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世の中、狂ってると人は言う。



若者の学力が低下したとか、そういう風にしたのは、大人だとか

原因になりたくない一心で、みんな罪のなすり合いみたいなマネをしている。


みんなの話を聞いていると『この国は…』なんて、話が大きくなりすぎて、あたしはよく解らない。

結局、流れて聞こえるのは、ただのご感想・ご意見であって。何の解決にもならず。


誰かの自己主張だけが、寒く世間の隙間を吹き抜けるのだ。


あたしは、この国にも、この世界にも、誰かにだって、意見も何も持ち合わせていない。


国とか、そんなの以前に、あたしには、どうにかしなくちゃイケナイ問題がある。


正直、世の中どうなっているのか?なんて、今のあたしには、考えも及ばない。



明日のご飯を食べる事すら、あたしは…困難な状況なのだから。




・・・ぶっちゃけ・・・・・・・・・・・職が、無い。



今のファーストフードのバイトでは、暮らしていけないし、店長とは反りが合わない。

管理職は大変なんだよって、愚痴を交えたお説教をされても、所詮バイトのあたしはわからない。


超デカ盛り映像をネットに流したヤツのせいで、バイト先の規律も、前より厳しくなった。

今更、規律厳しくしたら、やっぱり店の中たるんでたんじゃねえかってツッコみたくなる。


客もなんだか、カリカリした人ばかり来て、遅いだの、味が濃いだの、なんだのクレームをつける。

じゃあ、来るなよ。自分で作りやがれ。

あたしらは、工場からきたモンを温めてるだけだ、ばかやろー。


どうしろっていうんだ。


あたしは、今の生活で手一杯なのに、不満だけが募っていく。

爆発こそしないものの、ただ、ただ…その不満に潰されて、消えてしまうんじゃないかって程、憂鬱な気分だ。





     一度、世界が滅びたら、今の生活、おじゃんにならないかな




滅んだら、通勤しないで済む。

お金なんか稼ぐ必要ない。


・・・人口もごっそり、減るかも・・・


・・・・・・・・ごっそり減る人口の中に、あたしは、入るのかな・・・。


それとも、選ばれし者とかなんとかって奴で…上手く生き残れるかな…


な〜んて、思いっきり不謹慎な事考えていたあたしは、ぼーっとTVを見ていた。




『…えー番組の途中ですが、予定を変更して、国会議事堂占拠のニュースをお伝えします。』




(・・・・・なんだ?今、見てたの、映画だっけ?)



あたしは、映画を観る気分じゃなかったので、テレビのチャンネルを変えた。


…しかし…




     ”ぴろりんぴろりん・ぴろりんぴろりん”




        『ニュース速報』




TVに、字幕が流れた。


『本日未明、悪魔軍と名乗るカルト集団が出現。国会議事堂が占拠された模様

 死者およそ150人突破。』



「…ま…マジで…?」


あたしは、思わずそう呟いた。



すると。



「…マジですよ…勇者・カナセ」



あたしの背後から、あたしの名前を呼ぶ女の声が、した。


ゆっくりと振り返ると、そこには…


「ど、どちら様…で、すか…?」


真っ白な衣服を着た、金髪の女性が立っていた。


金髪の女性は、微笑むと、いきなり目をカッ開いて叫んだ。


「…私は、女神……結城 奏世(ゆうき かなせ)…貴女を、勇者に任命します!」



「・・・・・・・・・はいぃ?」







          [ LIGHT OF VENUS ]




TVの中継は、国会議事堂の近くまで迫っていた。



『ご、ご覧下さい!…あ、悪魔軍と名乗る…集団が…国会議事堂の壁を…崩し…!

 あれ…食ってるよ…た、食べてます!壁を…人を…悪魔軍が…!!

