※ これは、汀ルートでのHAPPY・EDを前提とした作品です。

  ネタバレを避けたい方には、無理にお勧めしません…

  というか、プレイ後の方が良いですよ!お客さん!


















あの卯良島からの出来事から、どれだけの時間が経ったのだろう。

汀と共に、経験したあの出来事から…もう随分と経ってしまった気がする。

たった数日だが、とても長く、夏の思い出にしては濃すぎる…そんな数日。


それから、確かに、1年が経った。


折角、綾代から聞き出した”汀の携帯電話の番号”は、いつの間にか繋がらなくなっていた。

きっとまたどこかで、鬼を退治しに行っているのだろうか…。

それすらも、予想だけで彼女がどこにいて、何をしているかは知らない。



「久しぶり〜青女の皆さ〜ん♪」

「って…汀!?」



あの口八丁 手八丁の喜屋武汀だった。

コロコロ変わる表情に、時折みせる視線の強さ。

いつも、嘘か本当かわからない好き勝手な事を言い、それに驚く人の顔見て、ニヤリと笑う。

人の事さんざん…一般人だの、素人だの…本当に好き勝手に言って…

肝心な時に、何も言わずに、一人でどっか勝手に行って…


…ついには、あの夏の出来事以来、連絡がぷっつりと切れてしまった。


そして、再会したのは…よりにもよって剣道の全国大会の会場だった。



・・・あの、いつもの憎たらしい笑みを浮かべて、平然と私の前に、現れたのだ。


「「決勝戦で」」





     [ Grace of my heart ]




