[ 火鳥さんは運転中。 ]



アタシの名は、火鳥。

下の名前?・・・その質問は、必要かしら?



あなたとアタシの間に、それ以上の関係が生まれるなんて事ないでしょうし、苗字だけで十分でしょう?


アタシは、無駄な時間と人間は嫌いなの。

事は、手短に済ませましょうよ。





現在、アタシは…信じたくないんだけど、呪われてるらしいのよね。



・・・フッ・・・今時呪いって・・・言われた時、どうかしてると思ったわ。



…でも、まあ…アタシが呪われているのを認めざるを得なかったのは、事実よ。




『…現在、午後11時42分となりました。今日は、冷えますね。

 リスナーの皆さんは風邪をひかないように、気をつけてくださいね?

 ドライブ中のリスナーの皆さんは、風邪も運転もWで気を付けて下さいね…

 ”貝原ホタテの貝体レイディオショー”…最後の曲は…”河村○一さんで Glass”です。』




…MDも聞き飽きて、気分転換に車のラジオを付けたが、ロクな番組は無かった。

現在、アタシは愛車と一緒に、渋滞に巻き込まれていた。


いくら、独りでいられる空間にいるとはいえ…この状態ではストレスが溜まる一方だ。



「チッ…動かないわねぇ…。」



仕事の帰りとはいえ…もう1時間もこのままだ。さすがのアタシでも、イライラする。

大体、DJの名前も、今かかっている曲も気に入らないのに…。

 ※注 ファンの人、スミマセン。



「・・・変えよ・・・」


アタシは、ラジオ局を変える事にした。



『…という事ですが、これで良いかな?東京都にお住まいのP.N”朝猫にゃんごろべぇ”さん。

 朝猫にゃんごろべぇさんには、番組特製しじみストラップを差し上げます♪

 犬の躾、頑張って下さいね〜!

 …続いての御葉書…おっ!恋のお悩みですね〜』



全く…人の悩みよりも、今、この渋滞を何とかして欲しいものだわ…。

アタシは、アタシで…悩みを抱えてはいるけれど…別に、他人に聞いて欲しい事じゃない。


・・・女難の女になって困ってます・・・なんて、ね・・・。


聞いてもらっても、結果が出なければ、話す意味は無い。

悩みは、よく話せば気持ちが楽になるから、話したほうが良いといわれているが…。



アタシの場合。


こんな悩みを抱えている事を、周囲の馬鹿にバレる事の方が、ずっと苦痛だ。



「…にしても、動かないわね…」




『…の、前に…ここで交通情報が入ってきてます。

 現在○×方面、下り…事故の為、5km渋滞。△□方面、下りも同様…』



「…なるほど、事故ね…どこの馬鹿が、やったんだか…」



『事故といえば…年末、飲み会や何かで、飲酒運転の検挙率がぐんと上がるみたいです。

 飲んだら、乗るな。乗るなら、飲むな。飲んじゃったら、代行運転。

 あらかじめ、ハンドルを握る人には、飲ませないなども、有効策ですよね。


 重要な事ほど…簡単で、忘れやすいモノです。失ってから気付く前に、失う前に気付きましょう。


 …と言うわけで、リスナーの皆さんも、気を付けて下さいね?』



…重要な事程…簡単で忘れやすい…ね。

ご親切な忠告だこと。…随分、クソ真面目なDJね。



『…では、先程のお葉書参りますね〜

 東京都にお住まいの…P.N”わさび醤油大好きっこ”さん。

 ”こんばんは、しじみさん”

 こんばんはー♪』



「・・・・・・。」



どうでもいいけど、最近、貝類の名前のDJ多い気がするわね…。


『”しじみさん、私の悩みを聞いてください。

 私には、現在好きな人がいます。しかし、その人は…筋金入りの人嫌いなんです。

 アプローチしようとしても、話すのも嫌みたいで、避けられ、逃げられてしまいます。”


 うわー、こんな人いるんですねェ〜…えーと続き続き…』
 


「・・・・・・・・・・・。」

  ※注 ↑ここにもいます。



『 ”このままじゃ、告白しようと思っても、二人きりにすらなれません。

 どうしたら、その人が人を好きになってくれるのかなーとか、最近考えてます。

 しじみさん、どうしたら良いでしょうか?超・悩んでマス”・・・との事!

 字が…すごいキレイな女の子ですね〜♪』




「はッ・・・馬鹿馬鹿しい。」



『難しいなぁ〜…人嫌いって、私の周りには、いないんですよね〜。

 どうしたら、人が好きになるんだろう…人を好きになるのに、理由は要らないっていいますが…。

 その人が、人嫌いになったのには、何か原因があるんでしょうかねぇ…?』



人嫌いは…人嫌いのまま。


原因なんか、関係ない。嫌いになるべくして、なっただけの話だ。

結果は、出ている。人が嫌いなのだから、相談者の恋は実らないだろう。


そして、馬鹿な相談者のように、自分の都合や考え方を押し付けるような人間が、傍にいる限り

きっと、その人嫌いのヤツは、ずっとそのままだろうし、原因も誰かに喋る事は、無いだろう。


何故って?話しても、意味無いからよ。


解決策を見つける事も、解決する気も・・・無いから。




「・・・アタシだって、きっと・・・」



こんな呪いかけられていても、いなくても…アタシは、アタシのままだろう。


・・・そういえば・・・あの女は、どうなんだろう?



