[今日も平和なシャノワール]







[ 巴里華撃団 帝都にて。]





「あっ…ふ…あぁ…ぅん…ッ!」

「葵さん、どうですか?気持ちいいですか?」



 あたしの名前は、真宮寺さくら。


今、巴里華撃団が帝都に来ているんです。


それで、巴里華撃団の新しい隊長、月代 葵さんに御挨拶を、と思ったんですが…



「あぁっ…そこ…っ…あぁ…!」

「もう、こんなに硬くなって…ウフフ♪」


この声は、エリカさんと、葵さん…


…部屋の中から、こんな悩ましい声が聞こえて、あたし入るに入れないんです。


「どうですかぁ?葵さん♪」

「…うっ…はぁ…あ…あぁ…っ…」



お…恐らく、事の最中…だと思われます…。


2人が、まさか、そんな関係だったなんて…!!

・・・あ、でも大神さん争奪のライバルが減るから良いかも・・・




 いや、そうじゃなくて!!!




こんなコト、アイリスやレニ、コクリコ達に知れたら…!!!

教育に非常にマズイです!


どうにかしなくっちゃ!!



「あ…そこ…っ!…う…ン…!」

「ココ、ですね?」

「…あ…あぁ……」


…でも…2人共…その…愛し合っている所…なのですし…邪魔、ですよね…

でも…丸聞こえだし…ノックとかして大丈夫かな…

どういう顔して挨拶しようかな……気まずいなぁ…



「あっ…痛っ!?」

「アレ?ココじゃないんですか?」

「…す、みません…やっぱり痛いです…」

「あれえ?…おっかしいですねぇ…」



「どきなエリカ。…全く、見ちゃいられないね…」



・・・・・え?この声は、ろ、ロベリアさん!?


・・・えーと・・・

葵さんに、エリカさん、ロベリアさんの声が聞こえたという事は…



 部屋の中に、3人いる…



 ・・・さ、3人っ!?3人プレイっ!?




 …す、すごい現場に出くわしてしまったのね…あたしって…ッ!!


「ほら、葵、力抜きな。このアタシがやってやるんだ……感謝しなよ。」


「…あ…でも…いきなりそんな…力いれたら…!…うっ…あぁ―っ!?」


あわわわわわわ…!!!

ダメ!今、ノックなんか出来ないわ!!


でも、アイリス達に聞こえたら…!!


教育にすごく悪い!!!



「ククク…痛気持ちイイ、ってヤツだ……さぁ…イイ声で啼きな…!」


「う゛…あぁ―っ!」



あああああああああー!どうしましょう!!!

いよいよSMっぽくなってきた・・・!!



「さくら…そこで何をしているの?月代隊長の部屋の前で…。」



「あっ!?…ま、マリアさん!!あの…その…えーと…」



マリアさんは、腕組をしながらこちらに歩いてきた。

ああ、ダメ…マリアさん!今こっちに来ては…!!



あ、でも大人だからいいか…


 いや、そうじゃなくて!!




「あ、あの!マリアさん!こっちに来ない方がいいですよ!!」


「…何を言っているの?さくら…」


「いや…あのー…」


「丁度、私も月代隊長と話したいと思っていたのよ。」


「ま、マリアさん…今、葵さんとは…話せる状態なんかじゃ…!!!」




「…んあっ…あ…ぅん…っ!」




「・・・・・・。」「・・・・・・。」



…ほーら、この通り…。

話せる状態じゃ、ないでしょう?とあたしはマリアさんの顔を見る。

マリアさんもマリアさんで、無表情のまま、ドアの前で固まってしまいました。



「あぁ…ホント…に…痛い…けど…気持ち良い…」

「…だろう?アタシの手にかかれば、ザッとこんなもんさ。」



「すごーい♪さすがロベリアさん♪テクニシャンですねっ!」

「感心してないで、オマエもやれよ。ホラ、ココ空いてるぞ。」


「あ、じゃあエリカは、ココを攻めますね♪」


「あっ、そこ・・・エリカさ…ダメっ…あぁ…っ!」




・・・・・・・・・・。


あたし達・・・このまま、ここで聞いてていいのでしょうか?