私、小山内梢子と喜屋武汀は、決勝戦で再会した。



再会、と言っても、お互い竹刀を携え、言葉らしい言葉も交わさずに

私達は、再会を果たし…そして全力で戦った。


「汀。」

試合が終わって、私達は竹刀を持たずに、会場の外で再会した。

再会と言うよりも、私が汀を捕まえたという方が、正しい。


「いやぁ〜…参った、参った。イイトコまでいったと思ったんだけどなぁ〜…

 というか、竹刀より、あたしはやっぱりアレの方が良いわ。」


「・・・それ、負け惜しみ?汀。」



今回の勝敗は、私に軍配が上がった。

負けた汀は、いつものように、悔しさなんか微塵も見えないくらい、ヘラヘラ笑っていた。


「・・・かもね。いや、それにしてもホント強くなったわ。オサ。

 あの素人が、よくぞプロになったって感じで。」


そして、私に持っていた冷たい缶ジュースをほいと渡した。

…炭酸飲料を投げて渡すとは…ワザとなのかもしれないが、気配りが無い。


1年前のあの時、私は剣道でも、実戦でも、汀にまるで歯が立たなかった。

それどころか、逆に助けられてばかりだった。

そんな汀に”強くなった”と言われて、私はつい嬉しさがこみ上げてくる。


「…よく言うわよ、そういう貴女こそ、1年前は剣道も知らなかったのに…」


本来、汀は竹刀を使わない。使用武器は、仕込み刀付き”棍”。

竹刀を握らせ、汀に剣道を教えたのは私だ。・・・教えた、と言っても汀は、”私の技術を見て盗んだ”らしいのだが。

守天党の鬼切りが、汀の正体。と言っても、彼女は、鬼を切るよりも、実際は調査をする方が、多いらしい。

しかし、一般人の私と違って、汀は実戦を経験してきている。


・・・だからこそ、そんな汀に勝てたのが正直な所、今でも信じられないでいた。



「・・・まあ、あたし基本的に天才肌だから♪

 でも、まあ…所詮天才の気まぐれは、秀才の日々の努力には勝てませんってね。」


そう言って、また目を細めて汀が自慢げに笑う。


「…それ、人の事、褒めてるの?馬鹿にしてるの?」

「いやぁ、褒めてる褒めてる。素直に受け取りなさいな…深読み厳禁よ、オサ。」


汀はそう言って、私の頬に人差し指をちょん、とつけた。

…どうも汀の言葉は、正面から素直に受け止めには、抵抗がある。


「まったく…素直に受け取れないのは、誰のせいだと思ってるのよ。」


私が、そう不満そうに言うと、汀はまたニッコリ笑う。


「んー…それは、単にオサが素直じゃないってだけじゃないの?」


あの夏に出会った時と変わらない、汀の笑顔を間近で見た時、私は…

緊張感に似た、何かから開放された気分だった。


あれから1年が経って、変わったのは…


「…ねえ、汀。」

「ん?」


私と汀は、ベンチに腰掛けた。

大会の閉会式までには、時間があったからだ。


「…一体、何してたの?この1年。」

「ん〜…まあ、あれからは…あの剣の事もあってたっぷり絞られたんだけど…

 おかげ様で、普通の女子高生エンジョイ出来たかなぁ…

 こうやって、体育会系のひと夏の思い出もできた訳だし?」



汀の追っていた”剣”は、私が泳げない汀を助ける為に、海の中へ捨ててしまい

もう人の手に渡らない場所へと、行ってしまった。


その責任を取らされて、汀が、また妙な事をやらされてなければ良いのだが…


「…また、危ない事してるんじゃないでしょうね?」


「まあ…その危ない事が、本来のあたしのお仕事ですから。

 でもホラ、あたし下っ端だし、剣無くしちゃったからさ〜

 もう全ッ然!仕事回って来ないから、もう暇で暇で…。」


ほら、またその顔。

どこまで本当なのか、解らない、いや、他人に解らせないようにする笑顔と話し方。

掌をヒラヒラさせて、全然無いというジェスチャーをしてみせる汀の手を、私は捕まえた。


「・・・お?」


キョトンとした顔で私の顔をみる汀の掌を、私は広げた。


「・・・まだ、残ってるんだ・・・傷。」

「ん?…ああ、それね…。」


汀の両手には、傷がある。ワイヤーで切った傷。

…それは、剣鬼になった夏姉さんから、私を助けた時についた傷。


私を助ける為に、犠牲にした汀の手。

そして…夏姉さんを斬った手でもある。


「…まだ痛む?」

「まさか。全然。それに、こんなの生命線増えたと思えば、良いのよ。」

「そう…。」

私が聞くと、やっぱり汀の口からは、軽い言葉しか出ない。

私が、しばらく汀の掌を見つめていると、汀がぽつりと言った。



「・・・・・・やっぱ、恨んでたり、する?」


「・・・・・・。」




”恨む”とは、夏姉さんの事だろう。

剣鬼となった夏姉さんを、私達には止める方法も、元に戻す方法も無かった。

汀が、ワイヤーで腕を切り落とす事で、剣と切り離された夏姉さんは

少しの間だけだけど、私の事を”梢ちゃん”と呼んでくれた。



そして…本来、私が斬らなくちゃいけなかったのに

汀は”剣鬼はやはり自分の獲物だ”と言い放ち、夏姉さんを斬った。



「…”恨んでくれても、構わない”んじゃなかったの?」


『恨んでくれても構わない』…汀はあの時、確かにそう言った。

私が素っ気無くそう言うと、汀は、いささか、ばつが悪そうな顔をした。


「ん、まあ…そうなんだけどさ…」



わかっている。

そんな事は、わかっている。



あの時、貴女が、私に夏姉さんを斬らせなかったのは…

私に身内を斬らせない為だって、わかってる。


「それに、さっきの試合で、しかと仇は討たせてもらったから。」


私がそう言うと、汀は苦笑い。

…ホント、表情豊かなヤツ。


「…うひゃー…通りで敵わないはずだわ。気迫違い過ぎだもの。」


どこか、ホッとしているようにも見える。


「…でも、正直に言うと、私、汀に勝てるとは思ってなかったわ。」

「…うん、あたしも勝つ気でいたわよ。オサに、負けるつもり無かったし。」

「少しは、謙遜しなさい。」


…そして、変に自信家。
 

「それにしても、防具があんなに臭いとは思わなかったわぁ…

 よく3年以上もやってられたわね?あたし1年で限界よ?」


やっぱり、体育会系は苦手だと汀は呟いた。


(じゃあ、何で大会出たのよ…それに大体…)


その瞬間、私の脳裏にスッと何かが通った。

それは、閃き。



私は、汀の手を掴んだまま、口を開いた。


「……汀。」

「ん?」

「ホントの所は?」

「はあ?何が?」

「大会に出場した、本当の理由。」

「……だから、オサの舞台を荒らしに……って、信じてないわね?その顔は。」


私の真剣な顔を見た、汀の目が、細められた。


「まあね。」

「…っかー!…厳しいなぁ…オサの取調べは…」


そう言って、また話をうやむやにしようとする笑い。


「私…真面目に聞いてるんだけど?

 返答次第によっては、この場でもう一戦交えても良いのよ?汀。」

「いやいや、もう結構。限界ですって。勘弁してよーオサ。

 どうして、そんなつまんない事こだわるかなぁ?」




「…つまんない事、ですって…?」


(・・・もう、限界ね。)



私は、すーっと息を吸い込んで、声と共に一気に吐き出した。




「・・・汀の馬鹿ーッ!!」




「痛ーっ!?み、耳が…!キーンって…!」


私は、耳を押さえる汀の道着を掴んだ。


「なによ!そうやって、いつも好き勝手な事言って…!肝心な時には、何も言わないで突然いなくなって…!

