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私の名前は、高見蒼。

最近、ゴーリキ並みに蒼ちゃんを推してますよね、とかツッコまれるけれど、書きやすいからって理由で今日も主役になりました。



『あのねー。苺ねーパパと結婚するのー。その後ねー、シンゴ君と結婚するの。』


テレビの中の小さい女の子がそう言うと、テレビの中の人達が笑った。

君江さんは、かわいいわねぇ〜と笑いながら立ち上がると、台所へ向かっていった。


『堂々と重婚宣言ですね。(笑)パパは複雑そうです。』


・・・やっぱり、お父さんって娘に対して、そういう反応をするもの・・・なんだろうか。

確か、私も小さい頃にお父さんに向かって、そんな事を言ったような気がする。


(そういえば、お姉ちゃん・・・また遅い・・・。)


人嫌いのお姉ちゃんは、仕事で今日も遅い。夜の九時になっても帰ってこない。

そんな事には慣れてはしまったけれど、九時を過ぎて洗い物が終わったら君江さんは帰ってしまい、私は一人残される。


(・・・また、水島のお姉ちゃんと遊んでるのかな・・・。)


人嫌い同士って、なんか惹かれあうものがあるらしい。

黙って座って、漫才みたいな掛け合いで喋り始めたと思ったら、また黙る。

お互い、言いたい事はある程度わかっているみたいだけれど・・・私には、わからない。


『色々な愛が世間には溢れています。・・・次は、ちょっと・・・アブノーマル。』


テレビの画面に意識を戻す。

写ったのは、金髪と赤毛の外国人の女性二人。


『彼女達は、見ての通り女性同士ですが・・・お付き合いを始めて3年。遂に、結婚を決意しました。』


海外だと、同性同士でも結婚できるってVTRのようだ。



『メリッサさんは、結婚を決意した理由をこう語ってくれました。』

『・・・あー今まで、沢山の女性と付き合ってきたわ。

けれど、その多くは、同性愛をただのファッションとして楽しむ人が多かったの。

一時的に経験してみたいとか、同性同士の方が気が楽なんじゃないか、同性同士の愛って精神的な愛が重要視されるってイメージがあるから、それを求める人もいたわ・・・そう、理由は様々。』


(へえ〜そうなんだ。ファッション感覚で、人と付き合おうって考える人もいるんだ。)


今、私が着てる服って、お姉ちゃんが選んでくるって君江さんが言ってたけれど。

・・・ん?なんか違う?



『でも、最終的に別れちゃうの。”貴女は違う”って、お互いがそう思うの。

いちいち本気になってたら、キリが無かった。そう・・・めぐり合わせがきっと悪かったのね。

・・・でも、アイナは違ったわ。

私達は、お互いを離したくないし、もう離れたくないと思ったわ・・・。

あー、そう・・・例え、すれ違いがあって、喧嘩しても帰って来る家を私達で作るの。

家族になるんだから、仲直りしようと、嫌いな所を直すように努力するでしょう?

でも、恋人は違う。試供品みたいなもんで、相手が嫌になったら、お別れ。

お互い、努力もしないでね。私達の試供時間は終わったの。だから、私達は結婚するのよ。』


(試供品・・・。)


同性同士の結婚とか恋愛って、勝手なイメージだけど、なんだか複雑そうな気がする。

そこに惹かれるって人もいれば、まったく惹かれない、嫌いって人もいるんだよね。


・・・まあ、うちのお姉ちゃんに関しては、同性異性関係無く『嫌い』なんだけれど。


次に画面に映し出されたのは、ウェディングドレスを着た二人の花嫁の笑顔。

二人共、笑顔だ。


(・・・お姉ちゃん、結婚願望あるのかな・・・。)


