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 ※ Hold rain …その後のお話です。ちょいエロ表現がありますので、苦手な方は戻ってください。
























銀髪の女は「…続きが欲しい?」と、囁いた。


グリシーヌは、静かに頷いた。



「…じゃあ、今夜…アタシの部屋に来な。」

「…わかった。」








それは、悪魔の誘いに似ていた。









一時の感情に、身を任せるのは、危険だと、よく聞かされた。



(一時の気の迷いなんかじゃない…)


グリシーヌは、それはあっさりと簡単に、扉を開けた。

あの地下室に、彼女の姿は無かった。




  『刑務所の点呼の後、戻る ロベリア』



その置手紙しかなかった。

だから、グリシーヌは、待った。



午前12時を過ぎた。



自分は、また試されているのかもしれない…ふと、そんな考えが浮かぶ。

ロベリアのベッドに横たわり、彼女の匂いを探る。


「もしや、私が寝付くのを待っているのだろうか…」



だとしたら、彼女らしい策略だ。

なにせ”17歳には手を出さない”と宣言されたのだし。

だが”続きが欲しい?”ともロベリアは聞いた。


グリシーヌは、後者を信じた。


彼女は、元・犯罪者で、嘘もつく。

だが、今は・・・例え、嘘でも信じていたい自分がいる。




「…バカモノめ…。」



グリシーヌは、起き上がった。


「・・・誰が、バカだって?」


聞き慣れた声がした。



「い、いつから…!?」


視線を扉に向けると、ロベリアが立ってこちらを見ていた。


「・・・ついさっき。」


銀髪を触りながら、カツカツとブーツの音を立てて、こちらにやってくる。


「な、ドアの音はしなかったぞ!?」

「・・・させずに入るのが、プロの仕事ってヤツさ。覚えておきな。」


「フン…悪党が。」

「フフフ・・・褒め言葉、だな。」


ロベリアはクククと笑いながら、テーブルの上のウィスキーに手を伸ばす。


「…飲むのか?」

「悪いか?」


「…散々、人を待たせておいて…」


グリシーヌが、ボソリと愚痴ると、ロベリアはグラスを置いた。


「…じゃあ、後にするか。」




そう言って、ベッドの上に座るグリシーヌの所まで、ゆっくりと近づいてくる。


ゆっくりと、グリシーヌも立ち上がる。


2人共、視線は逸らさない。



「・・・そんなに待たせたか?」

「ああ、待った。」



「…後悔、しないな?」

「後悔したら、私が、お前を見込み違えた、というだけだ。」


あっさりと答えるグリシーヌにロベリアは、少し驚く。


「・・・いつから、そんなに柔らかくなった?アタマ。」


ロベリアは、笑いながらコートを脱ぎ、眼鏡を外した。


「……切るぞ。」


グリシーヌは、靴を脱いで、再びベッドに乗る。

ロベリアは、その様子をじっと見ている。


その視線に気が付いたグリシーヌは、利き手を差し出す。


「…来い、ロベリア。」


グリシーヌの堂々とした態度にロベリアは”どこまでいっても、こいつは変わらん”という笑みを浮かべて答える


「…あいよ。」




ロベリアがベッドに座ると同時に、深いキスが始まる。


昼間のキスより、深いキス。

ロベリアの舌の動きに、グリシーヌは翻弄される。


「ん…」


無理にあわせる必要はない、とロベリアは、時折、唇を少し離す。

視線を合わせて、グリシーヌの呼吸が整うと、また重ねる。

段々、グリシーヌの腕の力が、強くなる。指が肩に食い込むほど、抱き締められる。


「ッ…はぁ…はぁ…」

「・・・ここらでやめとく?お嬢様。」


ロベリアは、一応問う。


「構わん…ロベリア…」


熱っぽく見つめる視線と言葉に促され、キスを繰り返す。

思っていたより随分、大胆に迫る女だと、ロベリアは、その変わり様に驚いた。


