ・・・。」
そう言うと、ゼウスはアルテミスに下がるように言いました。
去り際、アルテミスはボソリと独り言を言いました。
「エウローペは、一度も神を裏切った事ないそうですよ。
例え、寂しそうな牛に変装して騙したり、黙って人を連れ去る事があってもエウローペは・・・」
「・・・ええい!!とっとと下がれぃッ!!」
ゼウスの怒りの叫びを背中に受けたアルテミスは、その衝撃で一気に人間界へと落ちていきました。
しかし、死ぬ事はありません。
何故なら、女神だからです。
「・・・アル様・・・あたし、感動です!ぱねえッス!カッコイイっす!!」
森の中で倒れているアルテミスを見つけたのは勿論、フェンリルでした。
フェンリルは、嬉しそうに主人の頬や傷口を舐めました。
「・・・フェンリル・・・頼むから、もう人間を見つけてくれるなよ・・・。」
アルテミスは、ゆっくりと起き上がりながらそう言いました。
「どうしてです?」
「馬鹿狼が。・・・もう、あの手は使えない。私といえども…今度は、消される。」
そう言うと、アルテミスは、歯痒そうにあぐらをかいて、右の膝をパシンと叩きました。
「そ…そんな危険を顧みず…アル様ってばっ!やっぱりステキッ!」
「あのな!元はと言えば、オマエが、人間を見つけるからだろ!?私はな!人間など助けるより、狩りが好きなんだッ!」
「はい!わかりました♪」
そう言うと、フェンリルは、また嬉しそうに主人の傷口を舐めました。
所変わって。
「・・・で、それが今回の家出の真相なのね?アルちゃんらしいわ。」
そう言ったのは、アルテミスの友人、オオゲツヒメでした。
ここは、日本の神の世界。
アルテミスは、ギリシャから家出・・・というより”世界出”をしたのでした。
オオゲツヒメは、優しくて気立ても良く、性格も容姿も申し分ない女神でした。
そして、なにより、人をもてなすのが大好きなのです。
「そうッス!しばらく身を隠す目的も含んでいるんです!」
と言いながら、フェンリルは、早速オオゲツヒメのもてなしの料理を頬張ります。
「・・・・・・・。」
アルテミスは引きつった顔で、黙ってフェンリルを見ています。
「まあゼウス様の女癖の酷さは今更って感じだからねぇ・・・アル美がひねくれたのも解る気がするわァ。」
と、言ったのはアルテミスの友人のアフロディーテです。
アルテミスにとっては友人、なのですが、アフロディーテにとっては、違います。
アルテミスのあまりの男嫌いに、すっかり”アルテミスはソッチ系☆”だと思い込んでいるらしいアフロディーテは
美しく気高い処女神を虎視眈々と狙っているのでした…。
「そうっすそうっす!いや〜それにしても、美味しいなァ〜♪・・・って、アル様食べないんですか?」
フェンリルの言葉に、アルテミスはギクリとしました。
すると、オオゲツヒメも不安そうにアルテミスを見つめます。
「そうよ、アルちゃん…食べて?…それとも、私のおもてなしが気に入らないの?ギリシャ料理が良かった?」
「い、いや、そういうんじゃないんだ。ゲッツー(オオゲツヒメのあだ名)の気持ちだけで本当に満たされた気分でね。」
アルテミスは、そう言いながら寝転びました。
すると、くつろいでくれた態度が嬉しかったのか、オオゲツヒメは嬉しそうに
「まあ・・・でも、お腹がすいたら言ってね?アルちゃん。」と言いました。
「・・・・・・・・・・・う、うん・・・。」
オオゲツヒメはおもてなしに命を賭ける女神です。
・・・滅多な事は言えません。
「そうよ・・・ちなみに・・・性欲が湧いたら、あたしに言ってね、アル美・・・♪」
そう言いながら、アルテミスの横にそっと添い寝をするアフロディーテに、アルテミスは冷たく言います。
「お前は、服を着て、さっさと帰れ…。」
そう、アフロディーテは服を着ていません。自分の体に絶対的な自信を持っているので、羞恥心もありません。
「最近、くびれに磨きがかかったのよ。もう・・・どんどん美しさに磨きがかかるわ・・・こんなあたし、どう?」
「・・・知らんわッ!」
「アル美は、ゼウス様のせいで、すっかり歪んだ愛の道しか見えなくなってしまったのよ。
でもね・・・だからこそ!あたし・・・アル美を、愛の道へと導いてあげたいのよ!女同士でも結構イケるって事を!」
全裸の美しい女神が、月と狩りの女神を、まさに狩ろうとしていました。
「だ・か・らッ!!そんなもん知らんというにっ!離せーッ!!」
「そうよ、アフロちゃん(アフロディーテのあだ名)。どんな神でも、アルちゃんにとっては、お父さん。