「・・・・さくら、なんなの?これは…。」

「あたしが聞きたいです…(泣)」


「…エリカとロベリアと…葵隊長が部屋にいるのは分かるわ…」

「ええ…あたしも、わかります…悲しいくらいに。」


「……三人…”で”…何をしているのかしら?さくら。」

「……多分、マリアさんの想像している事ですよ…」



・・・・・・・・。



「……私は何も想像してないわよ。さくら、何を想像しているの?」


(・・・マリアさん、ズルイ・・・!)

「べ…別に…何も…3人”が”何をしてるのかなんて、あたしには何もわかりません…!

 そ、それより!マリアさん、葵さんの部屋に入らないんですか?」




「…あっ…はぁ…ぁ…すご…い、気持ち良い…」


「ですよね?ですよね?…エリカの指、気持ちいいですよね?」

「フフン…葵、ここまで気持ち良くしてやったんだ…後で金払えよ。キャッシュでな。」



・・・・・・・・。



「……さくら、貴女、この状況で入れると思っているの?」


…マリアさん…それを言うの、ズルいですよ…解ってますよ!

だから、あたしだって入るに入れないんじゃないですか!


「ま、マリアさんこそ、どうするんですか…?」


「……状況が判断できるまで、待機させてもらうわ。」

「………。(うわ、ズルイ…!)」




すると、ドアの向こうから、新たな声が。



「葵…どうでも良いが、その声はなんとかならんのか?」


「…だ、だって…あぅっ…!」


「…あまり響いては、他の者に迷惑だろう。」



・・・・・・・・・。


これは・・・ぐ、グリシーヌさんの声だ・・・!



えーと、葵さん、エリカさん、ロベリアさん、グリシーヌさん…

4人が、部屋の中に…


「よ、4人プレイ…っ!?」と、あたし。

「3人がかりで攻めているというのっ!?」と、マリアさん。



「「・・・・・・・・・。」」

(マリアさん…やっぱ、想像してたんじゃないですか…)


複雑な沈黙を抱えるあたしとマリアさんの耳に、また声が聞こえてきた。


「ご、ごめんなさ…あぁ…ぅ…ん…う゛…痛っ!?」

「…ん?葵、痛いのか?」





「グリシーヌ…あまり同じトコロばかり揉むからじゃないかしら…」




 は・・・


 …花火さんもいる―っ!?



「む、そうなのか?」

「…いい?…こう、まんべんなく…刺激をね…」


「ふ…あぁ…んっ…ぁ…」


「なるほど…さすがは花火だな。…いい指使いだ。」

「そんな…褒めないで、グリシーヌ…ぽっ」


「でも…本当に、気持ちいいですよ…花火さん…」

「まあ…葵さんにそう言っていただけると、嬉しいです…ぽっ」





・・・・・・!!!!!!!





「つまり…5人が部屋の中で…5人プレイっ!?」とあたし。

「つまり、1人に対して、4人がかり…!?」とマリアさん。



もういい加減、ドアの向こう側の世界から離れるべきだとは、あたしも思うんです。

思うんですけど…!


「エリカ達の御奉仕…葵さんは喜んでくれますよね?」

「う…お気持ちだけで…はぅ…結構なんで…あぁ…すぅ…!」



「ご、御奉仕…!」

そんな単語が聞こえてくる向こう側の世界を、放っておけるわけがないじゃないですか!



「…何言ってるんだよ…アタシらにこんなマネさせて…」

「…だっ!…からぁ…お気持ちだけで…十、分だってぇ…あぁ…!」


「ど、どんなマネだというの…?」

ほら、マリアさんも気になって気になって、ドアから視線すら離せませんよ。



「最近、お疲れのようでしたから…息抜きに、どうかと思って…いかがですか?……ぽっ」

「…気持ち…ぅ…いい、です…ぅ…」



だって…気になりますよ。やっぱり…。


「よ、4人がかりで…気持ちいいことって…!!!」





「うむ、こちらも大分ほぐれてきたぞ、葵。」


「う…ぅ…ありがと…ぅ…ござ…いま…ぁ……すぅ…!」



しかし…しかしですよ!!

このままじっくり聞いている訳にはいきません!


「あわわわわ・・・こ、こんなの・・・コクリコやアイリスに聞かれでもしたら…!!」

そうです。

こんな大音量で、喘がれては…夢と希望で構成されている幼女達の心にエグイ傷がつきます!!