ふと、そう思ったけれど。


・・・無い。


賭けてもいい。


絶対に無い。


結論はすぐに浮かんだ。

お姉ちゃんのウェディングドレス姿は想像はつくけれど、次の瞬間、結婚式を拒否しそうな気がする。


「・・・結婚かぁ・・・。」


私は、どうなんだろ。

よくわからない。


結婚したいのか・・・いや、結婚なんか出来るのか。

というか・・・私は、何になりたいんだろう。何がしたいんだろう。


好きな人のお嫁さんって、夢に含めるのだろうか。


「どうしたの?蒼ちゃん、便秘で1週間経過したまま、8日目の夕方を迎えた30代のOLみたいな顔して。」

「・・・・・・。」


「あ、要するに”難しそうな顔”してるのよ。具合でも悪いの?」

心配する君江さんに、私は首を横に振って違うと答えた。


「君江さん、お姉ちゃんの昔の夢って知ってる?」

「お嬢様の昔の夢・・・?」


「ほら、よくあるじゃない。小さい子が言う・・・お父さんのお嫁さん、とか・・・ケーキ屋さん、とか。」


お姉ちゃんの場合、そこまで遡らないと、将来の夢なんて出てこない気がしたのだ。


「ああ、そういうのね・・・ええっと・・・なんだったかしら・・・?お嬢様は・・・確か・・・あ、そうだわ!」


君江さんが言おうとした時、玄関のドアが開くと共にお姉ちゃんの溜息が聞こえた。


「あ、お帰りなさいませ!」


お姉ちゃんは、今日も疲れきった表情で鞄をイスに置いた。

食事は済ませてきたらしく、少しだけお酒のにおいがした。


「おかえりなさい。」

「・・・ただいま。」


君江さんは明日の朝食の場所をお姉ちゃんに伝えると、エプロンを脱ぎ帰って行った。

お姉ちゃんはワインの瓶とグラスをテーブルに置いて、ワインを飲み始めた。


テレビからは、まだ結婚の話題が聞こえる。


「・・・何よ?」

「あ。」


私は、無意識にテレビの音を聴きながら、お姉ちゃんを見ていた。


「あのね、お姉ちゃんは・・・結婚とか考えた事ある?」


私の質問に、即座にお姉ちゃんは嫌そうな顔をした。

何、聞いてるの?聞いてどうするの?って顔だ。


「ごめん。」


私は、聞くまでも無かった、とすぐに謝った。


「結婚前提での見合い話なら、何度か来た事があるわ。」

「え?」


意外だった。

お姉ちゃんは、あっさり結婚関連の話をしてくれたのだ。



「でも、アタシは・・・自分の財産を作るのが好きなの。誰かのを奪うのは面倒臭いし、共有の財産なんか欲しくない。」


内容は・・・結婚に近い話だけれど、私が聞きたかったものとは果てしなく遠い内容だった。


愛とか夢とか、全く無い。財産の話だけ。

確かに・・・結婚ってするだけじゃないし、結婚してからの問題があるんだけれど・・・。

それって、一緒に暮らす相手を含めて考えるもんじゃないのかな・・・。


「お姉ちゃんにとって、結婚=財産なの?」

「ええ、そうよ。アタシはそう思ってるわ。

財産の共同管理をする人間同士が、役割分担をして生きる契約をしてる・・・結婚って、それだけの話でしょ。

アタシには、そんなもの必要ない。契約なんか信用もしてないし。」


お姉ちゃんはそう言うと、ワインをぐいっと飲み干した。


「愛は?」

「は?」


愛、という言葉をお姉ちゃんは初めて聞く、というようなリアクションをした。


「好きな人と一緒にいたいって思ったら、離れたくなくて・・・ずっと一緒の時間を過ごしたいって思わない?」

「思わない。いないし。」


・・・即答。悲しいくらいの即答。


「お姉ちゃんは・・・その・・・好きな人いたりしなかったの?」

「そんなの聞いてどうするのよ。」


「・・・あの・・・もしもね?・・・結婚、したいって思ったら・・・どうすればいいのかなって思って。」

「・・・蒼、結婚願望あったの?」


そう聞かれると、私にもよくわからない。


結婚するべき、なのか。

それとも、自然としたくなって・・・そういう方向に向かっていくのか。


その時、私は・・・どんな女になってるんだろうか。


「ん・・・いや、どうだろ・・・わかんない・・・けれど、いずれしたいって思うようになったら・・・まず、私はどんな人間になればいいのかなって。」


私がそう言うと、お姉ちゃんはワイングラスにワインを注ぎながら言った。


「・・・まず、それを一緒に考えてくれる馬鹿を探しなさい。」


(もう・・・また話題をブン投げた・・・。)


