― 蒼ちゃんの買い物。 ―



ぱさっという音と共に私の目の前に一万円札が5枚置かれた。


「・・・何?このお金。」


私こと高見蒼がそう聞くと、お姉ちゃんはしかめっ面のまま言った。


「これで、自分の服を買って来なさい。ネットの注文だと時間がかかるから。」

「服なら少ないけれど、あるよ?まだそんなに外出も出来ないし。」


「そうじゃなくて。」

「これ、楽だよ。」


「だから!アタシの中学の時のジャージ着るのやめてッつってんのよっ!!!」


お姉ちゃんは私の着ているジャージを引っ張った。

緑色のジャージに火鳥という名前が刺繍されている。

これはコレで気に入ってるのだ。


「君江さんがくれたのに。」

「君江さんも余計な事を・・・!」


イライラしたようにお姉ちゃんは言った。


君江さんとは、この家の家政婦さんだ。

この家に来た時、私の持ってきた服といえば・・・パジャマだけ。

他は、入院前に持っていた服だから、なんかピチピチして着られなかった。


そこで、君江さんが箪笥の奥から引っ張り出してきたのが、お姉ちゃんのジャージだ。

サイズもぴったり。何より楽だ。

君江さんは、体型が昔のお姉ちゃんに似ているからだと言って、すごく嬉しそうにしていた。


「君江さん、コレは予備でお姉ちゃんは着てないからって言ってたよ。」

「そういう問題じゃないの!良いから、買いに行って。」


そうは言っても、5万円は多いような気もする。


「・・・こんなにいらないよ、お金。」

「あのね・・・今の内から、いい物を見極める目を養うの。いい物にお金は惜しまない。

だからこそ、自分で考えて選んで、試して、買うの。ちゃんと自分のスタイルやカラー、信用できる店を知りなさい。」



そういえば、確かにお姉ちゃんはいい物を着てる。

なるほど。

いい物にお金は惜しまない、か。お姉ちゃんらしい。



「・・・お姉ちゃんは、一緒に来てくれないの?」

「アタシは忙しいの。甘い物食べる時間もないんだから。そんなに不安なら君江さんを同行させるわ。」


うーん・・・そういう事じゃないんだけど。

ま、いいか。


「ううん、私一人で行けるよ。君江さん、週末は旦那さんのところでしょ?忙しいみたいだから。」


私はそう言って、お金を受け取った。




―――― そして、その日の夜。



「・・・蒼、服は?」


くたくたになったお姉ちゃんが険しい顔をして、私の服を見ていた。

私は緑色のジャージを着て、本を読みながら答えた。


「買ったよ・・・ほい。」


そう言って、ジャージの上着のチャックを下ろして、Tシャツを見せた。

『ビタミンC』と書かれたTシャツ。薄い水色が気に入った。


「・・・5万持っていって、そのダサいの一枚?」

「ううん。他にも買ったよ。」


「他には?」

「あと、2,3枚。」


私の答えにお姉ちゃんは、呆れたように溜息をついた。


「・・・まさか、とは思うけど・・・余った金で”あんかけ料理”喰ってきたとか言うんじゃないでしょうね?」

「違うよ。」


私、そこまで食い意地張ってないもん。


「じゃあ、他は何に使ったのよ?3着程度で5万が飛ぶわけ無いでしょ?レシートは?返答によっては、タダじゃ・・・」


”ピンポーン”

インターフォンが鳴り、お姉ちゃんは不満そうに玄関に向かっていった。



「・・・蒼、コレ・・・どういうこと?」


お姉ちゃんが白い箱を持って立っていた。

中身は、たくさんの季節の果物とたっぷりの生クリームで飾られたケーキ3段。


「あ、届いたんだ。」


このお店のケーキをお姉ちゃんが好きだっていうのを私は前から知っていた。

お店の人にお姉ちゃんの写真を見せたら、常連客だって確認もした。

ガラスのショーケースの中で一番良かったのが、コレだった。

ただ、あまりにも重いのでお店の人が後から届けてくれるって言ってくれたので、持ち帰れなかっただけ。


「ね?果物が宝石みたいで・・・御伽噺に出てくるようなケーキに見えない?