「…ボクがどうかしたの?さくら。」


いつの間にか、あたしの背後にコクリコが…!!


「はうあっ!?」とマリアさん。

「こ、コっコっコッ!コクリコ!!」とあたし。


…あたしもマリアさんも、そりゃあもう驚きますよ…!



「…人の名前、ニワトリさんみたいに呼ばないでよ、さくら。」



「ど、どうしたのかしら!?」

「…そんな、大声で言わなくても聞こえてるよ、マリア。

葵が疲れてるみたいだから、みんなで葵のお部屋へ行って、元気になってもらおうって、エリカが言うからさ。」


・・・元気になってもらう為に・・・?


「だ、だからって…あんなマネを…!?」


…逆に元気がなくなったりしませんか?

そりゃ、お肌はツヤツヤすると思…あ、噂ですよ!噂!あたしは知りません!!



「あーいつもの事だよ。葵は、アレが一番喜ぶんだ♪」



「そ、そうなの…っ!?」

(葵さんに…そんな趣味が…!?…そんな人には見えなかったのに…!)



「だからって5人がかりで…!大体、エリカはシスターの身でありながら、一体何を考えているのっ!?」


…マリアさんの仰るとおりですっ!!


「え?マリア、どうかしたの?…とりあえず、葵に用事があるならボクが呼んできてあげるよ?」


コクリコは相変わらずの純な瞳であたし達にそう言ってくれました。

・・・け、汚れを知らない瞳って、時にこんなにも痛いんですね・・・大神さんッ!

あたし今、辛いです…!!



「えええ!?い、今!?」

「い、いいわ!大丈夫!それよりコクリコ!貴女は、今この部屋に入る気なの?」



「…そうだけど…2人とも、どうかしたの?なんかおかしいよ?」



「だ、ダメよ!今の葵さんは…と、とてもそんな状態じゃ…」

「…こ、コクリコ…その瓶は…何?」



「あ、コレ?疲れた時には甘いものっていうでしょ?だから、ハチミツを、ね…」



・・・それは・・・とろりとした、甘い・・・液体・・・すなわち・・・



「「…は、ハチミツ…!!!!」」








 ※ 只今、現場が大変、混乱しております。しばらくお待ち下さい。








「………なんだか、知らないけど…ボク行くね〜」


”ガチャ…バタン。”



「あああ!!!コクリコ―!!!」


なんという事でしょう…あたし達が放心している間に…コクリコがドアの向こうの世界に入ってしまいました…!!



「葵来たよ〜…うわ、すごい状態だね…」


「あ、こ…コクリコ…あんまり、見…ないで…ぇ…」


「いつもの事じゃないか、ボク平気だよ。葵、ハチミツ食べて♪はい♪」


「う…こ、こんな状態で…無理よ…」


「舐めればいいじゃない。はいっ♪」


「…うん…じゃあ……(ペロペロ)」





「い…いやああああああああああ!音が…音が…!!」

「ど、ドアの向こうでは、何が…ああ考えたくない…考えてしまう自分が嫌ーっ!!」


あたしとマリアさんは、混乱し、耳を塞ぎたくなる気持ちでいながらも

指の間からしっかりと音を聞いていました。




「コクリコは、頭をお願いします♪」

「おっけーエリカ♪いっくよ〜!葵〜」


「お、お手柔らかに…んん……」




ああ…ついに…15歳以下のコドモにまで…!

・・・あたしはついに決断しました。


「いけない…このままではいけない!!」

霊剣を構えて、あたしはドアの前へ立ちました。

やるしか、ありません。


「さ、さくら…あなたまさか!?」


マリアさんにそう聞かれても、もう・・・あたしはひるみません。


「乗り込みます!これ以上、サクラ大戦の名を汚す訳には行きません!

 ただでさえ、オリジナルの隊長ってだけでも、反感買うってのに!ここまでされちゃあ…!」


「…そうね…私も、これ以上この事態を放っては置けないわ…」


マリアさんも、いつもの冷静なマリアさんに戻ってくれました…。

これで心置きなく…戦えます!!


見ていてください…大神さん…あたし、サクラ大戦を守ってみせます!!