お姉ちゃんに質問をすると、答えはだいたい高確率で、あさっての方向にブン投げられる。

自分で考えろとか、他の人に聞けとか。


私は、お姉ちゃんから聞きたいのに。

答えが欲しいんじゃない。

お姉ちゃんの考えを聞きたいの。

お姉ちゃんが、一つの問題に対して、どういう考え方をしてるのかとかが知りたい。

話題を広げたいし、もっとお姉ちゃんの色々な事が知りたい。


でも、お姉ちゃんは教えてはくれない。

お姉ちゃん自身の事となると、特に教えてくれない。

秘密主義って訳じゃない。自分の事を他人に知られるのが嫌で、勝手に解釈されたりするのも嫌い。

だったら、少しくらい自分の話をしてくれてもいいのに、構うなと言う。


「・・・じゃあ、一緒に考えてよ。」

「アタシが?なんで?アンタの問題でしょ?」


なんでも何も、私の事を一番わかってるのは・・・お姉ちゃんじゃない。

私が一緒に考えて欲しいのは、お姉ちゃんだし。



「同じ女で、お姉ちゃんの方が大人だし。色々な意見を聞いた上で参考にしたいの。」


うん、我ながら、会心の一言。

どうですか?と目の前のご意見番の発言に期待をしてみる。


「アタシ(人嫌い)のは参考にならないわよ。大体、人それぞれの考え方があるんだし。結婚相手にもよるわ。

ああ、言っておくけれど、価値観が一緒、とかいうのはアテにならないわよ。

価値観が一緒だと思っても、年を取ればズレていくし、同じじゃなくなる事だってある。

ま、所詮は他人だしね。」


お姉ちゃんは、唇だけ笑みを浮かべて見せた。

目は相変わらず、この手の話題は好きじゃないし、興味も無いと言っているようだった。


「そこは・・・合わせてくれるとか、自分が合わせようとか調整すれば・・・」


他人と家族になって一緒に生きていくのに、やっぱり大事なのは思いやりだと思う。

お姉ちゃんだって、私と暮らすようになって、君江さん曰く『野菜摂るようになったし、穏やかになった』って言ってたし。

この間、ベッドで一緒に寝てるって言った時、君江さんは2分くらい驚いたまま、動かなかった。

・・・私が来たことで、お姉ちゃんの生活や考え方に影響が出た・・・というのが、ちょっとだけ嬉しかったりして。



「そう。結局、お互いがお互いに対する不満を”我慢”しなくちゃならない・・・あ、忍耐だなんて言葉で言い換えても無駄よ?