そんなお父さんに初めて、反抗したのだから・・・今はそうっとしておいて欲しいのよ。
アルちゃん、気の済むまでいて良いのよ。フェンリルちゃんも、アフロちゃんも。」
オオゲツヒメの一言に、アフロディーテは素直にアルテミスの上から下りました。
「げ…ゲッツー…ありがとう。」とアルテミスは何故か、たどたどしく言いました。
「・・・ゲッツー・・・貴女って、心も身体も美しいのにね…」
アフロディーテが、自分以外の女神を褒めるのは、極めて珍しい事でした。
しかし…彼女達には一点だけ、オオゲツヒメを評価出来ない事がありました。
・・・それは・・・
オオゲツヒメは穀物の女神。
彼女のおもてなしである”食材”は、何故か彼女のありとあらゆる、体の”穴”から出てくるのです…。
・・・それは・・・つまり・・・
彼女のおもてなしの料理のほとんどが、彼女の口、鼻の穴、もしくは尻・・・とにかく”穴から出る”としか言えません。
※注 お食事中の皆様、ゴメンナサイね。
それを知った客人が何度、彼女を半殺しにした事でしょうか。
勿論、それを知っている友人アルテミスとアフロディーテは、料理には手をつけません。
ほっといても、フェンリルが食べてくれるからです。
フェンリルも一応、穴から出ている食べ物だと知っていますが、お構いなしです。
「う〜ま〜い〜♪」
「「・・・・・・。」」
アルテミスとアフロディーテは、それを見ているだけで食欲が失せていきます。
しかし、悔しいほどに、この場所は居心地だけはいいのです。
「フェンリルちゃん、あと何が食べたい?」
「ん〜と・・・・・・カレー!!」
フェンリルのリクエストにオオゲツヒメは、最高の笑顔で答えます。
「・・・あ、ちょっと待っててね♪今”出す”から・・・」
アルテミスとアフロディーテはたまらず、叫びました。
「「待って!お願い!やめて!トイレ行って!」」
いかがでしたか?
・・・女神、と言っても沢山の女神がいます。
あんなに個性的な女神達は、まるで人間のようだ、ですって?
いいえ、彼女達はあくまで、女神なのです。
人間ではありません。
悠久の時を過ごし、人間達を見て、時に守り、時に罰を与える力を持った存在です。
彼女達を崇拝しても、彼女達が見返りをくれるかは、定かではありません。
もし、少しでも”人間のようだ”と感じたのならば、少し置き換えて考えてみて下さい。
もしも、アナタが悠久の時を生きる神の力を持っていたとしたら・・・どうしますか?
願うばかりで努力をしない人間や、神の名を叫びながら罪の無い人を殺す人間や
無益・有益…それだけで戦いを続ける人間や、国や肌の色が違うだけで罵声を浴びせる人間を・・・
・・・いえ、もう仮の話は止めましょう・・・。
「フェンリル!何を書いているんだ?・・・いい月夜だ、狩りに行くぞ!」
・・・私の主人が出かけるので、付いていかねばなりません故に。
「はーい!アル様!」
少なくとも、私の主人の女神様は…アナタ次第で、きっとお力を貸して下さると思います。
・・・・・・・あ、でも、男だったら多分ダメです。
ー ギリしゃあ ・・・ END ー
あとがき
・・・い、いろんな神様ゴメンナサイ・・・。
ギリシャ神話で、ギリギリなネタ?をしゃあしゃあとやってやる!略して”ギリしゃあ”!
『え・・・これ、上手くね?』と思った私は、ギリギリOUTですね(笑)
このSSで、一番描きたかったのは、エウローペのエピソードです。
実家にあるギリシャ神話の本を何度読んでも、エウローペがかわいそう過ぎるせいで作りました。
子供の頃読んで、ええ〜!?って話多かったものですから(苦笑)
実際、ゼウスに連れさらわれたエウローペは、連れさらわれたまま、故郷を思いながら一生を終えてしまうんですよね。
よくね、牛に不注意に乗るヤツも悪いって言う人、いるんですけどね。勝手に連れ去る事の方が、そもそも悪いんじゃないんか、と。
なに?不注意な女の子なら、さらっていいの?何?お前は激安アダルトPCゲーム思考か?って印象をですね・・・受けたのです。
※注 全てのアダルトPCゲームを否定してる訳じゃあありませんので、あしからず。
・・・という訳で、アルテミスで助けてみました!あー!スッキリッ!!!
女神達の設定は、ふんわりしているのは、独学とオリジナル設定のせいです。
どうか、専門家の方は見ないで下さい・・・!重箱の隅つつかれなくても、もう十分ですんで・・・。
ちなみに、神楽・・・このSSの中で一番好きな女神は、ゲッツーです。(笑)
※ 一説によるとゲッツーは、例の穴の一件のせいでスサノオに殺されてるらしいです…(泣)