身体を押し倒し、ボタンに手を掛ける。

心臓の鼓動だろうか…胸に押し当てた掌に、やけに響く。


「ロベ、リア…」

「ん?」


「……胸が、痛い…」


胸の奥から、針が押し出されるような感覚を覚えたグリシーヌは、それを与える人物に、原因を問う。


「…すぐに止めてやるよ。」


ロベリアは、その原因を知っている。

肩まで、服をずらす。

ひんやりとした空気が、グリシーヌの上半身に伝わる。その後、ロベリアの唇の温もりが、伝う。


続いて、耳、首、鎖骨、胸骨の上…


「う…!」


声が出てしまう事に、グリシーヌは、ハッとして、慌てて両手で押さえる。


「恥ずかしいか?」


グリシーヌの上で、ロベリアは彼女を見下ろす。

「……」



黙るグリシーヌに「ま、そういうもんだ。」と一言言い放ち、手を動かす。

ロベリアの指先が、グリシーヌの体中を駆ける。

撫でられただけで、こんなに身体が跳ねる感覚は、生まれて初めてだった。


唇と掌で、胸を解き放たれる。

グリシーヌの胸の痛みは、増長する。


「ロ、ベリア……胸が…痛、い……!」

「グリシーヌ…力、抜きな…」


身体はいつの間にか、じんわりと温まり、額には汗がにじんでいる。


「はぁ…はっ……はぁ…」


グリシーヌの足に、唇は移行する。


「…う…あァ…あ…!」


行き場のない両腕は、ベッドのシーツを掴むしか出来ない。

全身が空気にさらされる。肩で息をしながら、グリシーヌは、ロベリアを探す。


ロベリアは、足と足の間にいた。


「な…何を…!?」

「さあ、なんだろうねぇ?」


イタズラっぽく笑うと、ロベリアは舌をチラリと出した。


「あッ…うゥ…っ…!」


何かが走る。胸の痛みに似た、あの感覚が全身をかける。

雨音に似た、水音が聞こえる。


「ロ、ベ…リア…や…やめろ…!」


水音を止めて、ロベリアは聞き返す。


「何を?」


「…そこは、汚い…」


「ああ。普通は、な。」


そう言うとロベリアは、行為に戻った。

胸の痛みが全身に広がり、身体の芯が、痺れてくる感覚が襲ってくる。


「ロベ…リア…何か…変だ…!」


「痛いのか?」


「…違ッ……痺れ…る……!」


ロベリアが、起き上がって、グリシーヌの隣でささやく。


「…それは…嫌な感じがするかい?」


グリシーヌは視界に現れた恋人を抱き締める。


「…し、ない…。」


再び、キスを繰り返す。

自分達の身体の変化に、二人は気付く。


「ロベリア…胸がまだ、痛い…身体も…熱い…」

「…ああ、アタシも、だ。」


「痛みを、止めて…くれ……ヘンになる…。」

「…わかってる。」


そう答えたロベリアの手は、グリシーヌの足の間にあった。

ロベリアは、目の前の人物にだけ聞こえるように呟く。



「…グリシーヌ…どうする?」



「何を、だ?・・・痛みを、止めてくれるのでは、ないのか?ロベリア。」

「・・・ああ。そのつもり、だけど・・・。」


ロベリアが珍しく口篭り、視線をずらす。


「・・・ロベリア・・・お前は、私が好きなのか・・・?」


グリシーヌは不安そうにそう聞いた。

依然として視線をずらしたまま、ロベリアは言った。


「いや・・・だから・・・迷ってんだよ。確かに、誘ったのは、アタシだけどさ・・・。」

「・・・ロベリア・・・質問の答えになっていないな・・・私は・・・好きか、嫌いかを聞いている。」


「・・・・・・・・前者の方。」

「好きか、嫌いかを聞いている。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌いじゃないね。」


長い沈黙の後、ぶっきらぼうにロベリアはそう言った。

逸らした視線と表情は照れ隠しのようにも見えた。


「・・・ならば、来い。胸の痛みを、早く、止めろ・・・。」

「・・・・こんな時まで・・・アタシに命令すんな。」