「…破邪剣征…」








「…あのー…も、もういいですよ…?」


「どうしたんですか?葵さん、遠慮せずに!さあ横になって!!」


「いえ、エリカさん…大分身体もほぐれましたし、十分ですよ?」


「…何、もういいのか?葵」

「お疲れなのでしょう?」


「いえ、すごく気持ちよくて、すごく楽になりました。ありがとうございます、グリシーヌさんも、花火さんも…。」


「フン、当たり前だろ?アタシら全員総出で、やってるんだし。」


「そうですね、ロベリアさん…皆さんも、本当にありがとうございました。

 こんな風に…5人がかりで、マッサージしていただいて、私すごく嬉し…」






   ”百花繚乱!!!”






「―え゛…?」




数分後


全ての事情を知り、葵の髪の毛よりも真っ赤になった顔のさくらとマリアが

ひたすら巴里華撃団に平謝りしている姿が、他の隊員(織姫・レニ)に目撃された。


「…あーん…ジャパニーズ土下座は、まだですかー?土下座待ちですよー!」

「…織姫…不謹慎。」




  ― END ―







[居酒屋で注文すると『喜んでー』と言われるけど、『あれ本気で喜んでないよね』という

 解りきったツッコミは、店員さんだって解ってて頑張ってるんだから、言わないであげて。]





※ 以下の会話ネタは、アナタの妄想力をフルに活用してお楽しみ下さい。






葵:「あの…こ、困ります…」

ロベリア:「…何がだ…?」


葵:「んっ…!…も、もう、ダメ…行かないと…」


ロベリア:「イきたいのかい?」


葵:「そうじゃ…なっ……」


ロベリア:「…じゃあ…こうするか…」


葵:「……だ、だか…ら…違…ッ…あっ…あつ…い…ぃッ!」


ロベリア:「…じゃあ、ちゃんとそのお口で言うんだね?”出してください”ってな…。」


葵:「…ひ…ひど…ロベリア…さ…ぁ…あッ…!」


ロベリア:「ヒドイだって?…元はといえばアンタが悪いんだよ?」


葵:「わた…私…何か、し、しました…?」


ロベリア:「…葵は何もしてない。何も、な。」


葵:「だ、だったら…ぁ…どうして…ッ!」


ロベリア:「何もしてないから、問題なんだろ?いいから…黙ってアタシの傍にいな。」


葵:「…あ…ぅ……も、もう…ホントに…ッ…限界…!」





”ガチャ!タタタタタ……ドッポーン……”





ロベリア:「・・・・おいおい、葵、大丈夫かー?」



葵:「・・・ぷはっ!!・・・・・・はい・・・なんとか・・・」




ロベリア:「どうだった?・・・初の”サウナ”体験とやらは?」



葵:「サウナってこんなに暑いんですね…何もしないで良いって言っても…こんな暑いの…無理です…」


ロベリア:「だらしないねぇ…サウナごときで。まだ5分も経っちゃいないよ。


アンタが体験してみたいっていうから付いて来てやってんのに、暑いって1分ももたないし。


…しょうがないから、わざわざ、アタシがアンタを捕まえててやってたってのに…暴れてコレだし。」



葵:「ごめんなさい…あ、あんなに暑いと…思わなかったんです……あぁー…冷水が気持ち良い…」



ロベリア:「・・・・・・・・。」



葵:「…あ、本当にごめんなさい…ロベリアさん…折角ついてきてもらったのに…この体たらくで…」


ロベリア:「いや、それはいいさ。…でもなあ、葵…」



葵:「はい?」






ロベリア:「水風呂より、もっと気持ちイイこと…教えてやろうか?」





葵:「え?な…ちょ…え?え?…え?いや、あのちょっ…あ…ッ!!」





…その後”無人の”浴場で、葵さんがロベリアさんに”何を教えられたのか”は…


・・・・皆様のご想像にお任せいたします・・・・。




ロベリア:「風呂上りとアレの後は、冷たいビールが一番…。(ニヤリ)」




・・・・だ、そうです。



END





 [月代隊長、風邪をひく。]