こんな素敵なケーキ、滅多に出会えないよね?だ・か・らぁ・・・」


「・・・・・。」


私はわざとらしく、お姉ちゃんにしなだれかかって言った。


「毎日忙しくって買い物にも付き合ってくれない、甘いものが好きな人と一緒にスイーツを食べるのに、このTシャツは最適だと思わない?」


「・・・・・・。」


怒るに怒れない、複雑そうな顔をしたお姉ちゃんに向かって、私は更に言った。


「いい物にお金は惜しまないんでしょ?私、買い物上手だと思わない?お姉ちゃん。」


私はニッコリ笑った。


「・・・はぁ・・・。」


溜息一つついたお姉ちゃんは、ケーキをテーブルの上に置いて、切り分けてくれた。

二人で並んで座って、ケーキを食べた。


黙々とケーキを食べるお姉ちゃんは、子供みたいだった。もしくは、飢えた子犬?


「このケーキね、新人のパティシエのお姉さんがデザインを考えたんだって。」

「・・・デザインだけじゃないわ。蜂蜜の甘みと果物の程よい甘み、果物の配置も以前より良くなってる。」


お姉ちゃんは口の端にクリームをつけて、満足そうにケーキを語り始めた。

・・・ホントに、好きなことを話してる時は楽しそうだなぁ。


「ケーキのスポンジは、以前よりもふっくらして・・・」

「はいはい、クリームついてますよ〜。」


私はお姉ちゃんの口の端についたクリームを人差し指で拭って、そのまま自分の口に含む。


「・・・ティッシュで拭いなさいよ。」


不満そうに言うお姉ちゃんに、私はフォークを持ち上げて言った。


「付けなきゃいいの・・・あ。」


フォークの先に刺さっていたキウイフルーツがTシャツの上に落ちた。


「ほら、自分だってこぼした・・・ティッシュ・・・ていうか、脱いで洗った方が早いんじゃない?」

「うん。」


私はTシャツに引っ掛かっているキウイを口に入れて、Tシャツを脱いだ。


「・・・蒼・・・!」

「ん?」

お姉ちゃんの顔色が変わった。


「アンタ・・・その下着、買ったの?」

「そうだよ、今までノーブラだったんもん。欲しかったから。」


私が買ったのは、ケーキとTシャツと下着。


「・・・蒼、明日買い物行きましょう。」

「ホント?」

「下着、アタシが選んであげるから。それ、もうやめて。」


お姉ちゃんは顔を背けながらそう言った。


「え?なんで?変?」


「なんでも!とにかく!ジャージ着てもいいから!それを着けるのはやめなさいッ!」


お姉ちゃんはそう言うと、ケーキを口いっぱいに頬張り、Tシャツを洗濯籠に入れに行ってしまった。


・・・そんなに、変・・・なのかな?


お店の人に、ちゃんと「同棲している人に見られても大丈夫な下着ください」って言ったのになぁ・・・。



後日、ちゃんとお姉ちゃんと服を買いに行きました。




 ― END ―


水島「ちょっと・・・あの・・・ロリコンじゃないって言った割に、なんなんですか?このノロケ話。」

火鳥「し、知らないわよ。アタシに言わないでくれる?惚気てないし!」


水島「あの、何マジになって百合やってるんですか?このSS、しょっぱい百合ですよ?甘い百合に喧嘩売ってくシリーズですよ?」

火鳥「だから!知らないって言ってるでしょ!?甘くないでしょーが!!」


水島「何、ケーキ食べてるんですか?何、クリームネタやってるんですか!?ごらく部気取りですかぁ!?ゆるい感じに持ってくんですかぁ!?声優さんがコスプレして、別のアニメのOP歌うんですかぁ!?」

火鳥「あんたと同じ下ネタの流れに乗らなかっただけで、キレてんじゃないわよ!つーか、関係ない話題出すなッ!!」


水島「作者も私より火鳥×蒼の方が書きやすいわーって力入れ始めちゃうしー」

火鳥「・・・イイ迷惑よ・・・。」



水島「・・・まあ、そんな訳で次回作、頑張って下さい。」

火鳥「・・・・・・やらない。絶対、アタシはやらない!!」



水島「まあまあ、そんな事言わないで・・・」



蒼「やらないか。」



水島・火鳥「やめなさい!ツナギを着て公園のベンチに座ってその台詞を言うのは、やめなさい!!!」