風鈴すら鳴らない、残暑。
  

「オサー…暑いー…」

「…だらしない声出さないの、扇風機あるでしょうが。」


汀が扇風機の前にいるせいで、私に風がちっとも当たらない。


「あ゛−−−−−−−。」

「・・・・・・やると思った。」

「定番じゃないの。」


我々は宇宙人だーとか言ったら、拳骨おみまいしてやろうかと思ったが

さすがの汀も、こんなに暑くてはボケる気にもならなかったみたいで、素直に扇風機から離れた。

だらだらと、その辺に転がって、いつもなら私にベタベタくっつくのに、それすらも億劫なのだろう。

うーうー唸っている。



・・・汀、貴女、南国育ちじゃなかったの?



「・・・あ、そうだ、オサ、氷ーちょうだーい。」

「で、氷、どうするわけ?」

「どうするって、食べるの。」

「…なるほど、子供みたいな暑さしのぎで。」

「・・・嫌味ったらしいなぁ・・・」

「あ、氷、いらないの?ふーん。」

「・・・いりまーす。ごめんなさい。」


残暑厳しい日。


小山内家の台所の冷蔵庫の前で、製氷機から出来たてらしい氷を一個指でつまんだ。

後から、ダラダラやって来た汀に、早くと手招きをし、私は、汀に氷をひとつ差し出した。


すると。


「あーん。」

「・・・まったく・・・。」


笑顔で、大口を開ける汀に、私は少々呆れながらも、口の中に氷を放り込んだ。

コロコロ音を立てながら、汀は美味しそうに氷を頬張っていた。


「・・・おいしい?」


私がそう聞くと、汀は喋れないらしく、コクコクと首を縦にふった。


(ホントに、子供みたい…。)


無邪気に嬉しそうに氷を頬張る彼女が、愛おしくなって…私は、汀の頭を撫でた。


「・・・・・・・・。」


すると、汀は急に私を無言で、冷蔵庫に押し付けた。


「ちょっと、何するのよ…汀…」



・・・汀が無言なのは、単に氷が口の中にあるからだ、と思っていた。



私に、汀が、唇を重ねてくるまでは。

冷たい、と感じたのも束の間。


汀が、私の唇を割って無理矢理入ってこようとしている。


「…んっ…ぅ……は………!?」


ひんやりとした舌の感触の後、冷たく先程よりも小さくなった氷が、私の口の中に滑り込んできた。



「いやぁ、口の中、凍傷になるかと思ったわ。」


悪びれる様子も無く、汀はそう言って唇で笑った。

目は、ちっとも笑っていない。


「・・・・・・。」


今度は私が無言。氷が、口の中に入ってるからだ。


「・・・オサ、氷、返して。」


何かを狙っている、獣の目。


私は、汀の”獲物”なのか、汀を狩る”狩人”なのか、わからない。

ただ、汀に狩られる獲物はゴメンだ、と私は思ったので


氷を唇で挟んで、汀を引き寄せて、汀の唇に氷を押し当てた。




思ったとおり…氷ごと、汀が私の唇を奪いにきた。



今度は私の冷たくなった舌に、汀の温かさを取り戻した舌が、絡む。

汀の口内で、小さくなった氷に時々触れる。


そして、氷がまた私の口内に返ってくる。

だから私は、また氷を汀の口内に押し返す。


唇を離した汀は、私の顔をみて、満足そうに目で笑った。




・・・・・・いや、その目は、満足していない。


”もっと”の目だ。





汀は、口の中から氷を自分の手に出すと、そのまま氷を私の首筋にあてた。


「…ッ!?冷たいッ!?」

「そりゃ、氷だもの…。」

「ちょっと!汀、何する気ッ!?」

「さあ?」


そう言うと、汀はニヤリと笑いながら、私のシャツの隙間から氷を中に、放り込んだ。

「うぁっ…!?」


「……ああ、ゴメンゴメン。」


ちっとも。

全然。

全く。


…悪いなんて、露ほども思っていない、汀。


「…今、取りまーす」


そう言って、それを口実にして、私の服の中に手を入れる。


汀め…汀の奴め…さては、それが狙いか…!