 今まで連絡もしないで…!携帯かけても繋がらないし…!携帯がダメなら、手紙くらいよこしなさいよッ!

 1年も人の事、放っておいてッ!今更…何事も無かったように現れて…っ!!」


私は、今まで抑えていた不満を、一気に吐き出した。

汀の肩を、何度も、拳で叩いた。

1年も、何をどうしていたのかくらい、連絡くらいくれても良いじゃないと何度考えただろう。

1年も、汀のあの笑顔を思い浮かべては、何度腹を立てた事だろう…

1年も、待ち続けて、再会できたと思えば、全国大会で。

何故、私を1年もの間、待たせてまで、この舞台での再会を汀が選んだのか。

それを、つまらない事と言われては、私は、爆発するしかない。


「ちょ、ちょっと、オサ?…一回、落ち着こうか?ね?」


汀が、降参ですと両手を挙げても、私はそれを止めない。


「これが、落ち着いてられるもんですか!誰のせいよッ!?この薄ら馬鹿!」


そうだ。

すべては、コイツが…汀が悪い。

最初から、ちゃんと連絡さえくれたら、私は…こんなに…


「いやいや…それは話せばわか……

 ……オサ…?」


「……人がッ…どれだけ…心配したと…おも……!」


私は、その言葉の続きを言う事が、出来なかった。

言葉が詰まる。



いくら私が、汀との再会を望んでも、何も出来なかった。

私と汀との連絡手段は、あの携帯電話の番号しかなかったから。

連絡が途切れて、探そうにも何も出来ず、私は汀からの連絡を待つしかなくなった。


待つうちに、何度か想像した。


汀が、どこかで、鬼にやられているんじゃないか、とか…。

もう、会えないんじゃないか、とか…。


あの夏の出来事のように、何も言わないで、たった一人で

私を置いて手の届かない、どこか、遠くに行ってしまうのでは…



「…あー…その…ごめん、オサ。」


汀の掌が、私の頬に触れ、伝う涙を拭った。


「この…馬鹿…!」


掌の傷の感触と、手の温かさが私の頬をやさしく包む。

私は、その手を自分の顔に押し付けるように、握り返した。



「はーい…馬鹿でーす…認めるからさ、許してよ。オサ。」


汀は、そう言うと私の体を抱き締めた。

私は黙ってそれを受け入れ、汀の背中に手を回し、汀の肩に額をつけた。


「…今まで、何、してたのか…ちゃんと、言いなさいよ…」

「んー…ホントに色々…。

 まず、番号教えたあの携帯は、あの件で水没しちゃって、メモリーもデータも見事にパア。

 それから上司には、あの件で、こってり絞られるわ、厄介な仕事ばっかまわされるわで、てんてこ舞い。

 それに、あの事件の関係者に会ってきますんで、休み下さ〜い、なんて勿論言えないしさぁ。

 あと、あたし手紙なんか、書く柄じゃないし…どうせなら…」


スラスラと喋っていた汀の言葉が、鈍る。


「…どうせなら?」


「…どうせなら、会いたいじゃない。

 それで、オサと堂々と再会するには、これに出るしかないな、と。」


”会いたい”


