…そうですね…。


仕事もプライベートも充実してると思いますよ。不満もありませんし。

・・・ええ、全然”大丈夫”です。



恋愛のスタイル?



…そうですね…フフ…。


…ああ、ゴメンナサイ、只の思い出し笑いです。



そうですね…私は、追いかけられるより、追いかける方だと思います。


でも、好きな人のスタイルや好みに合わせるんじゃなくて

私なりのスタイルで、好きな人を追いかけていきたいって…わがまま、かしらね?



…ホラ、よく自分と相性の良い人を探してる…って人いるでしょう?


でも、価値観が違ったり、考え方が違ったりすると、別れちゃったり…



…『ありのままの私…もしくは、僕を受け止めて欲しかった』とかナントカ、言って。



   私は、違うんですよ。



ありのままって、努力してないだけじゃない?って思っちゃって。


別に根底から、変わって欲しいなんて思ってませんよ。

私だって『今日から癒し系に変わってくれ』なんて、言われたら嫌ですしね。



本当にその人が好きで、一緒にいたいのなら…自分がまず、進化すべきだって、思うんです。



……え?その人とは誰かって?……フフ、教えませんよ。




   ・・・ね?水島さん?




    [水島さんは仕事中 〜 阪野 詩織 編〜 ]






        『お人形みたいね』



昔から私、阪野 詩織はそう言われて育ってきた。

小さい頃から、それが”褒め言葉”だと認識していた私は、そう言われる度に嬉しかった。


可愛いねと周囲に言われて、もっと可愛いと思われる格好を、両親がさせる。

そして、その格好をみて可愛いと、周囲が私を褒めると、両親はまた喜んでくれた。


両親が喜ぶと、私も嬉しかった。

周囲が喜べば、私も嬉しかった。


周囲の期待に応えれば、応える程、私は褒められる。

…だから、幼い私は、人の望むように振舞った。


周囲の望む”私”に

私は、なりきった。


そして…いつしか、周囲は私をこう呼んだ。



『完璧なお人形』




……一体、いつからだろう…私は……




「阪野君。」

「はい、なんでしょう?」


会社の廊下を颯爽と歩く副社長、それに続いて歩く秘書の私。

城沢グループ会長、城沢豪気の次男、それが彼だ。

経歴も、肩書きも、申し分ないエリート。


ただ、顔がヤクザ系なのが、残念だといわれている。

…どうも、城沢家の血筋には…そういう顔を持って生まれてくる事が多いという…。


「阪野君、今日の予定、なんだったかな?」


副社長、城沢英二にそう聞かれて、私はさっと答える。


「はい、本日は10時より、二瓶商事様との会議で…ええと…」


その後は覚えていないので、私が手帳を出そうとすると、副社長はそこで止めた。


「そうか、二瓶か…いや、悪いね…最近、物忘れがひどくてね。」


そう言いながら、副社長はスタスタと廊下を歩いていく。


「…お疲れなんじゃありませんか?大丈夫ですか?たまには休暇でも…」


私は、そう笑顔で言う。

こう言うと、大抵の人は、気遣ってくれて、ありがとうと喜ぶのを私は知っている。


「…キミは、本当に良く出来た秘書だね。」


顔(ヤクザ面)に似合わず、副社長は丁寧な言葉遣いで、私を褒める。


「いえ、そんな事ありませんわ。」


秘書は、スケジュール管理が主な仕事。

しかし、スケジュール管理以外にも、周囲に常に気を配り、動く事が要求される。

周囲を相手にするのは、私の得意分野だ。


「お、おはようございます、副社長…阪野さん。」

緊張した口調で、挨拶するのは出世を夢見る男性社員の一人。

「うむ、おはよう。」

「おはようございます。」

いつも通り、私は副社長の後に、笑顔で挨拶を返す。


「あ、阪野さんだよ…いい女だよなぁ…」

「確かに美人だなぁ。俺もああいう秘書さん付けたいよ。」

「いやいや、俺達みたいなのは、出世しないと無理無理。」



(…下品な男。)



