「君と一緒に朝日を見たいんだ…」

「いやっ!死なないでー!浩輔ー!」





会場からは、すすり泣く声が聞こえるが、あたし…喜屋武 汀は、冷めていた。


こういうの、見て泣けるかなぁ…?


感動させるの前提なイベントが随所に組み込まれていて、嫌でも泣かせようって魂胆が山積みで見え見えなのよねぇ…。


簡単にいうと、病気であと1年しか生きられない少年と少女の恋愛話。


・・・いかにもって感じね。うん。結局、少年は死んじゃうし。

悪くはないんだけど、あたしは好きじゃないなぁ…。



ま、いいや。

これで、オサとの映画を一緒に(寝ないで)見る、という約束は果たせた訳だし。

一回寝ちゃって、すっごい怒られたからなぁ…お勤めの後だっていうのに、容赦ないんだもんなぁ…オサって。


両腕を上に上げて、背中を一伸びさせると、あたしは隣のオサ、こと小山内梢子に話しかけた。


「あーぁ…っと・・・ねえねえオサ、ぱーっと何か食べに行かな………」



いやぁ、驚いた。



正直、オサが、こんな映画でボロボロ泣くとは思ってなかったんだもの。







[  たまには真面目なデートを。 (ミギオサ) ]



「いやぁ〜♪オサの純情メルヘンさんは、まだまだご健在ですかぁ。な〜るほど。」

「・・・・・・・・。」


マズイ所を見られてしまったな、と…私こと、小山内梢子は思った。

隣では、ニヤニヤと頬が緩みっぱなしの喜屋武 汀がいる。


「意外と、カっワイイ所あるんだね〜♪オサ♪はい、ハンカチーフ♪ティッシュの方がいい?」


館内の照明が点く前に、涙を拭けば良かったのだが…汀が映画に全く集中していなかった、という事で…

こうして、私は涙を見られてしまった。


そもそも。

前回…映画の最中に私の太腿を触ったり、手を握られたり、挙句寝てしまうようなまるでオッサン

・・・・のような汀、と懲りずに映画を見に来てしまった私が、悪いのだ。


映画で泣くなんて、随分無かった。


「・・・うるさい。」


自分でも、思う。

…泣かせる前提の映画だと解っていて、泣いてしまう自分が少し情けないのだ。


「・・・まぁ、オサは、感受性が強いから、きっと泣けるのよ。

 素直に泣くとか、感情出すって…ピュアって事よ。」


「それ、フォロー?」


「あれ?疑うのー?」


「…別に、そうじゃないけど…。」


汀は、俯く私の顔を両手で上げて、自分の方へ向けた。


「ところで、オサ。どこら辺が一番泣けた?」


そう言いながら、私の目元の涙を拭った。

もう、私をからかうつもりは無いみたいで、浮かべられた汀の微笑みはとても柔らかく優しく感じた。


「…別に…。」


「あ。やっぱ、死ぬとこ?あそこで、周囲の女の子皆ぶわ〜っと…」


「…いや、違うの。」


「違う?」


「・・・・・・・・・私もああいう風に、なるのかなって・・・」

「は?オサ・・・もしかして・・・びょ、病気?」


「・・・だから、違うわよ。」

「・・・?」


「だから………汀が死んじゃったら…私、どうしようって…ああやって泣いたりしても…

 ちゃんと、受け入れて…乗り切れるかな、って…。」


映画とは関係ない所で、私は…深く考え過ぎてしまった。

実をいうと、映画の内容は殆ど頭に残っていない。


私は、汀が病気になるとは、思っていない。

ただ、汀は…いつも…命の危険が伴う仕事を抱えているのだ。

いや、それでも、この…口八丁手八丁、要領良く、楽しく生きてます♪と豪語する、この汀が…

簡単に死ぬなんて、私は思ってはいなかった。


・・・普段は、の話だ。


だが、人は、いつか死んでしまう。

この事実は、どうあがいても変わらない。