その言葉が、私の心臓の鼓動を早める。

私が、言いたくても言えなかった言葉。

顔を上げて、私は汀の顔を見て、聞いた。


「それで…わざわざ、剣道部に入って?」

「わざわざ、剣道部に入って。」


汀は、ゆっくりそう答える。


「私に、会う為だけに?」

「オサに会う為だけに。」


オウムのように私の質問に、そのまま答える汀。


「汀。私に、まだ何か隠してる事、あるでしょう?」


私は、汀の目を真っ直ぐ見つめて聞いた。


「えー…?勘弁してよ、あたしそんなに秘密抱えられないってば。

 何があるっていうのよ?」


汀は苦笑いを浮かべている。声が、一応笑ってはいるものの、困っている。

…これは、隙あらば、誤魔化そうとしている顔だ。


「大会に出た理由はもう一つあるんじゃないの?って事よ。

 そう…私に夏姉さんの仇、取らせるため…とか。」

「……あー………」


汀が黙った。

認める訳にはいかない、という沈黙。

だけど、それだけでも私には、十分な回答だった。

勿論、私に仇を討たせるためと言っても、汀がさっきの試合で手を抜いた訳じゃない。

それは、剣を交えた私が一番わかる事だ。



『恨んでくれても構わない。』


汀はそう言って、私が担うべき事をやり遂げた。

”恨む”という負の感情は、いつまでも抱えられるものじゃない。

やがて、その感情に押し潰されそうになる。

もし、あの時、私がもっと強くて…夏姉さんと戦う事が出来たなら…汀にはやらせなかった。

あの時の自分の力の弱さを、後悔していないといえば、嘘になる。

もし、汀が私に”そういう気遣い”をしたのだとすれば、わざわざ、私に会いに、全国大会に出なくてはいけない理由の一つには、なる。


事実、汀を憎らしく思った事はある。でも、それは…恨みなんかじゃない。


「…図星じゃないの、馬鹿。」


私は、汀の背中に回した腕に力を入れ、強く抱き締めた。


「…あーそんな馬鹿馬鹿言われると、さすがのあたしも結構傷つくんだけど…いや、それはいいや。

 それで…あのね…オサ」

「もういいわ。変な言い訳しないで。」

「あー…いや、その………ごめん。」


汀の声のトーンが少し、落ちた。

なんだ、そんな風に喋る事もあるのか、と私は少し驚いた。


「…いいのよ、別に。それに…仇なんか、最初からいないんだし。」


夏姉さんは、汀に斬られる瞬間、微笑んでいた。

本来の夏姉さんに戻してくれたのは、結局は、汀だった。


そして、その代償が…私を包むこの、温かい手についた傷。


「………そっか…」

そう呟くと、汀は安心したように、力を抜いて私を抱き締めた。



「でも」

”でも”で、私は空気を打ち破った。


「え…?」


私は、汀の背中に回した腕に力を入れ、強く強く抱き締めた。


「…いっ!?ちょ、ちょっと…オサ…?なんか、絞まる…!

 それ…”ベアハッグ”…別名”サバ折り”っ…!!」


私は、ジタバタする汀を、がっしりと抱き締めて、離さない。


「……でも、1年も連絡よこさなかったのは、恨んでるから。すごく。」


低く、優しく私はそう言った。


「あ、ちょ…ここは、もうちょっと、優しく…抱擁しませんかって…痛い痛い…!」

「十分、優しく抱き締めてあげてるでしょ…ッ…!」


汀には、まだ無駄口を叩く余裕があったようなので、私は、更にギリギリと絞り上げた。


「オサァ…梢子だけあって、やっぱり貴女…ドSでしょ…ッ!?」

「あら、汀のMだって、そういうM…でしょっっと!」


”ギリギリ…”


…大会の為のトレーニングだったけど、鍛錬を積んだ甲斐があったというものだ。


「ああ…オサ…ご、ごめ…ホント、洒落になら…!」


汀は、仰け反って許しを請うが、私は聞いてやらない。


そう、それだけは、絶対に許すわけにはいかない。

せめて、汀の携帯電話の番号と、住所くらい聞きだしておかないと…

また、この山猫はどこに行くかわからない。


別にどこへ行こうと、構わないけど…



「許して欲しければ…今度から、ちゃんと連絡しなさいっ!この馬鹿ー!」



鈴はつけないまでも…せめて、私のところへ戻ってくるように、躾けておかなければ…。




 一方その頃・・・。


「…まあ、梢子さん…姿が見えないと思ったら…汀さんとあんな事を…」


「せ、先輩が…梢子先輩が…汀さんと、抱き合って…」

「ざわっち…しっかりしろー!!」


「あらら…まあ、先生、生徒のそういう事情まで指導する訳には、いかないんだけど…

 ああー…情熱的ねぇ…。」



私達の感動の再会(?)を、ひっそりと見守る人がいる事に、私が気づいたのは

その5分後の出来事だった。



 ー END ー



 あとがき

タイトルは、思いつかなくて大好きだったMAX(ミーナいた頃が最高でした…)の曲から付けました。


神楽は汀を汀と呼ばずに、喜屋武ちゃんと呼んでいます。

・・・ホラ、かぶるんですよ。「花輪く〜ん」って言ってるおさげの眼鏡っ娘(?)と。


もったいぶったような会話を掛け合って、ニヤリと笑い合う彼女達が大好きで堪りません。

特に最後の汀の吸血シーン(?)での

オサ:「汀と夏姉さんの血、両方貰うから。」

汀:「混ぜるな危険。」

コハク:「…お前ら、何をじゃれあっている。」

・・・コハク様、ごもっともなツッコミ!(爆笑)


「汀の馬鹿ー!」とオサが海に叫ぶシーンは、もう名シーンです。

人工呼吸イベントも、次の日のお礼キッスイベントも…もう、何度見ても良いですね…。

喜屋武ちゃんのワイヤーで、オサを助ける所なんか、もうカッコ良過ぎの一言です。


…なんというか、アオイシロ、この2人だけで神楽はお腹いっぱいなんですけど。(語り過ぎだし。)


ああ…次回、この2人を書く事があれば、ちゅーの1つでもさせた…(殴)