そんな男性社員達の声は、しっかりと、私の耳まで届いている。

出世すれば、女をモノに出来ると思っている。

…確かに、大抵の女はそうだろう。


だが、私が求めるのは…

『出世さえすれば、どんな女も手に入ると思っている男』ではない。



「…あ、秘書課の阪野さんだよ。また”愛想笑い”だよ。」

「よくやるよね、ニコニコ笑って心から言ってないって、こっちには丸解りなのにね。」

「…男ってああいうの”演技”だって、気付かないんだよね…

 ちょっと『大丈夫ぅ?』とか心配されたりすると、弱いっていうか。」


「そうそう…あの人ってさ…表情から、何からさぁ…

 …まるで、動く人形…なのよね。」



(…下品な女。)


聞こえないとでも思っているのか

それとも、聞こえても構わないと思っているのか…

女子社員が、私の事を話している。


それでも私は、彼女達のいう”愛想笑い”を崩さない。

こんな陳腐な事で、私は私のスタイルを壊すわけにはいかない。


「…じゃあ、阪野君。

 僕は、二瓶商事との会議まで、この書類に目を通しておきたいから

 緊急以外の電話は取り次がないよう、お願いするよ。」

「…解りました。」


私は、副社長室の前のスペースで、PCを起動させる。


メール…5通。

…差出人は…4通は、社内の男性社員。

メールの内容は、4通とも、やはり陳腐。

…簡単にいうと、私を褒めて、デートに誘う…そんな流れだ。


社内のメールをこんな風に使うなんて、副社長や会長が知ったら、さぞ怒るだろう。

…顔は”ヤクザ”でも、城沢家の人間は、皆、真面目なのだ。


私はいつも通り『ゴメンナサイ、副社長との予定が入っています』とメッセージを返す。


出世したい男達は、”副社長”との予定を蹴ってくれとは、さすがに言わない。


(削除…と。)


私は、返信したメールを消す習慣がある。

おかげで、この間のメール…とかいう話をされても、わからない。

そんな時は、笑顔で、『ごめんなさい、急いでるの』と謝って、立ち去るようにしている。




(そして、最後の1通は……)


題名が『完璧なお人形さんへ』と記されたモノだった。


このアドレスは…


「岬先輩…。」


…岬 真紀 先輩は、秘書課の先輩だった。


彼女は、優れた秘書だ。


多分、会社の中で尊敬する人物を挙げるように言われたら

私は迷わず、彼女の名を挙げるだろう。



私が、秘書課に入ってすぐ、先輩秘書に言われた言葉。



ー 人間は、見た目9割で判断される。でも私達秘書は、見た目も仕事も10割を要求される仕事よ ー



そして、岬先輩はその見た目・仕事共に10割を、見事にこなした秘書だった。


私の…女性として理想像が、岬先輩だった。

だからこそ、私は心から彼女を尊敬していたのだ。


だが。

彼女は、2年ほど前に社長の担当から、秘書課の教育係になった。

それと同時に、私は副社長担当の秘書になった。


そのせいで、ここ最近では、滅多に顔も合わせることも、なかったが…



(どうしてるのかしら…先輩…)


しかし、私の想いとは裏腹に、先輩からのメールの文面はキツイものだった。


『 完璧なお人形さんへ

 工藤さんに近づくのは、止めて頂戴。

 私が、彼と婚約しているのを知っていて、彼に社内メールを出しているの?

 貴女の作られた偽物の笑顔で、彼に近づかないで。』



…全く、身に覚えが無い。

工藤って、誰?私、そんな人とメールのやり取りなんか…!

…ううん、それより、岬先輩が婚約していた事すら、私は…!


「阪野さーん…阪野先輩…」

呼ばれて、ハッと横を向くと、横に立っていたのは、後輩秘書の一人だった。

「…え?」

「あのー…岬先輩、なんかメチャクチャ、怒ってんですけど…

 さっきあたし達の所来て…阪野さんがどうのって…。」

「…私に…?」

「なんか…岬先輩の婚約者に手を出したって噂、立ってるらしくて…

 それで、岬先輩…もう見た事も無い位、取り乱しちゃって…」


…あの、岬先輩が…?完璧な秘書だった…彼女が、取り乱す?


「そんな、事…あるわけ無いでしょ!?

 大体、私…岬先輩が婚約して事すら知らないんだから…」

「…あれ?そうだったんですか?