「…げほっげほっ…」


…そういえば、その日の午前から咳き込んでいたような気がする。

花火は思い切って、廊下で咳き込む人物に声をかけた。


「…大丈夫ですか?葵さん」

「あ、花火さん…げほっゴホッ……大丈夫です。」


葵はそう言って笑うが、声がかすれている。

…風邪の初期症状だ。花火はそう思った。


「ちっとも大丈夫じゃないじゃないかー!声!声!」

コクリコに指摘され、声の調整を試みる葵だったが…


「あ…あれ?…あ…あ゛ぁ゛……」


葵の声は出せば出すほど、かすれていき、どんどん酷くなるばかりだった。


「…葵さん、もしやご気分が悪いのでは…?顔が、赤いように見えます。」

「…ボクもそう思う。」


「あ、いえ…これはいつもの…」


葵には、持病があった。

暑さに弱く、脱ぎ癖(無意識だから性質が悪い)がある上…発作も起こす。

本人曰く、暑くて気分が悪いのはいつもの事なのだという。

しかし、いつもの持病には”声がかすれる”等の症状はなかったはずだった。


「熱だけでも、計ってみてはいかがですか?」

「…ほら、手だってこんなに熱いよ!葵、休んだ方がいいよ…。」


心配する花火とコクリコに両手をひかれ、個室に連れて行かれそうな葵は困惑した。


「しかし…私には、まだ仕事が…ぅグッ!痛ッ!?」


突然、葵の首が誰かによって、右に向かされ、なおかつ額に衝撃が走った。


「風邪ですね…間違いありません!もうっダメじゃないですか!こんなに熱を出して!!」


いつの間にか葵の背後に立っていたエリカは、葵の額に自分の額をぶつけ…いや、押し当て

元気よく、そう言い放った。


「〜ッ……あ、あのエリカさん…い、今は熱より…首と頭が…!」


葵のかすれた声による訴えは、エリカに届かない。


「まあっ!大変ですッ!頭痛ですね!本格的に熱が出てきた証拠です!!」


「いや、頭痛は…エリカさんの頭突きによるもので…」


「さあッ!葵さんッ!元気が出るまで、エリカが誠心誠意の看病をいたしますッ!さあさあ!!」


「いや、私の話を……」


どこにそのような力があるのか…日頃の訓練の成果が出たのか否か…

エリカは葵を担ぎ上げると、スタコラサッサと駆け出し、見えなくなった。


シャノワールの廊下に残されたコクリコと花火は、こういうしかなかった。



「「……お大事に…。」」


葵の無事を祈るばかりだった。





「…葵が風邪だと?…隊長ともあろう者が、軟弱な…。」


ティータイムに葵の姿がない事に気付いたグリシーヌは、その理由を花火から聞くと、そう言った。


「グリシーヌ、葵さんだって風邪くらいひくわ。」


それを聞き、ロベリアはフッと鼻で笑いながら言った。


「…フン、どうやら馬鹿は風邪引かないってのは、嘘らしいね。」

「ロベリアだって引かないじゃ…!?…んぎぃ…重いぃー!」


コクリコがそう言うと、ロベリアは黙ってコクリコの頭に右腕をズシリと載せた。


「お子ちゃまは黙って帰って、うがい手洗いでもしてな。」

「むう…!」



「やめんか、悪党。…それで……その…きちんと、休んでいるのであろうな?葵は。」


やや口篭りながら、グリシーヌはそう切り出した。


「…心配なら、そう言えばいいのに。」

コクリコがボソッとそう言うと、グリシーヌはギンッと睨んだ。


「…で、赤アタマ(葵の事)は…?」

「聞いてどうする、悪党。寝込みでも襲うか?」


グリシーヌは皮肉を言ったつもりだったが、ロベリアはその斜め上をいった。


「…フフン…巴里での風邪を治すには…その”特効薬”が一番だからね。」


そして、意味ありげな目でグリシーヌを見ながら、指で自分の下唇をなぞってみせた。


「なっ…!?」


「へえ…ロベリアが持っているお薬って、そんなに効くの?」

「ああ、そりゃもう…イッパツ」


「き、聞くな!コクリコ!」


顔を赤らめるグリシーヌに対し、無邪気なコクリコ。

花火にいたっては、両耳を両手でぽふぽふと叩いて聞かないようにしていた。