 …うわっ、マジだよ!アレ、着ぐるみじゃないって!危ないって!うわああああ!?』


『…な、中野さん!?中野さーん!?』


      ”ブツ・・・ザー…”


『しばらくお待ち下さい』


・・・TVの放送は一時中断された。


「…ちょ、ちょっと…これ…洒落になんないよ…マジで人がバケモノに喰われた…!?」


見たこと無いような化け物が、人をバリバリと美味しそうに食べている映像がちらりと映り、TVの映像は途切れた。


・・・・・・気持ち悪・・・。



「…御覧なさい、人間界は今、大変な事になっています。勇者カナセ」


TVを見ている私の後ろには、金髪の女の人が、まだ立っていた。

いや、あたしが現実逃避してTVに集中していただけの、話だ。


「うげっ!?うわあああ!まだいたのっ!?…び、びっくりした……あ、あの…それより、貴女は…?」


「ですから、女神です。勇者カナセ。」


ニコリと笑う、思い切り怪しい金髪女。


「…あの、勇者ってなんですか?あと、女神って…本気で言ってます?」


「貴女には、人間界を救う勇者となってもらいます。私は、そのお手伝いにやって来たのです。

 それから、本気も何も、私が、女神である事は揺るがない事実です。」


私は、頬を抓った。

…傍にあった水を飲んで、頬を抓った。

携帯で時間をみて、水を飲んで、頬を抓った。


「…何度やっても、同じです。勇者カナセ。これは、夢ではありません。」

にこやかに、自称女神は、あたしを勇者と呼んだ。


「……あの、勇者って呼ぶの止めて貰っていいですか?」


「決定事項です。勇者カナセ。」


「拒否したいん」「ダメです。」


笑顔で、即否定。


「………うー…」

考えてみたら…

今、TVで見ていることが本当だとすると、後ろにいる金髪美人が女神だって言うのも、本当だろう。

鍵掛けているにもかかわらず、音もさせずに、私の後ろに立つなんて、女神じゃなきゃ出来ないだろうし。


・・・それに、女神じゃないって下手に否定すると面倒そうな人だ。かなり。


「唸っている暇も、迷っている暇もありません。勇者カナセ。

 こうしている間に、悪魔軍はどんどん、人間界を侵食していくのです。」


なんか、この人・・・あたしに無茶苦茶な事言いそうな予感がする。

・・・この世界を救えとか、なんとか。


「…はあ…でも、あたし…単なる普通の女だし…魔法とか、剣とかの能力も、命も一つしか無いし…

 痛いのとか無理です。忍耐もないし。」


無理。

選ばれし者って言っても、一度死んだら、ゲームじゃあるまいし、生き返るなんて保障無いし。



「…勇者カナセ。ですから、私が来たのですよ。」


安心して下さいと、微笑む女神。

あたしは、別にその笑顔で安心なんかしない。


「はあ…女神様の力でも、もらえるんですか?」


むしろ、不安。



「その通りです。勇者カナセ。貴女と私は、これから”合体”をして、勇者となり…」


・・・・・不安的中!


「ちょっと!ストップ!女神さん!」



「なんですか?まだ途中なんですけど。」


「合体って、何!?」


「…人間の貴女の体に、私が入り込む事で、貴女は女神の加護を得て

 通常の人間では得られない能力を……って、聞いてますか?勇者カナセ。」


「スイマセン…ついていけないッス…」


「勇者カナセ…貴女の他にも女神の加護を受けて、勇者に選ばれた人間がいるのですよ?

 こんな所で、ぐずぐずしている場合ではありません。さ、合体しますよ。さ、唇を。」


そう言って、古典的に唇をにゅーっと蛸みたいにすぼめて、向かってくる女神。

正直、引く。


「い、いやッ!ちょっと…!な、何すんですか!?」


「いいからッ!…さあ、女神の接吻を受け取りなさい!」

「や、ヤダッ!女神のクセに、いやらしい!!」


「・・・い、いやらしい・・・?こ、この私が・・・女神が、エロティックだと言うのですかッ!?」


「……そうですよ!普通、同意も無しにキス迫ったら、エロテロリストですよ!」


「淫乱エロテロリストですって…!?そ、そんな…私は、ただ人間界の為に…!!」


「・・・いや、エロテロリストですよ。今、淫乱って自分で勝手につけたでしょ。」



「嗚呼…主神様!私はどうしたら…!?

