ええと・・・あたしの名前は、結城 奏世(ゆうき かなせ)
…アルバイトで、食いつないでいた貧乏・成人女性だ。
世の中サックリ終わったら、楽になるかな〜なんて、考えていたら
本当に…世の中がひっくり返ってしまった。
悪魔軍こと、人食いモンスターが、わんさか出てきて、人間を喰い始めた。
この現象は、日本だけじゃないらしい…世界中で、同じような現象が起こっている。
ハリウッドは、未だに『アレはウチのCGさ!』なんて冗談を飛ばしているとか、いないとか。
世界の人類は・・・色々問題のある核ミサ○ルも撃つ暇もなく、モンスターという天敵に食い尽くされようとしていた。
悪魔軍は日々、進化し、着々と世界を征服しつつあった。
まるで、RPGの世界が現実に、この時代に起こってしまい、今もモンスターが街を歩いては人を殺して食べていたりするのだった…。
そんな人類に、救いの手を差し伸べたのが……
「あぁ、またクイズ番組ですか…ヘキサ●ンのCD企画も飽きましたねぇ…
嗚呼、主神様…あの”しゃくれ”は、いくら儲けたら気が済むんでしょうか〜。
あ、そろそろ、世界救いに行きませんこと?カナセ。」
「行きません。あと、あんまり微妙な事言わないでもらえませんか?」
「それはそうと…コーラは、やはりダイエット系よりもこっちのシンプルな方が美味しいですね、カナセ。
コーラときたら、ピザかポテト系スナック。
・・・嗚呼、主神様・・・太るものってどうして、美味しいんでしょうか・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・。」
世界を救うのに手を差し伸べているのは…この女神じゃない事は、確かだ。
『Light of venus 2』
金髪に、白いドレス。
いかにも、聖なる女神様〜といった雰囲気はあるのだが、態度が全く、その”聖”に伴っていない。
あたしの家で、ごろ寝して、じゃがりこ喰って、コーラ飲んでるのが、女神様。
人類の中から、勇者を選び出し、モンスターの群れを倒す…人類の手助け的存在のハズの女神様。
…光の女神…と言っても、名ばかりの…光合成を司ってる地味な能力の女神様。
一応、女神なのに…妙に人間くさい女神様。
・・・というか、この女神様・・・”様”をつけるまでもない。
この女神ときたら…。
あたしが、勇者になるのを断った日から、ずっとあたしの家にいる。
「…ん〜…ああ、カナセ…見てご覧なさい。」
両手で伸びをしながら、光の女神”ライト様”は、あたしにTVを見るように言った。
「…はい?」
『ここで、モンスター撃墜速報です。』
TVからは、モンスターがどこに出て、誰が戦っているか?をニュースで流していた。
このライト様のように、主神様?の命を受けた女神達が人間達の中から勇者を選び、力を合わせて悪魔軍を倒そう、という動きがあり…
この”スカウト女神”の登場により、各地で勇者が発掘され、それぞれがそれぞれの地域をモンスターから守っていた。
都道府県知事・市長並みに、各地域に女神からスカウトされた”勇者”が戦っていた。
つまり・・・『ご当地勇者様』だ。
彼らの御蔭で、人々はなんとかまた通常通りの生活が送れる。
TVも復活した。
そうそう、変わったといえば…人の死因の多くは、従来…癌・生活習慣病だったのが、”モンスターに食された”に変わり。
ニュースは、交通事故よりも、モンスターの出現情報や勇者の討伐情報の方が多くなった。
『今週3週連続、モンスターから北海道を守りきった勇者…
氷の女神様と勇者・星 幸子さんで―す。凄いですね〜!見てください!この触手!』
陽気な女子アナが、北海道のモンスターをリポートしていた。
その傍らには、どこにでもいそうな…エプロンを身につけたオバサンが、氷の槍を持って立っていた。
・・・・シュールな勇者だよ・・・・。
氷の女神は、何を基準にして、彼女が勇者に相応しいと判断したんだろうか・・・。
「見てごらんなさい。カナセ。…他の地域の勇者は、ちゃくちゃくと己の実力をつけて
モンスターを駆逐し、どんどん勇者らしくなっていってますわよ。」
このライト様は、あたしを勇者に”勝手に”任命した。
んで、仮にあたしが勇者となってしまうと…
この頼りない女神・ライト様と一緒に、あのグロい・デカい・ヤバいの3拍子揃ったモンスターと戦わないといけないらしい。
「そーすか?あの人、どっからどう見ても、普通のオバサンにしか見えませんけどー?