「で、葵は?」


「……そ、それが……」





・・・・・(かくかくしかじか)・・・・・。






「な、なんだと?…エリカに連れ去られただと…?」


「ボクら止める暇もなくって…」

「気が付いたら…もう…」


4人の脳裏に浮かぶ葵の頭には、何故か天使の輪が見えた…気がした。

心なしか、走馬灯のように隊長との思い出が蘇る。


そこで、ぽつりとロベリアが言った。


「なあ、葵が死んだら…土葬にするかい?火葬にするかい?それとも、散骨にするかい?」


3人はそれを聞き、ハッと我に返った。


「な、何を申すか!た、隊長はまだ生きているだろうっ!(…一応…神父の手配をしておいた方が良いだろうか…)」


「そ、そうだよッ!縁起でもないッ!!…(…ボク…喪服持ってないし…)」


「そ、それに!エリカさんが葵さんを殺すなんて事…(…ああ…刑務所メンバーがとうとう2名に…)」



「……アンタら…何、必死になってるんだよ。冗談に決まってるだろ。(…散骨だな…。)」



しかし、誰も笑ってなどいなかった。なぜなら…事態が事態だからだ。



「「「……洒落になってないって…。」」」






一方その頃。葵のアパートの一室では。




「…はぁッはぁッ…ゲホッ…ゲホッ…!」


風邪の症状が進行して、ついに葵は寝込んでしまった。

エリカが葵を担ぎ、アパートへ着くと同時にそれはやってきた。

そして…改めて気付いた。自分の体調不良の原因が、いつもの持病ではなく、風邪だったという事に。



「ふーむ…大分熱が上がったみたいですねぇ…葵さん、タオル代えますね!」


「す、すみま…ゲホゲホっ…すみません…エリカさん…」


「それは、言わないお約束ですよ…おっかさん♪」


「だ…誰が”おっ母さん”で…ゲホゲホ…!」


「いやぁ〜エリカ、一度言ってみたかったんですよ〜♪」


エリカは、実に献身的に看病してくれた。

葵は、部屋に着くと同時に着替えさせられて、ベッドに転がされた。


…と、ここまでは良かったのだが。



「…今、床を拭き終わったら、タオルかえますからね!」


エリカはニコニコ笑顔で、床を拭いていた。

ベッドの上の葵ですら、自室の惨状にはとっくに気付いていた。


「いえ…ホント、もう大丈夫ですから…」


エリカは、濡れタオルを額にあてようとして、派手に転倒、バケツの水を部屋中に撒き散らしたのだ。

それが1度だけならば、まだしも。


それが……4回ほど続いた。もう、ここは自室なのか、雨の日のプールサイドなのかわからない。


「あの…エリカさん…本当に、もう…」


「何も遠慮することはありません。葵さん、困った時はお互い様です!」


(…いえ、今、困ってます…)


「葵さんが休んでいる間…エリカが、頑張ってお洗濯や食事の仕度しちゃいます♪」


(しょ…食事!?)


途端に、葵の脳裏に”死ぬかもしれない”という文字が浮かんだ。


「今、エリカの特製スープを煮込んでいる所です♪」


エリカの指差す、台所には、大きな鍋から…異臭と紫色の煙が上がっている。


(な、何かの召喚の儀式か何か…!?)



「食べたら、それはもう…美味しくて、一口で飛び上がっちゃいますよ♪」


床を拭きながら、エリカは嬉しそうにそう言ったが、葵は思った。


(…一口で飛び上がって、そのまま昇天しそう…)


「…とその前に…タオル、ですね。」


…このままじゃいけない。葵は、フラフラになりながらも頭を働かせた。


「あの!エリカさん!…洗面器に水を入れて持ってくるのではなく…

タオルを水で濡らして絞って、こちらに持ってきてはいかがですか?」


「・・・・・・なるほど!それもそうですね!」

「・・・・・・・ほっ・・・。」


エリカは納得して、水で濡らしたタオルを絞って、葵の所へ再びやって来た。


「さあ、お待たせしまし…うわッたったったッ!?」


…が。…濡れた床で滑って、また転んだ。


”ドサッ…”