そう言うと、ロベリアは唇を重ねた。

唇の隙間から、グリシーヌが小さな声で呟いた。


「・・・好きだ、ロベリア。」


グリシーヌのそれを聞くと、ロベリアはゆっくりと指を差し込んだ。


「…っ………ぁ…っ!!」


胸の痛みに加え、身体に小さな痛みが走る。

水音に似た音がして、それが痛みを和らげている事に気付く。


「…ロベ、リア…!」

「…こういうものは、慣れだ…」


ロベリアは、そう言うと、ゆっくりと指を動かし始めた。


「・・・あっ!?…っ…やッ…!」


初めての感覚が多すぎて、グリシーヌはついていけない。

ロベリアの指の動きに、逆らうと少し痛む。それだけが、判断できる。後は、痺れが止まらないだけだ。


「ロベリアァ・・・!」


名前を必死に呼ぶ。目の前が霞んで、涙がこぼれていく。


「・・・・いい声だ、グリシーヌ。」


声の方向からは、ロベリアの匂いがする。呼吸音も聞こえる。


「ロベ、リア…ァ…!」


グリシーヌは、涙目で夢中で、ロベリアを探す。

自分の足の間にある腕を伝い、背中にたどり着く。そして、首筋にふれ、その先は、顔。


「……胸の痛みは?」

「わから、ない…!ロベリア…痺れて…わからない…!」


呼吸が乱れる。

全身が、何かを求めて、痺れを起こす。

必死にすがりつき、唇を重ねる。

それに触発されるのか、ロベリアの指の動きが、速くなる。


「…っく……ぅ…っ!?」



雨の音よりも、早く…深く、それは身体を包んでいく。



「………好きだ。」


優しい声で、そう囁かれた瞬間、グリシーヌの心臓が”ドクン”と脈を打つのを感じた。


その”微かに発せられた言葉”に反応して、グリシーヌは、身体が浮く感覚をおぼえた。


「…っ……ああぁ…つっ―!!」





しばらくして、背中に、温かい感触が時折触れる。




・・・・これは、ロベリアの唇の感触だ。

グリシーヌは自分の意識が、失われていた事に気付く。



「ロベリア…?」

「後戯も、しないと、な。」


「コウギ?…何の…ことだ…」

「・・・・。」


(そっちの知識もロクにないのに、よくアタシにアプローチできたな…)

とロベリアは、思い、呆れたが、確か最初にベッドに誘ったのは自分だったな、と思い出して言うのを止めた。



「いや、こっちの事さ。 ・・・で。 胸の痛みは止まった?」


ロベリアはそう言って、しっとりと汗ばんだグリシーヌの前髪を軽く上げた。

そして、悪魔らしからぬ、柔らかな微笑を浮かべる


「…ん…ああ、不思議だ…もう、ない…」

「そりゃ、よかったな…」


”さてと”とロベリアは、立ち上がり、テーブルの上のウィスキーに手を伸ばす。


「…ロベリア…」


傾きかけたグラスを止めて、彼女はベッドに横たわる恋人の方へと振り向いた。


「あァ?」


「・・・もう一度、言ってくれないか?」


「んー?何をだ?」




「……”好きだ”と。」




それを聞いたロベリアは、目を見開いた。



(…そんな事、このアタシが言ったのか?)



無意識とはいえ、口が滑ったとロベリアは顔を赤くして、ウィスキーを呑んで誤魔化した。



「・・・お前も、照れる事があるのだな。」



グリシーヌが含み笑いを浮かべてそう言うので、ロベリアはグラスを置いてこう言い返した。



「…そんなに、聞きたけりゃ、今度はアタシの上に乗りな。グリシーヌ。」


そんな事を言われると思わなかったグリシーヌは顔を赤らめた。


「…へ、減らず口を…!」





 END









あとがき


・・・このカップル・・・どっちもどっちだなぁと思いながら書いていた記憶があります。

実は、Hold rainの最後に、これを付け加える予定でしたが・・・やめておこうと。(笑)

という訳で、この隠しページを見つけた、そこの食いしん坊さん、見てくださって、本当にありがとうございました〜。