 秘書課の皆は、岬先輩から聞かされて、全員知ってるんですけど…

 知らないんですか…じゃあ、何かの間違いですね。」


秘書課の人間は、皆知っている…でも、同じ秘書なのに、私は知らない。

私は…岬先輩から、知らされては、いない。



「そうよ。私、岬先輩には、そんなマネ出来ないわ。」



私は、しばらく仕事を続けていたが、やがて耐え切れなくなった。

岬先輩が、私の事を誤解している、それが気になって。

誰に何を言われても、思われても、私は私のスタイルを崩さない。


だけど。


岬先輩は…私の、尊敬する、理想の秘書。


嫌われたくない。

純粋に、それだけだった。


私は、秘書課のオフィスに向かった。

通常、秘書課のオフィスには、新人と教育係の秘書しかいない。

 ※ 副社長・社長・会長など、過密スケジュールを管理する秘書は、別室扱いになる


ドアに手を掛けようとした瞬間。


「大体、昔から気に入らなかったのよ。

 あの”作り笑顔”に、あの気に入られようとする”計算した態度”…。」


…岬…先、輩…?


「ですよねー…人間らしくないっていうか…あ、いや

 人間らしくないと、いうか。」


「人間として、やってはいけないでしょ、普通。先輩の婚約者に手を出すなんて。」


「あ、でも阪野さん、岬先輩の婚約の事、知らないって言ってましたよ?」


「はあ?ワザワザアンタ、聞きに行ったの?

 バカね、あの阪野が、素直に応えるわけないじゃないの。」


後輩や、同僚の嘲笑雑じりの噂話が、聞こえる。

そして、岬先輩の声が、聞こえた。


「…まあ、大体…

 私、あの子には、最初から婚約の事、話してないもの。」


…そんな…岬先輩……


「あれ?そうだったんですか?」

「岬先輩、相当、嫌いですもんね。阪野。」


……嘘………


「当たり前よ。あんな女…大ッ嫌いよ。

 あの女…私が社長秘書から降ろされた日…何て言ったと思う?


 『私のように見た目も仕事も10割、完璧にこなしてみせる』って


 ワザワザ、あの日、この私に言ったのよ?」


「そりゃ、嫌味ですよねー。」

「確かに。」


…違う…そんなつもりじゃ…!!

私は、先輩のあの言葉に感銘を受けたから…それで…!


「ま、お人形だものね…私が言った事、真に受けてるのよね。」


やめて…岬先輩…それ以上…言わないで…。



「…大体ね、見た目も仕事も10割、なんて出来るわけないじゃない。

 お人形じゃあるまいし。

 私達、あの女と違って、ちゃんとした人間だもの。」




    私は『お人形』

   
 
   私は『完璧なお人形』




…岬先輩まで、そんな風に私を、見ていたんですか…?




F−2会議室。

私は、逃げるように、この部屋にこもった。


ここは、今日一日使わない会議室。


「ううっ…う…く…ぅ…!」


私は、泣き声を押し殺しそうとしたが、無駄だった。


岬先輩の言葉を、私は信じていた。

私には、信頼している人がいる。

ちゃんと私を見て、理解してくれる人が、少しいれば良いと、思っていた。


心のどこかで、思っていた。


…こんなに、周囲の理想通りに行動し、貢献している私を…

私が信頼する人くらいは、ちゃんと見ていてくれているハズだ。

あんな素敵な人ならば、岬先輩ならば…と、信じていた。


(でも、違ったんですね…岬先輩…)


”キイ…バタン”