「…うッ!?」


エリカは、ベッドの葵の上にダイブし、エルボーを見舞い…タオルは宙を舞い、奇跡的に葵の顔にベシャリと落ちた。


「…ぁ…冷た……。」



「うー…いたた…あ、葵さん!大丈夫ですか…!?」


葵は、ゆっくりと右手でタオルを持ち上げた。


「…あ、はい…あの、エリカさん…あまり…タオル、絞れてないみたいですね…」


お世辞にも、絞れているとは言い難い湿り…いや、濡れ具合だ。


「あ…本当ですね…ごめんなさい…葵さん」

「あと……焦げ臭いんですけど…」


「・・・・・・・うわあああああああーっ!!」


台所のエリカ特製昇天スープ(仮名)は、葵を昇天させる前に、自身が昇天してしまったらしい。


「…ご、ごめんなさい…葵さん…」

「いえ…」


途端に、しおらしくなってしまったエリカに、葵は気にしないで下さいとしか言えずにいた。


「…あ…なんか、寒くなってきたかも…」

「エリカのせいですね…エリカが、びしょびしょタオルを、葵さんの顔面に騎乗させたせいで…!」


「・・・・。」(ワザとかな…その言い回し…。)


エリカは涙目で、葵に何度も謝り始めた。


「いや…き、着替えたら済みますから…っととと…」


そう言って、ベッドから立ち上がった葵だったが、フラフラと足元はおぼつかない。

エリカは即座に、葵に寄り添い支えた。


「着替え、お手伝いします。葵さん、ごめんなさい。

こんなに、引き締まった細い身体をビショビショに濡らしてしまって…」


「いえ、本当に…大丈夫ですから、エリカさんはもう…」(やっぱり言い回しがエロい…。)


葵は、エリカの手を自分の体から離した。

それを見て、エリカは哀しそうな顔をして、顔を伏せながら言った。


「エリカ…要りませんか?迷惑、ですか?」

「いえ…それは…ゲホッ…違います。その、貴女に風邪がうつってしまう事が、私が避けたい事でして…。」


葵は、そう言うと口元に手を当てて、また咳き込んだ。

しかし、よくよく考えれば、数時間同じ室内にいるのだから、今更風邪ががうつるも何も無い。

だが、このままエリカに看病され続けると、葵が、自身の体内のウイルスより先に死んでしまう可能性の方が高い。

効率よく風邪を治す為の良策は、まずはエリカを帰す事である。



「…げほっ…」



しかし。

弱っていく病人姿を見せられた、慈愛の塊?のエリカが、黙って帰るわけが無い。

ふるふると震えると、再び声を張り上げた。


「それなら大丈夫ですッ!エリカ、自慢ですが、風邪引いた事がありません!さあっ!着替えましょう!」


「いや、ホントに…大丈夫…あ、あのッ!?」


気合は十分。

困っている人が目の前にいる上、自分の心配までしてくれたのだから

その気持ちにエリカが応えようと思わない方が、おかしかった。


「ちょ、ちょっと!え、エリカさ…あのッ…い、いっぺんに脱がそうとしないで…あッ…!」


「大丈夫です!エリカに…エリカに全てをお任せ下さいッ!!!」


「い、いや…ちょ、何を言って…いやあああああああッ!!!」



”ガチャ!!”



「葵ーッ!死ぬなーッ!」「赤アタマ、生きてるかー!?」


運の悪い事は重なるものである。


風邪をひいた葵のアパートには、看病係にエリカ。

水で湿った床の上に押し倒され、半裸で寝転ばされた時


最悪のタイミングで、葵の身を案じた巴里華撃団 花組が集合してしまった。


「・・・コクリコ、見てはいけませんわ!」

「いや…しっかり見えちゃったんだけど…葵の上にエリカが…」


微妙な空気を打ち消すように、グリシーヌが叫んだ。


「貴様ら…何をしているか―ッ!!」

「グリシーヌさ…ご、誤解です!誤か…ゲホゲホッ!!」


「まあまあ、赤アタマ…風邪を治すなら、それが一番だから。あぁ、口でする時は気を付け…」

「なッ!ロベリアさん!何をいっ…ゲホゴホゴホ…ッ!」



その後、葵は、半裸のまま状況を説明…熱は40度まで上がり、彼女は3日程寝込んだという。



・・・皆様も、風邪にはお気をつけて。




END






あとがき


WEB拍手SSでのサクラ大戦SSは…気が付けばこのようなネタばかり…。