あの…暗い、陰気くさい…あの仏頂面のOLは…





    ”・・・私を、貴女みたいな人と一緒にしないで下さい。”





「水島…」




生贄の名前を呟いて、アタシは首を振って笑った。

アイツは、アタシの生贄だ。



それ以上でも、それ以下でもない。



アタシと同じ感覚を持っていると思ったが、所詮…あの女も馬鹿だった訳だし。



「ったく…それにしても、動かないわね…!」



アタシは、ダッシュボードから、チョコバーを取り出した。

車内で、モノを喰うのは嫌いなのだが…今は、甘い物が欲しくて仕方が無い。




『うーん…そうですね…嫌いだって言うんだから…

 無理に好きにならなくても、良いんじゃないかな。って私は思います。

 まずは、その人がどうして、人を避けるのか…お話を聞いてあげて、少しでも理解してあげる事が

 必要なんじゃないでしょうかね?』




「フン…馬鹿に理解、出来れば・・・ね。」




『あ、でも…その前に、逃げられちゃうのかな…。どうしよ。あははは。

 どうしましょうね…わさび醤油大好きっこさんは、逃げたら、追いかけたくなるのかなぁ?

 いっそ、しばらく放って置いたらどうかな?古典的だけど、押したら引いてみるってのは…』




「……(ボリボリ…)」


全く、やってられない。



人嫌いの立場からすれば…そんなヤツ、一生、身を引いてりゃいいのだ。

一生、アタシを放って置いて欲しいものだ。



「…ん?……あれが事故現場…?」



ふと窓の外をみると、事故にあったらしき車が2台あった。

かなり酷い事故だったらしく…車の原型は殆ど無く。

よくよくみたら、事故に巻き込まれていた車は、3台だった事がわかった。




「…巻き添え喰ったほうは、たまったものじゃないわね…」




…どんなに、気をつけていても…



馬鹿がいる限り、この手の事故は無くなりなどしないだろう。

馬鹿が赤信号で発信したり、暴走したり、居眠りしたり…酒を飲んで運転したり

馬鹿が馬鹿をやれば…その被害は、馬鹿とその周囲にいる不運な者に振りかかる。



・・・アタシは、馬鹿にもならないし、この不運な女難女のままでいる気も無い。



アタシは、アタシの為にしか生きたくない。

周囲に振り回されるのは、ゴメンだ。



「…こうは、なりたくないわね…。」


炎に、チラチラと血の海が映る。物珍しそうに、他のドライバーは見ている。

傍で、アンタらと同じ人間が死んだ現場だっていうのに。

中には笑って”すげー”と叫んだヤツもいた。


…他人の命が燃え尽きる現場で、他人は笑える。


人間なんて、所詮…そういう生き物。



…だから、アタシも…”人間(そういう生き物)”をやってるだけだ。


馬鹿を嘲笑い、他人の上に立ち、ただ自分の為に、ひたすら生きるだけ。


幸せの追求。


アタシの幸せは…馬鹿と関わらないで、生活出来れば良い。


その為なら、馬鹿が死のうが生きようが、そこら辺で、苦しみ、のたうちまわろうと…




アタシは、それを踏みつけて、前へ進む。




…それが、生きるって事でしょう?何が悪いの?



人生、一度しかないのよ。




・・・アタシを否定したアンタは、一体、どう生きるつもりなの?水島・・・




アタシは、目を閉じ、息を吐いた。




「…さて。」




目をあけて、ゆっくりと前へ進む。


(アタシは、馬鹿を排除して…この女難の呪いを解き…アタシは、アタシの道を行く。)



改めて、そう思う。

アタシは…呪いにも、人…いや、馬鹿になんか、屈さない。





『と言う訳で、P.N…花ざ…あ、いや!

 ぺ、P.N”わさび醤油大好きっこ”さんには、番組特製しじみストラップを差し上げます!

 危ない危ない…本名読んじゃう所だったわぁ…!』



”プチ。”



アタシは、ラジオを消した。

ようやく、渋滞が解消される地点にたどり着いたのだ。

やっとスピードを上げて、帰れる。




 『そうですね…嫌いだって言うんだから…無理に好きにならなくても、良いんじゃないかな。って』




・・・その部分だけは、あのDJに同調してやってもいい。





(そうよ…水島…アンタは、好きだのなんだの、余計な事を思う必要は、無いわ。

 どんな生き方を貫こうと、アンタは変われない。

 変わる必要なんかない。今まで通り、人嫌いのアンタで良いのよ。)






「…そして…水島…アンタは、このアタシが、骨の髄まで使ってあげる…。」





チョコレート味の唇を舌で舐めると、アタシは青信号に変わった瞬間、アクセルをぐっと踏んだ。





……もうすぐ…。



…もうすぐ、あの女は…アタシに会いに来るハズだ。





…あの女を…アタシの前で、跪かせて…それから…








「フフ…ふふふふ…ククク……!」





生贄は、果たしてどんな声で啼くのだろう…。


アタシは、それを思うと、またアクセルを踏み込み、青信号が点灯する道を直進した。







― END ―






あとがき。


このお話…実は、大分、後のお話になります。ちょっとだけ予告編みたいな小ネタでした。

・・・まあ、ただ単に、ラジオネタがしたかっただけです。すいません!

ちなみに、水島さんは・・・ペーパードライバーです!!


このお話は、現在本編『回復中』よりも、ずっと先のお話になりますが

スピンオフにも、本編にも差し込めない小ネタ話ですので、ここに置きました。

WEB拍手版に、ちょっと加筆修正してます。


・・・さあて・・・これから、どうなる事やら・・・