私は、汀を睨んで

「自分でとるからいい!手を出しなさい!」

と一喝した。


「えー…せっかく、見つけたのにー?……放せばいいの?」


そう言って、汀は、よりにもよって、私の下着に人差し指を引っ掛け

その隙間から、右胸に触れるように、氷を入れた。


小指ほどの大きさしかない、氷が私の右胸の先にあたる。


いや、汀があてているのだ。ワザと。


「…ぅあぁっ!み、みぎ…汀ッ…!!」



「はいはい、今とってあげる。」



「ち、ちが…そうじゃな…!」



汀は、私のシャツを捲り上げて、私の下着を少しずらして、氷を再び、自分の口に入れた。

・・・私の右胸の先端ごと。



「・・・う、あぁ…っ!?」


見せ付けるように、私の目の前で、汀の奴は氷と私のそれを、交互に舌で転がしはじめた。

冷たさと温かさが、交互に。



「…いっ…汀…い、嫌ッ…それ、嫌…!」


冷蔵庫に押し付けられたまま、私は力なく汀の髪の毛をくしゃっと掴んだ。

冷たさによるわずかな痛みと、温かさによる気持ちよさ・・・が、交互に。


「は…ァ…あ…ぁ…ッ…!」


その度に、溶けていく氷の水が、私の肌にまとわりついて、汀がそれを吸う。


「み、汀…ッ…汀ッ…ってば…ぁ…ッ!!」


私は汀の名を呼ぶ。



・・・呼んでもきっと止めては、くれないはずだから。



だから、汀の名前を呼ぶ。

汀は、呼ばれてチラリと私の顔をみた。



視線がぶつかると、汀は、私の手を掴んで、指を絡ませた。



両手を掴まれ、冷蔵庫の扉の冷気を背中に感じながら、私は抵抗できないまま

一部に与えられた彼女の愛撫を、受け続けるしかなくなった。



「…んん…氷溶けきっちゃったわ……取る手間、省けたわね、オサ?」


そう言って、再び、私の視線とぶつかる位置に、顔を上げた。


そして、無言で私を熱を帯びた視線で見つめ続ける。


「・・・・・・。」

「…み、ぎわ…」



いつも突然、彼女は、獣…のような狩人になる。

私は、いつも獲物として、彼女に狩られる。



「・・・・・・・。」

「み…ぎ、わ…」




不安は、ない。



…逃れられない彼女の罠に、私は掛かるしかないから。




でも、恐怖は無い。




「・・・なに?オサ。」






彼女が・・・汀が、私に微笑んでいるから。








「・・・・・ここで、して。」







無言で、汀は私に応じてくれた。


すぐに汀とキスを交わして、強く抱き合う。

最初は浅く、短く。

そして、どんどん深く、長いキスに、どんどん呼吸が乱れていく。

それすら、心地良く感じてくるから不思議だ。



・・・心のどこかで、私は何度も何度も、期待していた。


どうしようもなく暴れる”私の中の獣”を汀が狩ってくれるのを期待してた。


いつ、どんな風に狩ってくれるのか。


素直になれない獣は、追い詰められないと、正体を現してはくれない。



私の肉を、汀が甘く噛んでくれる度に、獣が暴れる。



「…汀ッ…はぁ…ぁ……あ…汀……んッ…!」



『ケダモノみたいだ』って、笑われるんじゃないかって…後ろめたさがあった。


でも汀は、そうは言わなかったし、からかいもしなかった。

あの、汀が、だ。


・・・私のこんな部分を見ても、ネタにする事もなく、戸惑う事もなく。


そして。


『ま、普通でしょ?…パートナーに自分を求められて、嬉しくない人、いる?』


と、微笑んだ。



女だから、こんな事、自分から求めるなんておかしいって、固定概念がどこかにあった。

相手が同じ女だから、なおさら抑えていた節があったのかもしれない。




「…い、ぅッ!?…やっ…あぁ…汀ぁ…っ…!」



単に、氷は、キッカケに過ぎない。




私の中にいる獣は、汀にしか反応しない。

汀が、それをよく知っている。


…暇ね、暑いね、の会話を私が繰り返した時から、きっと汀は気付いていたんだと思う。


私が・・・汀を、求めてるって事に。


「オサ。」


私は、力なく汀にもたれかかり、台所の床に優しく寝かされた。

床の冷気が、背面全てで感じる事ができる。



私の皮膚を、汀の手が、指が、唇が、舌が、通り過ぎる。



それを私は、目を閉じて耐える事はしない。




目を開けたまま、私は汀がこちらを見てくれるのを待っている。



「…はっ…ぁ……ぃ…ッ……はぁ…ぁ…ッ…!」




水の音がする。

私の体の中と、汀の間から、だ。






(…こっち、見て、汀。)