…大体…TVに出ても、ああやってリポートされたり、ネットで茶化されたりするんだよ。」
あいにく、あたしは一般人。
女神のご加護を受けていたとしても、あたしみたいなモンは、最終回手前に死ぬとか…
いや、序盤で死んじゃう、ちょい出キャラでしかない。
勇者は、ロードやセーブや、生き返る教会や、イザという時のリセットがあるから良いのだ。
現実の私には、そんなもんは無い。
だから、勇者なんてゴメンなんだ。
「だから、勇者なんかに、なりません。私は自分の身がカワイイんです。勇者に向きませーん。」
「…カナセ…貴女、そこまで…」
失望・侮蔑…どうとでも言え。
ライト様のような女神には、わかるまい。
あたしは…自分の事で精一杯。
勇者になって、誰かに称えられたいなんて、思わない。
「…ライト様、いい加減、ちゃんとした人間を、勇者にして下さい。
その方が世界救うのに手っ取り早いですよ。あたしは、こんなんですから。」
「・・・・・・イイ。」
「は?」
ライト様は立ち上がり、手を組んでキラキラと瞳を輝かせてあたしを見ていた。
「カナセ…それでイイのです。」
「は???」
「その後ろ向きかつ、弱い心……まさに、エ●゛ァ風味の勇者ッ!」
「オイ、ふざけんなよ。(怒)」
「カナセ。何度も言いましたが…この地域で、私好みのすっぴん綺麗な勇者は貴女だけなんです。カナセ。
他は、熱血ボディビルだったり、居合い抜きの達人の孫だったり、フェンシングのジュニアチャンピオンだったり
生き別れた妹を探してボクシングを始めた青年だったり…」
「オイオイオイ!たっぷりいるよ!?勇者向いてる人!大盛りだよ!テラ勇者の地域だよ!!
しかも、最後の人、設定もすごいシリアスで、いかにも主人公だよッ!?何が気に入らないの!!
なんなんだよ!?アンタの嗜好はッ!どんだけスッピンにこだわりがあるのッ!?」
「カ〜ナセ☆勇者しよ♪」
「アぁホぉかああああぁ!?誰が、そんな古い萌え文句で旅立つかああああああああ!!
そもそも、今更、オマエになんぞ萌えるかぁ―ッ!保奈美に謝れ――ッ!」
「カナセ。なんですか、その言葉遣いは。女神に向かって。」
「アンタがボケるからだろ―ッ!!」
「女神はボケません。少し、おフザけが好きなんです。」
「だから!それをボケって言うんだよッ!!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・む?」
急にライトは、黙り込んだ。(もう様は、つけない事にする。)
てっきり、もう一ボケするかと身構えていたあたしは、肩透かしを食らった気分だった。
ライトの表情はいつになく、真剣になり…目は、あたしではなく、窓の外を見つめている。
「カナセ…貴女の気持ちは、よくわかりました。私もグズグズしてはいられません。
・・・人々を救うのが、私のお役目です。ですから・・・」
「ああ…やっとわかってくれましたか。」
やっと、解放される。安堵した瞬間。
「だから、カナセ…後ろ、見て御覧なさい。」
「・・・はい?」
『キシャー!!』
デカい・グロい・ヤバイ…トカゲのモンスターが、ヨダレを垂らしながらこちらをみていた。
「う、うああああああああああああああ!!!」
ドアを蹴破るようにして、あたしは部屋を出た。
「やっだ〜カナセ〜ビビリ過ぎだから〜(笑)プククク…」
「うっせェー!女子高生みたいに喋るなッ!気付いたんなら、もっと早く言いなさいよ―ッ!ムカつくんだよ!その笑い方!!」
女神は、笑いながらあたしの後ろをついてくる。
ついて来ると言っても、女神だから走るなんて事はしない。
ふわーっと、あたしの頭上を飛んでいる。
「…意外とフットワークいいですわね。カナセ。」
「言ってる場合か―ッ!!!」
モンスターに破壊された、家や道路が、あたしの体力を奪う。
上手く走れない…トカゲは、ドンドンあたしとの距離を縮めてくる。
「カナセ。勇者になりなさい。」
頭上で、ここぞとばかりに女神はそう言った。
「…嫌だ!女神とキスしなきゃなんないなら、嫌だ―ッ!!」
ライトと、キスして、合体しなくちゃいけないのだ。
・・・これ、どっかの百合アニメか、漫画であっただろ?そのネタはッ!!