突然、私の背後で、ドアを閉める音が聞こえた。

ハッとして、振り返った。


「…誰?」

「……あー…その、営業3課の者です。」


それは、女性の声だった。

…私は、導かれるように、その人物に近づいていた。


営業3課と名乗った彼女は、黙って私を見つめていた。


何も言わずに、何も聞かず。

無言で見つめた。


今…下手に声を掛けられたら…そう…「大丈夫?」なんて聞かれたら…

私はきっと…作り笑顔で「大丈夫」と答えるだろう。


状況にもよるが『大丈夫?』という尋ね方は、私は、酷だと思う。

なぜなら…それは『大丈夫かどうか、心配しているよ』という意味ではないからだ。


あくまでも、『大丈夫だよね?』という問いは・・・”確認”なのだ。


『大丈夫?』と聞かれたら、大抵は心配をかけない為に、こう答える。

『大丈夫よ』と。

少なくとも、私は…そういう意味で大丈夫?と言っていた。



しかし、彼女は……何も言わなかった。

ただ、真っ直ぐ私を見つめているだけ。



ただ、彼女に見られているだけなのに、私は妙な心地良さを感じていた。


…私は、慰めの言葉を欲しているハズなのに、妙に楽な気分で…。


その真っ直ぐな瞳に吸い込まれるように、私は、彼女の肩に額をつけた。




「……ごめ…」


『ごめんなさい、こんな完璧でもない私をみせてしまって。』


そう言おうとしたのだが、上手く言葉が出ない。

そのまま、私は泣き続けた。


彼女は黙って、立っていてくれた。


「…ごめんなさい…見ず知らずの人に…泣いたらスッキリしちゃった。」


数分後、私はそう言って、彼女から離れ、笑って見せた

彼女は何も言わず、頷いて、少し笑った。


彼女は、作り笑いが下手らしく、丸解りだった。

しかし、彼女は、やはり何も言わないし、何も聞かない。


「貴女、何も…聞かないのね…」

私はそう言いながら、会議室の机に腰をかけた。


「…ただの、通りすがり、ですから。」


簡潔に彼女は答えた。


ふと、私は彼女に、話してみようと思った。

彼女なら…今の私を理解してくれるかもしれない。



「…人間、見た目9割って言うでしょ?…私達、見た目も仕事も10割なのよね。

 私、それは当然だと思ってたし、誇りだった…。

 でも…自分が思ってるほど、周囲はちゃんと見てはくれないのよね…

 実はね…私…」



「待って。」



「・・・え?」


彼女は、私の話を突然切った。



「…私は、見ず知らずの人間だし…これ以上、何かを聞く必要ないでしょう。

 貴女が見た目何割だろうと…人が何割で、貴女を理解してるかも…

 
 正直、どうでもいいんです。」


真っ直ぐな瞳に加え、毅然とした態度で、彼女はそう言った。


「・・・!」


それは…”衝撃”。


『どうでもいい』


彼女はあっさり、私にそう言った。

私の話も聞かずに、そう言った。




私が”見た目何割か?”なんて…周囲が決める事。


私自身にとって、そんな事…確かに、どうでもいい事。


人が、私をどう理解しているのか?…それだって、先程痛いほど解った事。


自分が尊敬しているはずの、信用していた人間ですら…

私を嫌い、理解してくれなかったし…私自身も、彼女を理解していなかった。



…彼女は、更にこう続けた。


「無理して笑うくらいの相手に、そういう大事な話は、言っちゃダメですよ。

 もっと…そう…ちゃんと親しい人とか…話聞いてくれる人に言った方が良いです。

 私は、見ず知らずの…通りすがりですから。

 じゃ!」


彼女は、そう言い切って…素早く、会議室を出て行った。


(…なんて…人なの…。)


彼女に、そう言われて、私の頭の中で、何かが弾けた。


彼女に指摘されるまで、私は無理して笑っている事に、気付かなかった。

無理して笑うくらいの相手…それは…私の周囲の人間、全てだった。


(ああ、そうか…私は、今までずっと…無理をしていたんだ。)


完璧である為に、私が捨て続けたのは…私自身の心の叫びだった。


…一体、いつからだろう…


もう『お人形』と呼ばれても、喜べない自分がいる事に、私はいつから気付いていたんだろう。


そして、いつから目を逸らしていたんだろう。


周囲がこうあるべきだ、という理想を背負い…

”完璧なお人形”を演じ続ける事が、私は嫌なのだ、という気持ち。


そんな自分の気持ちを、押し殺し…完璧な人形を演じ続けている”矛盾”した自分。



周囲の理想をわざわざ演じなくても

無理に周囲に好かれるような、マニュアルを演じなくても



私は、私なりに…『最高の自分』を目指せば良かったのだ。



『どうでもいい』



そうよ、周囲の理想なんて…私には、どうでもよかったんだわ。



彼女の言葉は、実に簡潔で、私の心に響いた。

彼女の言葉が、お人形の私を…壊した。



「・・・あ。」


私は、ふと床に落ちた、銀のネームプレートを見つけて、拾った。


「水島…?」


…私は、今、水島さんが、事務課だという事に、気が付いた。

   ※ ネームプレートを常時持ち歩くのは、悲しきかな事務課だけ(BY 水島)


何故、営業3課だなんて、嘘をついたのかしら?