私が声も出していないのに、心で想っていると、不思議と汀はこちらをみるのだ。



「・・・ん?呼んだ?オサ。」



「・・・・うん。呼んだ。」




呼ぶと、汀は、私の足の間から、ゆっくり起き上がって猫のように、近づいてきて


・・・必ず、手の甲で一度、自分の口元を拭う。



その動作ひとつひとつに、私は愛おしさすら感じる。





汀の服を掴んで、私は引き寄せてキスをする。



2人で何度も重ねていた行為だけに、タイミングは知っている。


汀を、自分の中で感じる。


「…ぅ…くぅ…ッ!」


震える私を、汀が感じ取って、すぐに左手で抱きしめて、額にキスをしてくれる。

私は汀の胸に顔を埋めて、背中へ腕を伸ばし、くぐもった声を出す。


「・・・オサ、大丈夫よ。今、この家、あたしとオサしかいないんでしょ?」


「う…うん……で、もぉっ…!…あ…ッ!…」


汀の微笑みと、全身に与えられる感覚に、溶けてしまいそうな自分の意識をなんとか保っていようとするが


「じゃあ、良いじゃない。声、ちゃんと聞かせてよ、わかんないから。」


・・・汀がそうはさせない。


「う…あ…ぁ……」


私の意識に残る獣を狩ろうと、燻り出している。


「オサに、ちゃんと、あたしが届いてるかどうか、教えて。」


それは、私の奥まで届いている。

心の中は、汀の事でブレーカーが落ちそうな程、満たされすぎている。


呼吸が止まりそうになりながら、私のブレーカーがバツンと落ちる。


「汀ぁ…ッ!汀…みぎッ……――――っ……!!」



呼吸が、止まる。

心臓の音が、全身に響き、私は、再び呼吸を開始する。




「・・・・・ッ・・・はぁッ…はぁッ…はぁッ!」


「ねえ…オサ、大丈夫?」



汀曰く、私は達する時、呼吸を止めるので心配になるのだそうだ。


声を出せばいいのに、といわれるが。

何度しても、私は呼吸を止めてしまう。


「…声、出せばもう少し楽なんじゃない?」


私は、汀の左腕に頭を預けて、呼吸を整えた。


「…大声出せば…なんとか、ていうのは、きっと個人差よ…。」


少なくとも、私はそう思う。

声と、貴女を感じるのは、また別モノだと。


「…それで、いいの?嫌よー、あたし…”女の子腹上死させた鬼切り”って、看板背負うのだけは。」


そう言ってイタズラっぽく笑う彼女。

私は、汀の頬を撫でながら


「…そしたら、すぐに人工呼吸して頂戴。」


と言って、軽くキスをする。


「……オサってさ、普段はそういう話題、避けるくせにえっちした後は人が変わったように、平気で言うよね。

 ・・・人工呼吸してとか、そういうネタ。」


「……………。」


「…あ、ツンデレモード移行した?」


「うるさい。」




氷ごと、それは溶けてしまったのか・・・

氷ごと、それは彼女に喰われてしまったのかは、わからない。



今、私の中の欲望という名の獣は、静かに眠っている。




「にしても、暑いわねぇ〜…オサ、氷おかわりしていい?」

「・・・・・・え?」


私は、びっくりして汀の顔をみる。


すると、汀はキョトンとした顔をしてから、”ははぁん”と納得した嫌な笑いを浮かべて言った。


「・・・いや、もう一回って意味じゃないんですけど?」


「あ、ああ…そう…って解ってるわよ!馬鹿!」


「いや、あたしは、別に良いんですけどねー?求められたら〜♪」


「……冷凍してやるわよ?汀。」



「あー…そしたら、今みたいに裸になって温めて頂戴。」


・・・後半は、私のモノマネのつもりか?



「・・・・・・。」



私は、製氷機から出来たての氷を5、6個、鷲掴んで汀の服の中に放り込んだ。



「つッ…冷たぁああああああああああああッ!?!?!?」



「…良かったわね、汀。涼しくなって。」



そう言って、私は床に散乱した自分の服を持って、シャワーを浴びに浴室へ向かった。













    ー 『残暑の日』 ・・・END ー 






・・・短いですけど、頑張ってみました・・・。

やまも、オチも、特にないですけど、頑張りましたよ、うん。

ホラ、妄想力があれば、なんか見えてくるかもしれませんよ?(読者様に委ねるなよ)


はい、賛否両論、ばっちこーい。あはっはっはっはは!!!



え、生ぬるい?もっと暴走しろ?いやいやいや!これが、神楽の精一杯ッ!!
…15禁に石投げてるかも知れない話だけど、気のせいッ!!!
(…せ、せーふかしらーって…あ、OUTですか?)


…ちなみに、2人の初めての『にゃん♪』(伏字)は、エピソード的に丁寧に書きたいので、とっといてあります。

だから、初々しさが無いのはそのせいッ!

とある映画参考にしたけど、エロくならなかったのは、気のせい!!


いや、20000だし、暴走して良いって、誰かが言ったような気がしたから…っ!!



・・・う、うわああああああああああん!!!!(逃走)