「…キスしなくても、勇者の力は授けられますわよ?」
「な・・・なんだとぅ!?なんで早くそれを言わないんだよ!方法は!?」
それなら、今だけ…勇者として、戦ってやる!!
こうなったら、もう、非常事態だ!!
「…歌を歌うんです。」
「馬鹿じゃねえの!?逃げてるのに、歌えるかー!!」
「大丈夫♪短い歌ですし、聞いたことある歌ですよ。良いですか?
”臭いが気にならない♪なのに綺麗に染まる♪ビゲ●香りのヘアカラー♪勇者で郁恵(行くえ)♪”
・・・はい♪」
「歌えるかあああああああああああ!!ビ●ンと勇者関係ないだろーがッ!!
髪染め液の歌で勇者の力目覚めさせるな―ッ!おしゃれ主婦の皆さん、皆、勇者じゃねーかッ!」
・・・でも、これで北海道のオバサンが、勇者になったのも納得が・・・
いや…でも…そんな方法で目覚めた勇者に守られている北海道ってどうなの…?
「最後の”勇者で郁恵(行くえ)♪”を忘れないようにね。ここ重要。」
「駄洒落、強調すんな―ッ!腹立つうぅーッ!」
『キッシャー!!』
あたしが振り向くと、モンスターは大口をあけて、すぐ後ろに迫っていた。
「―ッ!?」
「ホラ、カナセ。」
ダメだ。命には変えられない…!!
「…う…ぅ…に…
”臭いが気にならない♪なのに綺麗に染まる♪ビゲ●香りのヘアカラー♪勇者で郁恵(行くえ)―ッ♪”」
その瞬間、自分の体がかあっと熱くなった。
光が、あたしの体を包み込んでいくのが、わかった。
しかし、あまりの眩しさに目が眩み…あたしは、自分の身に何が起きているのかも解らぬまま、目を瞑った。
”カナセ…目を開けなさい”
「…あ…こ、この格好は…!?」
気がつくと、あたしは、白いスカートに赤い鎧のようなものを身にまとっていた。
・・・アニメのコスプレか?これ・・・。
”私と貴女は合体したのです。だから、格好も変わります。”
頭の中には、ライトの声が聞こえる…。
(嘘…ホントに合体しちゃった…!)
”カナセ…来ますわよ…!”
頭の中にライトの声がした後…
『キシャー!!』
先程のトカゲが、口を開けて、襲ってきた。
あたしはそれをかわした。なんだか、身が軽い…!これが勇者の力…?
これは…確かに…いけるかもしれない!モンスターの1匹くらいなら!
「それで、ライト…どうやって戦うの!?何か武器とか…」
”・・・・・・・・・。”
あたしの問いに、頭の中の声は黙った。
「ライト!?…あ、そうか…ライト様ー!武器は?ないなら、必殺技でもいい!」
”・・・・・・・・・。”
「・・・おい。」
”・・・いや、私・・・光合成を司ってるから・・・その・・・”
「何?」
”あの…『光合成フラッシュ』…俗に言う…目くらまし、くらいしか……技も武器も、その…特に、無くて…”
「・・・・・・・・・。」
”あ…あの、解りやすく言うと…ファーストシーズンのセーラー●ーキュリー的なモノだと考えてくれたら…”
※注 『シャボン・スプレー』的な…。マーキュ●ーファンの皆様、大変申し訳ありません。
「・・・・余計わかんねえよ・・・・。」
…希望の後の、絶望ほど、凹むものはない…。
終わった。
終わったよ…
『キシャー!!』
否。
・・・手段は選んでいられない。生きる為に、あたしは、僅かな可能性に賭け…
渾身の力で叫んだ。
「光合成フラーッシュ!!!」
恥ずかしい技名の後、あたしの体からは、まばゆい光が発せられた…トカゲは、ギャーとか言って、視界を失った。
……そして、あたしは、その隙に、逃げた。
逃げ足だけは…誰にも負ける気がしなかった。
”フフフ……カナセ…まずは、1勝ですわね!”
「負け戦だよ!バカヤロー!!」
頭の中に響くほくほくしたライトの声に向かって、あたしは逃げながら、ツッコんだ。
もう、いい加減…この世界は滅んでしまえばいい、とあたしは一瞬思った。
・・・・・そして、あたしはこれから・・・どうしようか・・・・。
とりあえず、また自分の部屋に引きこもって、この馬鹿女神が、他の勇者の所へ行ってくれるのを待つことにする。
・・・END
一部の方の…面白かった!という声に、馬鹿女神リターンしました。
・・・そして、こんなんで申し訳ありませんでした・・・。(泣)