私は、そんな事を考えて、クスリと笑ってしまった。


…こんなバレバレな小さな嘘をついて……可愛い人ね…。


私は、見ず知らずの通りすがりの彼女…水島さんに純粋に興味を持った。


だって…彼女ったら、私の人生を支配していた”お人形”を壊したのだもの。


ジワジワと、私の中で何かが、湧き上がってくる。

いつの間にか、涙も引っ込んでいる。


もっと彼女を知りたいという欲求。

今までなかった、この…熱い感情。



(あんな素敵な人…このまま逃がすわけにはいかない。)



”水島”と書かれたネームプレートを私は握り締めて、走った。


「ねえ!水島さん!」

そう呼びかけると、彼女は驚いたような顔で振り向いた。

「え?」



(…その驚く顔、可愛い…。)


もっと、色んな表情を見せて。水島さん。

私、貴女と親しくなりたい。貴女を理解したいわ。


驚きで固まっている可愛い彼女に、私はツカツカとゆっくり歩み寄る。

距離を、縮めるのを楽しむように。ゆっくりと。



「…ありがと『事務課の水島さん』。

 …”これから”親しくなったら、私の話聞いてもらえるわね?事務課の水島さん。」


私は、ニッコリと笑った。

心から願いながら、私は、笑った。


『この人に、好かれますように。』


彼女の手は、熱くて…少しじっとりとしていた。

…瞳を見つめると、ますます水島さんの、緊張感が伝わる。


………脈、あるかもしれない。


…女同士?…そんなの、どうでもいい。


同じなのは、性別だけ。

価値観も、考え方も、趣味も…多分全く違うし、私の予想や、計算なんか及ばない人。


私が、お人形として過ごしてきた経験も、テクニックも、多分通じない人。


…だからこそ、落とし甲斐があるってものでしょう?


「ど、どうも…」

ネームプレートを受け取った水島さんは、手を離そうとした。

私は、手を離さずに彼女の焦る表情をずっと、観察していた。


(…ふうん、結構、ボディタッチとかには、慣れていないのね…)


「ドウモ、ア・リ・ガ・ト・ウ…ゴ・ザ・イ・マ・スッ!!」


手を離してあげると、水島さんは、ホッとしたような表情をうかべている。


(…可愛い…)

…っと、いけないいけない…あまりイジメちゃ、可哀想ね…。


「…またね?」


背中を向け、いち早く去ろうとする水島さんに、私は、そう言った。

彼女ときたら、ガチガチになりながら、階段に向かって行った。


(フフ…ホント、可愛い…)



…考えてみたら、女性に恋愛感情なんて、今時珍しくもなんとも無いのよね。


むしろ、今までの私が…

男性だけに恋愛感情を向けなくては、と思っていた事自体、変だったんじゃないかと、思うほど。

女性の水島さんを好きになった事に関して、私自身、驚きも何も無かった。


…純粋な、恋愛感情。


あれから、何日経ったのか…それでも、心が弾む気持ちは、彼女と出会った時のまま。



…私は…今、恋をしている。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



”・・・チクン!”



その恋の御相手、水島さんは”いつもの痛み”に、思わず振り返った。


「…ちょっと…また!?勘弁してよ…!…今来るの!?」


・・・などと呟きながら。


そして、挙動不審な動きで、周りをキョロキョロと見渡しながら


ツーステップバックで、事務課へと戻って行った。




      水島さんは仕事中 〜阪野 詩織 編〜 ・・・ END





ーあとがきー



えーと、スピンオフにしては、長いですね。(苦笑)

シリアスっぽく書く事で、水島さん本編とのギャップを

想像して楽しんでいただければ、と思います。


…当の本人、水島さんは…あんな事しか思ってないのに、的な(笑)


ここで、ちょっと補足ですが。


岬先輩の婚約者・工藤氏、についてですが…彼は阪野さんに乗り換える気だったようです。

…ま、乗り換え失敗した挙句、阪野さんは、尊敬していた岬先輩と決別する事になりました。

その後、婚約したにも関わらず、二人の仲はちょいちょい冷えてきている、との噂です。



まあ、見た目も仕事も、10割になるかならないかは別として!

常に進化しようとする、前向きな姿勢は、確かに大事ですね…


…だから…ちょっとは見習え!水島さん…!(苦笑)