 人間風情に『淫乱エロテロリスト・オブ・ジョイトイ』と侮辱を受けました…!!」


「あの…侮辱してるの、アナタ自身なんで…。とりあえず、女神さんの事を教えて下さい。

 それで、勇者に同意するか決めますから。」


「ぐす…わかりました。私の事を教えます。えーと…名前は、光の女神…と申します。

 主に、植物の光合成を司ったり、光関係の調整を中心に活動してます。」


「光合成を司るって……女神の活動にしては、地味すぎる…!」


「LIGHT OF VENUSです。私は、英語の方が、好きです。」


「いや、言語の好みはどうでもイイです。…じゃあ、呼びにくいんで、ライトって呼んでいいですか?」


「…構いませんわ。名前なんてどうでもいいですから。」


「で、ライト。」


「…カナセ、呼び捨てですか?人間のくせに。デス○ートとカブってしまいますけど、私は気にしません。」


「いや、思い切り気にしてるじゃない。今、名前なんてどうでも良いって言ったじゃない

 …女神様って、ウソツキ?」


「…いえ、ちょっと…人間ごときが、と心にひっかかっただけです。文句じゃありませんわ。」


「…十分、文句言ってますよ。…呼び方はライト、で良いッスね?」


「はい。たかが、数十年しか生きてない人間ごときの戯言ですし。

 ・・・・気に入らなければ、天罰を願うまでです。」


・・・・・・・・はい、選択の余地無し。


「・・・・・はい、じゃー…ライト”様”は…何故あたしを選んだの?」


「……」


「ライト様ー?」


「……選考基準に、何かありまして?カナセ。」


「いや、私この通り…勇者〜!って感じじゃないし。勇者なら、普通男とか選ぶんじゃない?みたいな…

 考え方も…もっと、こう…『世界は俺が守る』的な…熱血!って奴を選ぶんじゃないかな、と。」


・・・というか、そういう人間の所へ行って欲しいというニュアンスを込めて、あたしはそう言った。

すると、女神は、真顔でこう言った。


「…そういう人間は、私の好みではありません。暑苦しいし。

 少し世の中斜めに見てる貴女くらいが、丁度いいんです。

 なんでもかんでも、友情やら、精神論で片付くほど、世の中も戦いも甘くありません。

 少年ジャ○プの読みすぎですよ?カナセ。」



「・・・好みの問題なの!?いいの?そんな偏った選考基準で!?

 なんで、女神のクセに少年○ャンプ知ってるの!?あと、ジャン○を馬鹿にしないで!」


「私は、女神とはいえ…接吻をして、合体しなくてはならない身ですのよ?

 ・・・できれば、自分の好みの相手としたいと思うのが当然でしょう。」


「いや、世界の危機に、思い切り”私情”挟んでるじゃないですか。

 何考えてるんですか?女神のクセに。しかも・・・あたし、女ですけど?」


「だから、なんですか?」


「・・・いや、あの・・・開き直んないでよ。」


「…カナセの顔は、さっぱりしてて、イイと思います。

この近隣でノーメイクなのに、安心して直視できるキレイなすっぴんの女性は、カナセ…貴女だけでした。」


「……ほ、褒められているのか、イマイチ微妙なんですけど…???」


「女神は、嘘をつきますん!!」 (注 池袋ウエストゲート○ークのネタ。)


「・・・・・・・・・いや、どっち!?つーか、女神なのに、ボケるなっ!!!」


「女神に対して、なんですか!その無礼なツッコミは!!」


「あのー…ライト様?貴女、ほんとに…この世界救う気あるんですよね?」


「貴女次第です。勇者カナセ。」


「…どうも、あたしだけの問題じゃない気がするんですけどー?」


「……私に問題があると?この光の女神に?」

「あると思う。すご―――――く、あると思う。」



「カナセ…信じる心が、世界を照らすのです。」

「いや、今、一番信用ならないのは、アンタだよ!アンタ!!」


「…ぶっちゃけ、この近隣で、悪魔に喰われてない、すっぴん美人は、カナセだけなんです。

 さあ、私と接吻して、合体して、勇者として戦いなさい。」


「何それ!?なんで、そんなにすっぴん美人に、こだわってんの!?

 結局、女神様すっぴんの女が好き、みたいな感じになってるじゃん!!

 戦えないよっ!すっぴんフェチの女神となんか!!」


「では…戦う気になるまで、居座ります。」

「・・・・・・マジで?」


「ええ、次回へ続く、ですわ。」

「仕切んなー!!帰れー!!!!」


こうして、勇者候補の女、カナセと光(光合成)の女神の奇妙な同居生活が


世界の危機的状況下で、スタートしたのでした。





・・・・世界滅亡まで、あと364日・・・・。





END




=あとがき=


・・・あ、続きません。読みきりです(笑)

沢山の方が遊びに来てくれているので、感謝の毎日です。

コレは、昔々書いたものです。だからちょっと直して、中盤から、全部台詞です。