自分を抑圧して、無理矢理合わせても、どうしたって多少の無理が出るわ。

そんな苦労をしてでも、赤の他人と一緒にいたいって思えるか、否か・・・よね。」


・・・つまり〜・・・。

私、今・・・お姉ちゃんに我慢を強いている存在になってる、という事になるわけですね・・・。



「・・・私・・・お姉ちゃんとずっと一緒に過ごしたいって思ってるよ。今、すごく・・・幸せだし。」


私は・・・我慢してるって意識は無い。

むしろ、今の生活は自由で楽しい。自由すぎて時々、寂しいくらいだ。


「・・・・・・ふーん。で?」


興味も何もありません、というようなお姉ちゃんのリアクション。

仮で期間限定とはいえ、私とお姉ちゃんは”家族”なのに、そこに何も無いなんて・・・私には悲しすぎる。


「だから、財産共有なんか無くていいから・・・」


『その時・・・デビットは勇気を出して言った!』

『サム!け、結婚してくれッ!!』


静かな部屋に、デビットの大きなプロポーズの言葉が響いた。


私は・・・何故だかとても恥ずかしくなってきた。



まるで、私から、お姉ちゃんに結婚の催促をしてるような、感じがしたから。


「蒼?」

「あ・・・だから、ね・・・私、結婚・・・。」


結婚の話をしていたんだ。

どうして、その相手が決まってもいないのに・・・こんなに困るんだろう。

どうして、目の前の人に・・・ちょっと腹が立って、これ以上は恥ずかしいなって感じるんだろう。


ただの閑話休題のつもりだったのに。


「・・・あ、あの・・・えーと・・・もう少し、ここにいさせて下さい。」


私がそう言うと、お姉ちゃんは頬杖をついて言った。


「アンタの結婚まで、アタシは面倒は見ないわよ?」


その言い草は、まるで・・・


「べ、別にそこまでしなくてもいいもん!・・・ていうか・・・!」

「あ?」



まるで、他人事のようだった。

まるで、私が他の誰かとくっつく、と決め付けるような言い方。

自分は関係ないって感じ。


大体、お姉ちゃんは、本当に誰かと繋がるとかそういうのを、本当に真剣に考えてなどいないのかもしれない。


だから・・・私が本当は誰と一緒にいたいか、とか・・・そんなのだって・・・気にもしていないんだろう。


・・・とっとと他の人と結婚して出て行けって事、なのかな。



・・・ああ・・・これは、一番あり得るお姉ちゃんの結論だ・・・。



「大体、結婚相手なんて、まだいないし・・・!もし!もしも!見つからなかったら、お姉ちゃんが引き取ってよ!?」


「フン・・・大丈夫よ、売れ残りゃしないわよ。」


お姉ちゃんは鼻で笑ってそう言った。


そういう問題じゃない。

私は、商品じゃないんだから、在庫とか賞味期限とか、そういうの考えたくない。


「そんな事ないもん!う、売れ残る前にちゃんと引き取って!女の人生は短いんだから!」

「・・・無茶言わないでよ。アンタはアタシの”財産”の一部よ?引き取るもクソも無いわ。じゃ。」


呆れたようにそう言って、お姉ちゃんは浴室に向かって行ってしまった。


一人また残され、私はテレビを消した。

もう、ウェディング特集なんか見たって何も楽しくない。


(・・・私は・・・お姉ちゃんの、財産、かぁ・・・。)


私は、親戚からお姉ちゃんに買われた。(という事になっている。)

ああ・・・私は、財産扱いかぁ・・・。


いや、下手に”人”として認識されたら、人嫌いのお姉ちゃんに嫌われちゃうかもしれないし・・・これはこれで良いのかも知れない・・・。


(一緒に暮らすだけじゃ・・・私、物足りないのかな。)


仮に。


お姉ちゃんと私が結婚という契約をかわしたって・・・多分、お姉ちゃんは変わらない、気がする。



大体。



 『蒼、ここにハンコ押して。早く。結婚するの?しないの?』



お姉ちゃんからのプロポーズって、こんな感じ?

書類片手に契約を迫るプロポーズなんか・・・私は嫌だ。


仮に。


お姉ちゃんと私が結婚したら・・・その・・・。



 『蒼、愛してるわ。』



・・・というような事を、あのお姉ちゃんが 言 う 訳 が 無 い 。


 『あー・・・愛してない、とは言ってないわよ?』


・・・うん、これっぽい。

そういうお姉ちゃんも見てみたい気がするけれど・・・。


あとは・・・お姉ちゃんとキスしたり、するのかな・・・。

一回したけど・・・今度はちゃんと・・・。


今度、ちゃんとキスをしたら・・・何か変になりそうな気がする・・・。



(あーもう止め止め!何、考えてんだか・・・。)



結婚しても今が変わらないなら、別にこのままでいいか。


いや、むしろ今が良いんだから。

このままが一番。



私は、そう結論付けて歯磨きを始めた。



そういえば、お姉ちゃんの小さい頃の夢ってなんだったんだろ。

君江さん言う前に帰っちゃったからなぁ・・・。



(・・・ま、いいや。)



お姉ちゃんより先にベッドに潜り込み、目を閉じる。

ベッドの中がヒヤリと冷たい。



・・・白いシーツが、なんだか・・・


「ウェディング・・・ドレスみたい・・・。」


私が小声で呟くと同時に、お姉ちゃんが足を滑らせて、ベッドに入ってきて言った。



「・・・よく似合ってるわ。」



それは、皮肉なのか、どうなのかわからない。


結局、私は・・・結婚というイベントに興味があるだけなのかもしれない。

イベントを一緒に経験してくれる、肝心の相手は・・・まだ、いないんだから。




そう、今・・・私は確かに幸せだ。





背中を向けて寝るお姉ちゃんの肩甲骨に額をつける。





「おやすみなさい。」







―――― 高見蒼は気付いていない。





 『お姉ちゃんにとって、結婚=財産なの?』

 『ええ、そうよ。アタシはそう思ってるわ。』




 高見蒼は忘れている。

 結婚=財産 という方程式が、火鳥の中にあるならば。




 火鳥の財産である、高見蒼は・・・






 ・・・まあ、そういう事だ。






 「・・・どういう事かって?そんなの、自分で考えて。」






 [ このサイト 4000000 HIT らしいですが、特に何もしません。ありがとうございました!  END ]




あとがき



 ・・・もうね、完全にロリコンの話です。