いくら、汀でも…海のど真ん中で突き落としたら、さすがに死んでしまうだろう。


そして…どんなに強くても…仕事中に、彼女が命を落とさない、という100%の保障は…どこにもない。


汀がいなくなった後…私はどんな想いで生きるのだろう。


携帯電話を頻繁に見つめる事が、まずなくなって…

汀から貰ったモノは…どうしよう。見たらきっと、辛くなる気がする…でも、捨てる事は出来ないだろう。

あ、そうだ…汀の所へ行くつもりで、今貯めている貯金は…。


それに…

私・・・汀の事、簡単に忘れたりなんか・・・



気が付いたら、私は泣いていた。

自分で仮定した世界に、どっぷりと自分から足を踏み入れておいて…私は泣いていた。



前回眠り込んでしまった汀の事を、とやかくは言えない。




「…ちょ…ちょっとちょっと…あのね、オサ。・・・人の事、勝手に殺さないでくれるかな?」


話を聞き終わった汀は、少々呆れ顔だった。


「…ごめん。」


汀の言う事は、もっともだ。

…自分でも、あんまりだ、と思った。


「あのさ。」


「わかってるわよ。勝手に想像して、勝手に泣いただけ。ゴメン。」

「いや、そうじゃないって。オサ。」


「…なに?」



「・・・あたしがいかなる死に方をしようとも。


 オサは、あたしの後追って〜とか、復讐〜とか…ドラマみたいなショボイ事、しないでよね。

 いつまでも、ぐずぐず引きずられるのも、ゴメンよ?


…あたしが死んでも、オサは、ちゃんと笑って生きて。ま、簡単に死んだりなんかしないけどさ。

 
 ね、あたしの事、ちょっとは理解してんなら、もう言わなくても、わかるわよね?」



「・・・・・・。」

何ソレ遺言?と一瞬、私は思ったが、すぐに、それは汀の決意でもあるのだと思った。





恨まれても良いだなんて、口癖のように言って仕事をしている汀だけれど…


…割り切ってしまっただけで。


恨まれるような仕事は、したくないし。

死にたくだって…ない。


私は、汀と考え方が違うが…だからこそ、汀を…他人より理解できる立場にいたい、と思っている。

これからも…何が起きても、それは…変わらない。


多分、それは私も、汀も同じこと。



――― 笑ってる貴女が、好きだから ―――




「…うん、わかった。」


私の返事をきくと、汀は安心したように息を吐いて、いつも通り、にやっと笑った。


「…もう、止めてよねー?あんまりオサの頭ン中で殺されると…ホントに、化けて出るわよ?あたし。」


そう言って、汀は白い歯を見せて笑って、私の頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫でた。


「ちょッ!ちょっと・・・髪の毛が…乱れるッ!」


強く撫でられ、摩擦熱で頭のてっぺんが、熱くなる。




「はーい、この話は終わり!…あーホント、何か食べに行かない?ガッツリ、スタミナつくやつー。」

「この間もそう言ってたわよ…焼肉…。」


「あれ?そうだったっけ?オサ、今日はさっぱり系?」

「…別に、そういう訳ではないけど…」


「大丈夫大丈夫♪2人で一緒のモノ食べたら、ニンニク臭が気になってキスできない〜なんて事ないから♪

 ちゃ〜んと、上にも、下にもしてあげるから♪」


ニコニコして、そう言う汀の言葉を、私はぼんやりと聞き流していたが……


「…上…下…?……!?……バッ!?馬鹿ッ!」


やがて、その言葉の意味に気付くと、私の右の拳は唸りを上げた。




ちなみに、その日…汀と一緒に食べたのは、結局ハンバーガーだったりする。




 END



WEB拍手に置いておいたものでした。

オサみたいなタイプは、泣かせたくなる・・・という作者の妄想SSでしたね。